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IMF、世界経済見通しを上方修正も米国は据え置き

by • April 21, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off2888

IMF Hikes 2017 Global Growth, But Leaves U.S. Growth Forecast.

国際通貨基金(IMF)は日、最新版の世界経済見通し(WEO)の最新版を公表しました。タイトルに「モメンタムは増してきたのか?(Gaining Momentum?)」を掲げた今回、2017年の世界成長見通しを従来の3.4%増から3.5%増へ上方修正した一方、2018年は3.6%増で維持。先進国全体を上方修正しつつ、エマージング国全体は2017~18年ともに据え置きました。

IMFは、2017年の世界経済見通しを引き上げたものの「複数の潜在的な要因から下方リスクがある」と指摘。以下を挙げています。トランプ政権の通商政策を念頭に置いた姿勢は変わらず、前回に続き保護主義へのシフトに警鐘を鳴らしました。また中国での債務急拡大を前回に続き問題視し、金融引き締め策がもたらす悪影響に懸念を示しています。

1)保護主義を含めた内向きな政策による貿易、国境間投資の減少
2)米国が予想以上に利上げを行い、世界の金融市場で引き締め効果をもたらすと共にドル高が加速し、負の効果が全世界に波及
3)積極的な金融規制緩和が過剰なリスクテークがもたらし、将来の金融危機につながる可能性
4)中国や他エマージング市場国など、信用の伸び加速とバランスシート拡大を抑制する目的で金融引き締めに踏み切った場合の金融システムへの影響
5)過剰生産能力が高い先進国における弱い需要、低インフレ、弱いバランスシート、低迷する労働生産性といった負のループの増幅

IMFは今回、米国については据え置きました。2017年は2.3%増、2018年は2.5%増と予想しています。米国第一主義を掲げるトランプ政権が誕生しインフラ投資、税制改革、規制緩和を推進する見通しながら、「不確実性がある」と指摘。財政刺激が供給サイドの能力拡大につながらずインフレが予想以上に加速するならば、利上げペースを引き上げる必要があり、世界の金融市場に引き締め効果を与えると分析していました。金融規制を変更する場合は金融安定リスクを高めることを回避すべきとも主張し、規制緩和を目指すトランプ政権を牽制することも忘れません。19日に公表した“世界金融安定報告”でも、法人税減税によるリスクテーク増大が将来の金融危機をもたらす可能性を明確に指摘していました。

ラガルドIMF専務理事、20日のIMF会合に際し会見で「トランプ政権と協力していく」と発言。バロンズ誌はトーンが和らいだと報道しましたが、自由貿易こそ成長促進役との考えにも言及。。

IMF MD Lagarde at Wilson Center
(出所:IMF

BREXITの激震が走った英国は、2017年(前回1.5%増→2.0%増)と2018年(前回1.4%増→1.5%増)ともに引き上げました。国民投票でEU離脱が決定した後、イングランド銀行が利下げに踏み切るなど中銀が「適切な行動」を採ったため、負の影響が限定的になったと説明。金融市場の反応も悲観シナリオに傾かなかったと位置づけています。

仏大統領選挙を控え、フランスは2017年(前回1.3%増→1.4%増)のみ上方修正しています。2018年は1.6%増で据え置き。5月7日の決選投票ではEU支持派であるマクロン候補の勝利を描き、極右のルペン候補や極左のメランション候補の一騎打ちになると予想していないのでしょう。

中国は景気回復を背景に、2017年(前回6.5%増→6.6%増)と2018年(前回6.0%増→6.2%増)から上方修正されました。信用急拡大を受けた金融引き締め策の反動を懸念する一方、トランプ米大統領が米国第一主義に則り通商政策で中国に大幅譲歩を迫る想定していないと解釈できますね。

日本も、2017年(前回0.8%増→1.2%増)と2018年(前回0.5%増→0.6%増)そろって上方修正されました。円安効果に伴い「純輸出が押し上げ、経済活動は予想外に上向いた」と説明。2017年こそポジティブ・サプライズが期待されるものの、人口減少に伴う労働力不足が日本経済の重石になるとの考えを寄せました。

世界貿易動向では、2017年につき3.8%増で据え置きました。2018年は逆に前回の4.1%増から3.9%増へ下方修正。2016年の1.9%増をそれぞれ上回ったものの、2018年分は少なくとも2回連続で引き下げられました。

WEOのまとめ役であるモーリス・オブストフェル主席エコノミストは、結果を受けて「(成長)加速は先進国やエマージング国など広範囲にわたり、製造業や貿易でも強まりを示す」と評価しました。しかしモメンタムが増すなかでも「困難から脱したかどうかは定かではない」と発言。トランプ政権をはじめ内向き主義的政策の広がりに懸念を寄せ、「潜在的に保護主義的な手段から生じる打撃を回避するには、多国間で貿易を支える確約を新たにすることが必要になってくる」と主張しています。

以下は、各国・地域の成長見通しで()内の数字は前回7月分あるいはその後の改定値となります。

2017年成長率

世界経済→3.5%(3.6%)
a先進国→2.0%(1.9%)
aa米国→2.3%(2.3%)
aaユーロ圏→1.7%(1.6%)
aa独→1.6%(1.5%)
aa仏→1.4%(1.3%)
aa伊→0.8%(0.7%)
aa西→2.6%(2.3%)
aa日本→1.2%(0.8%)
aa英国→2.0%(1.5%)
aaカナダ→1.9%(1.9%)

a新興国→4.5%(4.5%)
aa中国→6.6%(6.5%)
aaインド→7.2%(7.2%)
aASEAN5ヵ国→5.0%(4.9%)

aaブラジル→0.2%(0.2%)
aaメキシコ→1.7%(1.7%)
aaロシア→1.4%(1.3%)

2018年成長率

世界経済→3.6%(3.6%)
a 先進国→2.0%(2.0%)
aa米国→2.5%(2.5%)
aaユーロ圏→1.6%(1.6%)
aa独→1.5%(1.5%)
aa 仏→1.6%(1.6%)
aa伊→0.8%(0.8%)
aa西→2.1%(2.1%)
aa日本→0.6%(0.5%)
aa英国→1.5%(1.4%)
aaカナダ→2.0%(2.0%)

a新興国→4.8%(4.8%)
aa中国→6.2%(6.0%)
aaインド→7.7%(7.7%)
aaASEAN5ヵ国→5.2%(5.2%)

aaブラジル→1.7%(1.5%)
aaメキシコ→2.0%(2.0%)
aaロシア→1.4%(1.2%)

2016年成長率

世界経済→3.1%(3.1%)
a先進国→1.7%(1.6%)
aa米国→1.6%(1.6%)
aユーロ圏→1.7%(1.7%)
aa独→1.8%(1.7%)
aa仏→1.3%(1.3%)
aa伊→0.9%(0.8%)
aa西→3.2%(3.2%)

aa
日本→1.0%(0.9%)
aa英国→1.8%(2.0%)
aaカナダ→1.4%(1.3%)

新興国→4.1%(4.1%)
aa中国→6.7%(6.7%)
aaインド→6.8%(6.6%)
aaASEAN5ヵ国→4.9%(4.8%)

aaブラジル→マイナス3.6%(マイナス3.5%)
aaメキシコ→2.3%(2.2%)
aaロシア→マイナス0.2%(マイナス0.6%)

(カバー写真:My Big Apple NY)

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