Beige Book Suggest Labor Market Is Hot Enough For Employers To Raise Wage.
米連邦準備制度理事会(FRB)が3 月7日に公表したベージュブック(1月半ばから2月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは前回に続き「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」で据え置いた。また引き続き労働市場の逼迫を指摘しただけでなく、税制改革法案の成立もあって、ほとんどの地区連銀で雇用主が賃上げと福利厚生の拡大に踏み切ったとの報告が聞かれた。物価も、「ゆるやか」ながら全般的に上昇の流れを確認。3月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを正当化する内容だった。サンフランシスコ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般のセクション>
(今回)
・12地区連銀からの報告によれば、経済活動は1月から2月にかけ「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大した。
(前回)
・12地区連銀からの報告によれば、経済活動は拡大し続け、11地区連銀は「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースと伝えた。ダラスのみ、「力強い拡大(a robust increase)」を示したという。2018年の見通しは多くの地区連銀で「楽観的(optimistic)」であり続けた。
<個人消費>
(今回)
・1月から2月にかけ、個人消費はまちまち(mixed)で、非自動車の小売売上高は12地区連銀のうち半分を僅かに上回る地区連銀で増加し(just over half the Districts)、自動車は全ての地区連銀で横ばいか減少した(declined or were flat)観光は全般的に「堅調(solid)」で、アトランタとリッチモンドは力強い伸び(robust growth)を遂げた。
(前回)
・多数の地区連銀は、前回から自動車を除く小売売上高の拡大を報告したが、自動車の売上は「まちまち(mixed)」だった。小売業者の一部は、ホリデー商戦が予想以上だったと報告した。
<製造業、非製造業の活動>
(今回)
・製造業セクターでは生産が広範囲にわたって拡大し、1地区連銀のみ緩慢な伸びにとどまった。
(前回)
・多数の製造業者は、全体の業種にわたり「緩慢な伸び(modest growth)」を報告するにとどまった。一部の製造業者は、資本支出の拡大を伝えた。多くの地区連銀は、輸送活動が拡大し続けているとも指摘した。
<不動産市場>
(今回)
・住宅販売と建設活動は「緩慢な伸び(modest growth)」にとどまり、後者は建材や人材の不足が指摘された。非住宅不動産は前回から「ゆるやかに改善し(moderately improved)」、3地区連銀では特に顕著で、NY周辺では商業向け賃料が大いに上昇(up significantly)した。
(前回)
・住宅不動産活動は全米で「抑制されたままだ(constrained)」。在庫不足を背景に、ほとんどの地区連銀で住宅販売は「ほとんど増加しなかった(little growth)」。非住宅不動産活動は、「わずかな伸びを示し続けた(slight growth)」。
<貸出需要>
(今回)
・借入の規模は全般的に「横ばい(flat)」で、少数の地区連銀は債務不履行率の低下を指摘した。
(前回)
・多くの地区連銀で、ローン額は「安定していた(steady)」。
<農業、エネルギー>
(今回)
・農業セクターは全般的に「まちまち、あるいは横ばい(mixed or flat)」だった。天然ガス資源は産業動向が控え目ながら(modestly)改善してきたと報告しつつ、ミネアポリスのみエネルギーと鉱業の活動は「力強い(robust)」ペースだった。
(前回)
・地区連銀によれば、農業の状況は「まちまち(mixed)」で、エネルギー関連は「わずかな上向き(slight uptick)」を報告した。
<雇用と賃金>
(今回)
・雇用は概して、前回から「緩やかなペースで拡大し続けた(grew at a moderate pace)」。全米にわたり、引き続き労働市場の逼迫と特殊技能職の活発な需要(brisk demand)を確認し、また人事派遣サービスの活動も高まった。一部の地区連銀(several Districts)は大部分のセクターで人材不足を報告し、特に建設、IT、製造業で目立つ。多くの地区連銀で、賃金の伸びは「ゆるやかなペース(moderate pace)で回復した(picked up)」。ほとんどの地区連銀は、雇用主が労働市場の逼迫に合わせ賃金を引き上げ、福利厚生を拡大したと指摘。数地区連銀(a few Districts)からは、税制改革法案の成立により賃金を控え目ながら引き上げた(modest increases)との報告も聞かれている。
(前回)
・雇用は概して、前回から「緩やかなペースで拡大し続けた(continued to grow a modest pace)」。多くの地区連銀は「労働市場の逼迫(labor market tightness)」を指摘、特殊技能職で条件を備えた労働者の確保が困難であり、一部からは労働市場の拡大にも関わらず「抑制されている(constrained growth)」との言及も聞かれた。一部の地区連銀は、製造業と建設の労働者の需要が「高まった状態にある(elevated)」と指摘している。大多数の地区連銀は、賃金の伸びが「緩慢なペース(a modest pace)」と報告。数(a few )地区連銀は、広範囲の産業や職種において前回から賃金が上昇したとも伝えた。複数の地区連銀は、今後数ヵ月において賃金が上昇すると見込む。
<物価のセクション>
(今回)
