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米5月雇用統計:働き盛りで労働参加率は低下、学歴で明暗

by • June 6, 2021 • Latest News, NY TipsComments Off2653

Labor Participation Rates Decline In Almost Every Races And Ages.

米5月雇用統計は、非常業部門就労者数(NFP)が市場予想以下にとどまり、失業率は労働参加率に引っ張られ低下するなど、労働市場の回復がゆるやかにとどまっている姿を映し出しました。お陰で、早期のテーパリング観測が後退し、それに伴いゴルディロックス経済万歳というわけで米株高・金利低下で反応したものです。

ただ、雇用の最大化を目指す米連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーにとっては、喜ばしい結果とは言えません。タカ派寄りだったクリーブランド地区連銀のメスター総裁ですら、雇用統計発表後に「一段の進展をみたい」と発言しテーパリングに慎重な姿勢を示しただけでなく、一部の雇用指標が「コロナ前の水準を回復できない可能性」に言及していました。6月1日には、イエレン財務長官がかつて総裁を務めたサンフランシスコ地区連銀が、労働市場のたるみをめぐり「指標が表すより大きい」とするレポートを公表しています。

労働市場は、市場が予想したほど急速に回復しない可能性を示すなか、業種別の平均時給を始め、人種や学歴別などでどのような結果になったのでしょうか?以下、詳細を追っていきます。

〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は0.5%上昇の25.60ドル、前年比は2.4%の上昇し、管理職を含めた全体の2.0%を超えた。

業種別を前月比でみると、平均時給の伸び0.5%以上だったのは13業種中で7業種となり、前月の6業種を上回った。1位は輸送・倉庫で2.4%、2位は金融で1.7%、続き娯楽・宿泊(1.2%)、その他サービス(0.7%)、専門サービス(0.7%)、卸売(0.6%)、製造業(0.5%)となった。一方で、教育・健康を始め情報、鉱業・伐採、公益の4業種は前月比で低下した。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

娯楽・宿泊はNFPの52.2%を占め、人手不足が深刻とされる割に賃金の伸びが前月の2.8%から1.2%へ鈍化した。小売も、前月の1.8%を下回る0.2%にとどまり、両部門が足元賃上げを主導してきたと思われるが、共和党知事州を軸に6月5日までに25州で失業保険給付上乗せなど特例措置を撤廃するなか、賃上げ圧力は後退しつつあるかのようだ。ただし、ネット小売の加速を受けて輸送・倉庫が前月の0.7%から2.4%へ加速原材料価格の高騰に直面する製造業も6ヵ月ぶりの高い伸びとなり、一部では依然賃上げ圧力が残る。

チャート:共和党知事を擁する25州で、失業保険給付上乗せなどの撤廃決定

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(作成:My Big Apple NY)

〇労働参加率

働き盛りの男性(25~54歳)の労働参加率は、全米が61.6%と2020年3月以来の水準へ回復した前月の61.7%を下回ったように、若い世代を軸に低下が優勢。特に25~34歳の全米男性と白人男性の場合、前月の上昇分をほぼ打ち消した。以下、季節調整済みで、白人は季節調整前となる。

・25~54歳 87.8%=前月は87.8%と6ヵ月ぶりの水準を回復、6ヵ月平均は87.6%
・25~54歳(白人) 89.0%<前月は89.1%と6ヵ月ぶりの水準を回復、6ヵ月平均は88.9%
・25~34歳 87.4%<前月は87.8%と20年3月以来の水準を回復、6ヵ月平均は87.2%
・25~34歳(白人) 88.6%<前月は88.9%と6ヵ月ぶりの水準を回復、6ヵ月平均は88.5%

チャート:働き盛りの男性、労働参加率はそろって5ヵ月ぶりの水準を回復

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性は、25~54歳、25~34歳で共に低下した。

・25~54歳 75.0%、3ヵ月ぶりの低水準<前月は75.1%、6ヵ月平均は75.0%
・25~34歳 75.8%<前月は76.0%と2020年3月以来の水準を回復、6ヵ月平均は75.6%

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で0.7%減の660万人(男性は348.2万人、女性は311.8万人)。過去最多をつけた20年4月でピークアウトし、20年3月以来の低水準となる。ただし、減少率は小幅にとどまった。

男女別では男性が前月比10.6%増と6ヵ月ぶりに増加し、12ヵ月ぶりに男性が女性を上回った。た。労働市場の需要と供給が引き続きマッチせず、雇用が進まない状況を表す。

