Beige Book Reports Not Only Input Prices But Selling Prices Recently Increased.
米連邦準備制度理事会(FRB)が1月17日に公表したベージュブック(11月半ばから12月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは前回に続き「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」で据え置いた。また引き続き労働市場の逼迫を指摘したほか、物価については仕入れ価格だけでなく販売価格の上昇が指摘されるなど、前回より値上げへ向けた動きが確認され、2017年12月FOMC議事要旨よりも物価の芽が伸びた内容となっている。アトランタ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般のセクション>
(今回)
・12地区連銀からの報告によれば、経済活動は拡大し続け、11地区連銀は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースと伝えた。ダラスのみ、「力強い拡大(a robust increase)」を示したという。2018年の見通しは多くの地区連銀で「楽観的(optimistic)」であり続けた。
(前回)
・経済活動は、12地区連銀にわたって「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大し続けた。地区連銀の間では、見通しに「わずかながら改善(a slight improvement)」がみられた。
<個人消費>
(今回)
・多数の地区連銀は、前回から自動車を除く小売売上高の拡大を報告したが、自動車の売上は「まちまち(mixed)」だった。小売業者の一部は、ホリデー商戦が予想以上だったと報告した。
(前回)
・ホリデー商戦前、小売売上高と自動車の販売動向は「まちまち(mixed)」で、「概して横ばい(largely flat)」だった。しかしながら、見通しは概して「楽観的(optimistic)」である。NY地区連銀が「わずかな軟化(a slight softening)」を報告し、サンフランシスコ地区連銀がカリフォルニア州での山火事に伴う出荷量の「一時的減少(temporarily reduced)」を伝えたものの、多くの地区連銀は、輸送セクターでの「拡大を強調(highlighted growth)」していた。
<製造業、非製造業の活動>
(今回)
・多数の製造業者は、全体の業種にわたり「緩慢な伸び(modest growth)」を報告するにとどまった。一部の製造業者は、資本支出の拡大を伝えた。多くの地区連銀は、輸送活動が拡大し続けているとも指摘した。
(前回)
・全ての地区連銀は、製造業活動が拡大したと報告し、そのうちほとんどが「ゆるやかな(moderate)」伸びだった。
<住宅市場>
(今回)
・住宅不動産活動は全米で「抑制されたままだ(constrained)」。在庫不足を背景に、ほとんどの地区連銀で住宅販売は「ほとんど増加しなかった(little growth)」。非住宅不動産活動は、「わずかな伸びを示し続けた(slight growth)」。
(前回)
・住宅不動産の活動は「抑制されたまま(remained constrained)」で、ほとんどの地区連銀は販売あるいは建設で増加をさほど確認せず。対照的に、非住宅不動産の活動は前回のレポートに沿い、「わずかに拡大した(slight growth)」。
<貸出需要>
(今回)
・多くの地区連銀で、ローン額は「安定していた(steady)」。
(前回)
・ローンの需要は「安定的からゆるやかに強まった(steady to moderately stronger)」。
<農業、エネルギー>
(今回)
・地区連銀によれば、農業の状況は「まちまち(mixed)」で、エネルギー関連は「わずかな上向き(slight uptick)」を報告した。
(前回)
・サマリーでは表記なし。
<雇用と賃金>
(今回)
・雇用は概して、前回から「緩やかなペースで拡大し続けた(continued to grow a modest pace)」。多くの地区連銀は「労働市場の逼迫(labor market tightness)」を指摘、特殊技能職で条件を備えた労働者の確保が困難であり、一部からは労働市場の拡大にも関わらず「抑制されている(constrained growth)」との言及も聞かれた。一部の地区連銀は、製造業と建設の労働者の需要が「高まった状態にある(elevated)」と指摘している。大多数の地区連銀は、賃金の伸びが「緩慢なペース(a modest pace)」と報告。数(a few )地区連銀は、広範囲の産業や職種において前回から賃金が上昇したとも伝えた。複数の地区連銀は、今後数ヵ月において賃金が上昇すると見込む。
(前回)
・雇用の伸びは前回から「拡大し(increased)」、ほとんどの地区連銀は拡大ペースにつき「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」と報告した。労働市場の逼迫は広がっている。ほとんどの地区連銀は、企業からあらゆる技能水準で条件を満たした人材確保が困難との指摘を受け、「一部の(several)」地区連銀は、適格な人材が見つけられない状況が採用計画を抑制するカギとも報告している。賃金野伸びは「緩慢あるいはゆるやか(modest or moderate)」なペースにとどまった。人材確保が困難な専門職、技術職、生産職では、賃上げが最も「顕著(notable)」だ。多くの地区連銀によれば、雇用主は賞与やその他の臨時ボーナスで雇用確保に努めているという。
<物価のセクション>
(今回)
・多くの地区連銀は、物価上昇をめぐり前回から「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」な伸びを示したと報告したが、例外はシカゴとサンフランシスコで、シカゴは「ごくわずかonly slightly」、サンフランシスコは「わずかに下落した(down slightly)」と指摘した。物価上昇圧力は全体で「まちまち(mixed)」のところ、一部の地区連銀は製造業や建設、輸送での仕入れ価格の値上がりを伝えている。複数の地区連銀での企業は、販売価格を引き上げについても指摘した。複数の地区連銀での小売業者は「緩慢な値上がり(modest price increases)」を報告し、住宅価格は多くの地域で上昇した。農業やエネルギーなど商品価格は「まちまち(mixed)」だった。
(前回)
