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ルピタとLAクリッパーズでみる、黒人を取り巻く「いま」

by • April 30, 2014 • GossipComments (0)2803

Are We Really In A ‘Post Racial’ Era?

ハリウッド・ゴシップ専門のピープル誌が、今年も「世界でもっとも美しい10人」を選出しました。

今年の表紙は、ルピタ・ニョンゴです。
people
(出所 : People)

映画「それでも夜は明ける(12 Years A Slave)」でアカデミー助演女優賞に輝いた、いまハリウッドで一番注目の女優さんですね。仏化粧品大手ランコムは、さっそく彼女を広告塔に抜擢しました。ランコムといえば過去にジュリア・ロバーツ、ケイト・ウィンスレット、ペネロペ・クルスの面々のようにオスカー受賞者が鉄板で、ルピタは栄えある4人目の座を射止めたワケです。ちなみに、ライバルのクリスチャン・ディオールはイメージ・キャラクターに2013年のオスカー女優、ジェニファー・ローレンスを起用。ルピタとジェニファーといえば、今年のオスカーで助演女優賞レースを戦った相手です。

オスカーで争ったとはいえ、2人はこんな写真を撮らせるほどお茶目。
JENNIFER-LUPITA
(出所 : Getty Images)

小枝のようにか細い身体にしなやかな筋肉を張り巡らせ、意思の強さが光る瞳がまぶしい彼女はメキシコ生まれの31歳。父親はケニアの医療サービス相を務めた政治家であり、ルピタ自身イエール大学で演劇の修士号を取得した才媛でもあります。そんなルピタが「もっとも美しい人」の栄誉に浴し、アメリカではちょっとしたセンセーションが巻き起こりました。

それから1週間もたたない間に、最高裁判所はミシガン州が住民投票で成立させた「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」廃止案を承認したのです。同案は公立の大学に対し、入学審査基準に1)人種、2)民族、3)出身地、4)性別--などの適用を禁止しています。最高裁の判断に、英ガーディアン紙は「オバマがアメリカの大統領で、ファレルが『ハッピー』の曲であらゆる人種を幸せにして、ルピタが『最も美しい女性』に選ばれたのに黒人にとって住みやすい世の中にはなっていない」とペンという武器で攻撃していました。

時を置かずNBAでは、こちらで取り上げたようにLAクリッパーズのオーナーによる黒人差別発言が全米で物議を醸す事態となりました。

ルピタに脚光が浴びるなかで、飛び込んできた2つのニュース。オバマ米大統領の登場に合わせ「人種を超えた(post racial)」時代に向かったはずのアメリカで、2つの側面を提示しています。

第1に、アファーマティブ・アクションは必要なのか。

全米での人種内訳には、大きな変化が現れています。単純に優遇措置を続けていては、「逆差別」になりかねません。ミシガン州が住民投票で廃案に追い込んだのも、ミシガン大学ロースクールを不合格となった白人女学生が2003年に逆差別で提訴したからなんですよね。

アファーマティブ・アクションは、時代遅れともいえます。名著「黒い憂鬱」、「白い罪」で知られるスタンフォード大学フーバー校のフェロー、シェルビー・スティール氏が主張するように、甘えを助長する優遇策ではなく、努力を支援する枠組みこそ推進していくべきでしょう。最高裁の採決結果が6対2だったのも、時代に合わせた判断かと拝察します。多人種で知られるカリフォルニア州をはじめ、すでに8州ではアファーマティブ・アクションを廃止してますしね。

第2に、差別はなぜ続くのか。

33年間もLAクリッパーズのオーナーを務めるドナルド・スターリング(80歳)に対し、NBAのコミッショナーであるアダム・シルバーは29日に250万ドル(2億5630円)の罰金と永久追放を申し渡しました。それだけでなく「他のチーム・オーナーも私に同調し、スターリングをNBAから排除するよう行動することを望む」とまで言い放っています。

NBAの規定では、全チームのオーナーが75%支持すれば、スターリングの立場を剥奪することが可能なんですね。他マイアミ・ヒートのスター選手レブロン・ジェームスなど厳罰を求める声を汲み取った今回の対応もあって、ラッパー兼ビジネスマンのディディは、LAクリッパーズの買い取りに手を挙げています。

ディディ、ツイッターで堂々の意志表明。
diddy
(出所 : Twitter)

スターリングのガールフレンドが黒人とのミックスなんて、関係ありません。極端な比較を承知で申し上げると、まさにルピタが出演した映画「それでも夜は明ける」で描かれたように、奴隷時代から黒人女性を愛人にする領主なんて腐るほどいました(しかもスターリングにはれっきとした白人の正妻がいます)。NBAプレーヤーだって、綿花をカゴに詰め込む代わりにバスケットボールを与えたに過ぎません。

別の事例を紹介しましょう。米国でルピタの顔が「もっとも美しい人」特集号を飾った一方で、ロイター日本語版は同ニュースを紹介するのに、以下の画像を使っていました。

amber

そう、ルピタではなく「もっとも美しい10人」の1人に選ばれた、ジョニー・デップの婚約者アンバー・ハードです。

ルピタは「もっとも美しい人」選出にあたり、こう語りました。「自分に持っていないものを求めてしまいがちだけど、常に母が美しいと言い聞かせてくれたおかげで自分を受け入れることができた」と。メキシコで生まれ育ちアメリカに渡ってから、ルピタはきっとメディアで取り上げられる「美」と自身のギャップに、深く悩んだのでしょうね。白い肌に豊かな髪は、どんな国でも美のシンボルとされていますから。

差別の根底にあるのは、固定概念と既成概念。ついでにいうと交流不足が挙げられるでしょう。日本のメディアの例は、差別というより「ビューティー=白人」の固定概念から派生したといえます。対してクリッパーズのオーナーは、固定概念+既成概念+交流不足のトリプル・プレーであったことは想像に難くない。

固定概念、既成概念、交流不足は、子供の頃の親と学校の教育で何とかなるはずです。大人に対しては、周囲が諭しましょう。無視はいけません。

アファーマティブ・アクションという逆差別を廃止し、教育を下地に差別のない社会をめざし真の意味で「人種を超えた(post racial)」な社会を築いてきたいものです。

(カバー写真 : the christian manifesto)

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