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5月ベージュブック、悲観的な見通しの中にほのかに輝く希望の光

by • June 9, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off2436

Beige Book:Outlooks Were Generally Uncertain But Some See Ray of Light.

米連邦準備制度理事会(FRB)が5月27日に公表したベージュブック(4月初めから5月半ば)によると、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、米経済活動をめぐる表現が前回4月の「急激かつ突如として縮小した」から「経済活動は全ての地域で低下し、急激に落ち込んだ」との表現に修正された。上半期に米経済が深刻な景気後退入りするリスクを示唆したと言えよう。なお、リーマン・ショック直後公表の2008年12月分では、米経済活動につき「弱まった(weakened)」とされ、当時より格段に下振れを示す表現となっている。

新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う外出禁止関連措置、工場閉鎖、サプライチェーンの途絶などを受け、見通しも前回の「引き続き高い不確実性があり、回答者は潜在的な回復ペースをめぐり悲観的だった」とまとめた。前回の「高い不確実性があり、今後数ヵ月はさらに悪化する」と同様、明るい見通しを描いていないことが分かる。しかし、不確実性をめぐるキーワードの登場回数は52回と前回から減少、また一部では個人消費の改善を確認し、クリーブランド地区連銀からは「最悪期は過ぎ去った」、ボストン地区連銀からは「ある回答者からは景気回復を非常に楽しみにしている」など、暗い見通しのなかにほのかな希望の光が見て取れる。カンザスシティ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動は新型コロナウイルスによるパンデミックを受け、全米で「低下し(declined)」、また「ほとんどの地域で急激に落ち込んだ(falling sharply in most)」。経済活動が再開するにつれ、多くの回答者は経済全般の活動に希望を表明したが、引き続き高い不確実性があると指摘し、潜在的な回復ペースをめぐり悲観的だった。

前回:経済活動は新型コロナウイルスによるパンデミックを受け、米国全ての地域で「急激に且つ突如として縮小した(contracted sharply and abruptly)」。全ての地域で見通について高い不確実性が指摘され、今後数ヵ月間にさらに悪化すると見込まれた。

<個人消費>

消費支出は調査期間中、ほとんどの小売店舗で閉鎖が引き続き義務付けられたため「一段と落ち込んだ(fell further)」。特に宿泊で顕著となり、観光・旅行活動がほとんど失われた。自動車販売も、前年比で著しく減少、しかし一部の(several)の地区連銀は、足元で改善を報告した。

前回:社会的距離や閉鎖を余儀なくされ、最も大きな打撃を受けた産業は娯楽・宿泊、必需品を除く小売となった。

<製造業、非製造業の活動>

製造業活動は大部分の地区連銀で「急激に落ち込み(sharp drop)」、生産は自動車、航空、エネルギー関連の工場で特に弱かった

前回:大半の地区連銀は製造業での活動減速を指摘したが、産業ごとに大きなばらつきがみられた。食品メーカーや医療品・医薬品メーカーは力強い需要を報告したが、感染抑制対応やサプライチェーンの途絶を受け、生産遅延に直面した。自動車など一部では、工場閉鎖に見舞われた。

<不動産市場>

住宅販売は新規の物件が減少したほか、多くの地域で物件の下見が制限されたため、「急減した(plunged)」。建設活動も、新たなプロジェクトが多くの地域で実現せず、落ち込んだ。商業不動産の回答者は、多くの小売店の借り手が家賃支払いを先送りした、あるいは支払い期日を守れない状態となった。

前回:今回、経済全般を表す総括部分に表記なし。ただし、住宅ローン借換需要の高まりを報告。

<貸出需要>

銀行は、給与保証プログラム(PPP)の需要が力強いと報告した。

前回:貸出需要は高水準にあり、企業は信用枠からの借入を求め、家計は住宅ローンの借換を進めた。

<農業、エネルギー>

農業の状況は悪化し、一部の地区連銀は、閉鎖や社会的距離の確保により、食肉加工工場の生産稼働率が低下したと報告した。エネルギー活動は落ち込み、企業が油井の閉鎖を相次いで発表するなか、リグ稼働数は過去最低の水準を更新した。

前回:油価の下落に喘ぐエネルギー部門は投資を縮小したほか、減産に踏み切った。

<雇用と賃金>

用は引き続き全ての地域で減少し、社会的距離の確保とビジネス閉鎖が多くの雇用に影響を与え、ほとんどの地域では大幅な落ち込みを経験した。PPPを通じた融資獲得は、多くの企業が一時解雇(レイオフ)を抑制、あるいは回避する上で役立ったが、雇用状況は小売と娯楽・宿泊で急激に落ち込み続けた。回答者は、健康上の懸念のほか、託児所不足、寛大な失業保険を理由に、従業員の再雇用をめぐる困難に直面しているという。全体的に地投げ圧力はまちまちで、複数の企業は賃下げを踏み切った半面、エッセンシャル・ワーカー向けに賃金を一時的に引き上げたほか、失業保険に負けないよう賃上げを迫られた企業がみられた。ほとんどの地域で、需要の高いセクターや必要不可欠な職種で賃上げを行ったが、その他では横ばいあるいは下落した。

