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12月ベージュブック:半導体や鉄鋼など、一部の価格上昇が一服

by • December 5, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off2606

Beige Book : Semiconductors And Certain Steel Products Led to Easing Of Some Price Pressure.

米連邦準備制度理事会(FRB)が12月1日に公表したベージュブック(10月から11月前半まで)によると、米経済活動をめぐる表現は、前回に続き「経済活動は、大半の地区で緩慢からゆるやかなペースで拡大した」とされた。ただし、詳細をみると、デルタ株感染拡大が収束しつつあるなか「新型コロナウイルス(デルタ株含め)」、「不確実性」、「不足」などの文言は前回から減少した。また、感染者減少による正常化を背景に半導体や一部の鉄鋼製品の価格の上昇圧力緩和が指摘された。

見通しをめぐっては「短期的な見通しは大半で引き続きポジティブだったが、複数(some)の地区では供給制約と人手不足への困難がいつ緩和するのかについて不確実性を指摘した」という。前回の「短期的な見通しに楽観的だったが、複数の地区では不確実性の高まりを指摘したほか、前回より楽観度に慎重さが強まったと報告」と比べ、前向きな姿勢がやや強まったようにみえる。

人手不足が深刻な問題と位置付けられるなか、ワクチン接種義務化は前回より深刻な問題として扱われた。なお、バイデン政権は9月9日、ワクチン接種義務化を強化。そのうちの1つに、100人以上の従業員を抱える企業へのワクチン義務化あるいは週1回の陰性証明の提出が盛り込まれた。シカゴ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動は、大半の地区連銀で10月から11月前半にかけ緩慢からゆるやかなペースで拡大した。しかし、一部(several)の地区は力強い需要にも関わらず、供給網の制約や人手不足によって成長ペースは抑制されたと報告した。短期的な見通しは大半で引き続きポジティブだったが、複数(some)の地区では供給制約と人手不足への困難がいつ緩和するのかについて不確実性を指摘した。

前回:経済活動は、大半の地区で緩慢からゆるやかなペースで拡大した。しかし、一部の地区では、供給網の制約や人手不足、デルタ株を巡る不確実性などによって成長ペースは抑制され、鈍化した。短期的な見通しに楽観的だったが、複数の地区では不確実性の高まりを指摘したほか、前回より楽観度に慎重さが強まったと報告した。

<個人消費、製造業活動、建設活動、融資、農業、エネルギー>

個人消費は緩慢に拡大し、在庫薄により自動車を始め複数の商品での販売動向を抑えた。デルタ株感染者数が減少したため、娯楽と宿泊の活動は大半の地区で回復した。
・建設活動は概して拡大したが、資材や労働者の不足を受けて抑えられた。
・飛空宅建設活動は広範にわたって拡大した一方で、住宅不動産は複数の地区で拡大も、他では縮小した。
・製造業の活動は全体的に堅調だったが、資材や労働者の不足が拡大を限定的とした。
貨物量の増加により、物流システムが抑制された。
・エネルギー活動は概して強まり、専門サービスは幅広く異なり、教育と健康の需要は概して変わらなかった。
・融資の需要はほぼ全ての地区で拡大したが、複数の地区では住宅ローンで縮小を報告した。
・農業は全体的に財務面で改善し、土地も値上がりした。

前回:
・個人消費は大半の地区でポジティブな成長を示した。しかし、自動車販売は在庫ひっ迫と価格高騰を受け、幅広く減少した。旅行や観光は地区によってまちまちで、娯楽や観光の活動で力強さを確認した一方、他の地区ではデルタ株感染拡大や新学期入りを背景に減少した。
・製造業の活動はトラック輸送や配送などのように、ゆるやかから活発なペースで拡大した。
・非製造業の活動は、大半の地区でわずかからゆるやかなペースで拡大した。
・融資需要は概して、横ばいから緩慢だった。
・住宅不動産の活動は横ばいあるいはわずかに鈍化したが、市場自体は引き続き健全だった。
・全般的に非住宅不動産の活動は地区や市場セグメントによって、まちまちだった。
・農業の状況はまちまち、エネルギー市場は概してほぼ変わらなかった。

