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9月ベージュブックで自動車産業の減速に懸念浮上、中国の見方に変化

by • September 8, 2017 • Finance, Latest NewsComments Off2033

Beige Book Shares Concerns Over Auto Industry Slowdown.

米連邦準備制度理事会(FRB)が9月6日に公表したベージュブック(7月前半から8月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」となった。前回の「ごく小幅からゆるやか(from slight to moderate)」から上方修正されている。一方で、自動車産業に対し懸念する声を確認。また、中国をめぐる表記に変化が現れている。シカゴ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。なお、ハリケーン“ハービー”の影響は含まれていない。

<経済全般のセクション>

(今回)
・経済活動は、「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大した。

(前回)
・経済活動は、「ごく小幅からゆるやか(from slight to moderate)」に拡大した。

<個人消費>

(今回)
・個人消費は殆どの地区で「拡大し(increased)」、自動車以外の小売売上高と観光は「増加(gains)」したが、自動車の売上は「まちまち(mixed)」だった。

(前回)
・個人消費は、非自動車部門と観光に支えられ大半の地区連銀で拡大。ただし自動車をめぐっては、多くの地区連銀で「軟化し(soften)」、半数の地区連銀は「減少(decline)」を報告した。
・観光と旅行は全般的に経済活動と「同じペースを維持し続けた(continued to keep pace with the general economy)」。

<製造業、非製造業の活動>

(今回)
・製造業活動は、概して「緩慢ながら拡大した(expanded modestly)」。自動車生産は「まちまち(mixed)」で、多くの地区の企業からは長期にわたる同産業の鈍化を懸念する声が聞かれた。

(前回)
・製造業と非金融機関のサービス業は拡大し続け、ほとんどの地区連銀で伸びは「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」だった。

<住宅市場>

(今回)
・住宅並びに商業施設の建設活動は「わずかに拡大(increased slightly)」した。販売向けの住宅在庫が低水準にあるため、住宅販売活動を押し下げているが、商業不動産活動は「わずかに拡大(increased slightly)」した。

(前回)
・住宅投資と非住宅の建設活動は、ほとんどの地区連銀で「横ばいから拡大(flat to )」な伸びを示した。大部分の地区連銀は、住宅の低水準にある販売用物件の問題が住宅販売の重石になっていると指摘した。

<貸出需要>

(今回)
・企業と個人の融資需要は全般的に「緩慢なペースで拡大(grew at a modest pace)」し、多くの銀行は非銀行系との競争激化を報告した。

(前回)
・ローン需要は、ほとんどの地区連銀で「安定的(stable)」と報告されている。

<農業、エネルギー>

(今回)
・エネルギーと天然資源での活動はハリケーン“ハービー”で閉鎖される前までは全般的に「前向き(positive)」だった。農業活動は全体的に「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀から干ばつの報告が上がった。

(前回)
・農業の状況は全般的に「まちまち(mixed)」で、湿度の状況がばらばらとなり一部の地区連銀では価格下落に伴う乳製品や複数の穀物の弱まりを挙げた。エネルギー活動は、全般的に前回のベージュブックから「改善(improved)」し、特に原油と天然ガスで目立った。石炭の生産は「活気に乏しい(sluggish)」ものの、前年比を上回る価格を保った。

<雇用と賃金>

(今回)
・雇用の伸びは概して「幾分鈍化し(slowed some)」、「わずかから緩慢(from a slight to modest rate)」なペースとなっている。多くの産業で人手不足が報告され、特に製造業と建設業で顕著。アトランタ、セントルイス、ミネアポリスではビジネス機会を断念したとの報告が上がったが、必要な人材が確保できなかったためだ。多くの地区連銀は、あらゆるスキルで求人を埋められない状況と報告。労働市場が逼迫しているにも関わらず、地区連銀の殆どは賃上げ圧力が「限定的(limited)」と指摘している。ただし、ダラスやサンフランシスコは、人材不足により賃上げ圧力が発生していると報告した。

(前回)
・雇用は全米のほとんどの地域で「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースでの拡大を維持したが、アトランタとセントルイスは「横ばい(flat)」と報告した。高賃金並びに低賃金の職そろって労働市場は「一段と逼迫し(tightened further)」、特に建設とITで目立つ。特殊技能職での人材不足は、広範囲にわたって報告された。賃金は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペース」で伸び続け、多くの企業は労働市場の逼迫を理由に挙げている。賃金の伸びは高賃金並びに低賃金の職で確認された。数地域(a few)では、福利厚生と従業員を引き留めるためのボーナスの一部(variable pay)が上昇した。

<物価のセクション>

(今回)
・物価は「緩慢(modestly)」上昇した。原材料の仕入れ価格は、全般的に「上昇し(increased)」、特に運送料、木材、鉄鋼で目立つ。反対に、エネルギーと農業商品作物価格は「まちまち(mixed)」だった。多くの地区連銀は、下流への物価上昇の波及について「限定的(limited)」と報告、仕入れ科価格の上昇ペースは販売価格を上回るという。住宅価格は全般的に「上昇した(moved up)」が、多くの地域で住宅在庫の逼迫により価格が押し上げられた。

