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10月ベージュブック:ワクチン接種義務化、離職者数を押し上げ

by • October 24, 2021 • Latest News, NY TipsComments Off1604

Beige Book : Vaccine Mandates Was Widely Cited As Contributing To High Turnover.

米連邦準備制度理事会(FRB)が10月20日に公表したベージュブック(9月初めから10月初め)によると、米経済活動をめぐる表現は「経済活動は、大半の地区で緩慢からゆるやかなペースで拡大した」とされ、前回9月分の「ゆるやかなペースへわずかに減速した」から、「緩慢」の文言が加わったように若干の下方修正となった。実際、今回は「一部の地区では、供給網の制約や人手不足、デルタ株を巡る不確実性などによって成長ペースは抑制され、鈍化した」との表現が追加された。足元で新型コロナウイルスの感染者数は減少傾向にあるが、企業側から慎重な見方が優勢だったようだ。

見通しをめぐっては「短期的な見通しに楽観的だったが、複数の地区では不確実性の高まりを指摘したほか、前回より楽観度に慎重さが強まったと報告した」という。前回の「大半の地区連銀の企業は短期的な見通しに楽観的だったが、引き続き供給網の制約や資材不足の問題に幅広く懸念を寄せた」と概ね変わらなかった。

今回特筆すべきは、コロナをめぐる懸念が強まるなかでも、ワクチン接種義務化が問題視された点だ。早期退職や離職者数の増加の理由として、ワクチン接種義務化が挙げられたためだ。なお、バイデン政権は9月9日、ワクチン接種義務化を強化。そのうちの1つに、100人以上の従業員を抱える企業へのワクチン義務化あるいは週1回の陰性証明の提出が盛り込まれた。

その他、経済活動全般の表現がわずかながら下方修正され、米9月雇用統計がデルタ株感染拡大による就労者の伸びを減速させたように、「新型コロナウイルス」というキーワードの登場回数は全体で31回と前回の30回を超え3月以来で最多に。「不確実性」の登場回数も26回と、前回の17回を上回った。リッチモンド地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動は、大半の地区で緩慢からゆるやかなペースで拡大した。しかし、一部の地区では、供給網の制約や人手不足、デルタ株を巡る不確実性などによって成長ペースは抑制され、鈍化した。短期的な見通しに楽観的だったが、複数の地区では不確実性の高まりを指摘したほか、前回より楽観度に慎重さが強まったと報告した。

前回:経済成長は7月初めから8月にかけ、ゆるやかなペースへわずかに減速した(downshifted slightly to a moderate pace)。力強く拡大した業種は製造業、輸送、非金融サービス、居住者向け不動産で、逆に経済活動の減速を招いた業種は、大半の地区連銀で外食、旅行、観光となり、デルタ株感染拡大による安全性への懸念や一部での海外渡航制限が影響した。その他、鈍化あるいは減速した業種は、需要鈍化に加え供給網の制約や人手不足により活動が押し下げられ、自動車販売台数の減少は在庫ひっ迫と半導体不足によるもので、住宅販売の減少も在庫薄によってもたらされた。大半の地区連銀の企業は短期的な見通しに楽観的だったが、引き続き供給網の制約や資源不足の問題に幅広く懸念を寄せた。

<個人消費、製造業活動、建設活動、融資、農業、エネルギー>

個人消費は大半の地区でポジティブな成長を示した。しかし、自動車販売は在庫ひっ迫と価格高騰を受け、幅広く減少した。旅行や観光は地区によってまちまちで、娯楽や観光の活動で力強さを確認した一方、他の地区ではデルタ株感染拡大や新学期入りを背景に減少した。
製造業の活動はトラック輸送や配送などのように、ゆるやかから活発なペースで拡大した。
・非製造業の活動は、大半の地区でわずかからゆるやかなペースで拡大した。
・融資需要は概して、横ばいから緩慢だった。
・住宅不動産の活動は横ばいあるいはわずかに鈍化したが、市場自体は引き続き健全だった。
・全般的に非住宅不動産の活動は地区や市場セグメントによって、まちまちだった。
・農業の状況はまちまち、エネルギー市場は概してほぼ変わらなかった。

