U.S. Consumers Keep Spending Despite Inflation Fears.
米10月個人消費支出は前月比1.3%増と、市場予想の1.0%増を上回った。前月の0.6%増を超え3月以来、7ヵ月ぶりの高い伸びだったほか、年初来で8回目の増加となる。
個人所得は同0.5%増と、市場予想の0.2%増を上回った。4ヵ月ぶりに減少した前月の1.0%減から増加に転じた。年初来で6回目のプラスとなる。前月の減少は失業保険給付上乗せが9月6日に終了した特殊要因で、賃金・給与が引き続き所得を支えた。
個人消費支出の伸びが所得を上回ったため貯蓄率は7.3%と、新型コロナ感染拡大直前の水準(8.3%)を下回った。7月15日から開始した1人当たり最大300ドルの子育て世帯向け税額控除の前払いが開始するほか、年末商戦の先取りもあって個人消費は増加したが、貯蓄率が低下しただけに裁量消費余地が狭まったかたちだ。詳細は以下の通り。
〇個人消費支出
→子育て世帯向けの税控除前払いや賃金上昇を支えに、3ヵ月連続で増加した。米10月新車販売台数が20年5月以来の低水準近くを維持したものの、耐久財は3ヵ月連続で増加。ガソリン価格が高騰し約7年ぶりの水準を付けるなか、食品や雑貨、光熱費などが支え、非耐久財も3ヵ月連続で増加した。デルタ株感染拡大が8月末でピークアウトするなか、サービスは8ヵ月連続で増加し個人消費支出全体を支えた。
・前月比1.3%増と市場予想の1.0%超え、9月は0.6%増
・前年比12.0%増と8ヵ月連続で増加、9月は11.0%増
・インフレを除く実質ベースでの個人消費は前月比0.7%増と年初来で7回目の増加、9月は0. 3%増
・前年比では6.6%増と8ヵ月連続で増加、9月は6.3%増
個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 2.2%増と年初来で7回目のプラス、前月は0.9%増
・耐久財 3.3%増と3ヵ月連続で増加し年初来で6回目のプラス、前月は0.7%増
・非耐久財 1.6%増と年初来で6回目のプラス、前月は1.0%増
・サービス 0.9%増と8ヵ月連続で増加し年初来で9回目のプラス、前月は0.5%増
チャート:個人消費、前月比の項目別内訳
〇個人所得
→子育て世帯向けの税控除前払いや賃金・給与が支え、所得は再び増加した。賃金・給与は、8ヵ月連続で増加。その他、住宅価格の高騰を受け賃貸需要が高まり、家賃収入も4ヵ月連続で増加した。なお、米疾病対策センター(CDC)は8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が8月26日に無効の判断を下した結果、家賃の上昇が進み始めている。
・前月比0.5%増と年初来で6回目のプラス、市場予想の0.2%超え、9月は1.0%減
・前年比では5.9%増と6ヵ月連続で増加、9月は5.2%増
・実質ベースでは前月比0.2%減と年初来で6回目のマイナス、9月は1.3%減
・前年比は0.8%増と年初来で6回目のプラス、8月は0.7%増
所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。
・賃金/所得 0.8%増と8ヵ月連続で増加(民間は1.0%増、政府部門は横ばい)、前月は0.8%増
・経営者収入 横ばい(農業は3.1%減、非農業は0.2%増)、前月は0.8%減
・家賃収入0.3%増と4ヵ月連続で増加、前月は1.2%増
・資産収入 0.9%増(金利収入が0.6%増、配当が1.2%増)、前月は0.2%増
・社会補助 0.5%減と2ヵ月連続で減少、前月は6.9%減
・社会福祉 0.7%減と2ヵ月連続で減少、前月は7.0%減(メディケア=高所得者向け医療保険は0.9%増と6ヵ月連続で増加、メディケイド=低所得者層向け医療保険は0.9%減と2020年11月以来の減少、失業保険は53.4%減と7ヵ月連続で減少、退役軍人向けは1.4%増と増加基調を維持、その他は14.8%増)
チャート:個人所得、前月比の項目別内訳
〇可処分所得
・前月比0.3%増、9月の1.3%減から転じ年初来で6回目のプラス
・前年比は4.1%増と年初来で9回目のプラス、9月は3.3%増
・実質ベースの可処分所得は0.3%減、前月の1.6%減を含め3ヵ月連続で減少
・前年比は0.9%減と過去6ヵ月間で6回目の減少、9月は1.1%減
〇貯蓄率
・7.3%、8月の9.2%を下回りコロナ前の2019年12月以来の低水準
チャート:実質の個人消費は、貯蓄率の低下と共に大幅に伸びが縮小
〇個人消費支出(PCE)デフレーター
→油価の上昇やサプライチェーン途絶による影響を受け、上振れ傾向が続く。PCEデフレーターの前年比は1990年11月以来、コアPCEも1991年1月以来の高い伸びを記録した。インフレ加速は一時的との見方を示していたFRBだが、9月FOMCでは参加者はインフレ見通しを上方修正し、11月FOMC議事要旨で判明したようにテーパリング加速に議論が飛び交うなど、物価高への警戒を強めている。
・PCEデフレーターは前月比0.6%上昇し市場予想の0.5%超え、9月は0.4%の上昇(0.3%から上方修正)
・前年比は5.0%上昇し市場予想の5.1%以下ながら1990年11月以来の高い伸び、9月は4.4%の上昇
・コアPCEデフレーターは前月比0.4%上昇し市場予想と一致、9月は0.2%の上昇
・コアPCEの前年比は4.1%上昇し市場予想と一致、9月の3.7%から加速し1991年1月以来の高い伸び
チャート:物価上昇を受け、実質賃金の伸びを抑制へ
――米10月個人消費は前月比1.3%増と力強い増加を達成、インフレを除く実質ベースでの個人消費も同0.7%増と鈍化しつつ、旺盛な需要を感じさせます。JPモルガン・チェースでは、10~12月期の実質GDP成長率見通しを、従来の前期比年率5.0%増から7.0%増へ大幅に上方修正しました。
その半面、やはり気になるのが所得と貯蓄率です。実質ベースでの所得は、いくら賃上げしようにもインフレ加速が吸収し、マイナス傾向が続きます。貯蓄率もコロナ直前の水準を下回り、心配性な日本人としては裁量消費の余地縮小を懸念してしまいます。
新たな変異株オミクロンの影響は未知数ですが、米国でも冬に向かい感染者数が徐々に増加中。11月23日時点では10万636人となり、過去約2週間の間に10万人超えは7回目となりました。7日平均では約9.4万人と10月9日以来の水準へ増加しています。
チャート:米国での新型コロナウイルス感染者数、年末商戦にかけ増加
バイデン大統領が26日に公表した声明によると、ひとまず南アその他7ヵ国に11月29日から渡航制限を課します。デルタ株感染拡大を踏まえれば、オーストリアと違ってロックダウンを見込んでいないもよう。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、26日付けの論説で「ロックダウンは経済に打撃しか与えない」との見解を寄せていました。中間選挙を控え支持率が低下するなかでは、余程事態が悪化しない限り、米国がロックダウンを決断する可能性は低いでしょう。
(カバー写真:Elvert Barnes/Flickr)
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