<雇用、賃金>

雇用の伸びは、緩慢から力強い範囲で拡大した。企業は活発に採用活動を行うものの、採用や雇用確保が引き続き困難となった。娯楽・宿泊と製造業では雇用の増加がみられたが、多くは人手不足により操業時間を抑えざるを得ないと報告した。その他一部の企業は、労働者不足により需要に応じられない状況を指摘した。人手不足の背景として、託児所不足や引退者の増加、コロナ関連への懸念が幅広く指摘された。ほぼすべての地区で力強い賃金の上昇を報告。採用が困難で転職率が高止まりするなか、企業は賃上げや賞与、柔軟な労働時間の提供などといったインセンティブを提供した。

前回:雇用は足元、人材への需要が高まるなか、人手不足の状況が労働市場の伸びを抑えたため、緩慢からゆるやかなペースで拡大した。輸送とテクノロジー関連の企業は特に人手不足が深刻で、その他、多くの小売、宿泊、製造業などは十分な人材を確保できないなかで、労働時間や生産活動を削減せざるを得なかった。企業は、転職や引退などによる離職者の増加を報告。コロナ関連の他、託児所不足やワクチン接種義務化が、幅広く離職の問題点として挙げられた。多くの企業は、採用候補者の能力を拡大すべく、職業訓練を拡充した。いくつかのケースで、企業は人手不足を補うべく自動化を進めた。大半の地区は、賃金の力強い上昇を報告。企業は人材確保のため新入社員の賃金を引き上げ始めたほか、従業員確保を目指し賃上げを行った。多くの企業はまた、残留特別賞与を提示し、労働時間の柔軟化を図り、休暇を増やすなど従業員にインセンティブを与えた。

<物価>

物価はゆるやかから力強いペースで上昇し、広範囲にわたるセクターで幅広く値上がりした。原材料への力強い需要や物流上の問題、人手不足を反映し、需要仕入れコストの上昇を確認した。半導体や一部の鉄鋼製品など仕入れが容易になった製品では、一部で価格上昇圧力が緩和した。力強い需要が追い風となり企業の値上げには反発が少ない状況だが、契約上の義務により複数の企業は値上げを実行できなかった。

前回:大半の地区は、物価をめぐり財や原材料の需要拡大に押し上げられ、著しい高止まりを報告した。仕入れコストは、供給網のボトルネックによる品不足を受け、産業全般にわたって幅広く上昇した。価格上昇圧力は、コモディティ不足のほか、輸送量の増加、人手不足によって生じた。鉄鋼、電子部品、配送コストは期間中に大幅に上昇した。多くの企業は、力強い需要を背景に、コスト負担を消費者に上乗せし販売価格を引き上げた。将来の価格見通しはまちまちで、一部で高止まりを予想する一方、他は向こう1年の間にゆるやかな方向へ落ち着く見通しを示した。

<経済活動に関するキーワード評価>

経済活動の表現に関するキーワードの登場回数は、経済活動の表現が変わらなかったものの、「拡大(increased)」や「力強い」、「ポジティブ」を始め、全体的にポジティブな文言が増加した。さらに「decline」や「decrease」など「減退、減少」を表す言葉が減少。デルタ株の感染者数の減少に加え、前述の通り一部の半導体や鉄鋼製品など供給制約の緩和も手伝い、景況に明るさがみられた。何より、「不確実性(uncertain)」は今回15回と、前回の26回から大幅減となった。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→204回>前回は181回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→96回>前回は87回
「ポジティブ(positive)」→19回>11回
「ゆるやか(moderate)」→74回>前回は73回
「緩慢、控え目など(modest)」→65回>前回は52回
「安定的(stable)」→11回<前回は14回
「弱い(weak)」→13回>前回は11回
「低下(decline)」→22回<前回は30回
「減退(decrease)」→8回<前回は12回
「不確実性(uncertain)」→15回<前回は26回

<関税、中国、不確実性、新型コロナなどのキーワード評価>

米中で第1段階の通商合意が成立したほか、バイデン政権が始動しつつ、今回「関税」が20年12月分公表以来、1年ぶりに1回登場した。バイデン政権と欧州連合(EU)が10月末に合意した鉄鋼・アルミ追加関税措置緩和が影響し、鉄鋼アルミ製品に一定数量まで追加関税を課さないとする関税割当(TRQ)につき「22年早々に導入されれば、更なる物流の混乱や不確実性につながる」と指摘された。

一方で、引き続き「中国」はゼロとなった。デルタ株感染拡大が収束しただけでなく、一部の供給網の制約が緩和した結果「不確実性」は前述の通り15回と、20年9月以来で最多だった前回の26回を大きく下回った「新型コロナウイルス(デルタ株含む)」の言葉自体も29回と、前回の46回から減少した

