This Tornado Outbreak Could Be The Costliest In The History.
竜巻の恐ろしさを筆者が初めて感じたのは、スターシップの名曲「セーラ」のミュージック・ビデオでした。大人になってNYに住まいを移してからは、あの頃感じた恐怖がいかにちっぽけだったか痛感したものです。
米国で12月10日夜から11日にかけ、南部のケンタッキー州を始め少なくとも6州で竜巻(トルネード)が60件以上も発生し、甚大な被害が確認されています。
ケンタッキー州メイフィールドなど一部では、被害状況を基に竜巻の規模を表すEFスケールのうち6段階と「最大の被害」から3番目に当たる「EF3」に達していました(なお、EFスケールとは”改良藤田スケール”を指し、竜巻の大きさを評定する尺度。1971年にシカゴ大学の藤田哲也氏が作成したものを2006年に米国立気象局が改良版として発表されたもの)。瞬間風速は秒速に約70~90メートル、竜巻の最大の幅は約1.2㎞に及んだといいますから、マンモス級だったことが分かります。
12月に入り暖冬に見舞われ、当時は南部を中心に気温が26度と12月の平均気温を10度超も上回る状況でした。そこへ北部から寒気が流れ込み、不安定な大気の下でスーパーセルが数多く発生、「トルネード・アウトブレイク」と呼ばれる竜巻の大発生をもたらしたというわけです。ケンタッキー州ではキャンドル工場が倒壊し、約1,000件の家屋や建物が吹き飛ばされ、今も2.8万件の住宅や施設が停電に見舞われています。死者は既に80人を超え100人以上とも予想されるほどで、民主党のベシア知事は早々に非常事態を宣言、竜巻の被害状況につき「ケンタッキー史上、最も深刻」と言及していました。
バイデン大統領は11日、ケンタッキー州の非常事態宣言を承認。ベシア知事と同様に「過去最大級の竜巻となった可能性がある」と述べ、15日に現地視察へ向かう予定と報じられています。
今回のトルネード直撃の時期が年末商戦の終盤戦だったことも、悲劇を招いてしまいました。前述のキャンドル工場では竜巻発生でも従業員に24時間操業を命じ、屋根が損壊したイリノイ州のアマゾン倉庫では従業員の携帯電話の持ち込みが禁止され情報入手が遅れるなど、人災の側面があった点は否めません。人権問題に加え、トルネード・アウトブレイクを受け米国内で再び気候変動問題への議論が高まることでしょう。
さて竜巻ですが米国では従来、4~6月に南部を軸に中西部は東部へ広がる傾向があります。しかし、温暖化による影響から、12月10~11日にケンタッキー州やイリノイ州などを直撃したトルネードのように、足元は季節外れの時期に発生することも稀ではなくなってきました。
これまでの被害総額で最大は、2011年4月にアラバマ州やケンタッキー州など13州で発生した竜巻で、2020年ベースのドルで84.9億ドル(9,590億円)。現状の被害状況を見る限り、今回のトルネード・アウトブレイクによる経済的損失は100億ドル=1兆円を突破してもおかしくありません。
チャート:竜巻による被害総額が全米で最も大きかった10件(2021年12月を除く)
問題は、被害総額が大きいトルネードは全て2000年以降に発生している点です。1950~1989年は平均693件だったが、1990~2021年平均は1,193件と倍近くに増えています。
チャート:過去の竜巻発生件数
クリスウェル米連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官は12日、トルネード・アウトブレイクを受け温暖化による「ニューノーマル」と警告しました。米国民はこうした現実を見据え、中間選挙でどのような選択をするのでしょうか。
(カバー写真:NWS)
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