Hiring Slows, But Wage Growth Steady In November.
米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比15.5万人増となり、市場予想の19.8万人増を下回った。年末商戦が本格化するなか、前月の23.7万人増(25.0万人増から下方修正)に届かず。平年を下回る気温により、一部セクターの伸びを抑えた可能性がある。9月分の0.1万人の上方修正(11.8万人増→11.9万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.2万人の下方修正となった。9~11月の3ヵ月平均は17.0万人増で、2017年の平均値17.1万人増をわずかに下回った。
なおトランプ政権が3月23日から鉄鋼・アルミ関税を発動し、6月1日からは欧州連合(EU)、カナダ、メキシコも対象に含めた。中国に対しては8月23日から事前の340億ドルに160億ドルと合わせた500億ドル相当の追加関税を発動、9月24日から2,000億ドルの対中知財関税を実施した。2,000億ドル相当の対中関税措置については、2019年1月から関税率を10%から25%へ引き上げる懸念が強かったが、12月1日の米中首脳会談で90日間の猶予が設けられている。一方で、NAFTA再交渉は9月にカナダを含め合意が成立し、欧州とは7月の首脳会談にて通商協議入りで合意。日本とも個別で貿易交渉を開始した。
NFPの内訳をみると、民間就労者数が前月比16.1万人増と市場予想の19.8万人増を下回った。前月の25.1万人増(24.6万人増から上方修正)から鈍化した。民間サービス業も13.2万人増と、前月の19.8万人増(17.9万人増から上方修正)に及ばなかった。
NFP、ハリケーン通過を受け大幅増となった前月から鈍化。
サービス部門のセクター別動向では、教育・健康が前月に続き首位に立った。続いて、前月に3位だった専門サービスが2位に。3位は、年末商戦の押し上げ効果に支えられた輸送・倉庫となる。前月に年末商戦の臨時雇用とハリケーン通過後の雇用増で増加が目立った娯楽・宿泊は伸びが鈍化した。今回、減少したセクターは前月と変わらず2セクターで、政府が2ヵ月連続となったほか、情報が入っている。小売は前月まで2ヵ月連続で減少していたが、増加に転じた。詳細は、以下の通り。
(サービスの主な内訳)
・教育・健康 3.4万人増<前月は3.9万人増、6ヵ月平均は4.2万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は4.0万人増<前月は4.5万人増、6ヵ月平均は3.9万人増)
・専門サービス 3.2万人増<前月は5.8万人増、6ヵ月平均は4.7万人増
(そのうち、派遣は0.8万人増<前月は1.7万人増、6ヵ月平均は0.9万人増)
・輸送・倉庫 2.5万人増>前月は1.6万人増、6ヵ月平均は1.9万人増
・小売 1.8万人増>前月は0.7万人減、6ヵ月平均は0.8万人
・娯楽・宿泊 1.5万人増<前月は5.6万人増、6ヵ月平均は2.5万人増
(そのうち食品サービスは2.1万人増>過去12ヵ月平均1.6万人増)
・卸売 1.0万人増>前月は0.9万人増、6ヵ月平均は1.1万人増
・金融 0.6万人増<前月は1.2万人増、6ヵ月平均は1.0万人増
・公益 0.02万人増<前月は0.1万人増、6ヵ月平均は横ばい
・その他サービス 横ばい<前月は0.6万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
・政府 0.6万人減>前月は1.4万人減、6ヵ月平均は0.8万人増
・情報 0.8万人減<前月は0.8万人増、6ヵ月平均は0.2万人減
財生産業は前月比2.9万人増と、前月の5.3万人増(6.7万人増から下方修正)に届かず、鉄鋼・アルミ追加関税措置を発動した3月以来の低い伸びとなる。ただ平年を下回る気温が影響した建設、10月初めの高値から30%超えまで急落した原油先物の影響で鉱業が弱まっており、製造業は底堅さを示した。詳細は、以下の通り。
(財生産業の内訳)
・製造業 2.7万人増>前月は2.6万人増、6ヵ月平均は2.1万人増
・建設 0.5万人増<前月は2.4万人増、6ヵ月平均は2.1万人増
・鉱業・伐採 0.3万人減(石油・ガス採掘は400人の増加、2ヵ月連続のプラス)>前月は0.3万人増、6ヵ月平均は0.3万人増
平均時給は前月比0.2%上昇の27.35ドル(約3,090円)となり、市場予想の0.3%を下回った。前年比は3.1%の上昇と、市場予想と前月と並び、2009年4月以来の3%超えを果たした。
週当たりの平均労働時間は34.4時間と、市場予想と前月の34.5時間以下となった。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は9~10月に続き40.3時間となり、8月の40.5時間を下回った。なお財部門は、4月に2006年7月以降で最高となる40.7時間を記録していた。
失業率は3.7%と市場予想と9~10月と変わらず、1969年12月以来で最低となった。9月に公表した米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーによる2018年見通しに並ぶ。労働参加率は62.9%と、市場予想と前月と一致した。なお労働参加率のボトムは2015年9〜10月の62.4%で、1977年9月以来の低水準だった。
失業者数は前月比10.0万人減少しただけでなく、就労者数が23.3万人増加した。労働参加率が横ばいだったこともあり、失業率は約50年ぶりの低水準を保つ。就業率は前月に続き60.6%と、2009年1月の高水準に並んだ。
フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.4%増の1億2,976万人と、3ヵ月連続で増加した。パートタイムは1.0%減の2,704万人と、3ヵ月ぶりに減少、前月分の増加を打ち消した。増減数ではフルタイムが54.3万人増、パートタイムは25.8万人減だった。
総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は、民間雇用者数が前月を下回り、平均労働時間も小幅短縮したため、前月比で0.1%低下し4ヵ月ぶりにマイナスを示した。平均時給は伸びを維持したものの、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比で0.1%上昇にとどまり10月の0.4%以下に。ただ、10ヵ月連続でプラスだった。
かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。
1)不完全失業率 採点-×
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は7.6%と、2001年4月以来の低水準に並んだ前月の7.4%を上回り、4ヵ月ぶりの高水準となった。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は480.2万人と、前月の462.1万人から増加。ムニューシン米財務長官候補が指名公聴会後に書簡で重視すると明らかにしたU-5すなわち縁辺労働者を含む失業率も、金融危機前の低水準だった9~11月の4.6%から4.7%へ上昇した。
2)長期失業者 採点-○
失業期間の中央値は8.9週と、6月に並び2008年5月以来の低水準をつけた。平均失業期間は21.7週と前月の22.5週から短縮、2009年3月以来で最短を記録した6月の21.3週に接近した。27週以上にわたる失業者の割合は20.8%と、前月の22.5%から低下。ただ、2008年8月以来の20%割れを遂げた5月の19.4%を上回る水準を続けた。
3)賃金 採点-○
今回は前月比0.2%の上昇と、5月と7~8月につけた年初来で最も強い伸びとなる0.4%を下回った。ただし、前年比は10月に続き3.1%の上昇、2009年4月以来の3%乗せを達成。生産労働者・非管理職の平均時給は前月比0.3%上昇の22.95ドル、前年比は3.2%の上昇と、10月に続き前月比と前年比そろって全従業員の水準を超えた。なお、民間における生産・非管理職の割合は約8割を占める。
平均時給、10月に続き生産・非管理職の労働者は全従業員を超える伸びを達成。
4)労働参加率 採点-△
労働参加率は10月に続き、62.9%へ上昇。2014年3月以降で2番目の高水準だった2月の63.0%に接近した。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。軍人を除く労働人口は0.1%増の1億6,278万人と、わずかながら3ヵ月連続で増加。非労働人口は0.1%増の9,594万人と、こちらも若干だが増加に転じた。
――米11月雇用統計・NFPはハリケーン通過後の雇用増という反動が剥落し、鈍化しました。とはいえ、2015年12月のイエレン前FRB議長の発言を踏まえれば、上々の結果と言えます。さらに失業率が1969年以来の低水準を維持するなか労働参加率も低下せず、Fedのゆるやかな利上げをサポートする内容と言えるでしょう。問題は、労働市場の逼迫に伴い雇用が鈍化しても、賃金押し上げ圧力が後退するか否か。追加関税措置の影響もあって、設備投資を中心に経済拡大の勢いがゆるみつつあるなか、Fedは2019年に2018年のような四半期に一度の利上げはできそうにありません。何より、9月FOMCまで維持してきた年3回の利上げ予想も修正を迫られています。
平均時給は、前年比で2009年4月以来の3%超えを遂げました。今回、生産労働者・非管理職の平均時給の前年比が全セクターの平均である3.2%を上回ったのは7セクター(サービスと財の部門別を除く)で、前月の6セクターを上回ります。今回、輸送・倉庫が入っています。
10月に続き財部門の賃金上昇が著しく、前年比3.8%の上昇とサービス部門の3.1%を大きく上回りました。これは鉱業・伐採が5.4%の上昇と9~10月に続き5%乗せを達成したほか、建設が4.2%の上昇を遂げたことが大きい。その一方で、雇用増加を牽引する教育・健康、専門サービスは平均以下の伸びが続いています。
労働市場の健全性を見る上で、労働参加率に視点を移すと、働き盛りの世代での改善にブレーキが掛かりました。25~54歳の男性でみた労働参加率は11月、前月に続き89.0%。25~34歳は89.1%と、4ヵ月ぶりの低水準です。白人男性では25~54歳が90.2%と5ヵ月ぶりの高水準でしたが、25~34歳は90.4%とむしろ前月から0.4%ポイント低下しました。
人手不足が指摘されて久しいものの、働き盛りの男性は金融危機前の水準ほど労働市場に戻ってきていません。シェアリング・エコノミーなど働き方の変化は見過ごせないものの、消費や家族形成、政治などに影響する可能性もあり、働き盛りの男性の労働参加率動向に留意しておくべきでしょう。2016年の米大統領選は、「忘れられた人々」がトランプ大統領を誕生させた側面もありますからね。
(カバー写真:Alessandro Pisani/Flickr)
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