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7月ベージュブック:景気回復を確認も、依然くすぶる不確実性

by • July 16, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off2575

Beige Book:U.S. Economy Is Rebounding With High Uncertainty.

米連邦準備制度理事会(FRB)が7月15日に公表したベージュブック(5月半ばから6月末)によると、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、米経済活動をめぐる表現が前回6月の「経済活動は全ての地域で低下し、急激に落ち込んだ」から「経済活動は拡大したが、新型コロナウイルスのパンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ」との表現に上方修正された。

4月後半から徐々に経済活動の再開が進むなか、見通しをめぐっては「回答者がコロナ禍とその経済的な影響や規模などに取り組むように、引き続き高い不確実性がある」とした。前回の「引き続き高い不確実性があり、回答者は潜在的な回復ペースをめぐり悲観的だった」からは、「悲観的」との文言が消えたが、慎重なトーンにとどまる。不確実性をめぐるキーワードの登場回数は50回と、前回の52回から減少。ただし、クリーブランド地区連銀が「新型コロナウイルス感染者数が増加するなか、複数の回答者はいくつかの主要産業での新規受注の弱さや受注残の低下を受け回復の持続性に疑問を投げ掛けた」と指摘。ダラス地区連銀も「感染者の増加は不確実性を強める」などと報告したように、高い不確実性が残り米経済がコロナ禍以前の水準を回復するまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。シカゴ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動はほとんどの地区で「拡大した(increased)」が、新型コロナウイルスの「パンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ(remained well below where it was)」。見通しをめぐっては、回答者がコロナ禍とその経済的な影響や規模などに取り組むように、引き続き高い不確実性がある

前回:経済活動は新型コロナウイルスによるパンデミックを受け、全米で「低下し(declined)」、また「ほとんどの地域で急激に落ち込んだ(falling sharply in most)」。経済活動が再開するにつれ、多くの回答者は経済全般の活動に希望を表明したが、引き続き高い不確実性があると指摘し、潜在的な回復ペースをめぐり悲観的だった。

<個人消費>

小売売上高は全ての地区で「拡大し(rose)」、自動車販売が牽引したほか、引き続き食品・飲料やリフォーム関連が伸びた娯楽・宿泊向けの支出は改善したが、前年比からはかけ離れた水準にとどまった。

前回:消費支出は調査期間中、ほとんどの小売店舗で閉鎖が引き続き義務付けられたため「一段と落ち込んだ(fell further)」。特に宿泊で顕著となり、観光・旅行活動がほとんど失われた。自動車販売も、前年比で著しく減少、しかし一部の(several)の地区連銀は、足元で改善を報告した。

<製造業、非製造業の活動>

製造業活動は、前年比でみて非常に低い水準から大部分の地区連銀で「上向いた(moved up)」程度となった。専門サービスの需要はほとんどの地区連銀で「拡大した(increased)」が、「依然として弱い(still weak)」。輸送活動は、トラックと空輸が支え全体的に「拡大した(rose)」。

前回:製造業活動は大部分の地区連銀で「急激に落ち込み(sharp drop)」、生産は自動車、航空、エネルギー関連の工場で特に弱かった。

<不動産市場>

建設活動は「抑制されたままだ(remained subdued)」が、複数の地区で「回復した(picked up)」。住宅販売は「ゆるやかに拡大(increased moderately)した」が、商業不動産活動は「依然として低水準にある(stayed at low level)」。

前回:住宅販売は新規の物件が減少したほか、多くの地域で物件の下見が制限されたため、「急減した(plunged)」。建設活動も、新たなプロジェクトが多くの地域で実現せず、落ち込んだ。商業不動産の回答者は、多くの小売店の借り手が家賃支払いを先送りした、あるいは支払い期日を守れない状態となった。

<貸出需要>

融資需要は、住宅ローンで「強まった(increased)」ほか、給与保証プログラム(PPP)以外は「横ばい(flat)」。PPPと民間の貸し手による債務猶予は、多くの企業は短期的に十分な流動性を与えた

前回:銀行は、給与保証プログラム(PPP)の需要が力強いと報告した。

<農業、エネルギー>

農業部門の金融環境は「引き続き資金不足(continued to be poor)」の状況だった一方で、エネルギー部門の活動は限定的な需要と供給過剰を受けて「一段と低下した(fell further)」。

前回:農業の状況は悪化し、一部の地区連銀は、閉鎖や社会的距離の確保により、食肉加工工場の生産稼働率が低下したと報告した。エネルギー活動は落ち込み、企業が油井の閉鎖を相次いで発表するなか、リグ稼働数は過去最低の水準を更新した。

<雇用と賃金>

雇用は、多くの部門で業務が再開し活動を拡大させるなか、ほぼ全ての地区連銀で「純増した(increased on net)」。しかし、全ての地区で雇用はパンデミック以前を大幅に下回った。転職率は高水準を維持し、地区全体の回答者は「新規の一時解雇(new layoffs)」を報告した。健康と安全への懸念、託児所問題、寛大な失業保険を受けて、従業員を戻すことが困難との回答が全ての地区ごとに確認された。PPPの支援を受け労働者を確保できた多くの回答者は今後について、一時解雇を回避できるかを否かは需要の強さ次第と指摘した。

