Nonfarm Payrolls Rose Solidly In August, Pushed By Part-Time Workers.
<本稿のサマリー>
米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、米8月チャレンジャー人員削減予定数が前月比で減少したように堅調な増加ペースを維持しました。ただ、フルタイム労働者が3ヵ月連続で減少したように、パートタイムが増加をけん引。そのせいか、平均時給は市場予想以下にとどまり、経済的な理由でパートタイムを余儀なくされている不完全就業率は過去最低水準から上昇しています。
質的に健全な雇用増加と言い難く、失業率が上昇し(労働参加率の改善が一因)、賃金の伸びが鈍化した結果、FF先物市場では9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で75bp利上げの確率が低下し一時58%まで戻しました。ロイターは「75bp利上げ圧力を後退させた」と報じています。米株相場はゴルディロックス相場を想定したのか、NY時間12時半時点で続伸していましたが、引けにかけ数字以上に質的に弱い内容と見直されたのか、下落に転じました。一部の概況では「積極的な利上げ路線の変更の修正を誘う内容ではない」とも説明されていますが、少なくとも9月FOMCでの75bp利上げ観測は後退しています。
チャート:FF先物市場、9月FOMCにつき75bp利上げ予想が逆転
チャート:2023年以降は据え置き予想が引き続き優勢、4%以上への追加利上げ観測は低下
米8月雇用統計のポイントは、以下の通り。
(労働市場にポジティブ)
・NFPがは堅調なペースで増加
・労働参加率は改善
・就業率は上昇
・長期失業者の割合は、20年8月以来の低水準(ただし、労働市場から退出した可能性も)
(労働市場にネガティブ/ニュートラル)
・失業率はコロナ前の低水準をつけた前月から上昇
・過去2ヵ月分のNFPが下方修正
・フルタイムの労働者が3ヵ月連続で減少(パートタイムは増加)
・不完全就業率は過去最低から若干ながら上昇
・平均時給は、生産労働者・非管理職部門で鈍化(インフレ圧力鈍化という意味ではポジティブ)
・週当たり労働時間が短縮
米8月雇用統計の詳細は、以下の通り。
米8月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比31.5万人増となり、市場予想の30万人増を上回った。前月の52.6万人増(52.8.万人増から下方修正)に届かなかったものの、堅調なペースを維持し20ヵ月連続で増加した。
6月分の10.5万人の下方修正(39.8万人増→29.3万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で10.7万人の下方修正となった。6~8月の3ヵ月平均は37.8万人増となった。経済正常化に合わせ、2021年平均の56.2万人増を5ヵ月連続で下回った。
非農業部門就労者数(NFP)は20年3~4月に2,199万人減少したが、22年7月にこれを打ち消した。20年5月以降、今回で2,223万人の雇用を取り戻した結果、NFPは1億5,274万人と20年2月の1億5,250万人を上回った。
チャート:20年2月の水準を回復するまで、2年と5ヵ月を要した格好。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比30.8万人増と市場予想の30万人増を上回った。前月の47.7万人増(47.1万人増から上方修正)を含め、20ヵ月連続で増加した。民間サービス業は26.3万人増、前月の41.1万人増(40.2万人増から上方修正)を下回った。
チャート:NFPは堅調な伸び続く、失業率は20年2月以来の低水準に並んだ前月の3.5%から3.7%へ上昇
サービス部門のセクター別動向は、11業種中で前月通りすべて増加し前月の10業種を上回った。今回最も雇用が増加した業種は教育/健康と専門サービスで、3位は小売だった。一方で、減少と横ばいはゼロだった。
(サービスの主な内訳)
―増加した業種
・教育/健康 6.8万人増、28ヵ月連続で増加<前月は11.8万人増、6ヵ月平均は7.9万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は6.2万人増、14ヵ月連続で増加<前月は9.4万人増、6ヵ月平均は6.4万人増)
・専門サービス 6.8万人増、16ヵ月連続で増加<前月は8.4万人増、6ヵ月平均は7.4万人増(そのうち派遣は1.2万人増、16ヵ月連続で増加>前月は0.9万人増、6ヵ月平均は0.5万人増)
・小売 4.4万人増、3ヵ月連続で増加>前月は2.9万人増、6ヵ月平均は0.5万人増
・娯楽/宿泊 3.1万人増、19ヵ月連続で増加<前月は9.5万人増、6ヵ月平均は6.7万人増(そのうち食品サービスは8.1万人増>前月は7.8万人増、6ヵ月平均は6.7万人増)
・金融 1.7万人増、14ヵ月連続で増加>前月は1.3万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・卸売 1.5万人増、25ヵ月連続で増加=前月は1.5万人増、6ヵ月平均は1.8万人増
・情報 0.7万人増、22ヵ月連続で増加<前月は1.6万人増、6ヵ月平均は1.9万人増
・その他サービス 0.7万人増、2ヵ月連続で増加<前月は1.6万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
・政府 0.7万人増、2ヵ月連続で増加<前月は4.9万人増、6ヵ月平均は1.2万人増
・輸送/倉庫 0.5万人増と28ヵ月連続で増加<前月は2.5万人増、6ヵ月平均は2.3万人増
・公益 0.1万人増、2ヵ月連続で増加=前月は0.1万人増、6ヵ月平均は横ばい
―横ばいの業種
なし
―減少した業種
なし
財生産業は前月比4.5万人増と前月の6.6万人増に届かなかったが、前月の16ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が16ヵ月連続で増加した。建設は4ヵ月連続で増加。油価が景気後退懸念で8月に向け90ドル割れへ向かう過程で、鉱業・伐採は小幅ながら7ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 2.2万人増、16ヵ月連続で増加<前月は3.6万人増、6ヵ月平均は3.7万人増
・建設 1.6万人増、4ヵ月連続で増加<前月は2.4万人増、6ヵ月平均は1.7万人増
・鉱業/伐採 0.7万人増(石油・ガス採掘は0.2万人減)、7ヵ月連続で増加>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.7万人増
チャート:セクター別、就労者の増減
チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の0.5%増→0.7%増と3ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。11業種中で当時の水準を上回るのは前月の5業種から6業種に増加。今回、卸売が0.1%増と、漸くプラス圏に転じた。そのほかは輸送・倉庫(12.9%増、23ヵ月連続)、専門サービス(4.6%増、11ヵ月連続)、情報(4.4%増、9ヵ月連続)、小売(1.7%増、8ヵ月連続)、金融(1.3%増、7ヵ月連続)となる。