チャート:デルタ株感染拡大が落ち着き、一部の製品の供給制約も緩和され「不確実性」の登場回数は前回から大幅減

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(作成:My Big Apple NY)

<その他のキーワード評価>

サプライチェーン制約が企業活動拡大に制約となるように、「不足」との言葉は今回54回と、前回の74回、9月分の77回から大幅に減少した。今回のベージュブックで「半導体や一部の鉄鋼製品など仕入れが容易になった製品では、一部で価格上昇圧力が緩和した」とあったように、供給制約が徐々に解消されつつある可能性を示唆した。

チャート:「不足」の登場回数は、今回54回と大幅減

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(作成:My Big Apple NY)

――今回のベージュブックでは、経済活動の表現が変わらずながら、コロナ関連の文言に加え「不足」、「不確実性」などの文言の登場回数が減少しました。デルタ株感染拡大に落ち着きがみられた結果、9月分や10月分より経済状況が改善したとみられます。

一方で、引き続きワクチン義務化に掛かる問題が浮かび上がりました。「義務化(mandate)」は今回15回登場し、9月分→2回、10月分→9回と徐々に増加しています。今回の15回のうち、1回は前回と同様に困難な採用活動の理由に挙げられたほか、地区連銀別では14回で以下の通り。

・ボストン地区連銀 5回>前回は2回
→見通しはポジティブだが、回答者はインフレや供給制約、ワクチン義務化による労働市場の影響などの不確実性を表明した。
→雇用は緩慢に拡大したが、ワクチン義務化を受け転職者が増加し、従業員数を押し下げた。
→人手不足は託児所不足や介護のニーズに加え、賃上げ要求の高まりのほか、ワクチン義務化へのためらいによって生じた。
→企業は、ワクチン義務化による雇用の減少ケースが増加したと報告した。
→企業はワクチン義務化に対しまちまちな見解を有し、一部は人手不足への脅威と位置づけ、他方は一時的な混乱に過ぎないと予想した。

・フィラデルフィア地区連銀 5回>1回
ワクチンの義務化が一部の従業員の障害となった。
大手の専門性の高い企業がワクチン接種を義務付けることが早々に可能になった半面、労働者が従順ではない他の企業が直面る課題によって相殺された。
ワクチンの義務化への受け入れは、労働者全体でまちまちとなった。
多くの専門性の高い大手企業やヘルスケア、その他関連業種、特に都市部で義務化につき比較的高い協力が得られたが、その他製造業や小売、派遣、サービス業種などで接種率は40%程度と、ワクチン義務化は毎週の検査の導入に暗い見通しをもたらした。

・クリーブランド地区連銀 2回>前回はゼロ
→一部の企業は、ただでさえ採用が困難な状況とあって不利になるとし、ワクチン義務化の導入に消極的だった。
・今後は企業の事業活動が拡大するに伴い、人材への需要は引き続き堅調に推移すると予想される。また、ワクチン義務化やインフラ法案に関連する連邦政府の動きにより、法令順守やエンジニアリング・ソリューションに対するニーズを一段と高めると見込む。

・ミネアポリス地区連銀 1回>前回はゼロ
→一部の大手企業は過去3ヵ月間で従業員が減少したと報告し、恐らく連邦政府によるワクチン義務化が理由と考えられる。

・ダラス地区連銀 1回>前回はゼロ
→一部の企業は、労働市場が逼迫するなか、ワクチン義務化により雇用が一段と困難になるとの懸念を寄せた。

今回、民主党知事州が多いボストン地区連銀、フィラデルフィア地区連銀の他、共和党知事州の多いダラス地区連銀など幅広く登場しました。特にフィラデルフィア地区連銀は前回の「多くの企業でワクチン接種義務化を課したものの、離職者数はほとんど確認されなかった」との表現が消え、ワクチン義務化が労働市場の「障害」になったと明確化しています。

米11月雇用統計では、ワクチン義務化の影響は政府や小売、教育・健康の雇用以外を除くと限定的に見えます。11月こそ労働参加率の改善と失業率の低下が実現したものの、今後はオミクロン変異株の影響もあって、労働市場の回復にブレーキが掛かる気配が漂ってきました。

(カバー写真:Marco Verch Professional Photographer/Flickr)

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