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米4月貿易赤字は拡大、コロナ禍で中国からのPPE輸入が急増

by • June 10, 2020 • Finance, Latest NewsComments Off3027

April Trade Deficit Widens As Import From China Surge During Coronavirus Outbreak.

米4月貿易収支は494.08億ドルの赤字となり、市場予想の494億ドルとほぼ変わらなかった。前月の423.4億ドル(444億ドルから修正)から16.7%増加している。原油関連を除く貿易赤字も526.89億ドルと、前月の448.57億ドル(修正値)を上回った。

内訳をみると、輸出が前月比20.5%減の1,512.81億ドルと2ヵ月連続で2桁パーセント減となった。輸入も同13.7%減の2,006.90億ドルと4ヵ月連続で減少したが、輸出程ではなく赤字拡大につながった。新型コロナウイルス感染拡大に伴い米国を始め各国が経済活動を停止するなかで、貿易活動が停滞したことが分かる。なお、輸出と輸入の減少率はデータ取得可能な1992年以降で最大となる。

国内総生産(GDP)の算出に使用されるインフレを除いた実質ベースのモノの貿易赤字は799.80億ドルと、前月の759.19億ドル(修正値)から拡大した。

チャート;輸出入、記録的な落ち込みに。

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(作成:My Big Apple NY)

当該単月の輸出の内訳をみると、モノは前月比25.0%減と前月の7.6%減を含め2ヵ月連続でマイナスとなった。サービスを含めた6大項目別では、前月と同じく全滅。今回は自動車のほか消費財、資本財、産業財、サービスなど食品・飲料以外が2桁パーセント台の落ち込みをみせた。輸出項目別動向は、前月比で以下の通り。品目の順は金額ベースで増加、減少が激しかったものとなる。

(増加項目)
なし

(減少項目)
・自動車 65.8%減、過去5ヵ月間で3回目の減少<前月は16.7%減
→その他関連部品が67.1%減、乗用車が62.3%減、トラック・バスが72.5%減となった。

・消費財 29.7%減、3ヵ月連続で減少<前月は7.3%減
→携帯電話その他家庭用製品が34.2%減、ダイヤモンド宝飾品が74.3%減、芸術・古美術・切手が83.3%減となった。また、コロナ禍で外出が減り通院が細ったせいか医薬品も6.4%減となった。

・資本財 23.8%減、過去5ヵ月間で4回目の減少<前月は5.1%減
→民間航空機向けエンジンが48.7%減、民間航空機が84.3%減、産業機器が20.5%減となった。

・産業財 21.2%減、2ヵ月連続で減少<前月は7.7%減
原油が38.2%減、燃料が49.5%減、石油製品が24.4%減とエネルギー関連が押し下げた。

・食品/飲料 0.4%減、2ヵ月連続で減少>2.6%減
→米中貿易協議・第1段階の合意が維持される一方で、新型コロナウイルス感染拡大により食肉工場での生産活動に影響が及ぶなか肉類が10.7%減、その他が8.0%減に。一方で大豆は33.4%増、小麦も24.4%増と増加した。

・サービス 10.7%減、過去4ヵ月間で3回目の減少>前月は15.0%減
→世界中で渡航が制限されるなか旅行が44.7%減だったほか、輸送が46.5%減となった。

輸入の内訳をみると、モノは13.6%減と4ヵ月連続で減少した。原油価格が一時マイナスに振れたが、コロナ禍で需要が急減し量ベースでのエネルギー関連輸入は15.8%減と減少に反転。金額ベースでは、3ヵ月連続で下落した。エネルギー製品を除いたモノの輸入は前月比で11.3%減と、4ヵ月連続で減少。5大項目別では、4項目で減少し前月の2項目を上回った。今回、産業財のみが減少しただけで他は全て増加している。項目別動向は、前月比で以下の通り。

(増加項目)
・産業財 0.7%増、2ヵ月連続で増加>前月は0.6%増
非貨幣用金が1.4倍増だったほか、完成金属品が2倍増、化学肥料が27.2%増となった。

(減少項目)
・自動車 52.2%減、過去5ヵ月間で4回減少<8.7%減
乗用車が51.1%減、その他関連部品が51.9%減、トラック・バスが69.8%減だった。

・資本財 10.7%減、過去4ヵ月間で3回減少<前月は3.7%増
半導体が25.2%減、電気機器が17.7%減、民間航空機が43.4%減となった。

・消費財 6.6%減、4ヵ月連続で減少>前月は7.6%増
医薬品が7.9%減、第4弾の追加関税措置のうち、携帯電話などを対象とした555品目分が発動されず第1段階の合意が維持されるなか、服飾が33.3%減、ダイヤモンド・宝飾品は96.2%減となった。

