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10月FOMCで利下げ休止示唆、来年の地区連銀総裁は据え置き派優勢

by • October 31, 2019 • Finance, Latest NewsComments Off2286

Fed Cuts Interest Rates For Third Time, But Signals Pause.

10月29~30日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通りFF誘導金利目標を1.50~1.75%へ引き下げた。7月30~31日開催の会合、9月17~18日開催の会合に続き、3回連続となる。声明文では「適切に行動する」の文言を削除。今後「委員会は、FF金利誘導目標の適切な道筋を考慮する上で、今後入手する経済指標など見通しに関する情報が示唆する内容を注視し続けていく」とし、予防的利下げを休止する姿勢を打ち出した。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長も、会見で「現在の政策スタンスが適切であり続ける公算が大きいと考える」と発言。米中貿易協議や英国のEU離脱交渉で明るい兆しがみられるなかで、利下げを休止するようだ。もっともパウエル氏は、経済下押しリスクが発生した場合に適切に行動すると言及することも忘れず。結果、12月10~11日開催のFOMC利下げ織り込み度は21%へ低下しながら、2020年4月の利下げ織り込み度は54.9%となる。詳細は、以下の通り。

【景況判断】

前回:「家計支出は力強く拡大したが、企業の固定投資と輸出は減速している」

今回:「家計支出は力強く拡大したが、企業の固定投資と輸出は減速したままだ」
米7~9月期実質GDP成長率の個人消費が示すように個人消費は引き続き堅調ながら、GDPのうち設備投資にあたる非住宅固定投資が2期連続で低下したほか前期より下げ幅を広げ、純輸出も2期連続でマイナス寄与となり、こうした動きを反映し企業の固定投資と輸出をめぐる表現を下方修正。

【統治目標の遵守、政策金利について】

前回:「世界動向が示唆する経済見通しと低インフレ圧力を受けて、委員会は政策金利を1.75~2.00%へ引き下げた。今回の行動は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%近辺という委員会の対称的な物価目標の達成が、最も起こり得る結果とする見方を支援するが、この見通しへの不確実性は残存する。委員会は将来のFF金利の道筋を考慮する上で、今後入手する経済指標など見通しに関する情報が示唆する内容を注視し、力強い労働市場と対称的な物価目標である2%に近いインフレ率とともに成長を持続するよう適切に行動するだろう

今回:「世界動向が示唆する経済見通しと低インフレ圧力を受けて、委員会は政策金利を1.1.50~1.75%へ引き下げた。今回の行動は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%近辺という委員会の対称的な物価目標の達成が、最も起こり得る結果とする見方を支援するが、この見通しへの不確実性は残存する。委員会は、FF金利誘導目標の適切な道筋を見極める上で、今後入手する経済指標など見通しに関する情報が示唆する内容を注視し続けていく」
※「適切に行動する」や「力強い労働市場と対称的な物価目標である2%に近いインフレ率とともに成長を持続するよう」などを削除し、代わりに「FF金利誘導目標の適切な道筋を見極める上で」、経済指標などを注視していくとの姿勢を表明。利下げの小休止を示唆した。なお、10月ベージュブックでは見通しにつき「前向き(positive)」から「6~12ヵ月の見通しを下方修正した」へ引き下げた。ただ「関税」との文言を始め、「中国」をめぐり企業活動にネガティブな表現の登場回数は、増加していない。

【票決結果】

票決は10人中2人が反対票を投じ、9月から1人減少した。7月、9月に続き。ボストン地区連銀のローゼングレン総裁とカンザスシティ地区連銀のジョージ総裁が据え置き票を投じた半面、前回50bpの利下げを主張したセントルイス地区連のブラード銀総は25bp利下げ支持にまわった。4回連続で1月、3月、5月に反し全会一致の決定とはなっていない。FOMC参加者は、全員で17名。輪番制である地区連銀総裁からは今年、セントルイス地区連銀のブラード総裁、シカゴ地区連銀のエバンス総裁、カンザスシティ地区連銀のジョージ総裁、ボストン地区連銀のローゼングレン総裁が投票権を有する。なお2018年の票決は、1、3、5、6、8、9、11、12月のすべての会合で全会一致だった。

【超過準備預金金利】

FOMCは、超過準備預金金利(IOER)を予想通り25bp引き下げ、1.55%とした。なおIOERの調整は5月、8月、9月に続き年内4回実施。利上げ過程にあった2018年の6月、12月は、IOERの引き上げを25bpではなく20bpとし、FF金利上限からの乖離を広げていた。

9月FOMCでの経済・金利見通しは以下の通り。

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(作成:My Big Apple NY)

