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米1月雇用統計:労働参加率改善の陰で一部の平均時給は下落

by • February 6, 2022 • Latest News, NY TipsComments Off2127

Labor Participation Rate Improves, Some Industries See Nominal Wage Decline.

米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、こちらでご紹介したように年次のベンチマーク改定を経て、堅調な伸びを達成しました。労働参加率が改善したため失業率は2020年2月以来の低水準から上昇したとはいえ、力強い労働市場を示します。何より、平均時給が一段と上昇し、賃上げ圧力を確認。3月利上げ開始、保有資産の縮小へ進むFedの背中を押す結果となりました。むしろ、FF先物市場では3月FOMCで50bpの利上げ織り込み度が前日の14.3%→33.7%へ急伸。2022年も5回以上の利上げ織り込み度が前日の65.4%→83.6%へ上昇しました。

労働市場には一点の曇りもないようにみえますが、ここでは業種別の平均時給を始め人種や学歴別など詳細を拾っていきます。

〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給

生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.6%上昇の26.92ドル、前年比は6.9%の上昇と20年4月以来の高い伸びを記録した。

業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸びが0.6%以上だったのは13業種中で4業種と、前月の6業種を下回った。その理由は、1位の情報が3.5%と突出して高い伸びだったため。2位は専門サービスで0.9%、3位は建設で0.7%、4位は教育・健康で0.6%だった。一方で、今回、前月比で下落した業種は4業種と、前月の1業種から増加。最も落ち込んだのは鉱業・伐採(0.6%下落)で、続いて娯楽・宿泊(0.4%下落)、輸送・倉庫(0.3%の下落)、卸売(微減)だった。

チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額

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(作成:My Big Apple NY)

〇労働参加率

労働参加率が62.2%と2020年3月以来の水準を回復したが、働き盛りの男性(25~54歳)ではまちまちとなった。全米では25~54歳、25~34歳共に上昇したが、白人男性は25~54歳、25~34歳共に低下した。以下、季節調整済みで、白人は季節調整前となる。

・25~54歳 88.2%<前月は88.0%と7ヵ月ぶりの低水準、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.1%<前月は89.3%、21年11月は89.4%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.2%、3ヵ月ぶりの水準を回復>前月は88.1%、20年2月は89.0%
・25~34歳(白人) 89.0%<前月は89.3%、21年11月は89.4%と20年3月(90.4%)以来の高水準、20年2月は90.7%

チャート:働き盛りの男性、白人男性で低下

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(作成:My Big Apple NY)

働き盛りの女性の労働参加率は25~54歳で改善、25~34歳は20年2月以来の水準へ上昇した前月から低下した。

・25~54歳 76.0%、20年3月(76.2%)以来の高水準>前月は75.9%、20年2月は76.8%
・25~34歳 77.1%<前月は77.2%と20年2月(78.2%)以来の高水準

65歳以上の高齢者の労働参加率は、オミクロン株の感染拡大を受け男女そろって低下した。男性は23.5%と5ヵ月ぶりの低水準、女性も15.4%と2020年3月(16.1%)以来の水準を回復した前月の15.9%を下回った。

〇縁辺労働者

縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で0.2%減の570.4万人(男性は前月比の297.1万人、女性は273.3万人)。3ヵ月連続の減少となる。女性が前月比7.5%減と3ヵ月連続で減少した半面、男性は7.7%増と3ヵ月連続で増加していた。結果、7ヵ月ぶりに男性が女性を上回った。

チャート:職を望む非労働力人口、男性が増加し女性が減少

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(作成:My Big Apple NY)

〇男女別の労働参加率

男女の失業率は、そろって20年2月以来の水準へ改善した。男性は前月の4.2%→3.9%。女性も4.2%→3.9%と、2020年2月以来の低水準だった。

男女別の労働参加率は共に上昇し男性が67.7%→67.9%、女性も前月の56.5%→56.8%そろって2020年3月以来の水準へ切り返した一方で、女性は3ヵ月連続で上昇し男性よりも改善が著しい

チャート:男女別、労働参加率、直近は女性が上向き

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(作成:My Big Apple NY)

〇男女別の就業者、20年2月比

人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、黒人とヒスパニック系の男性はそれぞれ1月に1.8%増(増加トレンドに回帰)、2.3%増(7ヵ月連続)とプラスとなった。一方で、黒人女性(21年12月:3.9%減→1月:2.4%減)は大幅に下げ幅を縮小。ヒスパニック系女性は前月に続き0.7%減とプラス回復が迫る。最も回復が鈍いのは白人で男性は2.1%減、女性に至っては3.1%減と前月から下げ幅を広げた。白人の間で就業者数の回復が鈍い理由は①娯楽・宿泊などコロナ禍で回復が進む業種の従事者が比較的少ない、②引退が多い――などが考えられる。

チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較

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(作成:My Big Apple NY)

