More Countries Are Now In The “Watch List” After Treasury Changes Some Rules.
遅ればせながら、為替報告書をおさらいしていきます。
米財務省は5月28日、政府機関の閉鎖などを一因に4月15日頃予定から遅れて為替報告書を公表した。今回の大きな変更は3点で、以下の通り。為替操作国として認定する上での3条件については、1988年に成立した包括通商・競争力法、2015年の貿易促進法を根拠とし、今回の変更は後者に基づく。
1)為替報告書で評価・精査の対象となる相手国の定義を変更
→これまでは“貿易規模の上位12ヵ国”にスイスを加えた13ヵ国だったが、年間の貿易規模が財ベースで400憶ドル以上の貿易相手国を対象とするように変更。結果、21ヵ国(米国との貿易規模は21ヵ国で3.5兆ドルと、米国全体の約8割に相当、多くが財ベースの対米貿易黒字で200憶ドル付近かそれ以上)が対象となった。
2)監視リストの対象国入りとなる3つの条件の変更
→これまでは①該当国並びに対米貿易黒字が200億ドル超、②該当国の経常黒字がGDP比3%超、③該当国の為替介入額がGDP比2%超――だったが、このうち②については、GDP比2%へ引き下げた。また、③についてはこれまでの“8~12カ月”との期間を“6~12カ月”と下限を短期化させた。
3)監視リスト対象国の変更
→今回も、為替操作国の認定を受けた国はゼロ。為替操作国認定の3条件のうち2つ満たす監視リスト(watch list)の対象国は、今回9ヵ国となった。中国をはじめドイツ、日本、韓国の4ヵ国は7回連続で明記。中国は3条件のうち1つしか該当しないものの、長きにわたり比類ない規模の対米貿易黒字を抱えるほか、為替介入の可能性から監視リスト対象としている。そのほか、新たにイタリア、アイルランド、シンガポール、マレーシア、ベトナムが加わった。一方で、2016年10月から5回にわたって監視リストに入ったスイスのほか、2018年4月から2回対象となったインドが削除された。両国は2回連続で該当項目が2つにとどまったため、リストから外された格好だ。各国別の監視リスト入りした項目は、以下の通り。
監視リスト入りした国別報告は、以下の通り。
(中国)
米財務省は、中国に対し「人民元が対ドルで不均衡で過小評な状況で、引き続き為替措置に大いなる懸念を寄せる」と指摘した。その上で「中国は為替レートと、外貨準備高の運用管理の透明性を拡大させるよう努力すべき」との見解を表明。中国が膨大な対米黒字を抱えるなか人民元は過去1年間で8%下落しており、米国は為替問題をめぐり中国との二国間交渉を継続していく姿勢を打ち出した。また、対米貿易黒字は「非関税障壁や非市場メカニズム、国の補助金、その他の差別的手段を講じた結果」とも批判。中国による海外投資も人民元安につながっていると主張し、20ヵ国・地域(G20)の声明に盛り込んだように、自国通貨安で競争力を獲得しないよう求めた。米国は今後も、中国が投資主導型でなく内需けん引型モデルにより持続的な成長を促し、持続的な経済拡大を根付かせ、海外成長を支援できるよう、二国間交渉を続けるとした。
(ドイツ)
米財務省は、ドイツが2018年に過去最大の財政黒字を計上しつつ成長率は鈍化傾向をたどると指摘した上で、所得税や付加価値税の引き下げなど財政政策を通じ内需拡大を目指すべきと主張、それが対外黒字の縮小につながると主張した。
(日本)
米財務省は、日本が2011年以降、為替介入を行っていない点を認めつつ「大規模な為替介入は例外的な状況で、事前に適切な協議をかわした上で実行すべき」との見解を寄せた。また、公的債務と貿易不均衡を削減する上で、持続的な成長をもたらす構造改革を推進すべきと主張した。
(韓国)
米財務省は為替介入に目を光らせつつ、次回も3条件のうち1つしか当てはまらない場合は、監視リストから除外する可能性を指摘した。
(アイルランド)
アイルランドに対し、米財務省は2018年の経常黒字がGDP比で9.2%となった要因として、サービス収支が主導し対米貿易黒字が同年に470億ドルと過去最大に膨らんだ点を指摘した。また、多国籍企業の存在が経常黒字を押し上げているとの考えも示した。
(ベトナム)
ベトナムに対し、米財務省は2016年にベトナム・ドンの変動レンジを拡大させたとはいえ、管理相場制の状態(中国のようなドル・ペッグ制)が継続していると言及した。ベトナム当局が為替をレンジ内に収める必要性から介入を実施しているとし、その結果、外貨準備高の水準が不十分と指摘。ベトナムは金融政策の枠組みを強化する過程で、介入の規模縮小と経済ファンダメンタルズに沿った為替制度の導入を進めるべきと主張した。
(イタリア)
イタリアに対し、米財務省は「労働生産性の低迷により競争力が落ち込んでいる」と指摘した。その上で「高い失業率と膨らむ公的債務に対応するため、構造改革が必要」との認識を寄せた。
(マレーシア)
マレーシアに対し、米財務省は為替介入を懸念しつつ、縮小過程にある対外黒字を歓迎。透明性と質の高い投資のほか、社会支出を推進しつつ、現在の不均衡是正に継続すべきとの考えを示した。
(シンガポール)
シンガポールに対し、米財務省は同国の為替レートを金融政策ツールに用いる特殊性に言及した上で、2020年から為替介入実績の公表を開始するとの決定を歓迎した。高水準にある経常黒字をめぐっては構造上の要因があると指摘した上で、改革の必要性を説いた。
――今回の為替報告書で監視リスト入りした国が増えました。為替介入と関連の深い米国債保有高はというと、こちらの通りです。
中国のほか、日本や欧州などと通商協議をかわすなかで、米財務省が評価・査定対象国を拡大し、為替操作国の3条件を調整してきた点は着目すべきでしょう。為替操作国に認定された場合は、二国間協議が待ち構え、その先には追加関税措置が控えていますからね。折しも、米商務省は5月23日、通貨安を誘導した国からの輸入品に対し、米国を拠点とする企業が相殺関税発動を要請できる枠組みを提案しました。連邦公報に掲載された内容によれば、自国通貨安誘導を不公平な補助金と判断し「打撃を受けた米国の労働者や企業などを救済する」構え。肝心の自国通貨安誘導を判断する条件につき、米商務省は6月27日まで受け付ける意見公募を参考に策定するといいますが、「異議を唱える正当な理由がなければ」米財務省の基準に従う方針です。
何はともあれ2020年の米大統領選を控え、トランプ政権にとって主要貿易相手国への強硬的な選択肢が増えつつあると考えて、間違いないでしょう。
(カバー写真:Treasury)
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