【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】

●金融政策について
→「経済に関し入手可能な情報が概して我々の見通しに沿う限り、現在の政策スタンスが適切であり続ける公算が大きい(likely remain appropriate)と考える」
※利下げを休止し、据え置きを継続する立場を示唆。
→「(これまでの利下げは)経済に重要な支援をもたらし続けるだろう」
→「本日、3回目の利下げを決定した。我々は海外動向にさらされるなかで米経済が力強く推移することを支援するため、また直面するリスクに対し幾分の保険を与えるため、利下げに踏み切った」
→「金融政策は(ゆるやかな成長や力強い労働市場、対称的なインフレ目標2%への達成に向け)適切な水準にある(in a good place)と信じる」
→「後、我々はFF金利誘導目標の適切な水準を見極める上で、経済見通しに関する情報に加え、政策決定の効果を注視していく。もちろん、仮に我々の見通しを再評価する具体的な事態が発生すれば、適切に行動する
→「前述したように、弱い世界経済や貿易動向が経済を下押しし、リスクをもたらしている。これらの要因に加え、物価圧力の低迷もあって適切なFF金利誘導目標の水準をここ1年で引き下げた」
→「見通しに対するリスクは、恐らくポジティブな方向へ進んだ・・これは貿易に関する動向を意味する
→「現時点で、利上げを検討していない
→「(物価目標の変更について)来年の半ばまで議論が続くだろう。金融政策の枠組み変更は、早急になされるものではない」

●米経済について
→「これまでの政策調整は、経済に大いなる支援を与える
→「金融政策の効果は時間差を伴うため、一連の(利下げという政策)調整の影響は成長や労働市場、インフレ動向などにいずれ現れるだろう」
→「(GMのストライキについて)5分の1程度の下押しに」

●物価について
→「継続的に物価がインフレ目標を下回る場合、歓迎されない長期インフレ見通しの低下を促すとして、留意している」
→「ただし、力強い経済や成長を支援する金融政策により、物価は2%へ上向くと見込む
※9月FOMCの経済見通しでは2%到達は2021年だが、7~9月期実質GDP成長率・速報値では、コアPCEが5期ぶりに2%超え
→「我々は当然ながら、日本の状況を見守り続け、今は欧州にも注意を払っている。我々は、世界に追いなるディスインフレ圧力があると認識している」

●短期金利市場について
→「米財務省短期証券(Tビル)の買入は、金融政策の変更を意味するものではない。特に、大規模資産買入プログラムと混同されるべきではない」
→「(9月の金利上昇について)流動性が想定したほど循環しなかったことは驚きに値する」
※一朝一夕で解決できる問題ではないとの考えを表明、今後も解決策を模索していく姿勢を打ち出す。

――FOMCの利下げは予想の範囲内だったほか、9月FOMCでの金利見通しに反しパウエル氏が利上げの可能性を否定したため、米株高・金利低下・ドル安で反応しました。今回、利下げ小休止を表明した第一の理由として、パウエル氏の発言通り米中貿易協議で第1段階の合意が近づきつつある点が挙げられます。チリでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議がキャンセルされながら、ホワイトハウスのギドリー副報道官は、米国が依然として第1段階の合意に向けた用意があると表明してましたよね。

その他、BREXITをめぐりEU側が英国の離脱期限を3ヵ月延長し2020年1月31日までとする方向で固まり、海外動向のリスク要因がひとつ後退しました。さらに米国内でも、米7~9月期実質GDP成長率が予想以上で潜在成長率を維持し、物価もトリム平均PCEなどで分かるように物価圧力の低下を確認しつつあります。何より、労働者の8割を占める生産労働者・非管理職の平均時給も14ヵ月連続で3%を超え、最終財の物価が徐々に上向いてもおかしくありません。

トリム平均PCEは2%付近で安定的、NY地区連銀のインフレ見通しは底打ちの兆し。

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(作成:My Big Apple NY)

12月利下げ織り込み度は、米中貿易協議などの環境変化を受けFOMC後に21.0%へ低下。しかし金融市場は、2020年4月の利下げ織り込み度が5割を超え、引き続き利下げ余地をにらんでおります。

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(作成:My Big Apple NY)

今回のFOMCでは、利下げ派が優勢とみられる正副FRB議長、理事、NY地区連銀総裁など指導部ではなく、据え置き派が比較的多い地区連銀総裁の意見が尊重されたようにみえます。それはなぜか?2020年に投票権を有する地区連銀総裁の顔ぶれに秘密があります。

・フィラデルフィア地区連銀のハーカー総裁
WSJ紙:Fed’s Harker: Fed Should Hold Firm on Rates Right Now(9/27)
・ダラス地区連銀のカプラン総裁
ブルームバーグ:Fed’s Kaplan Says Cutting Rates Should Be Limited, Restrained, Modest(10/10)
・クリーブランド地区連銀総裁のメスター総裁
ロイター:Fed policy is accommodative, will adjust if needed -Mester(10/19)
・ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁
ロイター:Fed’s Kashkari says more easing needed, not sure how much(10/8)

この中で、一段の利下げに積極的な総裁はミネアポリス地区連銀のみ。他の3人は、据え置き派とみられます。仮に3人の地区連銀総裁が一枚岩となって反対勢力として立ち上がったとしても、FOMCの指導部は6名ですから決定に大きな影響を与えるわけではありません。しかし、伝統的にコンセンサスを重んじるFOMCとしては、米中貿易競技をめぐる不確実性が後退するなかで、敢えて不協和音を強調するのは得策ではないと判断したと考えられます。また、米経済が堅調である限り、利下げ余地を残したかったとの思惑が働いたとしても、おかしくない。仮に利下げを再開するならば、潜在成長率での拡大を支える個人消費に腰折れの兆しがみられた時なのでしょう。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)

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