Obama Pushes Middle Class Economics During The State Of The Union.
オバマ米大統領が20日、7回目の一般教書演説を行いました。ウォールストリート/NBCによる世論調査での支持率が46%と2014年中間選挙時点から4ポイント回復し、ワシントン・ポスト/ABCでの世論調査では50%に達していたため、気持ちに余裕が出ていたことでしょう。
「今夜、新しいページを開く(we turn the page)」で始まった演説、先に報じられていたように骨子は1)中間層の支援、2)富裕層の増税、3)経済回復の強調——。中間層の支援と富裕層の増税は結びついていますから、一般教書での演出も見事です。
五大湖にほど近いミネソタ州ミネアポリスに住むレベッカ・アーラー氏の体験と米国の景気後退からの回復をなぞらえ、共感を引き出すよう練り込まれていました。
一般教書演説では、ミシェル夫人とジル・バイデン米副大統領夫人の間と特等席。
7年前の2008年、新婚のレベッカはウェイトレスで夫のベンは建設労働者でした。ちょうど1人目を妊娠した折に金融危機の混沌に巻き込まれ、仕事を失った夫と離ればなれになり、どん底を味わったレベッカ。降り掛かる困難にもめげず犠牲を払いながらコミュニティ・カレッジに通った彼女は、キャリアを身につけ夫と一緒に暮らす生活を取り戻し、いまでは2人目の子供に恵まれています。レベッカは米大統領への手紙でこう記しました、「私たちはそれはそれは辛い苦労をくぐり抜けた、固い絆で結ばれた家族だ(tight-knit family)」と。
オバマ米大統領は演説の最後で、再びレベッカの話を引用します。「アメリカ人たる同胞の皆さん、我々は強く固い絆で結ばれた家族だ」と。その上で21世紀の15年目にあたる今年こそ、「新たな章を始めよう」と結んでいます。
あらゆる層に”公正なる機会(fair shot)”を与えるべきと繰り返し、中間層の支援に求めた米大統領。具体的な支援策としては、
1)キャピタル・ゲイン税の上限を現行の25%から28%へ引き上げ
2)富裕層に税制優遇措置を含むIRA(個人退職口座)の利用を制限
3)子供向け税額控除、最大3000ドル
4)低所得者の学生向け税控除
5)米大手銀の約100行を対象にバランスシート健全化を狙い、負債に課税
などが事前報道に挙げられます。演説でも、随所に散りばめられていました。余談ですが、「1%の富裕層が世界の資産半分以上を独占する」とのオックスファムの調査結果が最近、話題になりましたよね?富の分配を求めるオバマ米大統領に、このニュースは思わぬ援軍となっただけではありません。カナダ人の著名投資家で経済金融専門チャンネルCNBCの番組にレギュラー出演するケビン・オラーリー氏まで、後押ししてました。格差社会を如実に物語る調査結果に対し、この方インタビューで「モチベーションを与えるんだから、素晴らしいニュースだ!」と称賛を送っていたんですよ。富裕層に属する投資家の発言は、ソーシャルメディアを中心に大いに批判を浴びたものです。
共和党が米上下院で多数派を握るなか、拒否権(veto)へ言及は2回。1回目は 1)政府機関の閉鎖と財政交渉決裂、2)医療保険制度改革の撤廃、3)ウォール・ストリートへの規制強化、4)移民制度改革——に立ち向かうと力説しています。2回目は、キャメロン英首相との記者会見で明言したように、イランへの追加制裁をめぐり言及していました。
海外諸国・地域については、「先進国のなかで2010年以降、米国こそ最も雇用を創出してきた」との文脈で日本が1回だけ登場。欧州は日本と併記されたほか、貿易促進の関連性でアジアと並べられ2回です。イランは核問題の段落で4回と、最も多かった。注目の中国は、前回と同じく3回です。1回目は、貿易促進権限(EPA)を与えるよう訴えた箇所で「世界で最も成長拡大が著しいする地域として、ルールを書き加えようとしている」と批判の矛先を向けました。2回目には、中国から製造業の職を奪い返すと発言。最後は排出権のくだりとなっています。
パキスタンとパリは、学校襲撃事件とシャルリー・エブド襲撃事件でつながるようにテロとの断固たる闘いの段落でそれぞれ1回登場しました。”表現の自由”にひと言も触れず、単にテロリストの打破を目指すトーンに終始しています。シャルリー・エブド事件後にパリ大行進に参加しなかったオバマ米大統領なだけに、あえて言及しなかったのでしょう。
個人的に驚いたのは、1年にわたる火星探索ミッションのため宇宙船「オリオン」に乗り込むスコット・ケリー船長へのはなむけの言葉。オバマさん、「インスタグラムに投稿するのを忘れないで」と声をかけていたんですよね。ツイッターでなくインスタということで、フェイスブック株の後押しとなりうるでしょうか?
レームダック著しいと言われて久しいオバマ米大統領、それでも余裕を忘れないのはさすが。もう障害に選挙に出馬することはないと言及してから、「もう2回勝っちゃったからね」とアドリブを入れてました。逆風をジョークで跳ね返すパワーは、個人的に見習いたい。
一般教書演説明け、米株市場は過去にどんな反応を示してきたのでしょうか?オバマ政権だけでみると、ダウ平均は2勝4敗で今のところ2連敗中。オバマ米大統領1期目の2009−10年はリーマン・ショック後の混乱や欧州ソブリン危機が吹き荒れていましたから、2敗しているのは仕方ありませんよね。S&P500だと、3勝3敗でした。こうしてみると、ブルーチップに不利なもようです。
【追記】
反対演説は、ジョニ・アーンスト米上院議員。アイオワ州といういわゆるスイング・ステート出身の議員を選んだ一方、アーンスト議員は新人です。共和党のホープと目され2012年大統領選挙では副大統領候補にも挙がった2013年のマルコ・ルビオ米上院議員(フロリダ州)、議員総会議長に選出された経歴をもつ2014年のキャシー・マクモリス米下院議員(ワシントン州)と比較すると、小粒感は否めない。でも、それくらいがちょうど良かったのです。
陸軍出身のアーンスト議員は中間層支援策をめぐり拒否する構えを示したものの、税制改革をはじめ米大手企業が犠牲となっているサイバー・セキュリティ、貿易促進などで妥協できるとの楽観姿勢を打ち出しました。米上下院の多数派たる共和党陣営は、2016年の米大統領選をにらみ対立姿勢をトーンダウンさせたかったのでしょう。国民のために法案を成立させるイメージを植え付けたい意図もあり、なかなかの人選だったと言えます。
(文中、カバー写真:NBC)
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