前回:
・自動車を除く小売売上高は複数の地区連銀で小幅に鈍化し、非住宅建設活動は控え目ながら回復した。
・融資は地区によって様々で、緩慢ながら減少した地区があった一方で、力強く増加した地区もみられた。
・農業やエネルギーの活動はまちまちだったが、概ねポジティブだった。

<雇用、賃金>

雇用は足元、人材への需要が高まるなか、人手不足の状況が労働市場の伸びを抑えたため、緩慢からゆるやかなペースで拡大した。輸送とテクノロジー関連の企業は特に人手不足が深刻で、その他、多くの小売、宿泊、製造業などは十分な人材を確保できないなかで、労働時間や生産活動を削減せざるを得なかった。企業は、転職や引退などによる離職者の増加を報告。コロナ関連の他、託児所不足やワクチン接種義務化が、幅広く離職の問題点として挙げられた。多くの企業は、採用候補者の能力を拡大すべく、職業訓練を拡充した。いくつかのケースで、企業は人手不足を補うべく自動化を進めた。大半の地区は、賃金の力強い上昇を報告。企業は人材確保のため新入社員の賃金を引き上げ始めたほか、従業員確保を目指し賃上げを行った。多くの企業はまた、残留特別賞与を提示し、労働時間の柔軟化を図り、休暇を増やすなど従業員にインセンティブを与えた。

前回:全ての地区連銀で雇用が全体的に増加したが、雇用創出のペースへの表現は「わずかから力強い」などに分かれた。人材への需要は引き続き力強かったものの、全ての地区は人手不足により雇用が抑制され、多くの場合、企業活動の障害となった。離職率の上昇や早期引退(特にヘルスケア)、託児所不足、内定をめぐる交渉、失業保険給付上乗せなどが人手不足に寄与した。複数の地区連銀は、デルタ株の感染拡大を理由にオフィス復帰を遅らせたとの報告が上がった。幅広く執拗に続く人手不足により、一部の地区で賃上げペースの加速を報告し、中西部や西部などでは力強い伸びが報告された。一部の地区連銀では、特に低賃金職で急速な賃上げがみられた。雇用主は賃上げの頻度引き上げ、賞与、職業訓練、柔軟な就業体制などで従業員確保に努めた。

<物価>

大半の地区は、物価をめぐり財や原材料の需要拡大に押し上げられ、著しい高止まりを報告した。仕入れコストは、供給網のボトルネックによる品不足を受け、産業全般にわたって幅広く上昇した。価格上昇圧力は、コモディティ不足のほか、輸送量の増加、人手不足によって生じた。鉄鋼、電子部品、配送コストは期間中に大幅に上昇した。多くの企業は、力強い需要を背景に、コスト負担を消費者に上乗せし販売価格を引き上げた将来の価格見通しはまちまちで、一部で高止まりを予想する一方、他は向こう1年の間にゆるやかな方向へ落ち着く見通しを示した。

前回:物価は継続的に高止まりしたペースで上昇し、地区の半分は値上がりペースが「力強い」と表現し、残りは「ゆるやか」とした。原材料が不足が蔓延するなか、仕入れ価格の圧力は引き続き幅広く確認された。大半の地区では、金属や金属関連製品の大幅な上昇がみられ、木材のみ例外で足元の異例の高値から下落した。価格が大幅に上昇するなかでも、多くの企業にとって原材料の調達が困難に。複数の地区で、企業は容易にコスト負担を価格転嫁できるようになった。一部の地区では、企業が数ヵ月先に販売価格大幅に引き上げる見通しと示唆した。
<経済活動に関するキーワード評価>

経済活動の表現に関するキーワードの登場回数は、経済活動の表現がわずかながら下方修正されたように「拡大(increased)」や「力強い」を始め、全体的にポジティブな文言で減少が優勢となった。一方で「弱い」、「不確実性」などネガティブな表現の一部で増加した。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→181回<前回は193回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→87回<前回は90回
「ポジティブ(positive)」→u回<11回
「ゆるやか(moderate)」→73回<前回は75回
「緩慢、控え目など(modest)」→52回>前回は47回
「安定的(stable)」→14回>前回は8回
「弱い(weak)」→11回>前回は8回
「低下(decline)」→30回<前回は33回
「減退(decrease)」→12回<前回は17回
「不確実性(uncertain)」→26回>前回は17回