前回:雇用は引き続き全ての地域で減少し、社会的距離の確保とビジネス閉鎖が多くの雇用に影響を与え、ほとんどの地域では大幅な落ち込みを経験した。PPPを通じた融資獲得は、多くの企業が一時解雇(レイオフ)を抑制、あるいは回避する上で役立ったが、雇用状況は小売と娯楽・宿泊で急激に落ち込み続けた。回答者は、健康上の懸念のほか、託児所不足、寛大な失業保険を理由に、従業員の再雇用をめぐる困難に直面しているという。全体的に地投げ圧力はまちまちで、複数の企業は賃下げを踏み切った半面、エッセンシャル・ワーカー向けに賃金を一時的に引き上げたほか、失業保険に負けないよう賃上げを迫られた企業がみられた。ほとんどの地域で、需要の高いセクターや必要不可欠な職種で賃上げを行ったが、その他では横ばいあるいは下落した。

チャート:米6月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)は23ヵ月連続で3%台を維持も、前月比は低賃金職の雇用回復を受けて2ヵ月連続で下落

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(作成:My Big Apple NY)

<物価>

物価は全体的に「ほとんど変わらず(a little changed)」。地区全体を通じ、回答者は概して仕入れ価格と販売格が「横ばい(flat)」と回答した。仕入れ価格は実際に変化したが、増加した項目が下落した分をわずかに上回った程度だった。一部の地区連銀の回答者は、サプライチェーン問題により、新型コロナウイルスの感染を抑制する健康と安全に関わる製品の価格を「押し上げた(pushed up)」と指摘。食料や飲料の価格が「上昇した(rising)」との報告も上がっており、特に牛肉で目立った。販売価格の変動をみると、下落した項目がわずかながら上昇分を上回り、一部の回答者は「弱い需要と限定的な価格決定力(weak demand and limited pricing power)」を挙げた。複数の地区連銀が挙げた例外は新車と中古車で、それぞれ在庫の取り崩しに合わせ「押し上げられた(boosted)」

前回:物価上昇圧力はまちまちだったが、概して「安定的から緩慢ながら低下した(steady to down modestly)」。需要の弱さが販売価格の重しとなり、服飾、ホテル、航空会社など複数の回答者は割引を行ったと報告した。一部の地域では、原油や鉄、一部の農産物など商品価格の下落を指摘。一方で、サプライチェーンの途絶と力強い需要を受け、肉類や果物を含む一部食品は値上がりした。ある地区連銀は、企業が安全性に絡む行政令と社会的距離遵守のため、追加のコストを強いられていると指摘した半面、別の地区連銀は力強い需要を背景に個人防具用品(PPE)の値段が上昇したと報告した。

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

サンフランシスコを除く全ての地区連銀で、前回の「縮小」や「低下」から上方修正。

●「回復(rebound、pick up)」と表現した地区連銀→5行
NY(回復し始め)、クリーブランド、セントルイス(+急速に)、カンザスシティ(+わずかに)、ダラス

●「拡大(expand、increase)」と表現した地区連銀→3行
フィラデルフィア、リッチモンド、シカゴ(+力強く)

●その他の表現を使用した地区連銀→4行
ボストン(改善)、アトランタ(軟調)、ミネアポリス(まちまち)、カリフォルニア(わずかに低下)

チャート:地区連銀ごとの景況判断に関わる文言

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(作成:My Big Apple NY)

<キーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、経済活動の再開に合わせ「拡大(increased)」の登場回数が前回より大幅に増加した。併せて「低下(decline)」、「減退(decrease)」、「縮小(contract)」の文言は、前回から縮小している。一方で、「不確実性」の登場回数は5回と、前回の4回を上回った。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→16回>前回は4回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→2回<前回は4回
「ポジティブ(positive)」→0回=0回
「ゆるやか(moderate)」→4回>前回は2回
「緩慢、控え目など(modest)」→4回>前回は3回
「弱い(weak)」→7回<前回は8回
「底堅い(solid)」→0回=前回は0回
「安定的(stable)」→0回<前回は1回
「低下(decline)」→3回<14回
「減退(decrease)」→2回<前回は4回
「縮小(contract)」→4回<前回は7回
「不確実性(uncertain)」→4回>前回は4回

地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は11回と、前回の17回を下回りコロナ禍に入った3月以降で最低となった。前回はボストン(4回)、NY(1回)、フィラデルフィア(1回)、クリーブランド(2回)、シカゴ(2回)、ダラス(5回)、サンフランシスコ(2回)だった。

・ボストン 3回<前回は4 回
→(総括)5月時点の報告と同様に、回答者は見通しについて甚大な不確実性があると指摘した。
→(ソフトウェア、情報、テクノロジー・サービス)医療技術の回答者1名は、病院がパンデミックの対応に注力し続けるなか、年末まで高い不確実性が続くと回答した。
→(商業不動産)活発なリース活動を行う業種は倉庫、食料品店、薬局など少数にとどまった。回答者全員は、不確実性をめぐり大いなる懸念を表明した。

