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米5月貿易赤字は年初来で最大、米中貿易摩擦の悪化局面で

by • July 8, 2019 • Finance, Latest NewsComments Off1722

Trade Deficit Widens To Highest In 2019 As Trade Tensions Worsen.

米5月貿易収支は555.20億ドルの赤字となり、市場予想の540億ドルを上回った。前月の512.24億ドル(507.91億ドルから修正)から8.4%増加。足元、増減を繰り返しつつ、年初来で最大となる。原油関連を除く貿易赤字も513.22億ドルと、前月の497.55億ドル(486.78億ドルから修正)を上回り、4ヵ月ぶりの高水準だった。5月は米中通商協議が物別れに終わっただけでなく、トランプ政権が約2,000億ドル相当の中国製品に対する追加関税の税率を10%から25%へ引き上げ、同13日には残り約3,000億ドル相当の中国製品に対し25%の追加関税を発動する方針を表明。さらに同20日にはファーウェイなど安全保障上の脅威となる企業に対し禁輸措置を講じた。

内訳をみると、輸出が2.0%増の2,064億3,600万ドルと前月分の減少を相殺した。輸入は3.3%増の2,661億5,600万ドルとこちらも前月分の減少を打ち消した。品目別でみると、輸出入ともに自動車や資本財、消費財など幅広く増加し、米中間の貿易摩擦が激化するなかで一部駆け込み需要が入った可能性を示唆する。

国内総生産(GDP)の算出に使用されるインフレを除いた実質ベースのモノの貿易赤字は、869.95億ドルと、前月の829.94億ドル(修正値)を下回った。

輸出だけでなく輸入も増加し、実質ベースのモノの貿易赤字は再び拡大。

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(作成:My Big Apple NY)

当該単月の輸出の内訳をみると、モノは前月比2.8%増と前月から増加に転じた。項目別では、産業財以外がすべて増加。特に食品・飲料が大幅に3ヵ月連続し、2018年9月以降、中国による報復関税措置を受ける大豆が41.2%増を遂げたほか、モロコシ(飼料)に至っては59.4%増となった。そのほか品目別では中国が豚コレラに直面するなかで肉類が5.2%増、卵・乳製品が10.1%増、油種が15.0%増、コメも14.0%増と伸びた。自動車は前月の減少分を巻き戻す動きとなり、増加。消費財も力強く伸び、前月の減少を打ち消した。消費財のうち、ダイヤモンドやコインが13.8%増、宝石も27.5%増と力強く伸び前月の減少から転じた。医療品も3.7%増と、前月比プラスへ戻した。資本財は3ヵ月ぶりに増加し、そのうち民間航空機が18.4%増と増加に転じたほか、通信機器気、産業エンジン、掘削機器などが増加した。一方で、産業財は2ヵ月連続で減少し、燃料が15.4%減、非貨幣用金が20.0%減、天然ガスが9.2%減と押し下げた。

なお中国は2018年9月6日に追加で600億ドル相当の報復関税を発動、対象は大豆、小麦、ワイン、航空機、自動車、液化天然ガス(LNG)など約3,500の製品とした。ただその後、米中通商協議を経て購入枠を拡大した物品もある。モノの輸出項目別動向は、以下の通り。

(増加項目)
・食品/飲料 6.5%増、3ヵ月連続で増加>前月は1.0%増
・自動車 4.8%増、過去5ヵ月間で4回目の増加>前月は5.4%減
・消費財 4.7%増>前月は3.7%減、直近で久々の減少
・資本財 3.0%増、2ヵ月連続で減少<前月は1.9%減
・サービス 0.5%増>前月は0.9%減、直近で久々の減少