・物価は、前回のレポートから「強まった(strengthen)」。ほとんどの地区連銀は、販売価格につき「緩慢からゆるやかな(modest to moderate)」、仕入れ価格につき「ゆるやか(moderate)」なペースで上昇を指摘。特に、建設素材のコストはほとんどの地区連銀で上昇し、多くの地区連銀では木材価格の上昇やハリケーン後の復興に関わる「需要の高まり(increases in demand)」を挙げた。住宅不動産価格も、「概して上昇(generally increased)」した。輸送セクターでのコストも、上昇した。また「一部の地区(several Districts)」は、製造業の仕入れ価格上昇を報告。輸送と製造業の上昇は、多くの場合、消費者に「価格転嫁された(passed through)」。燃料価格も上昇し、複数の地区で原油と天然ガスの価格の上昇圧力を報告した。しかし、農業作物の価格圧力は「まちまちであり続けた(remained mixed)」。
経済活動に対する形容詞の登場回数、比較チャート。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
・「緩慢」と表現した地区連銀、6行>前回は5行
ボストン(前回は“緩慢からゆるやか”→今回は下方修正)
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
シカゴ(前回は“わずか”→今回は上方修正)
セントルイス(前回は“緩慢”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
・「ゆるやか」と表現した地区連銀、5行=前回は5行
NY(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
ミネアポリス(前回は“緩慢”→今回は上方修正)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)
・その他 1行=前回は1行
ダラス(前回は“ゆるやか”→今回は上方修正)
(作成:My Big Apple NY)
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は2017年5月、7月、9月、10月、11月まで6回連続で「不確実性」の文言はゼロだった。なお「不確実性」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。
「増加した(increase)」→17回<前回は24回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→5 回<前回は7回
「ゆるやか(moderate)」→11回<前回は19回
「緩慢、控え目など(modest)」→19回<前回は21回
「弱い(weak)」→1回<前回は2回
「底堅い(solid)」→2回>前回は1回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不確実性(uncertain)」→0回=前回は0回
「不確実性」をめぐる文言は総括で前回に続きゼロだったものの、地区連銀の詳細報告で「不確実」の登場回数は8回となり、前回の6回から増加した。指摘した地区連銀は、以下の通りとなる。12地区連銀別では前回通り4行。今回は前回(ボストン、クリーブランド、セントルイス、ダラス)からセントルイスが消え、代わりにサンフランシスコが入った。ダラスでは、不確実性の指摘が増えた。
・ボストン 2回>前回は1回
→税制改革の実現に伴う消費者の動向、他にオフィスや産業施設の建設に関わる誘因について“不確実性”を指摘。
・クリーブランド 1回<前回は3回
→ある大手銀は融資需要の高まりに反して弱い契約終了件数につき、連邦政府の不確実な政治動向を指摘(筆者注:つなぎ予算の協議膠着に伴う懸念か、あるいは税源浸食・租税回避防止税(BEAT)の影響を指す可能性)。
・ダラス 4回=前回は1回
→要約部分で何も具体的に示さずに見通しへの不確実性を挙げたほか、製造業がNAFTA再交渉の行方について、非金融サービスは通商交渉や連邦政府の規制について、農業でもNAFTA再交渉に関する不確実性に懸念を表明。
・サンフランシスコ 1回>前回は0
→半導体の生産の鈍化に対し、連邦政府の政策不確実性を指摘。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11分に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では1行のみ指摘。2017年5月分、7月分の1行(クリーブランド)を経て、9月、10月、11月と合わせゼロとなっていた。
・サンフランシスコ 1回>前回0
→農業関連商品の輸出がドル高の影響で押し下げられ続けていると指摘。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月に続きゼロだった。地区連銀別では、2回登場。ボストンとリッチモンドが指摘し、2017年10、11月のゼロから増えている。なお中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、4月分まで6回連続でゼロとなった後、5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。なお2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
・ボストン 1回>前回は0
→製造業における物価動向に関して言及、中国の環境規制の強化で供給が縮小した結果、物価動向は「特異(idiosyncratic)」と指摘(筆者注:環境規制に伴う工場閉鎖を指している)。
・リッチモンド 1回>前回は0
→中国向けの輸出が石炭輸出拡大の要因と指摘。
――今回のベージュブックでは、前回と打って変わって中国とドル高に関わる文言が復活しました。中国は価格競争力の低下や鉄鋼生産の抑制要因といったネガティブ要因ではなく、一部で輸出回復の要因として挙げられ、2017年の同国成長率が6.9%増と7年ぶりに加速した動きと整合的です。ドルは期間中に対主要通貨でドル安方向に傾いていただけに、サンフランシスコ地区連銀からのドル高懸念が意外でした。個人的にはドル高というより、ビットコイン採掘コストが上振れしたことによるCPUの需要低下も一因にあるような気がしますが・・考え過ぎでしょうか。
全体的に大きな変化はなかったものの、労働市場の逼迫と共に賃金の伸び悩みを再確認しました。ただし、「複数の地区連銀は、今後数ヵ月において賃金が上昇すると見込む」と明記されたように、賃金上昇の芽吹きを感じさせます。物価についても仕入れ価格だけでなく、複数の企業や小売業者から販売価格の引き上げが報告されました。今まで眠っていた物価が、遂に目を覚ますのか。少なくとも米12月消費者物価指数で低迷から脱却する兆しが見られ、NY連銀による家計調査で1年先インフレ見通しが12月に2.82%と約1年ぶりの水準を回復した点については、留意すべきでしょう。
(カバー写真:donielle/Flickr)
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