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米8月雇用統計、黒人における雇用回復の遅れが鮮明に

by • September 5, 2021 • Latest News, NY TipsComments Off2287

Black Unemployment Rate Surged While Other Races Saw Decline In August.

米8月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を大幅に下回ったほか、労働参加率も改善しませんでした。一方で、失業率はデルタ株感染拡大を背景にオフィス復帰計画が先送りされるなかで離職者数が減少し低下、平均時給は伸びが加速し、賃上げ圧力を確認しています。米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月にテーパリングを発表する可能性は後退したと言えそうです。

労働市場の改善をめぐりまちまちな結果となりましたが、業種別の就労者数の変化や平均時給を始め、人種や学歴別などでどのような結果になったのでしょうか?以下、詳細を追っていきます。

〇業種別の就労者数の変化
業種別の就労者数を新型コロナウイルスが感染拡大する直前の2020年2月と比較したところ、主要14業種のうち、同水準を上回ったのはオンライン小売需要の高まりから、輸送・倉庫で20年2月比0.4%増となった。他は全てマイナスの推移を続け、最も打撃が激しかった娯楽・宿泊は同10.0%減(食品サービスは7.9%減)だった。

チャート:財部門、鉱業・伐採の回復が最も鈍い

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チャート:サービス部門、娯楽・宿泊に次いで教育・健康(3.5%減)その他サービス(3.2%減)が弱い。政府も3.5%減と回復余地を残す

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(作成:My Big Apple NY)

〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%上昇の25.99ドル、前年比は4.8%上昇した。

業種別を前月比でみると、0.5%以上だったのは13業種中で5~7月通り7業種だった。1位はその他サービス(0.9%上昇)、2位は輸送・倉庫(0.8%上昇)、3位は娯楽・宿泊(0.7%上昇)、4位はその他サービス(0.5上昇)、5位は鉱業・伐採(0.4%)、6位は教育・健康(0.6%上昇)、7位は製造業(0.5%上昇)だった。なお、1位は娯楽・宿泊、2位は輸送・倉庫と卸売、4位は教育・健康、6位は金融、7位は専門サービス。

デルタ株の感染拡大を受け引き続き対面サービスを提供する業種での平均時給が上昇していたが、これまで力強い伸びを示していた業種には鈍化の兆しが表れている。娯楽・宿泊は前月比の伸びが鈍化し、年初来で初めて1%割れとなった。その他、13業種別で前月以下の伸びにとどまったのは以下の6業種で、卸売(7月は前月比1.0%→8月は横ばい)、輸送・倉庫(7月は同1.3%→8月は0.8%)、娯楽・宿泊(7月は同1.4%→8月は0.7%)など。一方で、8月は公益と情報で前月平均時給が下落し、情報は2ヵ月連続でマイナスとなった。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

〇労働参加率

労働参加率が前月に続き61.7%だったように、働き盛りの男性(25~54歳)も概して横ばい。25~54歳の全体で小幅上昇した程度で、25~34歳の白人に至っては小幅低下した。以下、季節調整済みで、白人は季節調整前となる。

・25~54歳 88.4%、20年3月以来の高水準>前月は88.3%、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.3%、前月に続き20年3月以来の高水準=前月は89.3%、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.1%、前月に続き20年3月以来の高水準=前月は88.1%、20年2月は89.0%
・25~34歳(白人) 89.3%<前月は89.4%、20年3月以来の高水準、20年2月は90.7%

チャート:働き盛りの男性、労働参加率はそろって20年3月以来の水準を回復

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性も、ほぼ変わらず。25~34歳は前月と変わらなかったが、20年2月以来の高水準を保った。

・25~54歳 75.4%<前月は75.5%、2020年3月以来の水準を回復、20年2月は76.8%
・25~34歳 76.5%、2020年2月以来の水準を回復=前月は76.5%、20年2月は78.2%

一方で、男女ともに高齢者の労働参加率が上昇した。65歳以上の労働参加率は男性が23.5%月、女性も15.5%とそれぞれ20年12月以来の水準を回復しており、高齢者の場合は失業保険給付上乗せ終了を控え、労働市場に戻ってきたと考えられよう。

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で12.8%減の568.2万人(男性は251.8万人、女性は316.4万人)。前月から減少した背景は、男性が急減したためで、女性は2ヵ月連続で男性を上回った。ただ、今回の減少は景気回復を表すより、デルタ株の感染拡大が影響した可能性がある。

チャート:就職を望む非労働力人口、ゆるやかに減少中

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年を比較すると、ご覧の通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。

チャート:人種別、25歳以上の大卒以上の割合

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(作成:My Big Apple NY))

人種別の労働参加率はデルタ株の感染が拡大するなか、まちまちとなった。失業保険給付上乗せ停止を前に黒人で上昇したが、白人は横ばい、アジア系とヒスパニック系は低下した。

