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米11月雇用統計・NFPは失望誘うも、労働参加率と失業率は改善

by • December 5, 2021 • Finance, Latest NewsComments Off1955

Job Growth Disappoints The Market, But Labor Participation Rate Improves.

<本稿のサマリー>

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、年初来で最も小幅な伸びにとどまりました。デルタ株感染拡大を経て新型コロナウイルス感染者が減少し、経済が再び正常化したにも関わらず、年末商戦の臨時雇用が減速したため大幅鈍化したとみられます。

失業率は改善基調をたどり、2020年2月以来の低水準となりました。今回は労働参加率がコロナ禍で最大を更新した点が心強い。ただ、米失業保険給付上乗せが9月6日に終了した割りに、長期失業者の指標の改善にブレーキが掛かった点は気掛かりです。平均時給は、労働参加率が改善したことを一因に、前月比と前年比ともに予想以下にとどまりました。パウエルFRB議長が11月30日の米上院銀行委員会でインフレ高止まりが「一時的」とする表現を撤回する方向性を打ち出しましたが、労働参加率の改善で賃上げ圧力が減退する可能性を示唆しています。

今回の結果を受け、米株の主要3指数は反落、米10年債利回りは低下しました。ただし、失業率の低下を受けテーパリング加速は既定路線であると想定され、ドルは対ユーロなどで小幅高だった一方、対円ではオミクロン株の影響をにらみ下落しました。今回のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・過去2ヵ月分では合計で8.2万人の上方修正
・雇用の先行指標である派遣が2ヵ月連続で増加
・週当たり労働時間は前月超え、財部門が支え
・失業率は4.2%、20年2月以来の低水準
・就業率は59.2%、20年3月以来の水準を回復
・労働参加率は61.8%、2020年3月以来の水準へ改善
・不完全就業率は7.8%、コロナ感染拡大直前の20年2月以来の低水準
・フルタイムの雇用が増加(パートタイムも増加)

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFPの増加幅が再び鈍化
・業種別で小売が減少、政府は4ヵ月連続で減少
・平均時給は前月比と前年比で予想以下、前月比は直近で最も小幅な伸び
・長期失業者の割合は31.6%と20年9月以降で最低、失業期間の中央値なども軒並み改善

米11月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比21.0万人増となり、市場予想の45万人増を下回った。前月の54.6万人増(53.1万人増から上方修正)を超え、3ヵ月ぶりの高い伸びに。年初来から11ヵ月連続の増加となる。8月2日に成人人口における1回以上のワクチン接種率が70%を突破し、デルタ株感染拡大も9月以降にピークアウトした結果、ゆるやかな雇用の回復が続く半面、オミクロン株の影響が今後の懸念材料となる。

9月分の6.7万人の下方修正(31.2万人増→37.9万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で8.2万人の上方修正となった。9~11月の3ヵ月平均は37.8万人増と、コロナ禍前の2019年平均である16.8万人増を大幅に上回った水準を維持した。

20年5月以降、今回で1,845万人の雇用を取り戻した。ただ、同年3~4月の記録的な減少(2,236万人)を打ち消し同年2月の水準を回復するには、あと約391万人必要となる。

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと約391万人増加する必要あり

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比23.5万人増と市場予想の53.0万人増を下回った。前月の62.8万人増(60.4万人増から上方修正)を含め、11ヵ月連続で増加した。民間サービス業は17.5万人増、前月の53.4万人増(49.6万人増から上方修正)を下回った

チャート:NFPは11ヵ月連続で増加し、失業率は20年2月以来の水準に低下

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で7種が増加した。今回最も雇用が増加した業種は専門サービスで前月の2位からトップに浮上、続いて年末商戦の影響から輸送・倉庫が入り、3位は前月1位だった娯楽・サービスが入った。一方で、前月に続き公立学校の教員などが押し下げ政府が減少4ヵ月連続で減少したほか、小売や情報も減少。公益は横ばいにとどまった。

