Black Unemployment Surges To Highest Since 2022, Contrasting The Overall Trend.
米3月雇用統計は、こちらで紹介しましたように、非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を上回り2023年5月以来の強い伸びを遂げました。しかも、労働参加率が4カ月ぶりの水準を回復したにもかかわらず、失業率は低下。平均時給は前月比と前年比で市場予想以下となっただけでなく鈍化トレンドを確認し賃上げを招かず、米株相場はゴルディロックス経済万歳といった様相です。
NFPに視点を戻し業種別の動向をみると、今回、娯楽・宿泊は4.9万人増とサービス業では教育・健康、政府に次ぐ強い伸びとなりました。そこに含まれる食品サービスは2.8万人増と2カ月連続で増加。結果、娯楽・宿泊は3月にようやく2020年2月の水準を回復しました。
チャート:娯楽・宿泊のうち、食品サービスの雇用は2月に2023年1月以来の強い伸び
筆者がもうひとつ、注目する業種が専門サービスに含まれる派遣です。派遣は、労働市場の先行指標とされ、景気後退前に減少トレンドをたどる傾向があります。3月の結果を見ると、前月比0.2万人減と2022年4月以降のマイナストレンドを維持。足元でITから配送、航空会社まで大規模なリストラを決定し効率性を引き上げ株価を押し上げているように、企業が雇用に慎重な様子が伺えます。
チャート:派遣、2022年4月以降のマイナストレンドを維持
そのほか、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通り。
〇平均時給
平均時給は前月比0.3%上昇の34.69ド ル(約5,240円)と、市場予想と一致した。前月の0.2%(0.1%から上方修正)を超え、2021年2月以降の上昇トレンドを維持した。前年同月比は4.1%と市場予想と一致し、前月の4.3%を下回り、2021年6月以来の4%割れが近づいた。生産労働者・非管理職の前年同月比も4.2%と、前月の4.6%(4.5%から上方修正)を下回り、2021年6月以来の低い伸びだった。
業種別を前月比でみると、平均時給の伸びが0.3%以上だったのは13業種中で6業種で、前月の速報値ベースの9業種を下回り、賃上げ圧力の後退を示した。今回の1位は雇用が減少した公益で、そのほか製造業、建設、娯楽・宿泊。専門サービス、金融と続いた。一方で、鉱業・伐採を始め、雇用が増加した小売やその他サービス、教育・健康で下落し、労働力の供給拡大が賃下げをもたらしたと考えられる。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:前年比ではインフレ目標値2%超えが目立ち、財部門はそろって強い伸びとなった半面、サービス業はNFPで増加を主導したヘルスケアを含む教育・健康を中心に平均時給の前年比4.1%以下が優勢となった。
〇労働参加率
労働参加率は62.7%と前月まで3カ月連続で2022年12月以来の低水準の62.5%から改善した。しかし、働き盛りの男性(25~54歳)をみると,全米の結果に反し25~54歳、25~34歳は低下。一方で、白人はそろって上昇したが、白人は季節調整前となるため単純比較できない場合がある。
・25~54歳 89.2%、前月は89.3%、2023年9月は89.6%と2019年3月の水準と一致
・25~54歳(白人) 90.1%と3カ月ぶりの水準を回復、前月は89.9%、2023年10月は90.5%と2020年2月(90.6%)以来の高水準
・25~34歳 89.3%、前月は89.4%、2023年7月は90.0%と2012年10月以来の高水準
・25~34歳(白人) 91.0%と2019年3月以来の高水準、前月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、全米では低下も白人は改善
働き盛りの女性はまちまちだった。
・25~54歳 77.7%と前月と変わらず、2023年4月は77.8%と統計開始以来で最高
・25~34歳 78.0%、前月は78.4%、2022年8月は78.8%と1997年のデータ公表以来で最高
65歳以上の高齢者の労働参加率は、男性が著しく上昇も女性は低下した。
・男性 23.5%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は23.0%、2022年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.0%、前月は16.3%と2020年2月以来の高水準
チャート:65歳以上の高齢者の労働参加率、男性で改善し女性は低下
労働参加率を16~19歳、20~24歳、55歳以上で分けてみると、そろって上昇。特に16-19歳は2009年6月以来の水準を回復した。
・16~19歳 38.2%と2009年6月以来の高水準 前月は36.6%
・20~24歳 72.1%と2021年12月以来の水準を回復、前月は71.7%、1月は72.7%と2020年2月以来の高水準
・55歳以上 38.6%と4カ月ぶりの水準を回復 前月は38.5%
チャート:16~19歳は2009年6月以来の高水準をつけ、労働参加率の改善が必ずしも好景気を示唆しない場合も
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率が低水準を維持するなか、前月比4.0%減の544.3万人と2カ月連続で減少。男性が同2.6%減の255.2万人と2カ月連続で減少したほか、女性も同5.2%減の289.1万人と減少に転じた。労働参加率の改善と整合的だ。
チャート:職を望む非労働力人口
