Mystery Of Slow Wage Growth Continues With Big Jobs Number.
米7月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比20.9万人増と、市場予想の18.0万人増を上回った。前月の23.1万人増(22.2万人増から上方修正)に届かなかったとはいえ、年初来で5 回目の20万人乗せとなる。米7月ADP全国雇用者数に反し力強さをみせ、人材派遣会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社が発表した7月の採用予定数と整合的な結果と言えよう。過去2ヵ月分は6月分こそ上方修正されたが、5月分が15.2万人増から14.5万人増へ引き下げられたため、0.2万人の上方修正となる。5~7月期平均は19.5万人増で、2016年の平均18.7万人増を再び上回った。年初来では18.4万人増で、2016年のペースへ回復しつつある。
NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比20.5万人増と、市場予想の18.0万人増を上回った。前月の19.4万人増(18.7万人増から下方修正)よりも強い。民間サービス業は18.3万人増と、前月の14.6万人増(16.2万人増から上方修正)より伸びを広げた。セクター別動向では、トップに娯楽/宿泊が入り、前月の2位からランクアップした。2位は5~6月に首位だった教育/健康が入り、3位は前月に続き専門サービスとなる。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
・娯楽/宿泊 6.2万人増>前月は4.0万人増、6ヵ月平均は4.0万人増
(そのうち食品サービスは5.3万人増、過去12ヵ月平均は2.6万人増)
・教育/健康 5.4万人増>前月は4.3万人増、6ヵ月平均は4.4万人増
(そのうち、ヘルスケア/社会福祉は4.5万人増<前月は5.5万人増、6ヵ月平均は3.9万人増)
・専門サービス 4.9万人増>前月は3.2万人増、6ヵ月平均は4.5万人増
(そのうち、派遣は1.5万人増>前月0.3万人増、6ヵ月平均は1.0万人増)
・金融 0.6万人増<前月は1.3万人増、6ヵ月平均は0.9万人増
・卸売 0.6万人増<前月は1.0万人増、6ヵ月平均は0.5万人増
・情報 0.4万人減>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.4万人減
・政府 0.4万人増<前月は3.7万人増、6ヵ月平均は0.8万人増
・その他サービス 0.1万人増<前月は1.3万人増、6ヵ月平均は0.8万人増
・小売 0.1万人増<前月は0.2万人増、6ヵ月平均は1.3万人減
・輸送/倉庫 0.1万人増<前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.7万人増
・公益 0.1万人減<前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.1万人減
財生産業は前月比2.2万人増と、4ヵ月ぶりの高水準だった前月の3.2万人増(修正値)を下回った。ただし、11ヵ月連続の増加を示す。製造業が2ヵ月連続で増加し、2月以来の高水準。建設は11ヵ月連続で増加した。原油価格が上げ渋り過剰在庫が意識されるなか、鉱業は増加トレンドを8ヵ月で止めた。
(財生産業の内訳)
・建設 0.6万人増<前月は1.5万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・製造業 1.6万人増>前月は1.2万人減、6ヵ月平均は1.2万人増
・鉱業/伐採 ±0万人(石油・ガス採掘は0.1万人の増加)>前月は0.5万人増、6ヵ月平均は0.7万人増
NFP、年初来で5回目の20万人乗せ。
(作成:My Big Apple NY)
平均時給は前月比0.3%上昇の26.36ドル(約2,900円)と、5~6月の0.2%を経て市場予想に並んだ。前年比は4~6月と同じく2.5%の上昇、市場予想とも一致した。2009年4月以来の力強さを遂げた2016年12月の2.9%を下回るトレンドを保つ。
週当たりの平均労働時間は34.5時間と、市場予想と前月の34.5時間に並んだ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.5時間と、6月まで3ヵ月続いた40.4時間から延びた。とはいえ、約7年ぶりの高水準を遂げた2014年11月の41.1時間に距離を残す。
失業率は4.3%と市場予想と一致し、前月の4.4%を下回った。景気後退以前どころか5月に続き2001年5月以来の水準まで改善が進んでいる。ただし失業率は四捨五入前では前月の4.3566・・%から4.3496・・%へ若干低下した程度で、実際にはさほど変わっていない。6月に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2017年見通しに並ぶ。マーケットが注目する労働参加率は62.9%と、前月の62.8%を超えた。原油安が開始する前である2014年3月以来の水準へ回復した2~3月の63.0%に接近している。なお労働参加率のボトムは2015年9〜10月の62.4%で、1977年9月以来の低水準だった。