・NY連銀 1回<前回は1回
→(不動産、建設)NY市の賃貸市場は、新規物件が減少したほか借り手が契約を更新しなかったため、弱まった。住宅価格と家賃はパンデミック水準を下回ったが、在庫減少を受け不確実性が残る

・フィラデルフィア 1回=前回は1回
→(総括)給与をカットした企業の数は、賃上げを行った数を上回った・・企業の間で、向こう6ヵ月先をめぐり控えめながら前向きな見通しが広がったが、パンデミックがいつまで続くのか景気後退の深刻さが不透明で、不確実性は引き続き高い

・クリーブランド 1回<前回は2回
→(総括)見通しをめぐり、回答者概して数ヵ月先に活動が回復すると予想した。しかしながら、新たに新型コロナウイルス感染者数が増加するなか、複数の回答者はいくつかの主要産業での新規受注の弱さや受注残の低下を受け回復の持続性に疑問を投げ掛けた。不確実性を受けて、資本支出や採用計画は軟調に終わった。

・アトランタ 1回>前回はゼロ
→(消費支出、観光)小売業者は多くの店舗が再開するなか、健全な需要を報告した。見通しにかかる陰りへの不確実性を指摘しつつも、販売や利益率の見通しは年内にわたり改善した。

・シカゴ 1回<前回は2回
→(建設、不動産)娯楽施設は営業を再開したが、コロナ禍以前の水準を大きく下回ったままだ。例えば、アイオワ州のカジノでは、稼働率50%の状態で需要とマッチした水準となった一方でミシガン州の映画館のほとんどが閉鎖した状況が続く。回答者は年内の消費支出の道筋、特に年末商戦をめぐり多大な不確実性を表明した。

・セントルイス 1回>前回はゼロ
→(総括)前回の報告と対照的に、以前より高い不確実性を受けて回答者の見通しはわずかに悲観的に傾いた。

・ダラス 1回<前回は5回
→(非金融サービス)新型コロナウイルス感染者の増加を受け、見通しはまちまちで概して不確実性があるとし、消費需要のトレンドに向け懸念を寄せた。

・サンフランシスコ 1回<前回は2回
→(不動産、建設)オフィスの空室率は全般的に安定的だったが、見通し並びに新規オフィス建設をめぐり高い不確実性があり、複数の回答者は急激な空室率の上昇や新規建設活動の凍結を予想した。

<ドル高をめぐる表記>

ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月、20年1月、3月、4月、5月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では今回もゼロ、2019年9月にサンフランシスコが指摘してから、ゼロが続く。なお、過去3年間でドル高を挙げた地区連銀は、2017年5月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)、2019年9月分(サンフランシスコ)など。

<中国>

中国というキーワードが登場した回数は、4月と5月に続き総括部分でゼロとなった。1月は1回、3月の3回からゼロに転じたままだ。これまでは2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月にわたりゼロだった。

地区連銀別では新型コロナウイルス感染拡大をめぐり終息の兆しがみられ経済活動が再開するなか、前回の4回から3回に減少した。前回はフィラデルフィア(2回)、リッチモンド(2回)だった。なお、中国というキーワードは2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月、11月、20年1月、3月、4月に続き言及された。

・ミネアポリス 1回>前回はゼロ
→(農業、エネルギー、天然資源)穀物生産者は、対中貿易摩擦が同市場に逆風をもたらしたと指摘した。

・サンフランシスコ 2回>前回はゼロ
→(製造業)再生可能エネルギーの製造業者は、中国とメキシコの経済活動再開を受けてサプライチェーンが改善し、稼働率が緩やかに回復したと指摘した。
→(農業、天然資源)輸出の側面をみると、ドル高とコロナ禍を受けた弱い外需が輸出の売上を限定的とさせた。例えば、カリフォルニア州のナッツ類輸出量は夏至の祝日に向けた中国の受注がキャンセルされたため、一段と減少した。

――新型コロナウイルスの登場回数は全体で50回(総括7回、地区連銀別43回)と、前回の52回(総括4回、地区連銀別48回)を下回りました。今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数は以下の通り。

チャート:ベージュブックのキーワード数

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(作成:My Big Apple NY)

今回のベージュブックの調査が6月末ながら、ダラス地区連銀やクリーブランド地区連銀を始め新規感染者の増加に伴う需要の鈍化に伴う懸念の声が上がっていました。テキサス州やフロリダ州が先陣を切って経済活動再開の一時停止に踏み切ったのは6月26日ですから、本格的な影響が及ぶのは7月以降です。マスク着用の義務付やレストランの店内飲食並びにバーの店内利用停止など、対面でのサービス活動に制限が掛かる状況ながら、観光や旅行を始め消費活動に影響が及ぶこと必至。エアビーアンドビーのように近場での観光を楽しむニーズやキャンピングカーの利用が5月半ば時点で前月比7.5倍との報告がある一方で、賃貸市場の弱まりやオフィス需要の低下から不動産市場の低迷も予想されます。今回明るさを増したベージュブックが再び次回、慎重なトーンに反転する余地を残します。

(カバー写真:bradhoc/Flickr)

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