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は男性が改善した一方で女性は横ばいとなった。男性は2022年7月の低水準に並んだ前月の67.7%→68.0%へ切り返した。女性は前月の57.6%で変わらず、2020年2月(57.9%)水準に迫った2023年8月の水準に一致した。
チャート:男女別の労働参加率、男性が上昇も女性は横ばい
男女の失業率もまちまち。労働参加率が改善した一方で男性は前月の3.8%→3.7%と2023年7月以来の低水準となった。女性は逆に労働参加率が横ばいだったものの、前月の3.9%と2022年2月以来の高水準を維持した。なお、女性は2023年1月に3.3%と1952年9月以来の低水準を記録していた。
チャート:男性の失業率は低下、女性は横ばい
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、まちまちで黒人とヒスパニック系の女性で伸びが鈍化した。白人は2カ月連続で下げ幅を縮小した。
チャート:男女別の就業者数の20年2月との比較
人種別の週当たり賃金は2023年5月時点で以下の通りで、ヒスパニック系が762.8ドルと最低、次いで黒人が791.02ドル、白人は1,046.52ドルとなる。アジア系が最も高く1,169ドル。
チャート:実質ベースのフルタイム従業員の週当たり賃金、ヒスパニック系が最も低い
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。なお、正確にヒスパニック系は中米・中南米系出身者を指し、人種にカテゴリーにあてはまらないが、便宜上、人種別とする。
人種別の労働参加率は、白人以外で低下した。今回、全米の労働参加率の改善は、白人のみを反映した数字と言える。なお、データはアジア系を除き全て季節調整済みとなる。
・白人 62.3%と4カ月ぶりの水準を回復、前月まで3カ月連続で62.1%と2023年2月以来の低水準 2023年8月は62.5%と2020年3月(62.6%)以来の高水準、2020年2月は63.2%
・黒人 63.6%、前月は63.7%と5カ月ぶりの水準を回復、2023年3月は64.0%と2008年8月の高水準に並ぶ
・ヒスパニック系 66.8%と1月の水準へ戻す、前月は67.1%と5カ月ぶりの水準を回復、2023年7月は67.3%と2020年2月(67.8%)以来の高水準
・アジア系 64.1%と2021年8月以来の水準へ低下、前月は64.5%、2023年9月は65.7%と2012年12月の高水準に並ぶ、2020年2月は64.5%
・全米 62.7%と4カ月ぶりの水準を回復、前月まで3カ月連続で62.5%、2023年11月は2020年2月(63.3%)以来の高水準に並ぶ
チャート:人種別の労働参加率、白人以外で低下
人種・男性別の労働参加率は、白人とヒスパニック系で上昇した一方で、黒人は低下した。なお、2月は黒人の労働参加率が白人を上回る逆転現象が発生したが、再び白人が黒人を上回った。
・白人 69.8%と1月の水準へ戻す 前月は69.6%と2021年2月以来の低水準、2020年3月は71.0%
・黒人 69.6%、前月は69.8%と2023年3月以来の高水準、前月は69.2%、なお2023年3月は70.2%と2010年3月(70.4%)以来の高水準
・ヒスパニック系 79.8%と2023年7月以来の水準を回復、前月は79.6%、2023年7月は79.9%と2022年6月以来の高水準(80.1%)、2020年2月は80.3%
チャート:人種・男性別、黒人のみ低下
人種・女性別の労働参加率は白人が横ばいだった一方で、黒人とヒスパニック系は低下した。
・白人 57.9%、前月は57.9%、2023年8月は57.9%と2020年2月以来の高水準(58.3%)
・黒人 63.0%、前月は63.4%と4カ月ぶりの水準を回復、2023年4月は63.9%と2009年7月(64.0%)以来の高水準
・ヒスパニック系 61.1%、前月は61.7%と2023年9月以来の高水準、2023年9月は61.9%と2020年2月以来の高水準(62.2%)
チャート:人種・女性別は、黒人とヒスパニック系が低下
人種別の失業率は、黒人の一人負け状態。、労働参加率が低下したにもかかわらず、2022年3月以来の水準へ急伸した。労働参加率が低下したヒスパニック系とアジア系は失業率もつれて前月を下回った。そのほか、労働参加率が4カ月ぶりの水準を回復した白人は前月と変わらなかった。
・白人 3.4%と3カ月連続で変わらず 前月は3.4%、2023年12月は2023年10月と同じく2021年11月以来の高水準、2022年12月は3.0%と2020年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 6.4%と2022年3月以来の水準へ急伸、前月は5.6%、2023年4月は4.7%と過去最低
・ヒスパニック系 4.5%と2023年7月以来の低水準 前月まで3カ月連続で5.0%、なお2022年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.5%と2022年9月以来の低水準、前月は3.4%、2023年7月は2.3%と2019年6月(2.0%)以来の低水準
・全米 3.8% 前月は3.9%と2022年1月以来の高水準 なお2023年1月と4月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率、黒人が2カ月連続で上昇し2年ぶりの水準へ急伸
人種・男女別は、労働参加率が低下したにもかかわらず、黒人の男女の上昇が目立った。逆に労働参加率が上昇した白人とヒスパニック系の男性は失業率低下し明暗が分かれた。