業種別のうち、教育・健康のうちヘルスケアの伸びが大幅に鈍化し、政府も4ヵ月連続で減少した。この背景として、ワクチン接種義務化による影響が一因と考えられよう。ブルームバーグによれば、バイデン政権はワクチン未接種職員の年内解雇控えるよう省庁に通達したという。バイデン政権によれば、米連邦職員の92%が1回以上ワクチンを接種済みで、4.5%は免除が認められたか申請中とされ、約12万人の職員が接種義務に従っていないことになるという。筆者の周辺では、州・地方政府職員や金融業界、広告業界などで接種免除を申請したが、却下されたとの声が聞かれている。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・専門サービス 9.0万人増、7ヵ月連続で増加<前月は12.1万人増、6ヵ月平均は10.4万人増(そのうち派遣は0.6万人増、7ヵ月連続で増加<前月は5.9万人増、6ヵ月平均は2.4万人増)
・輸送/倉庫 5.0万人増、7ヵ月連続で増加<前月は6.0万人増、6ヵ月平均は5.3万人増
・娯楽/宿泊 2.3万人増、10ヵ月連続で増加<前月は17.0万人増、6ヵ月平均は19.6万人増(そのうち食品サービスは1.1万人増<前月は12.2万人増、6ヵ月平均は11.7万人増)

・金融 1.3万人増、9ヵ月連続で増加<前月は2.6万人増、6ヵ月平均は1.7万人増
・その他サービス 1.0万人増、2ヵ月連続で増加<前月は3.6万人増、6ヵ月平均は3.3万人増
・卸売 0.8万人増、3ヵ月連続で増加<前月は1.3万人増、6ヵ月平均は1.1万人増

・教育/健康 0.4万人増、11ヵ月連続で増加<前月は5.9万人増、6ヵ月平均は5.1万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は0.6万人増、10ヵ月連続で増加<前月は4.6万人増、6ヵ月平均は2.7万人増)

―横ばいの業種

・公益 横ばい=前月も横ばい、6ヵ月平均は0.1万人減

―減少した業種

・情報 0.2万人減、13ヵ月ぶりに減少<前月は1.1万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・小売 2.0万人減、4ヵ月ぶりに減少<前月は3.8万人増、6ヵ月平均は2.7万人増
・政府 2.5万人減、4ヵ月連続で減少>前月は8.2万人減、6ヵ月平均は4.3万人増

財生産業は、前月比6.0万人増となった。前月の9.4万人増(修正値)を下回りつつ、7ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が7ヵ月連続で増加したほか、建設も住宅市場の在庫ひっ迫と価格高騰を受け、3ヵ月連続で増加した。油価がオミクロン株の影響で70ドル割れを迎えたせいか、鉱業・伐採が10ヵ月ぶりに減少した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・製造業 3.1万人増、7ヵ月連続で増加<前月は4.3万人増、6ヵ月平均は4.0万人増
・建設 3.1万人増<前月は4.8万人増、6ヵ月平均は2.0万人増
・鉱業/伐採 0.2万人減(石油・ガス採掘は120人減)、10ヵ月ぶりに減少<前月は0.3万人増、6ヵ月平均は0.4万人増

チャート:11月のセクター別増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は2.4%減となった。輸送・倉庫が当時の水準を4ヵ月連続で上回りつつ、前月分の上方修正を受け金融が10~11月にかけ増加に転じた。一方で、小売が1.1%減、専門・サービスも0.3%減まで下げ幅を縮小。財部門は2.0%減に。全てマイナス圏だが、建設は1.5%減まで下げ幅を縮小した。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.3%上昇の31.03ドル(約3,510円)と、市場予想並びに前月の0.4%以下となった。8ヵ月連続で上昇したなかで、最も小幅となる。前年比は4.8%上昇し前月と一致した。市場予想の5.0%を下回ったが、引き続き、2月以来の高い伸びを維持した。