前回:雇用は新型コロナのパンデミックが多くの企業に影響を与えた結果、全ての地域で「減少し、多くの場合は急減(declined.. steeply in many cases)」した。雇用減少は外出禁止措置を受けた店舗閉鎖や需要の急激な後退を背景に、小売、娯楽・宿泊など最も深刻だった。また多くの地区連銀は、大規模な雇用削減について製造業やエネルギー部門など広範囲にわたると報告した。複数の地区連銀の回答者は業務再開に備え、一時的解雇や一時帰休を通じ雇用調整を行った。短期的には、今後数ヵ月は雇用削減が続く見通し。賃金をめぐっては、どの地区連銀も引き上げを報告せず。大半の地区連銀は、概して賃金の伸び悩みと給与削減を指摘、しかし高い需要を背景に食料品店などでは困難な状況を受け一時的な賃上げに踏み切った。

チャート:米5月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)は22ヵ月連続で3%台を維持も、前月比は下落に反転

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(作成:My Big Apple NY)

<物価>

物価上昇圧力はまちまちだったが、概して「安定的から緩慢ながら低下した(steady to down modestly)」。需要の弱さが販売価格の重しとなり、服飾、ホテル、航空会社など複数の回答者は割引を行ったと報告した。一部の地域では、原油や鉄、一部の農産物など商品価格の下落を指摘。一方で、サプライチェーンの途絶と力強い需要を受け、肉類や果物を含む一部食品は値上がりした。ある地区連銀は、企業が安全性に絡む行政令と社会的距離遵守のため、追加のコストを強いられていると指摘した半面、別の地区連銀は力強い需要を背景に個人防具用品(PPE)の値段が上昇したと報告した。

前回:地区連銀が値上げの伸び鈍化、価格横ばい、緩慢からゆるやかな上昇を報告した通り、概して物価の方向性は販売価格と仕入れ価格ともに下向きを示した。こうした傾向は、新型コロナのパンデミックに伴うモノ・サービスにおける弱い需要を反映したものと受け止められる。4地区連銀は、エネルギー価格の著しい下落を報告した。対照的に、サプライチェーンの途絶と需要のシフトを背景に輸送といった必要不可欠なサービスのほか、農産物、消費財の価格は上昇した。農産品価格の見通しはまちまちながら、価格は概して下方圧力に直面する見通しだ。

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

●「低下(decline)」と表現した地区連銀→6行>前月は4行
ボストン、リッチモンド、アトランタ、シカゴ、ミネアポリス(一段と低下、declined further)カンザスシティ(著しく低下した、declined substantially)

●「縮小(contract)」と表現した地区連銀→3行=前月は3行
NY(著しく縮小した、contracted substantially)、ダラス(急激に縮小した、contracted sharply)、サンフランシスコ(顕著に縮小した、contracted markedly)

●その他 3行=前月は3行
フィラデルフィア(急激に落ち込んだ、fall sharply)、クリーブランド(一段と悪化した、deteriorated further)、セントルイス(よりゆるやかに鈍化、moderately slower)

チャート:地区連銀ごとの景況判断に関わる文言

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(作成:My Big Apple NY)

<キーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「ポジティブ」はゼロとなり、「弱い」が増加するなど、全般的に低迷する経済状況を表す内容となった。「強い」という表現が増加したが、これは個人防護用具(PPE)の需要や巣ごもりを受けた豚肉などの需要に対する表現のほか、力強い見通しはほぼ期待できないといった文言で使われた。一方で、「不確実性」の文言は前回の3回から4回へ増加した。詳細は、以下の通り。

「増加した(increase)」4回=前回は4回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4回>前回は2回
「ポジティブ(positive)」→0回<1回
「ゆるやか(moderate)」→2回<前回は10回
「緩慢、控え目など(modest)」→3回<前回は5回
「弱い(weak)」→8回>前回は2回
「底堅い(solid)」→0回=前回は0回
「安定的(stable)」→1回<前回は1回
「低下(decline)」→14回<17回
「減退(decrease)」→4回>前回は3回
「縮小(contract)」→7回=前回は7回
「不確実性(uncertain)」→4回>前回は3回

地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は17回と前回の21回を下回った。前回はボストン(3回)、NY(2回)、フィラデルフィア(1回)、アトランタ(1回)、シカゴ(2回)、セントルイス(3回)、ミネアポリス(1回)カンザスシティ(2回)、ダラス(5回)、サンフランシスコ(1回)だった。

・ボストン 4回>前回は3 回
→(総括)短期見通しは高い不確実性があり、全般的に悲観的だった。
→(製造業、関連業)製造業の回答者の間で、見通しはほぼ悲観的だった。獣医向け製品メーカーは需要が今夏に回復すると見込むが、対照的に、ほとんどの回答者はいつ、あるいは本当にコロナ以前の水準まで需要が回復するのか、大いに不確実性を感じていた。
→(人材派遣)回答者全員はPPP申請資格を有し、彼らにとって不可欠な支援と捉える半面、こうした企業は不確実性に直面するなか、同時に信用枠と資金の確保に奔走した。全体的に到来しつつある景気回復での採用活動に楽観的で、1人は「非常に楽しみにしている」と回答した。
→(不動産)コロナ後の見通しについて回答者は概して楽観的だったが、短期的にはパンデミックに関わる経済的な制限解除をめぐる不確実性に懸念を寄せた。

