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ドラギ総裁が資産買入縮小の時期を後ろ倒し示唆、FOMCへ配慮も?

by • July 21, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off2522

Draghi Calms Tapering Concerns, Fed Could Be In His Mind.

欧州中央銀行(ECB)は20日、フランクフルトで定例理事会を開催した。政策金利にあたるリファイナンス金利は、市場予想通り0%で維持。上限金利の限界貸出金利も0.25%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.4%で据え置いた。金利据え置きは6回連続で、現状の低金利を長きにわたって継続する意思を示す。また、2016年12月に決定した資産買い入れプログラム(APP)の変更を堅持した。

ドラギ総裁、記者会見のポイントは以下の通り。

(政策変更について)
資産買入プログラムの変更にはまだ至っていない
全会一致でフォワードガイダンスを変更しない将来的な偏向を協議する特定の日程を設定しないと決定した
・単に、協議は秋に行われると申し上げる
秋に議論を実施し、その頃までに入手可能な様々な情報を得る必要があり、具体的な予定を示したくなかった
・9月にどのような行動を取るか、議論していない

(緩和策について)
・金利は資産買入の時期をさらに超える長きにわたり、現状の水準で据え置かれると予想
・資産買入プログラムは2017年12月まで600億ドルで続け、インフレが持続的に調整するまで、必要ならばそれ以上にわたって継続
・インフレ圧力が高まり物価動向を支援するまで、非常に大規模な緩和策が依然として必要
・必要であれば、資産買入プログラムを規模と期間において拡大する用意がある
→前回と全て変わらず

・我々は不屈であり忍耐強く、かつ確信を持つことが必要だ
→前回:我々は忍耐強く、かつ確信を持つことが必要だ
・ECBは市場に長く存在し続ける
(統治目標について)
・インフレ目標の変更は、信頼性を伴わない
・全ての主要中央銀行のインフレ目標は2%で、特にユーロ圏にとっては有効であるためだ
我々の統治目標は、雇用でも成長でもなく物価の安定だ

ツイッターでの動画で、ドラギ総裁の会見での注目点をフィーチャー。

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(出所:ECB)

(経済見通しについて)
・経済指標は、ユーロ圏経済が強まり続けていることを確認
→前回:経済指標を受け、ユーロ圏経済の力強いモメンタムを確認
・ユーロ圏経済見通しのリスクは概して均衡
→前回:変わらず
・ユーロ圏のインフレはエネルギー価格の弱さに押し下げられている
・インフレは抑制的なままだ
→前回:ユーロ圏経済の拡大はインフレの力強さに反映されておらず、インフレ動向は引き続き抑制的
・インフレ圧力を高めるため、大いなる緩和が依然として必要
物価がトレンドを下回った後で回復した時に、リフレを確認する
・賃金と経済動向は金融危機後に変化したが、いずれ標準に戻ると予想

――ブルータスよ、お前もか、と言いたくなったのは私だけではないでしょう。6月27日にポルトガルのシントラで上げた量的緩和縮小の狼煙を、見事に空の彼方へ消し去ってしまいましたからね。念頭にインフレ伸び悩みや長期金利の上昇のほか、ユーロ高の文字が浮かんでいたに違いありません。6月27日に資産価格の上昇を牽制したイエレンFRB議長が、7月12日の議会証言で一切言及しなかったことを彷彿とさせます。

市場に緩和的圧力を掛けたかった意図が見え隠れする理由は、9月19~20日開催の米連邦市場委員会(FOMC)ではないでしょうか。Fedがバランスシートの圧縮を決定してくれれば、米国にとって政策のツールが増えます。すなわち、①景気が加速した場合は利上げとの合わせ技で活用でき、世界経済の安定につながる、②景気が逆に悪化した場合は、Fedが利上げだけでなくバランスシートの縮小も停止できる、③景気が現状のような生温かい状況であれば、利上げを先送りしつつ着実にバランスシートを縮小する――といった選択肢が可能になりますよね。

もう一つのポイントは、資産買入の縮小が予想されている2018年半ばにおいて誰がFRB議長なのか不明であるということ。トランプ米大統領がFRB議長を指名するだけに、イエレン議長が在任中にバランスシート縮小の既成事実を作っておかなければ、上記3つの選択肢の確保が困難となり得ます。そう考えれば、前回のECBで利下げバイアスを排除するなど政策正常化に向けた地ならしを行いながら、資産買入縮小をはじめとした政策変更を10月26日開催の定例理事会に持ち越すのも、自然な成り行きですよね。だってECBの次回会合は9月7日と9月FOMCの前にあたりますから。資産買入縮小に積極的なドイツやオランダが文句を言わずに全会一致でフォワードガイダンスを維持したのも、こういったシナリオなら合点がいきます。奇しくも、FRB議長候補として取り沙汰されるジョン・テイラー元米財務次官、グレン・ハバード元CEA委員長、ケビン・ウォーシュ元FRB理事が3%成長は可能と連名のレポートで主張しただけに、どのような政策運営になるのか皆目見当尽きませんし。

3人のなかなら、妻が化粧品大手エスティ・ローダー一族の孫で父親がトランプ米大統領と親友というつながりから、ウォーシュ元FRB理事(一番左、その右は妻のジェーン・ローダー)が頭一つ抜き出ている?
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(出所:Pinterest

ジャクソン・ホール会合に出席予定が早々決まったドラギECB総裁は、講演でハト派寄りの見解を繰り返しFOMCの背中を押すのでしょう。問題は、市場が緩和的であり続け、FOMCにバランスシート縮小を決定させられるかどうかです。

(カバー写真:European Central Bank/Flickr)

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