・物価は全ての地区連銀で上昇(increased)し、ほとんどが「ゆるやかなインフレ(moderate inflation)」を報告した。4地区連銀は鉄鋼価格の値上げに言及、海外との競争低下(decline in foreign competition)が一因だという。建設活動の拡大(uptick in construction activity)を背景に、木材など建材価格も持ち直した。一部の地区連銀は、広範にわたって輸送コストの上昇を報告、航空輸送費を押し上げた燃料費の値上がりによるものだという。住宅と賃料は、全米にわたって上昇した。
(前回)
・多くの地区連銀は、物価上昇をめぐり前回から「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」な伸びを示したと報告したが、例外はシカゴとサンフランシスコで、シカゴは「ごくわずかonly slightly」、サンフランシスコは「わずかに下落した(down slightly)」と指摘した。物価上昇圧力は全体で「まちまち(mixed)」のところ、一部の地区連銀は製造業や建設、輸送での仕入れ価格の値上がりを伝えている。複数の地区連銀での企業は、販売価格を引き上げについても指摘した。複数の地区連銀での小売業者は「緩慢な値上がり(modest price increases)」を報告し、住宅価格は多くの地域で上昇した。農業やエネルギーなど商品価格は「まちまち(mixed)」だった。
それぞれの地区連銀が経済活動全般を表現するために使った形容詞、比較チャート。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
●「緩慢」と表現した地区連銀、5行<前回は6行
NY(前回は“ゆるやか”→今回は下方修正)
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
セントルイス(前回は“緩慢”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
●「ゆるやか」と表現した地区連銀、7行>前回は5行
ボストン(前回は“緩慢”→今回は上方修正)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
シカゴ(前回は“緩慢”→今回は上方修正)
ミネアポリス(前回は“ゆるやか”→今回は据え置き)
ダラス(前回は“力強い”→今回は下方修正)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は2017年5月、7月、9月、10月、11月、2018年1月にわたり7回連続で「不確実性」の文言はゼロだった。なお「不確実性」の登場回数は米大統領選挙前の2016年10月分に7回、2016年11月分は3回、2017年1月分は7回、2017年3月分は3回だった。
「増加した(increase)」→17回=前回は17回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→5 回=前回は5回
「ゆるやか(moderate)」→15回>前回は11回
「緩慢、控え目など(modest)」→22回>前回は19回
「弱い(weak)」→0回<前回は1回
「底堅い(solid)」→4回>前回は2回
「安定的(stable)」→0回<前回は1回
「不確実性(uncertain)」→0回=前回は0回
「不確実性」をめぐる文言は総括で前回に続きゼロだったほか、地区連銀の詳細報告で「不確実」の登場回数も2回にとどまり、前回の8回から減少した。指摘した地区連銀は、ダラス連銀のみ。前回からボストン、クリーブランド、サンフランシスコが取り下げた。
・ダラス 2回<前回は4回
→広範囲にわたって見通しに楽観的だったものの不確実性が残ると指摘、また農業でNAFTA再交渉をめぐる不確実性を懸念材料に挙げた。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11分、2018年1月分に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、前回の1行からゼロに減少。2017年9月、10月、11月以来のゼロとなる。なお2017年5月分(クリーブランド)、7月分の1行(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)は1行が報告していた。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月、2018年1月に続きゼロだった。地区連銀別では、2回登場。ボストンとミネアポリスが指摘し、前回からリッチモンドが取り下げた。2017年10月、11月はゼロだった。なお中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、2017年4月分まで6回連続でゼロとなった後、同年5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
・ボストン 1回=前回は1回
→化学関連企業が中国からの大規模な輸出攻勢に圧され、重要な化学素材の価格を押し下げ、海外向けビジネスが縮小したと報告。
・ミネアポリス 1回>前回は0
→中国からの観光客が増加し、モンタナ州の国立公園の訪問客数が過去最高を記録したと指摘。
――今回のベージュブックでは、労働市場が一段とひっ迫し賃上げを促している様子が浮かび上がりました。米2月雇用統計での平均時給は足元のレンジに収まったものの、報告は3月20~21日に開催するFOMCでの利上げを正当化させる内容です。焦点は、これまで年3回だった利上げ予想に変化が生じるかどうか。いきなり年4回以上の利上げ予想が増加するとは考えにくいものの、これまでの4人から増える可能性は捨てきれません。
(作成:My Big Apple NY)
なお2017年12月のFF金利見通しではクオールズFRB副議長の着任、フィッシャーFRB前副議長の退任に合わせ、タカ派が一人減少していました。
(カバー写真:Scott Schiller/Flickr)
Comments
米1月貿易収支、輸出が減少し08年10月以来で最高を更新 Next Post:
17年10~12月期、家計資産は過去最高も家計債務は07年以来の高い伸び