・食品/飲料 6.0%減、過去3ヵ月間で2回目の減少<前月は2.4%増
→果物・冷凍果汁が14.5%減、野菜が10.0%減、ワイン・ビールなど関連品は12.2%減となった。

主要国・地域別でのモノの貿易収支動向の前月比は、通関ベースで以下の通り。

・中国 52.8%増の259.6億ドルの赤字、3ヵ月ぶりの高水準
・香港 99.9%減の200万ドルの黒字と、1998年8月以降で最小の黒字
・日本 24.5%減の36.4億ドルの赤字と2018年9月以来の低水準(日米貿易交渉は2019年8月末のG7首脳会談で合意)
・欧州連合 13.8%減の143.04億ドルの赤字と(2019年10月にWTOがエアバスの補助金に対する報復関税を承認、20年6月に米国は仏以外のデジタル課税導入国に通商法301条調査を行うと発表)
・英国 3.8億ドルの赤字と前月の1.8億ドルの黒字から転落(EUと同じく今年、通商協議入り)

主な産油国・地域との貿易収支は前月比、通関ベースで以下の通り。対メキシコの赤字が急増したが、5月ベージュブックではサプライチェーン途絶の懸念する先が中国から遅れて感染が拡大するメキシコに移っていた。

・カナダ 83.9%減の4.18億ドルの赤字、2019年3月以降で最小
・メキシコ 62.5%減の33.4億ドルの赤字
・OPEC 3.7%増の13.65億ドルの黒字と、少なくとも9ヵ月連続で黒字

年初来の貿易収支、貿易額、輸出入額をみると、コロナ禍でランキングが微妙に変化した。要点は以下の通り。

〇貿易赤字額
アイルランドが3月の5位から3位へ浮上、代わりにドイツと日本がそれぞれ1つずつランクダウンし4位と5位に
イが前月のトップ10圏外から10位に浮上、代わりにカナダが3月の10位からトップ10圏外へ転落

〇貿易額
台湾が前月の9位から8位に浮上、代わりにインドが9位へ転落
スイスがトップ10圏外から10位に浮上、代わりにフランスが前月の10位から圏外へ転落

〇輸出
→変化なし

〇輸入
中国が3月の2位から1位を奪取、代わりにメキシコが2位へ転落
スイスが前月のトップ10圏外から9位へ浮上、代わりに英国が前月9位から10位へ転落、またインドは前月10位だったものの4月に圏外へ転落

チャート:年初来の貿易収支など、()内の数字は前年同月のランキング

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(作成:My Big Apple NY)

――今回、輸出と輸入が過去最大の減少率を記録したものの、輸入のうち産業財のみ増加していました。その産業財のうち、特に増加が目立ったのは非貨幣用金。非貨幣用金とは何かというと、日銀によれば「通貨当局が準備資産として保有する金(貨幣用金)、および金投資口座等にかかる金(投資用金)以外の全ての金(工業用あるいは価値保蔵用の金)」を指します。価値保存用の金を含むため、金の延べ棒なども該当するだけに、安全資産として金の需要が大いに高まったと捉えられます。

国別では、中国の輸入が大幅に増加していました。経済活動の再開が効いたためで、輸入額規模の大きな品目は前月比で以下の通りとなっています。

・ノートパソコンなど 78.6%増の42.5億ドル
・スマートフォンなど 2.3%増の22.8億ドル
・マスクを含む繊維品その他 9.4倍増の19.2億ドル

そうなんです、コロナ禍で中国へのマスクを始め個人防具品(PPE)が一段と高まったことが、輸入額増加の一因となりました。中国以外の各国が工場閉鎖などの憂き目に遭っていたため、中国の4月の輸入急増は一時的と考えられます。それでも、基本的に中国が輸入1位というのが米国の泣き所ですよね。以下、チャートは全て項目別に上が新型コロナウイルス感染拡大発覚直前の1月時点、下が4月時点となります。

チャート:米国、PPEの輸入動向

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(作成:My Big Apple NY)

米中対立が再燃するなか、ファーウェイ関連を除き2018~19年のような貿易摩擦再燃が回避されているのは、こうした事情が背景にあるのかもしれません。だからこそ、トランプ政権は国防生産法(DPA)を駆使し、国内でのPPE生産拡大に励んでいるのでしょう。

(カバー写真:The National Guard/Flickr)

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