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イエレンFRB議長、9月に向けタカの爪を研ぐ

by • July 15, 2014 • Finance, Latest NewsComments (0)3808

Yellen Showed A Sneak Peak Of Her Hawkish Side.

米連邦準備制度理事会(FRB)議長は15日、米上院銀行委員会で半期に一度の経済・金融政策に関する議会証言(旧ハンフリー・ホーキンス証言)を行った。同議長は、「高水準の金融緩和が適切」との見方を繰り返し表明。米経済は改善を続けるものの「回復はまだ途上にある」と説明した。労働市場にも、「著しいたるみがある」との判断を繰り返している。利上げ時期については、経済指標次第であり予め決まった道筋はないと述べた。また、2011年4月に出口政策の道筋を明らかにした後で追加緩和が余儀なくされた「誤った夜明け(false dawn)」の経験則を踏まえ、「相当の注意深さが必要」と発言。質疑応答では「足元の経済まちまちな兆候が混在しており、最初に利上げをする以前に経済基盤が堅固かどうか注意を払う必要がある」と慎重な認識を示した。

質疑応答では、低金利に対し市場が「利回り追求」の傾向にある点を理解していると発言。それだけではなく、現在の株価判断(バリューエション)に対し一部セクターは「割高」との認識を初めて明らかにした。議長は株式市場のバリュエーションにつき概して長期的平均に沿った水準にあると指摘した半面、バイオテクノロジー、ソーシャルメディアなど小型株の株価収益率(PER)は「歴史的水準に比べ高いようだ」との警戒を示した。これまでは、2013年12月FOMC議事録などで1)割高な小型株、2)ジャンク債の発行動向、3)レバレッジド・ローンの増加――を指摘していたものの、今回特定のセクターを追加し市場のリスク選好にけん制を仕掛けたといえる。

グローバル X ソーシャル・メディア・インデックス ETF (SOCL) 、午前10時過ぎから急落。

socl
(出所 : Yahoo! Finance)

発言内容の英文は、以下の通り。

「7月初めにおいて全般的に市場のバリュエーションは概して長期的平均を大きく上回る水準ではなく、総体的に投資家は株式に対し過度に楽観的ではない(valuation measures for the overall market in early July were generally at levels not far above their historical averages, suggesting that, in aggregate, investors are not excessively optimistic regarding equities)」

「ただし一部のセクター、特にバイオテクノロジー、ソーシャルメディアを中心とした小型株は年初の下落にも関わらず大いに割高に映る(Nevertheless, valuation metrics in some sectors do appear substantially stretched—particularly those for smaller firms in the social media and biotechnology industries, despite a notable downturn in equity prices for such firms early in the year.)」

エコノミストのレビューは、以下の通り。

大和キャピタル・マーケッツのマイケル・モラン米主席エコノミスト

経済環境は、イエレンFRB議長が前回登壇した2月と変化した。失業率は当時から0.5%ポイント改善し6.1%。PCEも0.6%ポイント上向き1.8%と、FOMCのインフレ目標値「2%」に近づいている。ただし、イエレンFRB議長は全体的に失業率とインフレが統治目標達成を示す水準に回帰しても低金利政策を維持するスタンスを表明。マーケット寄りな姿勢をあらためて打ち出した。また、経済成長には多くの向かい風要因があるとの見方を堅持し、緩和政策の必要性を説いている。同議長の立場は賃金への見方でも明らかで、インフレが問題化するまで賃金の伸びしろは大きいと発言していた。

イエレン議長は、質疑応答で金融市場の不安定要因として全般的には株式および債券市場のバリューエションはほぼ適切と述べつつ、小型株をはじめバイオテクノロジーやソーシャルネットワーク銘柄は「長期的な平均水準を上回る」と発言した。また従来通り、レバレッジド・ローン市場での貸出基準の緩和にも言及。金融市場への対応には、マクロプルーデンス政策を重視する姿勢をみせた。

BNPパリバのローラ・ロスナー米エコノミスト

イエレンFRB議長は、あらためてハトは寄りのスタンスを打ち出した。第1弾の利上げ時期は6月17-18日開催分のFOMCで公表された経済・金利見通しに基づき、引き続き2015年半ばである可能性を示唆。Fedの政策は経済指標次第でありことも確認している。労働市場の改善ペースが予想より加速すれば「FF金利の引き上げは現状の見通しより早く、かつ迅速に行うだろう」との発言していた。これは、失業率が6月に6.1%と6月時点のFOMCメンバーの予想「6.0-6.1%」の上限に到達したことへの対応ではないか。裏を返せば、経済指標次第という方針を強調したと解釈できる。

バークレイズのディーン・マキ主席エコノミスト

イエレンFRB議長は、Fedの統治目標達成に向け引き続き緩和政策が必要とする6月FOMC終了後の記者会見と同様のメッセージを送った。ただしイエレン議長は今回、労働市場が足元のペースで改善し続ければ現時点の見通しより前倒しで第1弾の利上げに踏み切る可能性にも言及した。今回の議会証言を受け「2015年6月」の第1弾利上げ予想を変更しいないものの、早期利上げのリスクの可能性を指摘した当方の見方と整合的といえる。

——以上、エコノミスト見解はおおよそ「ハト派寄り」で変わらずでした。ただし6月FOMC議事録を踏まえると、出口政策の手順を表明する日もそう遠くないように見えます。イエレンFRB議長は、ハトの羽の間に隠したタカの爪をそろそろと研ぎ始めたのではないでしょうか。

もちろん、イエレンFRB議長は「誤った夜明け」を踏まえ慎重スタンスを貫くでしょう。過去にFedは2回、出口戦略で失敗しております。バーナンキFRB議長(当時)が2009年7月、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙に出口政策に関する論説を発表。10年6月のQE1を終了させるも、10年11月にQE2を始動する羽目になりました。2011年には「中期的な金融政策」で出口政策を協議し4月議事録にて指針を表明し、その年の6月にQE2を終了させます。ところが債務上限協議こう着による格下げを経て、11年9月にオペレーション・ツイストを断行。12月9月には、QE3開始と相成りました。難しい舵取りを余儀なくされるイエレンさん、料理上手の腕でバランス良く出口入りへ導いていけるのか。さじ加減に注目です。イエレン議長と株式市場との蜜月関係も、そろそろ終焉を迎えつつあるのかもしれませんね。

(カバー写真 : WSJ)

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