・NY連銀 1回<前回は2回
→(サービス)回答者は今後いつ正常化した水準まで十分回復するのか、あるいは回復できるかどうかをめぐり多大な不確実性を感じると共に懸念を表明し続け、広範囲にわたって悲観的だった。

・フィラデルフィア 1回=前回は1回
→(総括)企業は外出禁止措置の解除を受けた業務再開に望みを託す一方で、回答者は新型コロナウイルスが引き続き蔓延するなか、消費者がどれほど感染に脅威を感じているか不確実性があるとした。

・クリーブランド 2回>前回はゼロ
→(総括)企業の多くは需要の最悪期は過ぎ去ったと判断したが、ほとんどの回答者はコロナウイルスの道筋への不確実性を受けて力強い回復を予想する者はほとんど見られなかった
→(金融)1人の富裕層向けの資産運用者は、経済の不確実性が需要を高めたと指摘したが、別の回答者はビジネス活動の低下により自動車の走行距離が短くなったため、保険への需要が後退したと報告した。

・シカゴ 2回=前回は2回
→(建設、不動産)物価はほとんど変わらなかったが、回答者は多くの不動産物件での値付けに対する不確実性の高まりを指摘した。
→(製造業)米国では多くの自動車メーカーが5月半ばから生産再開に踏み切った一方で、メキシコの工場がいつ再開するか不確実性があり、サプライチェーンをめぐって懸念された。

・ダラス 5回<前回は5回
→(総括)地域内の経済再開の道筋をめぐり不確実性を受け、見通しは引き続き弱含んだ。
→(製造業)コロナ後の消費者需要が正常化するかに対し不確実性が高まるなか、全体的に見通しは完全にネガティブだった。
→(小売売上高)4月自動車販売台数は減少し、5月初めも低迷したままだったが、複数のディーラーは需要の回復を報告した。回復へのスピードと規模に対する不確実性を受け、見通しは引き続き暗い。
→(建設、不動産)現金確保の必要性と不確実性の高まりから、一部の新しいプロジェクトはキャンセルあるいは保留となり、特殊建築物の建設は鈍化し、減算する契約は再交渉された。

・サンフランシスコ 2回>前回は1回
→(物価)経済活動の回復の時期について不確実性があり、全体の物価動向を抑制した。
→(不動産、建設)今後の建設活動と売上をめぐる不確実性は、引き続き高い。

<ドル高をめぐる表記>

ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月、20年1月、3月、4月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では今回もゼロ、2019年9月にサンフランシスコが指摘してから、ゼロが続く。なお、過去3年間でドル高を挙げた地区連銀は、2017年5月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)、2019年9月分(サンフランシスコ)など。

<中国>

中国というキーワードが登場した回数は、前回に続き総括部分でゼロとなった。1月は1回、3月の3回からゼロに転じたままだ。これまでは2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月、11月にわたりゼロだった。

地区連銀別では新型コロナウイルス感染拡大をめぐり終息の兆しがみられ経済活動が再開するなか、前回の10回から4回へ大幅に減少した。前回はフィラデルフィア(2回)、リッチモンド(4回)、セントルイス(1回)、ミネアポリス(1回)、サンフランシスコ(2回)だった。なお、中国というキーワードは2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月、11月、20年1月、3月、4月に続き言及された。

・フィラデルフィア 2回=前回は2回
→(製造業)一部のグローバル企業によれば、サプライチェーンの問題が中国からメキシコに移った。ある回答者は、米欧におけるパンデミックからの回復が中国ほど容易でないと見込み、多くの工場に対する投資を先送りしたという。

・リッチモンド 1回<前回は4回
→(総括)港湾業者は、中国からの輸入が幾分増加したものの、貨物量の大幅減を指摘した。
→(港湾、輸送)輸入は前年比で減少したが、前回のレポートと比べ中国の出荷を再開させたため幾分回復した。

――新型コロナウイルスの登場回数は全体で52回(総括4回、地区連銀別48回)と、前回の57回(総括8回、地区連銀別で49回)を下回った。今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数は以下の通り。

チャート:ベージュブックのキーワード数

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(作成:My Big Apple NY)

見通しは「ネガティブ」、「悲観的」などの言葉が多く見受けられましたが、経済活動の再開を期待している声も聞かれました。実際、経済活動の再開に伴い米5月新車販売台数は年率1,210万台と4月の同860万台から回復しています。

チャート:新車販売台数

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チャート:MBA住宅ローン申請件数指数

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(作成:My Big Apple NY)

経済活動の再開により着実に需要は回復しつつあります。問題は、全米に波及した人種差別抗議デモなどを背景に、第2波が発生するか否か。足元、テキサス州など早期に経済活動を再開させた州で感染者数が増加しており、コロナ禍に打ち勝ったとは言い難い状況です。

(カバー写真:Paul Sableman/Flickr)

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