Who Will Be The Next NY Federal Reserve President?
米連邦準備制度理事会(FRB)議長が指名されてから2営業日後にあたる11月6日、ダドリーNY地区連銀総裁が辞任を表明しました。ダドリー総裁(64歳)は55歳を超えてからの着任だったため定年は69歳あるいは就任してから10年後が該当し、かつ2016年2月に再指名された結果、任期は2019年1月までだったにも関わらず、退任を前倒ししてきた格好です。NY地区連銀総裁といえばFOMCでの副議長を務める重要なポストだけに、ダドリー総裁は早期の退任に対し「任期満了までに(NY地区連銀総裁の)後任を確保するため」と説明しています。
ダドリー総裁は同日行った講演後の質疑応答で、パウエル新FRB議長就任にあたりイエレンFRB議長体制から「円滑な移行(smooth transition)」になると発言しました。さらに「2007年よりもずっと良いタイミングでの移行となる」と述べ、金融危機前の状態より遥かに健全な経済環境にある利点を示唆したものです。FRB議長をはじめ、一人の存在が金融政策決定に大きな影響を及ぼすことはないとの考えをにじませたほか、現状で米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の見通しが一枚岩であるとの考えも明らかにしました。パウエル新FRB議長や10月13日に金融規制担当のFRB副議長に就任したクオールズ氏に対し、「大いに好ましい(big fan)」との称賛まで送ります。何だか、「口の上手い人(smooth talker)」に聞こえるのは筆者だけでしょうか。
ダドリー総裁の辞任発表を受け、NY地区連銀の取締役は後任探しに着手せねばなりません。既にクラスB、Cの取締役会が指名委員会を組織済みで、NY地区連銀の取締役のほかFRBの正副議長と理事の承認をもって新総裁が着任します。バークレイズのマイケル・ゲイピン主席エコノミストによれば、差し当たっての候補は以下の通り。
●サイモン・ポッター
→現在、NY地区連銀のエクゼクティブ・バイス・プレジデント兼オペを取り仕切る“市場グループ(markets group)”の責任者。ダドリー総裁も、就任前に同職を経験済み。ウィスコンシン大学マディソン校で経済学の博士号を取得。UCLAで教鞭を取った後、1998年6月にNY地区連銀に入行。NY大学やプリンストン大学で教壇に立ちつつ、2011年には米財務省の金融安定監督評議会(FSOC)のシニア政策アドバイザーに就任。ビジネス循環、景気後退の確率、インフレ見通しの構造変化などの研究で知られる。
●ローリー・ローガン
→1999年6月に金融アナリストとしてNY地区連銀に入行。2000年から市場グループに在籍し、金融危機で重要な役割を担う。現在は、市場グループのシニア・バイス・プレジデント兼市場操作監視分析(MOMA)の責任者。
●ブライアン・サック
→2009年にNY地区連銀に入行。同年6月にダドリー総裁就任に際しエクゼクティブ・バイス・プレジデント兼市場グループの責任者に着任。2012年7月頃には市場グループ責任者を外れ、NY地区連銀総裁のシニア・アドバイザーに就任。なお2012年4月に辞意表明後、撤回を経て2013年1月18日にNY地区連銀を退任。2013年3月から、ヘッジファンドD.E.ショーに入社。MITで経済学の博士号を取得。2004年にはマクロエコノミック・アドバイザーズ所属時代の2004年には、ベン・バーナンキFRB理事(当時)とビンセント・ラインハート金融政策局長(当時)と共に長期債の買入によるゼロ金利政策を論じた“Monetary Policy Alternatives at the Zero Bound : An Empirical Assessment”を共著。
重要なイエレンFRB議長が2018年2月3日の任期満了を以てFRB理事も辞任すれば、トランプ大統領が指名できるFRB理事は4人に増えます。その半面、イエレン氏が去ればFRB理事はブレイナード氏のみとなり、正副議長と合わせて3人となってしまいます。対して地区連銀総裁からのFOMC投票メンバーは、NY地区連銀第1副総裁を除き以下の4人です。
~2018年の地区連銀総裁、投票メンバー~
サンフランシスコ地区連銀 ウィリアムズ総裁(ややタカ派)
アトランタ地区連銀 ボスティック総裁(中立派)
クリーブランド地区連銀 メスター総裁(タカ派)
リッチモンド地区連銀 マリニクス第1副総裁(従来、同地区連銀総裁はタカ派)
(作成:My Big Apple NY、出所:FRBや各メディア)
仮にニクソン大統領時代のアーサー・バーンズFRB議長のように、FRB正副議長が政権に忖度する傾向があれば「低金利派」で米株高を評価するトランプ政権では、ハト派寄りへ軸足を移す可能性あり。そうなれば力学上、FOMC内で“地区連銀総裁の反乱”が起こり、FRB正副議長や理事の賛成票なしに利上げを強行突破しないとも限りません。もちろん、逆にFRB正副議長がタカ派寄りであれば年3回の利上げあるいはそれ以上の正常化が視野に入るでしょう。
さてFRB新議長に就任予定のジェローム・パウエル氏(64歳)と言えば、元財務官(ブッシュ父政権、国内市場担当)や2012年にFRB理事に就任する前に投資会社カーライル・グループのパートナーの経歴が有名です。2005年に非営利団体の超党派政策センターに注力する上でカーライルを退社した後、債務上限引き上げ交渉で共和党議員の説得に努めた影の尽力者でした。その時の功績が認められ、オバマ政権で1988年以来となる野党寄りFRB理事指名となったわけです。
イエズス会系の高校を卒業したキリスト教徒でもあり、バチカン市国の大使を務めたフランシス・ルーニー下院議員(共、フロリダ)は同窓生。卒業生にはニール・ゴーサッチ最高裁判事、フランク・ロビオンド下院議員(ニュージャージー)、クリス・ドッド元上院議員(民、コネチカット)が名前を連ねます。ギターを弾くロックな一面を持ち、自宅があるシェビー・チェイスからFRBまで11㎞を自転車通勤してきた健脚の持ち主でもあります。
中立派で知られ、ダラス連銀のリチャード・フィッシャー前総裁はパウエル氏を評するにあたり「我々皆、賢明なふくろうでありたいと語ったものだ」とはぐらかしたものです。ただしパウエル氏は夕食時でもワインを2杯以上飲もうとしなかったと明かし、「過度に穏健(moderate to a fault)」と振り返っていました。慎重な性格で知られるイエレンFRB議長に近い性格なのかもしれませんね。
パウエル氏の過去の発言を紐解くと、資産圧縮につき保有資産が「2.5兆ドル以下になることは想定し難い」と明言していました。ルールを基盤とした金融政策に反対を示さないながら、一致した政策ツールがないとコメントするにとどめています。低インフレ環境に「忍耐強くあるべき」との言葉はイエレンFRB議長を彷彿とさせ、ハト派寄りの政策運営を連想させますね。金融規制緩和は調整が必要との認識で、以前からお伝えするように金融規制担当のクオールズFRB副議長と二人三脚で対応していきそうです。ちなみに、ビットコインについては支持も不支持もしないと語り、ブロックチェーン技術の可能性は肯定的すらあります。しかし、技術的な課題や中央政府発行の仮想通貨を含め「慎重」な姿勢も打ち出していました。
パウエル氏が温和で知られるふくろうのような性格であれば、バーナンキ前FRB議長やイエレンFRB議長のようなコンセンサスを重視した政策運営への期待が募ります。そうはいっても、トランプ政権下のFRB体制がどれほど政権から独立性を保てるかは不確実といっても過言ではないでしょう。
(カバー写真:Ken Lund/Flickr)
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