・白人 61.6%、前月通り20年10月以来の高水準=前月は61.6%、20年2月は63.2%
・黒人 61.6%、6月と同じく20年3月以来の高水準>前月は60.8%、20年2月は63.1%
・ヒスパニック系 65.6%<前月は65.7%と20年3月以来の高水準、20年2月は68.0%
・アジア系 64.1%<前月は64.5%と19年11月以来の高水準、20年2月は64.1%
・全米 61.7%、前月通り20年3月以降の高水準に並ぶ>前月は61.7%、20年2月は63.3%

チャート:人種別の労働参加率、黒人のみで上昇

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、黒人以外の人種で低下した。黒人は労働参加率の改善に合わせ、失業率は上昇した。白人は労働参加率が横ばいながら低下、ヒスパニック系とアジア系はの失業率低下につれた動きとなった。

・白人 4.5%、20年3月以来の低水準<前月は4.8%、20年2月は3.0%
・黒人 8.8%>前月は8.2%と20年3月以来の低水準、20年2月は6.0%
・ヒスパニック系 6.4%<前月は6.6%と20年3月以来の低水準、20年2月は4.4%
・アジア系 4.6%<前月は5.3%と20年3月以来の低水準、20年2月は2.4%
・全米 5.2%、20年3月以来の低水準<前月は5.4%、20年2月は3.5%

白人と黒人の失業率格差は黒人の失業率が上昇した一方で白人が低下したため、4.3ポイントと前月の3.4ポイントから拡大した。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.8ポイント超えの水準を保つ。

チャート:黒人と白人の失業率格差

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(作成:My Big Apple NY)

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、デルタ株の感染拡大を背景に低下が優勢となり、中卒以下での低下が著しい。大卒以上も小幅低下しつつ、高卒は横ばいだった。

・中卒以下 45.8%<前月は46.7%と20年2月以来の高水準、20年2月は47.7%
・高卒 55.3%=55.3%、20年2月は58.3%
・大卒以上 72.3%<前月は72.4%、20年2月は73.2%
・全米 61.7%、20年3月以来の高水準を維持>前月は61.7%、20年2月は63.3%

学歴別の失業率は、全て低下。特に大学院卒の失業率は、20年3月の水準を回復したが、デルタ株の感染拡大を背景に労働参加率が低下した影響と捉えられ、。

・中卒以下 7.8%、20年3月以来の低水準<前月は9.5%、20年2月は5.8%
・高卒 6.0%、20年3月以来の低水準<前月は6.3%、20年2月は3.5%
・大卒 2.8%、20年3月以来の低水準<前月は3.1%、20年2月は1.9%
・大学院卒以上 2.5%、20年3月の巣順に並ぶ<前月は3.2%、20年2月は1.7%
・全米 5.2%、20年3月以来の低水準<前月は5.2%、20年2月は3.5%

チャート:学歴別の失業率、大学院卒が20年3月に並んだほか中卒も大幅低下

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(作成:My Big Apple NY)

--全般的に失業率は低下しましたが、労働参加率がデルタ株の感染拡大が影響している実態が浮かび上がりました。一方で、黒人は労働参加率が改善したにも関わらず失業率は上昇する唯一の人種となっています。人種を男女別、年齢別にみても、コロナ禍の雇用回復で黒人が一人負け状態です。

チャート:8月の人種・男女別の失業率は、黒人のみ上昇

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(作成:My Big Apple NY)

学歴別でも黒人と全米で明暗がはっきり分かれており、8月は黒人の大卒以上の失業率が10.0%、高卒も4.5%と上昇していました。さらに、黒人の高卒の失業率については全米の中卒以下の失業率7.8%も上回っていました

チャート:全米の失業率は8月に高卒と大卒以上で低下も、黒人のみ上昇

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(作成:My Big Apple NY)

黒人の失業率の上昇は教育水準だけでは語れず、アメリカ労働総同盟産別会議(AFL-CIO)のウィリアム・スプリッグス首席エコノミストは「人種差別」理由に挙げていました。筆者は差別以外に、ブラック・ライブズ・マターの陰で多発する軽犯罪の影響が一因ではと考えています。万引き取り締まり強化に人種差別問題が障害となり、それが経営者側に偏見を与えているのではないでしょうか。どのような理由が背景にあったとしても、黒人における労働市場の回復の遅れが中間選挙に与える影響に留意すべきでしょう。

バイデン政権にとっては、アフガン完全撤退に伴い黒人を中心に兵士が労働市場にカムバックする上で、労働市場を何とか回復させたいところ。頼みの綱は約1兆ドルのインフラ計画と約3.5兆ドルの育児・医療・介護支援策ですが、民主党のマンチン上院議員が後者について一時中断を要請しており、雲行きが怪しくなってきました・・。石炭州で知られるウエストバージニア州選出ですから、プログレッシブを意識したのか明言していないものの、国境炭素税の導入を意識しての発言と解釈できます。果たしてバイデン政権はマンチン氏を説得できるのか、瀬戸際の交渉が間もなく幕開けします。

(カバー写真:Johnny Silvercloud/Flickr)

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