チャート:就職を望む非労働力人口、高止まりが続く

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の労働参加率は、アジア系以外のみ上昇した。全般的に低下し、特に白人は再び20年5月以来の低水準へ戻した黒人も、3ヵ月ぶりに低下した。

・白人 61.4%、20年5月以来の低水準<前月は61.5%、20年2月は63.2%
・黒人 60.9%<前月は61.2%と20年3月以来の水準を回復、20年2月は63.1%
・ヒスパニック 65.3%=前月は65.3%、20年2月は68.0%
・アジア系 63.4%、20年8月以来の高水準>前月は62.8%、20年2月は64.1%
・全米 61.6%<前月は61.7%と20年3月以来の水準を回復、20年2月は63.3%

チャート:人種別の労働参加率

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、労働参加率に合わせ軒並み低下した。労働参加率が改善したアジア系も、低下。アジア系を除き、全て2020年3月以来の水準まで低下したが、コロナ直前となる20年2月の水準には程遠い

・白人 5.1%、20年3月以来の低水準<前月は5.3%、20年2月は3.0%
・黒人 9.1%、20年3月以来の低水準<前月は9.7%、20年2月は6.0%
・ヒスパニック 7.3%、20年3月以来の低水準<前月は7.9%、20年2月は4.4%
・アジア系 5.5%、3ヵ月ぶりの低水準<前月は5.7%、20年2月は2.4%
・全米 5.8%、20年3月以来の低水準<前月は6.1%、20年2月は3.5%

白人黒人の失業率格差は4.0ポイントと前月の4.4ポイントから縮小も、トランプ前政権で記録した19年8月の1.8ポイント超えの水準を保つ

チャート:黒人と白人の失業率格差

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(作成:My Big Apple NY)

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、中卒以外で全て上昇した。特に大卒以上は、20年3月に成立した追加経済対策で盛り込まれた失業保険給付上乗せが期限切れを迎えた20年8月以来の水準へ戻した。逆に中卒は、経済活動停止の影響が残り20年5月以来の水準へ低下した。

・中卒以下 42.8%、20年5月以来の低水準<前月は44.2%、、20年2月47.7%
・高卒 55.5%、5ヵ月ぶりの水準を回復>前月は55.3%、20年2月は58.3%
・大卒以上 72.5%、20年8月以来の水準を回復>72.2%、20年2月は73.2%
・全米 61.6%<前月は61.7%と20年3月以来の水準を回復、20年2月は63.3%

学歴別の失業率は全て低下。特に、労働参加率も改善した高学歴で低下が著しく、特に大学院卒は20年3月の水準に並んだ。労働参加率が低下した中卒以下でも、失業率は改善したが、労働人口の減少が一因と考えられる。

・中卒以下 9.1%<前月は9.3%、20年2月は5.8%
・高卒 6.8%<前月は6.9%、20年2月は3.5%
・大卒 3.2%、20年3月以来の水準を回復<前月は3.5%、20年2月は1.9%
・大学院卒以上 2.5%、20年3月の水準と一致<前月は2.7%、20年2月は1.7%
・全米 5.8%、20年3月以来の低水準<前月は6.1%、20年2月は3.5%

チャート:学歴別の失業率

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(作成:My Big Apple NY)

--4月の雇用統計を詳細にみると、①共和党知事州で失業保険給付上乗せなどの廃止が決定するなか、娯楽・宿泊や小売で賃上げ圧力が後退、②労働参加率は働き盛りの世代で低下が優勢、特に25~34歳で目立つ、③働く意欲を持ちながら非労働人口となっている男性が増加、④人種別ので労働参加率はアジア系除き低下、⑤学歴別では労働参加率と失業率ともに大学卒など高学歴で改善進む――といった実態が浮かび上がりました。

労働市場の改善はまだら模様で、パウエルFRB議長が記者会見で必ず言及する「最も打撃を受けた層」では回復ペースが鈍化しつつあります。FRBは、統治目標である雇用の最大化を踏まえ、2%超えのインフレ容認の立場を採用中。従って資産買入の縮小の議論開始に着手したとしても、テーパリング開始の議論が始まった2013年3月FOMCから、同年5月のバーナンキFRB議長による言及とテーパー・タントラムを経て9ヵ月を擁したように、時間が掛かってもおかしくありません。足元で住宅市場の過熱は冷めつつありますが、状況によってはMBSの買入縮小に的を絞るシナリオに留意したいところです。

(カバー写真:Dennis Freeland/Flickr)

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