(前回)
・物価は「ゆるやかに(moderately)」上昇し続けたが、数地区連銀(a few)は上昇圧力が「非常に小幅ながら緩和した(eased slightly)」と報告した。一部(several)の地区連銀は建設財や航空輸送料の上昇を指摘した一方、ガソリン価格は下落した。小売価格は「安定的あるいはごくわずかに上昇(held steady or slightly increased)」し、製造業セクターは「着実から緩慢(steady to modestly)」に伸びたという。農業品の価格下落は農家で問題視されているが、食料品小売は商品先物価格の下落を手掛かりに利ザヤが「改善(improved)」した。住宅価格はほとんどの地域で「上昇(increase)」した。

経済活動に対する形容詞の登場回数、比較チャート。

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(作成:My Big Apple NY)

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

・「緩慢」を含む表現を示した地区連銀、9行>前回は7 行
ボストン(前回は“緩慢”→今回は“緩慢からゆるやか”へ上方修正)
フィラデルフィア(前回は“鈍化から緩慢”→今回は“緩慢”へ上方修正)
リッチモンド(前回は“緩慢も前回より加速”→今回は“緩慢”へ下方修正)
アトランタ(前回通り“緩慢”)
シカゴ(前回“ゆるやか”→今回“緩慢”へ下方修正)
セントルイス(前回は“わずかに改善”→今回は“緩慢”へ下方修正)
ミネアポリス(前回通り“緩慢”)
カンザスシティ(前回通り“緩慢”)
ダラス(前回の“ゆるやか”→今回は“緩慢”へ下方修正)、

・「ゆるやか」と表現した地区連銀、3行<前回は4行
NY連銀(前回は“回復から緩慢”→今回は“ゆるやか”へ上方修正)
クリーブランド(前回は“緩慢”→”ゆるやか“へ上方修正)
サンフランシスコ(前回通り”ゆるやか“)

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(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。5月、7月に続き3回連続で「不確実性」の文言はゼロだった。なお「不確実」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。

「増加した(increase)」→13回=前回は13回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→3 回=前回は3回
「ゆるやか(moderate)」→13回<前回は15回
「緩慢、控え目など(modest)」→26回>前回は21回
「弱い(weak)」→1回>前回は4回
「底堅い(solid)」→0回<前回は1回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不透明性(uncertain)」→0回=前回は0回

「不確実性」をめぐる文言はサマリーで確認しなかったものの、地区連銀の詳細報告で「不確実」の登場回数は5回だった。前回の7回からは減少し、以下の通りとなる。12地区連銀別では前回の3行から4行へ増加。今回は、前回の3行にセントルイスが加わった。

・ボストン 1回<前回は2回
→試験装置の製造業メーカーは、予算協議と政府機関の閉鎖めぐり“不確実性”を指摘。

・セントルイス 1回>前回はゼロ
→政治的な環境、並びに自動車産業の減速をめぐり“不確実性”を指摘。

・ダラス 2回>前回も2回
→政治に関わる“不確実性”を挙げ、製造業が特に懸念。

・サンフランシスコ 1回<前回は2回
→小売サービスから、連邦政策の見通しについて“不確実性”を指摘。

<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は、5月分、7月分に続き総括ではゼロ。地区連銀別では、5月分、7月分の1行(クリーブランド)からゼロへ転じた。

<中国>
中国というキーワードが登場した回数は3回で、7月分のゼロから増加した。地区連銀別ではボストン、クリーブランド、セントルイスの3行に。これまでのような中国メーカーからの圧迫を報告するようなネガティブな表現は少なく、むしろ需要や業績拡大などポジティブな表現が優勢となった。

中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、4月分まで6回連続でゼロとなった後、5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。なお2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。

・ボストン 1回
→電子機器関連の製造業者は、政治的圧力がメキシコや中国への海外移転を減退させ、向上の自動化に向けた支出が拡大したと報告。

・クリーブランド 1回
→製造業活動がわずかながら回復した背景として、建設素材の需要拡大、石油・ガス市場の上流部門での活動拡大、さらに中国向け輸出の増加を指摘。

・セントルイス 1回
→農家は、中国との通商合意(※貿易不均衡に向けた100日計画、牛肉の対中輸出拡大を含む)を背景に収入拡大を予想。

――今回のベージュブックでは、「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」となり「ごく小幅からゆるやか(from slight to moderate)」から上方修正されました。ただし、「緩慢」を含む表現した地区連銀は9行と前回の7行から増加しており、必ずしも経済活動が改善したと言い切れない部分があります。賃上げ圧力も「限定的」で、新車販売の鈍化という新たな懸念材料は景気には向かい風要因です。

また、“ハービー”を含まない内容でない点が要注意。米新規失業保険申請件数が9月2日週に29.8万人と2015年4月以来の高水準を示し、増加幅は2012年11月のハリケーン“サンディ”の直撃を受けて以来となりました。さらに“ハービー”から1週間後にハリケーン“イルマ”がフロリダ州を直撃する予報を受け、米9月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)の大幅減速を予想する弱気派も出てきております。もちろん、復興需要や反動増への期待も大きい。ベージュブックは、次回10月18日公表分でこうした実態が明るみになりそうです。

(カバー写真:Michael Dunn/Flickr)

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