財部門は前月の0.5%増と、前月の0.3%増(横ばいから上方修正)と2ヵ月連続でプラス圏を守った。建設が4ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業がも過去の上方修正を受け3ヵ月連続で増加した。建設(1.1%増、4ヵ月連続)と製造業(0.5%増、3ヵ月連続)でプラスだった一方で、鉱業・伐採は6.6%減と下げ幅を縮小しつつ引き続きマイナス圏をたどった。
(作成:My Big Apple NY)
平均時給は前月比0.3%上昇の32.36ドル(約4,530円)と、市場予想の0.4%を下回った。前月の0.5%(0.3%から上方修正)に届かなかったが、19ヵ月連続で上昇した。前年同月比は5.2%上昇し6~7月と変わらず、市場予想の5.3%以下に。生産労働者・非管理職の前年同月比は6.1%上昇と、21年9月以来の6%割れが視野に入り賃金インフレのピークアウト感を残した。
チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う
週当たりの平均労働時間は34.5時間と、前月まで5カ月続いた34.6時間を下回った。一因は、前述したようにパートタイムの増加が一因とみられる。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と前月の40時間を下回り、コロナ禍で最高となった21年9月に並んだ前月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは前月まで4ヵ月連続で33.5時間を経て、33.4時間と20年4月以来の低水準に並んだ。雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えたため短縮したと考えられる。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。
チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数の伸びが前月以下だったほか、週当たり労働時間が短縮したため、前月比0.1%減だった。一方で、平均時給は上昇が続いた結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.3%増だった。
失業率は3.7%と、市場予想値でありコロナ前にあたる20年2月の低水準に並んだ前月の3.5%を上回った。失業者が34.4万人増と増加に転じたほか、減少しただけでなく、自発的離職者数が3ヵ月連続で増加し、失業率を押し上げた可能性がある。ただし、失業率の上昇は必ずしもバッドニュースではなく、労働参加率の改善も一因。特に、16~24歳の若い世代の労働参加率が55.7%と前月の55.2%を超え上昇をけん引しており、55歳以上はむしろ38.6%と前月の38.7%から低下していた。
チャート:自発的離職者数は前月比6.7%増の89.8万人と6ヵ月ぶりの高水準。つれて失業者に占める自発的離職者数の割は15.2%と、2000年4月以来の水準へ上昇。
労働参加率は62.4%と前月の62.1%を上回り、20年3月(62.7%)以来の高水準となった3月の62.4%に並んだ。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比35.3万人減と、前月の増加を打ち消した。
就業率は60.1%と、前月の59.9%を超え5ヵ月ぶりの水準を回復した。それでも、コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%までの道のりは遠い。
コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は前月まで2ヵ月連続で7.1%を経て。今回は6.5%と20年2月以降で最低を更新した。
コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は52.3万人と前月比で減少し労働参加率の改善につながったが、コロナ禍で最低だった6月の45.5万人を上回ったままだ。
チャート:コロナ禍で職探しをしなかった労働者は7月に下げ渋り、労働参加率は年初来で最低
6~7月に、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離について指摘した。逆に今回はNFPが31.5万人増に対し、家計調査の就労者数は44.2万人増と、NFPを上回る伸びだった。
チャート:NFP比べ、家計調査の就労者数の伸びは限定的。
家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、パートタイムが増加をけん引していた。一方で、フルタイムは3ヵ月連続で減少(年初来で4回目)、複数の職を持つ者は3ヵ月ぶりに減少した。NFPの伸びは市場予想を上回ったが、パートタイムが押し上げた格好だ。
チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイは減少
チャート:複数の職を持つ労働者は3ヵ月ぶりに減少、7月はコロナ以前の20年2月以来の高水準だった
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全就業率 採点-×
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は7.0%と、1994年の統計開始以来で最低を更新した6~7月の6.7%を3ヵ月ぶりに上回った。家計調査で、就業者のうちパートタイムが増加した結果と整合性をもつ。
2)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.4%と年初来で最低前月の62.1%から改善、20年3月以来の高水準だった3月の62.4%に並んだ。2020年3月以来(62.7%)の水準回復は未だ遠い。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。
チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善
3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前月に続き8.5週と前月と変わらず、3~4月の7.5週超えを維持。ただし27週以上にわたる失業者の割合は18.8%と前月の18.9%を下回り、1回目の失業保険給付上乗せが終了直後の2020年8月以来の低水準。一部の長期失業者が労働市場から退出した可能性を示唆する。
チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年9月以来の低水準
4)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%上昇し、19ヵ月連続で上昇。前年比は3ヵ月連続で5.2%だった。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.4%と、前月の0.5%以下に。前年比は6.1%の上昇し、21年9月以来の6%割れを視野に入れ賃金インフレにピークアウトの兆しを残した。
(カバー写真:Olympia Zampathas/Flickr)
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