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米4月雇用統計は予想外に弱含み、年内テーパリング観測が後退

by • May 7, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2248

Job Growth Much Weaker Than Expected, Puts Less Pressure On the Fed To Talk About Tapering Prematurely.

<本稿のサマリー>

米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、新規コロナウイルス感染者数が2020年10月以来の5万人を割り込み、ワクチン接種を完了した米国人が30%を超え、経済活動の再開が進むなかでも、市場予想を大幅に下回る水準にとどまった。米4月ADP全国雇用者数にかすりもせず、米4月チャレンジャー人員削減予定数と同時に発表される採用予定数通り、雇用の伸び悩みをみせた。ただし、悪材料ばかりでもない。その他のポイントは、以下の通り。

(ポジティブ)

週当たり労働時間が35.0時間と、2006年以来の最長
平均時給は予想外に上昇、20年4月に急伸した反動で前月比、前年比ともに下落が見込まれていた
労働参加率は61.7%と、20年3月以来の水準へ改善
不完全失業率は10.4%と、20年3月以来の水準へ低下
家計調査でフルタイムの雇用が大幅増、パートタイムは2ヵ月連続で減少
コロナ禍で理由で職探しをしなかった労働者、20年3月以降で最低

(ネガティブ)

NFPは前月比26.6万人増、100万人増との期待を裏切る
・3月分のNFPは速報値の91.6万人増から77.0万人増へ大幅に下方修正
失業率は6.1%へ上昇、経済活動が再開し始めた20年5月以降で初めての上昇
長期失業者の割合は43.0%と2011年9月以来の高水準近くを維持、長期失業の指標は高止まりしており、追加経済対策で失業保険の上乗せが9月6日まで延長された影響か
労働市場の先行指標ともいえる派遣が2ヵ月連続で減少、フルタイムの増加と共に改善トレンドを表すのか注意

一連の結果を受け、イエレン財務長官による利上げ言及への警戒感とテーパリング開始への懸念が後退、米時間午前11時半時点で米金利は低下した。米株相場も超緩和政策維持のシナリオを先取りし、上昇した。

米4月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比26.6万人増となり、市場予想の100万人増を大幅に下回った。前月の77.0万人増(91.6万人増から下方修正)から急減速したものの、4ヵ月連続で増加した。7月1日からNY市が全面稼働する方針を決定するほど正常化が進むなかでも、企業側が求める人材と失業者との間でのスキルギャップがあるためか、大寒波の反動もあって急増した3月ほどの勢いが失われた。

2月分の6.8万人の上方修正(46.8万人増→53.6万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で7.8万人の下方修正となった。2~4月の3ヵ月平均は52.4万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。

今回までで20年5月以降、1,415万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと821.5万人必要となる。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと821.5万人増加する必要あり

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比21.8万人増と市場予想の93.8万人増を大幅に下回った。ただし、前月の70.8万人増(78.0万人増から上方修正)を含め、4ヵ月連続で増加した。民間サービス業は23.4万人増、ヘッドラインと同じく前月の54.2万人増(59.7万人増から下方修正)に遠く及ばないペースにとどまった。

チャート:NFPは4ヵ月連続で増加も小幅にとどまり、失業率は低下トレンドにブレーキ

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、政府を含め11業種中6種が増加し、前月から3業種減少した。今回最も雇用が増加した業種は2~3月に続き娯楽・宿泊で、3ヵ月連続で全体を支えた。続いて2~3月と同じく政府が入り、3位はその他サービスが入った。一方で、これまで増加を牽引していた専門サービス、輸送・倉庫、小売、教育など4業種は減少した。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・娯楽/宿泊 33.1万人増、3ヵ月連続で増加<前月は20.6万人増、6ヵ月平均は7.4万人増(そのうち食品サービスは18.7万人増、4ヵ月連続で増加>前月は10.0万人増、6ヵ月平均は4.3万人増)
・政府 4.8万人増、2ヵ月連続で増加<前月は6.2万人増、6ヵ月平均は0.1万人増
・その他サービス 4.4万人増、4ヵ月連続で増加<前月は3.9万人増、6ヵ月平均は1.6万人増

・金融 1.9万人増、2ヵ月連続で増加=前月は1.9万人増、6ヵ月平均は1.1万人増
・卸売 0.8万人増、9ヵ月連続で増加<前月は2.1万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・情報 0.1万人増、5ヵ月連続で増加<前月は0.8万人増、6ヵ月平均は0.6万人増

―横ばいの業種

・公益 横ばい<前月は0.1%増、6ヵ月平均は横ばい

―減少した業種

・教育/健康 0.1万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は10.4万人増、6ヵ月平均は2.7万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は1.9万人増、3ヵ月連続で増加<前月は5.1万人増、6ヵ月平均は2.0万人増)
・小売 1.5万人減、4ヵ月ぶりに減少<前月は3.3万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・輸送/倉庫 7.4万人減、4ヵ月ぶりに減少<前月は4.5万人増、6ヵ月平均は1.6万人増
・専門サービス 7.9万人減、12ヵ月ぶりに減少<前月は6.7万人増、6ヵ月平均は7.1万人増(そのうち派遣は11.1万人減、2ヵ月連続で減少<前月は0.8万人減、6ヵ月平均は2.2万人増)