・白人男性 2.9%と2023年1月以来の低水準、前月は3.1%、2022年12月は2.8%と2020年2月以来の低水準
・白人女性 3.2%と2021年11月以来の高水準を維持、前月も3.2%、2023年6月は2.6%で過去最低
・黒人男性 6.2%と4カ月ぶりの水準へ上昇、前月は6.1%、2023年12月は4.6%と2023年4月につけた過去最低に並ぶ、2023年11月は6.3%と2022年2月以来の高水準
・黒人女性 5.6%と2022年10月以来の高水準、前月は4.4%、2023年4月は3.8%と過去最低
・ヒスパニック系男性 4.2%と4カ月ぶりの低水準、前月は4.8%、2022年9月は3.0%と2019年11月以来の低水準
・ヒスパニック系女性 4.7%と1月の水準へ戻す 前月は5.3%と2022年1月以来の高水準
チャート:人種・男女別の失業率、黒人の男女の上昇が際立つ
白人と黒人の失業率格差は3カ月連続で拡大。白人の失業率が3カ月連続で横ばいだった一方で、黒人が3カ月連続で上昇ししたため、失業率格差は前月の2.2ptから3.0%ptと2022年8月以来の水準へ拡大した。
チャート:白人と黒人の失業率格差、3カ月連続で拡大
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は中卒のみ低下し、他は上昇した。
・中卒 46.3%と2023年4月以来の低水準 前月は48.3%と3カ月ぶりの水準を回復 2023年11月は48.3%と2023年2月と並び過去最高
・高卒 57.3%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は57.0%、2023年11月は57.3%と2020年2月(58.3%)以来の高水準
・大卒以上 72.4%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は72.1%と2021年10月(71.9%)以来の低水準、2023年8-9月は73.5%と2020年1月(73.7%)以来の高水準に並ぶ
・全米 62.7%と4カ月ぶりの水準を回復、前月まで3カ月連続で62.5%と2023年2月の低水準に並ぶ、2023年11月は62.8%と2022年2月(63.3%)以来の高水準
学歴別の失業率は労働参加率にかかわらず、大学院卒以外で全て低下した。
・中卒以下 4.9%と2023年1月以来の低水準 前月は6.1%、2022年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 4.1%と5カ月ぶりの低水準、前月は4.2%、2023年7月は3.3%と2000年4月以来の低水準に並ぶ
・大卒 2.1% 前月は2.2%と5カ月ぶりの水準へ上昇 2022年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒 2.0%、前月と変わらず 2021年12月は1.2%と2000年4月の低水準に並ぶ
・全米 3.8% 前月は3.9%と2022年1月以来の高水準 2023年4月は3.4%と同年1月に続き1969年5月以来で最低
チャート:失業率、大学院卒以外で全て低下
チャート:大卒以上は労働参加率の改善しつつ、失業率は上昇せず
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①NFPの増加の業種別では、前月に続き娯楽・宿泊が寄与。今回。娯楽・宿泊は2020年2月以来の水準をようやく回復。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率、男性の間では全米で低下も白人が押し上げ、女性はまちまち。
③男女別の労働参加率は男性で改善が顕著に、特に男性は働き盛り世代以外(16~24歳、55歳以上)で上昇が目立つ。
③男女別の失業率は、労働参加率が上昇した男性で改善も、女性は労働参加率の低下するなかで横ばい。
④人種別では、労働参加率が低下した黒人の男女で失業率が上昇し、黒人一人負け状態となった一方で、白人男性とヒスパニック系は労働参加率が上昇も失業率は低下した。ヒスパニック系女性は、労働参加率に合わせ失業率は低下した。
・労働参加率が上昇+失業率が低下→白人男性、ヒスパニック系男性
・労働参加率と失業率が横ばい→白人女性
・労働参加率が低下+失業率が上昇→黒人の男女
・労働参加率と失業率が低下→ヒスパニック系女性
⑤白人と黒人の失業率格差、2023年12月に1.7ptと過去最少を記録も、以降は3カ月連続で拡大し3月は2022年8月以来で最大
⑥学歴別では中卒以外の労働参加率が上昇したが失業率は低下優勢、ただし大学院卒は横ばい
ーー以上の結果を踏まえると、米大統領選を控え気掛かりなのは黒人の間での失業率の上昇が挙げられます。ただし、白人男性やヒスパニック系男性で改善しており、ここがバイデン大統領の追い上げ材料となる可能性も否定できません。米大統領選を控え、フルタイムが減少しパートタイムが増加するなど、力強い米3月雇用統計・NFPの結果に反し、労働市場の質が低下している実態も含め、今後の戦況を予想すべきでしょう。
3月米連邦公開市場委員会(FOMC)で、年内3回利下げの予想は19対10と、僅差でした。6月利下げを決定する上で、ハードルは高いように見えます。そこへきて、タカ派のボウマンFRB理事は米3月雇用統計後、インフレ次第で追加利上げの必要性を指摘。10日発表の米3月消費者物価指数(CPI)次第では、年内3回利下げ派が2回以下に鞍替えしかねませんが、米大統領選前にFOMC参加者はどのような判断を下すのでしょうか。
(カバー写真:WOCinTech Chat/Flickr)
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