チャート:平均時給は力強く伸び、賃上げ圧力を示唆

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.8時間と、市場予想と前月の34.7時間を上回った。ただし、2006年以来の最長を記録した1月の35時間を10ヵ月連続で下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.0時間と前月の39.9時間を超えつつ、2019年3月以来の高水準に並んだ前月の40.4時間を大幅に下回った。逆に、全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.7時間と前月と変わらず、年初来の最低となる9月までの3ヵ月間の33.6時間から漸く上向いた。ただ、2006年以降で最長を記録した1月の33.9時間以下が続く。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月を下回る伸びだったが、平均労働時間が小幅ながら延びたため、前月比0.5%増と9ヵ月連続で増加した。平均時給が8ヵ月連続で上昇した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.7%増だった。

失業率は4.2%と、市場予想の4.5%と前月の4.6%を下回り2020年3月の4.4%水準も下抜けた。なお、コロナ感染拡大直前の2020年2月は、3.5%となる。失業者が54.2万人減少しただけでなく、就労者数が113.6万人増加していた。ただし、自発的離職者数は2ヵ月連続で増加したとはいえ0.7万人と、小幅にとどまったことも作用した。労働統計局によれば、引き続き一時解雇された労働者が「雇用されているが休職中」として扱われるなど正確に反映されていない場合があり、これを考慮すると失業率は4.3%だったという。

労働参加率は61.8%と、9~10月の61.6%を超えただけでなく、20年3月(62.6%)以来で最も改善した。ただし、コロナ感染拡大直前の20年2月の63.4%以下で推移し続けている。

就業率は59.2%と、前月の58.7%を上回った。20年3月(59.9%)以来の高水準だが、コロナ感染拡大直前の61.1%を下回ったままだ。

コロナ禍を理由に在宅勤務を行ったとする労働者の割合は11.3%と前月の11.6%を下回り、コロナ禍で最低を更新した。

コロナ禍が理由で過去4週間に職探しをしなかった労働者は11月に118.7万人と、コロナ禍以降で最低となった。結果、小幅ながら労働参加率を押し上げた。

チャート:職探しをしなかった労働者は2ヵ月連続で減少、労働参加率は漸く改善

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(作成:My Big Apple NY)

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比0.2%増(95.4万人増)の1億2,926万人だった。一方で、パートタイムは同0.7%増(4.2万人増)の2,595万人と、2ヵ月連続で増加した。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は7.8%と、前月の8.3%を下回り20年2月(7.2%)以来の水準に低下した。

チャート:不完全就業率は急速に改善、就業率も右肩上がり。

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(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-×
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均値は28.9週と、9ヵ月ぶりの低水準だった前月の26.7週から延びた。失業期間の中央値も12.7週と、2020年5月以来の低水準だった前月の12.0週を上回った27週以上にわたる失業者の割合は32.1%と、2020年9月以来の低水準だった前月の31.6%を上回った。バイデン政権下で失業保険給付上乗せが21年9月6日に終了した後、労働参加率は概ね横ばいながら、長期失業者の割合は下げ渋りをみせている。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、共和党知事州で失業保険給付上乗せの前倒し終了が取り沙汰された7月以降に急低下も、11月に下げ渋り

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(作成:My Big Apple NY)

3)労働参加率 採点-〇
労働参加率は9~10月の61.6%を経て、今回は61.8%へ改善。1973年1月以来の低水準だった20年4月の60.2%を上回った水準を保ち、20年6月以降続いた61.4~61.7%のレンジを小幅に上回った。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

4)賃金 採点-△
今回は前月比0.3%と8ヵ月連続で上昇し、前年比は4.8%と2月以来の高い伸びを維持した。ただし、それぞれ市場予想以下に。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%上昇の26.40ドル、前年比は5.9%の上昇と経済活動が再開し始めたばかりの2020年5月以来の上昇率を記録、管理職を含めた前年比は4ヵ月連続で全体を上回った。

(カバー写真:Justin Lynham/Flickr)

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