(減少項目)
・産業材 0.5%減、2ヵ月連続で減少<前月は0.1%減

輸入の内訳をみると、モノは4.0%増と前月の2.0%減から増加に転じた。原油価格が60ドル台を中心に推移するなか、量ベースでのエネルギー関連輸入が7.9%増と3ヵ月連続で増加した。前年比では3.4%減となる。金額ベースでは、3ヵ月連続で上昇した。エネルギー製品を除いたモノの輸入は3.4%増と前月分の減少を相殺した。品目別では自動車が最も力強い伸びだったほか、産業財も好調で原油や化学品、石油製品がそれぞれ2桁増だった。資本財は半導体が13.4%増、コンピュータが同6.5%増、コンピュータ付属品が7.8%増、民間航空機も11.6%増となった。消費財は携帯その他家電が7.2%増、服飾・繊維が6.0%増、家具・家財が7.8%増だった。一方で、食品・飲料が減少し、特に果物・冷凍ジュース、その他食品、飼料が8.0%減となる。項目別動向は、以下の通り。

(増加項目)
・自動車 7.5%増>前月は3.1%減
・産業財 4.0%増>前月は1.4%減
・資本財 2.9増>3.0%減
・消費財 2.5%増、4ヵ月ぶりに増加>前月は2.0%減

(減少項目)

・食品/飲料 0.4%減、過去5ヵ月間で4回目の減少>前月は1.1%減

国別でのモノの貿易収支動向を前月比でみると、中国への赤字は前月比12.2%増の301.95億ドルとなった。日本への赤字は、26.2%減の53.48億ドルと、日米貿易交渉が注目されるなかで赤字が縮小。欧州全体への赤字額は6.9%減の206.8億ドルと、過去最高を更新した前月から後退した。英国に対する貿易収支は2.5億ドルの黒字となり、2018年10月以来の赤字となった前月の4.88億ドルから黒字基調へ回帰した。

主な産油国への貿易収支は、対カナダ、メキシコ、石油輸出国機構(OPEC)そろって赤字が拡大した。対カナダが前月比114.4%増の33.25億ドルと2ヵ月連続で増加している。メキシコに対する赤字額は18.1%増の96.44億ドルで、増加に反転。OPECへの貿易収支は9.1%増の1.56億ドルの赤字となり、2ヵ月連続で赤字を計上した。なお、原油輸入量はカナダが前月比8.1%増、OPECは16.4%増、メキシコは15.3%減だった。

国別動向の年初来・貿易赤字は、1位は中国、2位はメキシコで変わらず、3位は3ヵ月連続で日本となる。2018年9月~19年1月まで3位だったドイツは、4位を維持した。貿易額でトップは少なくとも3ヵ月連続でメキシコとなり、2018年の中国から首位を奪った状況が続く。また、米商務省が7月2日に韓国、台湾の鋼材品をベトナムで最終加工する迂回輸出を抑制する狙いで、最大456%の追加関税措置を発動したが、ベトナムからの輸入も引き続き拡大傾向にあることを確認した。各国ごとの年初来の貿易収支動向は、以下の通り。

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(作成:My Big Apple NY)

――対中追加関税措置が発動されてから、メキシコとベトナムが対米貿易収支で存在感を増しています。対米輸出額のランキング(財ベース)も1~5月の年初来で中国が12.3%減である一方、メキシコは6.9%増、ベトナムに至っては36.4%増となり順位も2018年の前年同期の12位から8位へ上昇していました。他にフランス、インド、韓国なども合わせて、対米輸出の増加が顕著となっています。

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(作成:My Big Apple NY)

トランプ政権はインド太平洋戦略で動き始め、ベトナムに対してもG20開催中にフック越首相に対し「戦略的協力を支持する」と発言したといいます。そもそも、トランプ大統領は「自由で開かれたインド太平洋戦略」につき2017年11月10日に演説した際、APECの開催地ベトナムを選びました。2018年7月にポンペオ国務長官が行なった演説でも、その点が強調されていましたね。ベトナムとインド太平洋戦略は交わり始め、今年の6月14日には自衛隊の護衛艦「いずも」が“インド太平洋方面派遣訓練”の一環で、南シナ海に面するベトナム中部の要衝、カムラン湾に寄港しました。しかも、これは、10~12日には南シナ海で米原子力空母“ロナルド・レーガン”と共同訓練する見通しといいます。ベトナムをはじめ東南アジア諸国をめぐっては、通商面だけでなくインド太平洋戦略との両面で見ていく必要があるでしょう。

(カバー写真:Louis Vest/Flickr)

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