財生産業は前月比1.6万人減と、前月の16.6万人増(修正値)より弱く過去4ヵ月間で3回目の減少となった。業種別をみると、製造業が最も落ち込みが大きく3ヵ月ぶりに減少。建設は横ばいにとどまり、鉱業/伐採は、3ヵ月ぶりに増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・鉱業/伐採 0.2万人増、3ヵ月連続で増加(石油・ガス採掘は1,500人増)<前月は1.5万人増、6ヵ月平均は0.4万人増
・建設 横ばい<前月は9.7万人増.、6ヵ月平均は2.1万人増
・製造業 1.8万人減、3ヵ月ぶりに減少<前月は5.4万人増、6ヵ月平均は2.2万人増

チャート:4月のセクター別増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:労働市場は改善続くも、どの業種もコロナ前の回復に至らず

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.7%上昇の30.17ドル(約3,300円)と、市場予想の横ばいに反し加速した。9ヵ月ぶりに下落した前月の0.1%の下落からも大幅に改善している。前年比は0.3%上昇し、市場予想の0.1%の下落に反する好結果に。前月の4.2%(4.2%から下方修正)に届かなかったとはいえ、上昇トレンド維持した。前年比の3%超えを15ヵ月で止めたが、これは同年4月に低賃金職が大幅に減少した影響で、前年比が上振れした統計上の歪に過ぎない。

チャート:平均時給は前年比で20年4月に7.8%も急伸した反動で大幅鈍化も、上昇を維持

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は35.0時間と、市場予想の34.7時間を上回っただけでなく前月の34.9時間も超え、2006年以来で最長に並んだ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.1時間と、新型コロナウイルス感染拡大直前の20年2月以来の水準に延びた前月の40.2時間(修正値)に届かず、全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.9時間と前月の33.8時間を上回り、2006年以降で最長を記録した1月に並んだ。

失業率は6.1%と、市場予想の5.8%だけでなく前月の6.0%も上回った経済活動が再開し始めた20年5月以来、上昇は初めてとなる。失業者が10.2万人増加しただけでなく、就業者数が32.8万人増と前月からほぼ半減していた。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は6.4%だったという。

失業率の上昇は、労働参加率の改善も一因。労働参加率は61.7%と、市場予想の61.6%だけでなく前月の61.5%を上回った。20年3月以来の高水準となる。感染者数の減少を受け、労働人口の増加は43.0万人増と前月を超え、労働参加率を押し上げた。

就業率は57.9%と20年3月以来の水準へ改善、過去最低だった20年4月の51.3%から上昇を続けた。

在宅勤務を行ったとする労働者の割合は18.3%と、前月の21.0%を下回りコロナ禍での最低を更新した。

チャート:在宅勤務を行う労働者の割合

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(作成:My Big Apple NY)

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は4月に285万人と、コロナ禍以降で最低となった。労働参加率の改善と、整合性をもつ。

チャート:職探しをしなかった非労働人口が減少、労働参加率を押し上げ

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(作成:My Big Apple NY)

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比で0.3%増の1億2,616万人、前月から35.8万人増加した。一方で、パートタイムは同0.2%減の2,502万人と前月から5.4万人減少、2ヵ月連続で減少した。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が大幅増加を遂げただけでなく、平均労働時間が延びたため、前月比0.5%増と2ヵ月連続で増加した。平均時給は前月比で下落したものの、労働時間が延びた事情もあって労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比1.2%増と、2ヵ月連続で1%台の伸びを遂げた。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は10.4%と、前月の10.7%を下回り20年3月以来の低水準だった。経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は、前月比10.0%減の524.3万人と2ヵ月連続で減少していた。

チャート:不完全失業率と労働参加率はゆるやかに改善続く

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均は28.8週と、2015年5月以来の30週に接近した前月の29.7週から短縮。失業期間の中央値は19.8週と、前月の19.7週を上回り2012年1月以来の水準へ延びた27週以上にわたる失業者の割合は43.0%と、2011年9月以来の高水準となった前月の43.4%から低下した。全体的に長期失業率は高止まりしており、追加経済対策で失業保険の上乗せ300ドルが9月6日まで延長されたことが影響した可能性を残す。

3)労働参加率 採点-〇
労働参加率は61.7%と、前月の61.5%を上回り20年3月以来の高水準。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保つ。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は高止まり

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-〇
今回は前月比0.7%上昇し、9ヵ月ぶりにマイナスだった3月から改善、前年比は20年4月に急伸した反動で0.3%の上昇にとどまる。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.8%上昇の25.45ドル。前年比では同じく統計上の問題で1.2%の上昇にとどまったが、管理職を含めた全体の1.2%を上回った。

(カバー写真:NCDOTcommunications/Flickr)

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