Shock and Awe Meets CPI Market Shock, Supercore Declines 2-Month In A Row.
米6月消費者物価指数(CPI)は前月比0.1%低下し、市場予想の0.1%に反しマイナスに転じた。前月は横ばいで、低下はコロナ禍で経済活動がほぼ停止していた2020年5月以来となる。CPIコアは同0.1%上昇し市場予想と前月の0.2%を下回り、2021年8月以来の低い伸びだった。
CPIは前年同月比3.0%と市場予想の3.1%並びに前月の3.3%以下となり、2021年3月以来の低い伸びだった。3ヵ月連続で伸びが鈍化した。CPIコアは同3.3%と、市場予想と前月の3.4%を下回り、2021年4月以来で最低だった。
チャート:米6月CPIの前年同月比、エネルギーと食品以外の財が押し下げ3ヵ月連続で鈍化
CPIの内訳を前月比でみると、原油価格が6月に一時72ドル台と約4ヵ月ぶりの水準へ下落するなか、エネルギー(全体の7.0%を占める)が2.0%と2カ月連続で低下した。ガソリンは3.7%低下し、2カ月連続でマイナス。逆に、エネルギー・サービス(電力・ガスなど公益)も0.1%と3カ月連続でマイナスだった。電力が0.7%と低下に転じたほか、ガスは2.4%と上昇に転じた。食品(全体の13.4%を占める)は同0.2%と、2カ月連続で上昇した(詳細は後述)。
チャート:米6月CPIの前月比は、2020年5月以来のマイナス
食品とエネルギー以外を前月比でみると、引き続き宿泊や航空運賃、新車が押し下げた。その他、帰属家賃や家賃など住宅の伸びが前月から鈍化。家賃は住宅より伸びが下回り、通常1~2年契約という事情もあってサンプルに足元の動向は反映されづらい特徴があるなか、徐々に減速し始めている。一方で、CPIの2.9%を占める自動車保険はプラスに転じたが、自動車メンテナンスは鈍化した。自動車保険と自動車メンテナンスはこれまで、電気自動車(EV)の普及が構造的な物価上昇をもたらしたと考えられ、EVの場合、バッテリー交換などで数百万円掛かり、保険とメンテナンスを押し上げていた。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。
(上昇項目)
・自動車保険 0.9%上昇し、前月は0.1%低下
・自動車メンテナンス/修繕 0.2%上昇、前月は0.3%上昇
・帰属家賃 0.3%上昇しプラス圏を維持、前月は0.4%上昇
・娯楽 0.5%上昇し2カ月連続でプラス、前月は0.4%上昇
・家賃 0.3%上昇しプラス圏を維持、前月は0.4%上昇
・住宅 0.2%上昇しプラス圏を維持、前月は0.4%上昇
・医療サービス 0.2%上昇し4カ月連続でプラス、前月は0.3%上昇
・服飾 0.1%上昇、前月は0.3%の低下
・娯楽 0.1%上昇、前月は0.2%の低下
(横ばい、低下項目)
・航空運賃 5.0%低下し4カ月連続でプラス、前月は3.6%低下
・宿泊 2.0%低下し3カ月連続でマイナス、前月は0.1%低下
・中古車 1.5%低下しマイナスに反転、前月は0.6%の上昇
・新車 0.2%低下し5カ月連続でマイナス、前月は0.5%低下
――経済正常化の初期に著しい上昇を遂げた項目の前年同月比を振り返ると、自働車保険を除き全てマイナス。最も伸びが著しい自動車保険(前月:20.3%→19.5%)と2カ月連続で鈍化し7カ月ぶりに20%割れとなった。その他はマイナスで、宿泊(前月:1.2%→2.1%)、中古車(前月:8.6.%→9.5%)、新車(前月:0.8%→0.9%)は前月から下げ幅を拡大。航空運賃(前月:5.9%低下→5.1%低下)のみ、下げ幅を縮めた。
チャート:経済活動の再開で上振れが目立った項目、自動車保険以外は鈍化続く
CPIの13.4%を占める食品の前年同月比は、シリアル・パン以外で前月を上回った。肉・魚・卵(前月:2.4%上昇→2.6%上昇)と2カ月連続で加速。食費(前月:1.0%→1.1%)、外食(前月の5.2%→5.1%)も前月を上回った。ただし、シリアル・パン類(前月:0.7%→0.5%)は鈍化した。
チャート:食品関連、外食含め全て鈍化傾向
7.0%を占めるエネルギーは前年同月比で0.9%上昇し4カ月連続でプラスとなった。電力・ガス(前月;4.7%上昇→4.3%上昇)と、プラス圏を維持。ただ、ガソリン(前月:2.2%上昇→2.5%の低下)は4カ月ぶりにマイナスに転じた。
チャート:ガソリンがマイナス圏、食費や家賃も鈍化続く
パウエルFRB議長を始めFedが注目する住宅を除くコアサービス=スーパ―コアは前月比0.05%低下し、2カ月連続でマイナスとなった。前年同月比4.7%と、ゆるやかながら2カ月連続で鈍化した。
チャート:スーパ―コア、前月比ではデフレを示唆
チャート:スーパーコア、前年同月比は2ヵ月連続で鈍化
住宅も、家賃が2022年4月以来の5%割れが迫るなど、緩やかながら着実に鈍化トレンドをたどる。
チャート:住宅関連のCPI、前年同月比で鈍化トレンドを維持
CPIは市場予想と前月を下回った結果、実質の平均時給は前年同月比で0.8%上昇、2カ月連続で前月を上回った。
チャート:実質賃金の下落を続けたものの、下げ幅は縮小
一連の結果を受け、トランプ前政権で国家経済委員会(NEC)委員長を務めたゲイリー・コーン氏はCNBCに出演、司会者にインフレーション・デーにようこそと歓迎されたところを「いや、今日はディスインフレーション・デーだ」と発言。その他、「9月利下げが近づいた」と述べ、「Fedは利上げ開始で出遅れたが、利下げで同じ失敗を犯したくないはずだ」と予想していました。仮に利下げを決定したとしても「9月までに3つの雇用統計、CPIを確認できるため、政治的な判断とみなされないだろう」とも分析します。
コーン氏の発言通り、FF先物市場では以下の通り、年内3回の利下げを織り込み始めた。
・9月利下げ開始織り込み度 前日の69.7%→一時84.6%
・11月の追加利下げ織り込み度 前日の33.8%→一時52.0%
・12月の3回利下げ織り込み度 前日の26.2%→一時45.2%
チャート:FF先物市場、12月の3回利下げ織り込み度は45.2%へ急伸
WTI原油先物が一時85ドル台へ切り返した動きを踏まえれば、このままCPI総合が鈍化トレンドをたどるかは不透明だ。ただし、マクドナルドの5ドルメニュー販売開始やペプシコのQ2決算を始め、米国ではディスインフレが進行中。スーパーコアに至っては、前月比で2ヵ月連続でマイナスとなっており、サービス部門の需要がインフレを押し下げる蓋然性が高まるだろう。
なお、米6月CPI後にドル円は161円半ばから段階的に157.42円まで急落した。政府関係者によれば、政府・日銀が介入を実施したという。これが事実なら、7月末で退任を予定する神田財務官は、ドル円がジリジリ上方向を進むなかで、円安に喘ぐ企業や消費者に介入という置き土産を残したようだ。
(カバー写真:International Monetary Fund/Flickr)
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