失業者数は前月比0.4万人増と、2ヵ月連続で増加したが僅かにとどまった。雇用者数は34.5万人増と、2ヵ月連続で2桁増を達成し、労働参加率の上昇でも失業率の低下を促した。就業率は60.2%と前月の60.1%を上り、4月に続き2009年2月以来の高水準を果たした。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比で若干減少の1億2,592万人と増加トレンドを8ヵ月で止めた。パートタイムは1.4%増の2,754万人と、大幅増加に反転。増減数ではフルタイムが5.4万人減、パートタイムは39.3万人増とパートタイムの増加が際立つ。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が増加した上に週当たり平均労働時間も小幅ながら上昇したため、6月に続き前月比0.4%上昇し11ヵ月連続で伸びた。平均時給は前月比で伸びが小幅ながら強まったため、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.8%と前月の0.6%を超える伸びを示した。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全失業率は8.6%と6月と変わらず、2007年11月以来の最低を更新した前月の8.4%から上昇したままだ。不完全失業者は528.2万人と、前月の532.6万人から減少。ムニューシン米財務長官候補が指名公聴会後に書簡で重視すると明らかにしたU-5すなわち縁辺労働者を含む失業率は5.3%と6月と同水準で、直近で最低だった5月の5.2%を上回ったあまだ。
2)長期失業者 採点-×
失業期間の中央値は10.4週と、2008年11月以来の10週割れを達成した前月の9.6週から延びた。平均失業期間は24.9週と5~6月と24.7週から長期化し、2009年6月以来で最短だった4月の24.1週から延びたままだ。結果、27週以上にわたる失業者の割合は25.9%と、前月の24.3%を上回り2009年1月以来の水準に並んだ4月の22.6%が遠のいた。
3)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%上昇し6月の0.2%を上回った一方、前年比は4ヵ月連続で2.5%の上昇にとどまった。2009年4月以来の高水準だった2016年12月の2.9%以下のトレンドを維持している。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.3%上昇の22.10ドルと伸び率はヘッドラインと一致。ただし、前年比は2.4%の上昇とヘッドラインを下回る。非管理職・生産労働者の賃金は、2016年10月からの流れを引き継ぎ管理職を合わせた全体に追いつかない状況だ。
平均時給、前年比では引き続き生産・非管理職の労働者が管理職を含めた全体に及ばず。
4)労働参加率 採点-○
労働参加率は62.9%と前月の62.8%から上昇、2~3月に示した原油安が開始する前の2014年3月以来の水準である63.0%に接近している。ただ、金融危機以前の水準である66%台は未だ遠い。 軍人を除く労働人口は0.2%増の1億6,049万人と、増加に反転。労働参加率が改善したように、非労働人口は0.2%減の9,466万人と2ヵ月連続で減少した。
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番のニック・ティミラオス記者の署名記事で「労働市場の力強さを支えに、Fedは既定路線を維持(Labor-Market Strength Should Keep Fed Plans on Track)」と題した記事を配信。25~54歳の就業率が2008年9月以来で最高を記録したこともあり、9月19~20日開催のFOMCで、予定通り資産圧縮を決定する見通しと伝えている。
——米7月雇用統計・NFPは年初来で5回目の20万人乗せを達成し、労働参加率が小幅に改善するなど、健全な労働市場を見せつけました。WSJ紙が伝えるように、9月のFOMCで資産圧縮を発表する公算が大きい。ただし、雇用の牽引役が娯楽/宿泊、しかも平均時給(非管理職、生産労働者)12.50ドルの食品サービスとあって、平均時給の前年比は4~6月に続き2.5%の上昇にとどまっています。失業率の低下も、四捨五入マジックで低下したに過ぎません。
質的な改善にも、歯止めが掛かっています。不完全失業率は8.6%で変わらず。7月は労働参加率が改善し失業率が低下したとはいえ、フルタイムの雇用が5.4万人減に対しパートタイムは39.3万人増と後者の伸びが著しい。しかも、長期失業者の割合が上昇したほか、失業期間の中央値も延びていました。労働参加率は確かに改善したとは言っても、まだトンネルを抜けたとはとても言えません。
年齢別の労働参加率、35~44歳で改善目立つも25~34歳、44~54歳は回復の鈍さを示す。
これでは、GDPの7割を占める個人消費が加速するとは考えられません。折しも、可処分所得における個人の債務返済額比率は金融危機後まもなくの水準まで上昇し、貯蓄率は2007年末近くの水準で低迷中。米7月雇用統計は一見したところ米経済に追い風と捉えられそうですが、質的にはいま少し力不足だったと言えるでしょう。
(カバー写真:Alex Proimos/Flickr)
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