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オバマ米大統領が推進する移民法改革、経済的インパクトは?

by • November 20, 2014 • Finance, Latest NewsComments Off10133

Obama’s Immigration Plan : How Will It Affect The Economy?

オバマ米大統領は20日、ゴールデンタイムに合わせホワイトハウスにて移民制度改革を目指す米大統領への支持を求め力説しました。事前に配布された内容によると、「移民制度は崩壊している」と発言。400万—500万人とされる不法移民を法的枠組みに取り込み、米国市民と平等に納税義務を課す方針を打ち出しました。国境警備の強化や身元調査の徹底化を通じ、不法移民の増加を抑止できるとも説きます。

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(出所:My Big Apple/Migration Policy Institute)

共和党は真っ向から反対しており、メキシコと国境を接するテキサス州のリック・ペリー知事(2012年の共和党米大統領候補、2016年も出馬予定)は、米大統領令で強制執行した場合に「オバマ大統領を訴える」と息巻いております。弾劾選挙を乗り越えたティーパーティー寄りのウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事、ルイジアナ州のボビー・ジンダル知事も、共和党に提訴を呼びかけていました。ジョン・ベイナー米下院議長(オクラホマ州)をはじめ共和党代表部も、オバマ大統領への提訴決議に盛り込む方針を検討中といいます。

移民制度改革の対象となる不法移民は、以下の通り。
1)米国に5年以上、滞在する者
2)アメリカ市民権を有する、あるいは合法的な居住権を有する子供をもつ親
3)以上に該当し、身元調査を通過した犯罪履歴のない者

アメリカ人の間で、評判は芳しくありません。NBC/WSJ調査で、支持率はたったの38%でした。リベラル寄りのワシントン・ポスト/ABC調査でも「米議会が改革を実行しない場合、米大統領を発令すべきか」との質問に、有権者の49%が「イエス」と回答する程度。 共和党ががっぷり噛み付くはずです。

マーケットの観点でいうと、経済的なインパクトが気になりますよね。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、ミシガン大学ののシェリー・コサージ社会学准教授の見解を紹介しています。1986年にレーガン大統領(当時)が署名した移民法を元に、同准教授いわく「不法移民が合法的な立場を獲得すれば、賃金の良い職に移る傾向が高い」。当時、不法移民の賃金は合法的労働者となってから「平均6%」上昇したといいます。なお、1986年移民法改正で法的措置の恩恵を受けた不法移民は約270万人と、今回の改革案を大きく下回っていました。

WSJ紙では、ワシントンにあるシンクタンク移民政策政策インスティチュート(MPI)による興味深い調査結果も引用しています。約820万人とされる16歳以上の不法移民を職業別シェアは、以下の通り。

・建設業 16%
・製造業 12%
・飲食業 9%

仮にコサージ准教授の例に当てはめた場合、例えば印象業ではレストランの配膳係がウェイターの立場へ移り、時給が上昇する公算となるわけですね。とはいえ、飲食業も就労者の増加とともに競争率も激しさを増し、上方スライドが容易にいくとは考えられません。製造業の職はこちらで指摘させて頂いたよう減少傾向をたどる上、自動化の波も重なり、労働者は減少気味。最後の砦となる建設業でいかに踏ん張れるかがカギとなりますが、景気敏感セクターとあって簡単にレイオフされるリスクを残します。

不法移民に法的地位を与えられたとして、1986年当時のように「賃金上昇→消費を押し上げ」という構図が機能するかは、微妙な情勢と言えるでしょう。

では、気になる雇用統計への影響はどうか。JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは「経済指標へのインパクトは極めて限定的」と一刀両断しております。理由は、以下の通り。

・失業率などを調査する家庭調査で戸別訪問式とはいえ、不法労働者か否か質問する項目がなく不法移民が既に組み込まれている可能性が高い
・不法移民が法的地位を獲得することで、戸別訪問での回答率を上昇させる程度
・非農業部門就労者数(NFP)は事業所の給与台帳にある従業員数を元にした調査、個人の回答(不法労働者か否か)を反映しない
・NFPの調査元となる事業所の給与台帳は、州政府が支給する失業保険の基準(仮に不法労働者が失職した場合、失業保険手続きを開始すれば発覚する可能性をはらむ)
・不法移民を雇用した場合、雇用者への罰則が厳しい(1回目は1人当たり250—2000ドルの罰金、2回目は1人当たり2000—5000ドル、3回目以降は1人当たり3000—1万ドルに引き上げられ、雇用者は6ヵ月の懲役あるいは追加的な罰金支払いケースも生じる)

というわけで米雇用統計、特に戸別訪問式で調査する失業率や労働参加率などには不法労働者が反映されていると考えられます。不法労働者の受け入れによって、数字が大きく好転あるいは悪化する可能性は非常に低いでしょう。

余談ですが、オバマ米大統領がせっかくゴールデン・タイムに合わせて行った演説、大手ネットワーク局は放映しませんでした。共和党寄りのフォックスだけではなくABC、CBS、NBCも見送ったんです。

フォックスは午後8時からドラマ「BONES」、CBSはドラマ「ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則(The Big Ban Theory)」、NBCはダイエットにいそしむリアリティ・ショー「ザ・ビゲスト・ルーザー(The Biggest Loser)」を予定通り放映しました。ABCは「グレイズ・アナトミー:恋の解剖学」の第11シーズン最終回でしたから、リベラル寄りでも邪魔されたくなかったのでしょうね。

(カバー写真:Carolyn Kaster/AP)

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