<関税、中国、不確実性、新型コロナなどのキーワード評価>

米中で第1段階の通商合意が成立したほか、バイデン政権が始動した事情もあり、「関税」と「中国」の登場回数はゼロとなった。一方で、デルタ株感染動向への懸念に加え供給網の制約、人手不足を受け「不確実性」は前述の通り26回と、20年9月以来で最多に「新型コロナウイルス」の言葉自体も31回と、3月以来の高水準だった。

チャート:コロナに加え供給網の制約、人手不足を受け「不確実性」が高まる

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(作成:My Big Apple NY)

<その他のキーワード評価>

サプライチェーン制約が企業活動拡大に制約となるように、「不足」との言葉は今回74回と9月分の77回から減少したとはいえ高止まりを続けた。今回のベージュブックで「多くの企業は、力強い需要を背景に、コスト負担を消費者に上乗せし販売価格を引き上げた」とあったように、引き続き物価が高止まりするリスクに注意したい。

チャート:「不足」の登場回数は、今回74回と高止まり

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(作成:My Big Apple NY)

――今回のベージュブックでは、経済活動の表現がわずかに下方修正されるなか、物価上昇圧力を確認しスタグフレーション懸念を煽る結果となりました。しかし、Fedは11月2~3日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリングを決定するのでしょう。

一方で、インフレ加速という問題は、引き続きバイデン政権に重く圧し掛かります。こちらを始め当ブログで何度も指摘させて頂いたように、①食費、②エネルギー価格(ガソリン、光熱費など)、③家賃――といった、生活に欠かせない費目で特に値上がりが顕著となっているためです。

チャート:電力・ガス、ガソリン、家賃の物価動向

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(作成:My Big Apple NY)

例えば、今回のベージュブックではアトランタ地区連銀とサンフランシスコ地区連銀の2行が食費の上昇を指摘しました。シカゴ地区連銀、カンザスシティ地区連銀、クリーブランド地区連銀、サンフランシスコ地区連銀の3行は配送コストの負担増を報告。また。ミネアポリス地区連銀とダラス地区連銀は家賃の上昇を挙げ、特に後者はテキサス州の多くの市場で過去最高値を更新したといいます。

今回、新たに加わった問題としてワクチン接種義務化が挙げられますが、今回のベージュブックでは同文言は7回登場しました。そのうち、地区連銀別では6回で以下の通り。

・ボストン地区連銀 2回
→製造業で離職者数の増加がみられ、背景にラグを伴ったコロナ禍の影響のほか、ワクチン接種義務化が挙げられた。しかし、1社はワクチン接種義務化が問題にならなかったと報告したという。

・フィラデルフィア地区連銀 1回
→多くの企業は、ワクチン接種義務化を課したものの、離職者数はほとんど確認されなかった。

・アトランタ地区連銀 2回
→企業の大半はワクチン接種義務化の導入を望む半面、従業員の離職を憂慮した。企業側は、従業員のメンタルヘルスや燃え尽き症候群、安全性、クチン接種義務化が企業カルチャーに影響を与えるとして懸念を寄せた。

・サンフランシスコ地区連銀 1回
→ 連邦政府によるワクチンの義務化は、労働問題を悪化させると予想されていたが、ほとんどの場合、義務化によって引き起こされた辞職者の数は予想よりも少なかった。

興味深いことに、ブルーステートが優勢なボストン地区連銀、サンフランシスコ地区連銀ではワクチン接種義務化により離職者数の増加を報告したものの、1社は理由に挙げなかったり、予想ほど悪くないとの表現が付随していました。フィラデルフィア地区連銀に至っては、殆ど確認されなかったと説明しています。一方で、レッドステートつまり共和党支持基盤の多いアトランタ地区連銀では、ワクチン接種に慎重な州民の多さを反映したようで、企業側が義務化に慎重な様子が伝わってきました。

このようにまちまちな内容でも、レッドステートが多いリッチモンド地区連銀がまとめたベージュブックの総論では、ワクチン接種義務化による離職者数の増加を報告したわけです。地区連銀が政治に配慮したとは思えませんが、それぞれカラーが分かれる非常に興味深い結果となったことは確かです。

(カバー写真:Maryland GovPics/Flickr)

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