160年の歴史に幕を閉じたセント・ビンセント病院

by • August 9, 2010 • NY TipsComments (0)1364

私のお仕事アーカイブ



※普段仕事で書く原稿を時間差をおいて更新したものです。いつもと全然違いますので、あしからず。



~医療の現場、NY財政危機もあって閉鎖の危機に直面~


12丁目と7thアベニュー、グリニッジ・ビレッジに立つレンガ色のセント・ビンセント・カトリック・メディカル・センター。ニューヨーカーを支えてきた病院だが、同病院の役員会は4月6日に約160年に及ぶその歴史に幕を閉じることを決定した。債務額は7億ドルに及ぶ。翌日には抗議デモが展開されたが、決定は覆されることなく一部のファシリティを他病院に切り売りした後、静かに息を引き取ってしまった。ニューヨーク州の財政赤字は今年、92億ドルと見込まれるなか、他の医療施設も閉鎖の危機が迫る。

タイタニック号の生存者も収容した、大病院の「死」

セント・ビンセント・カトリック・メディカルセンターの創立は1849年。世界恐慌の前に創業を開始し、以降はコレラ病患者をはじめとした治療の場としてその名を知らしめ、1912年に当時において世界最大とうたわれた豪華客船タイタニック号の生存者を収容した病院としても有名である。最近では、2001年に発生した同時多発テロ事件で多くの犠牲者の人命を救い、またマンハッタンでのエイズ治療センターとして確固たる地位を築いてきた。

しかし4月初旬、経営不振から役員会は破産申請と病院の閉鎖を決定。翌日には曇天模様のなか多くの患者・関係者が集まり抗議活動を繰り広げた。しかし反対の声は届かず。閉鎖決定後まもなくスタッフの3分の1にあたる1000人のレイオフが発表され、またベッド数727を誇りながら稼動ベッド数も120に引き下げた。緊急外来も受け付けることなく、4月30日には約160年間の長きにわたる歴史にピリオドを打った。最後のときを迎えた4月30日、約100人もの患者、病院職員、関係者、近隣者が集い、セント・ビンセントを表す大きくはためく紺碧に陽の色をした十字架が施された旗が外されるのを見守ったという。
↓セント・ビンセントのモノグラムを施した救急車。
My Big Apple

コスト削減で、増える医療ミスの現実も

フランス系アメリカ人の麻酔医であるセペン・ナルディン氏も、閉鎖に追い込まれた病院の姿を見てきた一人である。彼は「緊急外来をはじめ患者の受け入れを断るわけにもいかず、一般病棟は慢性的な財政難に陥っている」と事情を明かす。患者の支払いが窓口ではなく、小切手払いと個人の裁量による部分も多く「未払いに終わることが多い」のが現状だ。病院の窮状に輪をかけるように、リーマン・ショックを経て景気後退に陥ったことで、医療費を支払えない患者も増加したことは想像に難くない。

同氏はまた「セント・ビンセント病院が医療ミスで数億ドル相当の訴訟を抱えていたことも、破産を申請した一因だろう。人手不足や労働環境を踏まえると、あってはならない医療的過失が発生してもおかしくなかったよ」と苦々しい現状について吐露していた。同氏の指摘どおり、医療現場はリーマン・ショックがNYを襲撃するまで、すでに重態にあった。2006年にはNY州病院産業団体である医療保険ファシリティが病院の財務悪化をにらみ20以上の病院の閉鎖と、1000件以上もの解雇を提案。こうした徹底的なコストカットを踏まえ閉鎖・縮小・合併を進めざるをえなくなり、医療施設が機能不全に陥った可能性は否めない。

こうした病院事情に加え、政府の補助金がカットされている現実も重くのしかかる。ニューヨーク州は今年度(2010年10月-2011年9月)、92億ドルもの財政赤字に直面するなか、NY州議会は緊急予算の一貫として7日に7.75億ドルもの医療関連のコストカットを賛成多数で可決。これは病院にとって、瀕死の患者が輸血への道を途絶されたも同然である。なぜなら、すでに米連邦政府が補助金を削減しているためだ。8日付けのニューヨーク・タイムズ(NYT)紙によると、グレイターNY病院協会の試算ではNYの病院施設が総額2500万ドルの補助金を失う見通しだ。クィーンズにある大病院ジャマイカ・ホスピタル・メディカル・センターで450万ドル、教育医療費の削減を伴うためモンテフィオーレ・メディカル・センターにいたっては1390万ドルにも及ぶという。

それでも、今回の医療費削減はパターソンNY州知事が提案した10億ドル以下にとどまり、落とし所を探った上での結果だったようだ。セント・ビンセント病院に始まり、NY医療現場には閉鎖の「伝染」が広がりつつあるのかもしれない。(了)

↓セント・ビンセント病院の閉ざされた入口に、集まる寄せ書きが悲しい。


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