〇人種別の労働参加率、失業率

人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。

人種別の労働参加率は、オミクロン株の感染拡大を受けながらアジア系以外全て上昇した。特に黒人は20年2月以来の水準へ改善白人とヒスパニック系は、20年3月以来の水準を回復した。アジア系は低下したとはいえ、4ヵ月連続で20年2月の水準を上回った

・白人 62.0%、2020年3月以来の水準を回復>前月は61.7%、20年2月は63.2%
・黒人 62.0%、20年2月(63.2%)以来の高水準>前月は60.8%と8ヵ月ぶりの低水準
・ヒスパニック系 66.4%、20年3月(67%)以来の高水準>前月は66.0%、20年2月は68.0%
・アジア系 64.4%、4ヵ月ぶりの低水準ながら20年2月の水準(64.2%)超え<前月は64.4%
・全米 61.9%と2020年3月以来の水準を回復=前月は61.8%、20年2月は63.3%

チャート:人種別の労働参加率、白人と黒人は低下

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(作成:My Big Apple NY)

人種別の失業率は、まちまち。労働参加率が改善した黒人と労働参加率が低下したアジア系は低下したが、白人は上昇し、ヒスパニック系は横ばいだった。

・白人 3.4%>前月は3.2%と20年2月以来の低水準、20年2月は3.0%
・黒人 6.9%<前月は7.1%、20年2月は6.0%
・ヒスパニック系 4.9%、20年2月以来の低水準=前月は4.9%、20年2月は4.4%
・アジア系 3.6%、20年2月以来の低水準<前月は3.8%、20年2月は2.5%
・全米 4.0%>前月は3.9%と20年2月以来の低水準、20年2月は3.5%

白人と黒人の失業率格差は白人が上昇し黒人が低下したため、前月の3.9ポイントから3.5ポイントへ縮小した。ただし、21年11月につけた20年4月以来の低水準となる2.8ポイントを上回り続けた。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。

チャート:黒人と白人の失業率格差、トランプ前政権期と比較して上昇続く

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(作成:My Big Apple NY)

〇学歴別の労働参加率、失業率

学歴別の労働参加率は、中卒を除き改善あるいは横ばいとなった。

・中卒以下 44.5%、7ヵ月ぶりの低水準<前月は44.8%、20年2月は47.7%
・高卒 57.2%、20年2月(58.3%)以来の水準を回復>前月は55.7%
・大卒以上 72.6%、20年8月以来の水準を回復>前月は72.3%、20年2月は73.2%
・全米 62.2%、20年3月以来の高水準>前月は61.9%、20年2月は63.3%

学歴別の失業率は、全て低下した。特に大学院卒は01年2月以来の水準へ急低下し、前月に続き労働参加率の上昇と合わせ正常化しつつある。一方で、中卒も19年9月以来の水準へ改善したが、これは労働参加率が大幅に低下したことが大きく健全な低下と言い難い。

・中卒以下 6.3%>前月は5.2%と19年9月以来の低水準、20年2月は5.7%
・高卒 4.6%、20年3月(4.3%)以来の低水準=前月は4.6%、20年2月は3.7%
・大卒 2.3%>前月は2.1%と20年2月以来の低水準、20年2月は1.9%
・大学院卒以上 1.3%>前月は1.2%、2001年2月以来の低水準、20年2月は1.7%
・全米 4.0%>前月は3.9%と20年2月以来の低水準、20年2月は3.5%

--米12月雇用統計の詳細を見ると、①平均時給の伸びは情報が押し上げ、②平均時給は労働参加率の改善が一因か娯楽・宿泊や輸送・倉庫など対面サービスが必要となる職種で下落、③労働参加率は引き続き女性が改善をけん引、④人種別の労働参加率はアジア系以外が改善、⑤人種別の失業率は黒人で顕著に低下、白人は上昇、⑤学歴ではまちまち――などの実態が浮かび上がりました。

足元の労働参加率の改善は、貯蓄率の低下と整合的です。貯蓄の減少を受け、オミクロン株の感染拡大を受けながら労働市場にカムバックしてきた人々が増加した可能性を示唆します。また、平均時給は高止まりしつつ、生産労働者・非管理職は21年12月の0.8%→1月に0.6%と伸びが鈍化。その上、鉱業・伐採のほか娯楽・宿泊や輸送・倉庫などで平均時給は前月比で下落していました。特に輸送・倉庫は20年2月の水準を15ヵ月連続で上回っていた業種である点は注目に値します。娯楽・宿泊は反対に同10.3%減であり、かつオミクロン株の感染拡大とホリデー商戦中にも関わらず、下落していました。

チャート:労働参加率が上昇すれば、平均時給の伸びは鈍化へ?

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(作成:My Big Apple NY)

つまり、貯蓄を取り崩した結果、労働参加率が改善すれば、平均時給の伸びが抑制する公算が大きいというわけです。こうした兆候が単月で終わるのか、あるいはトレンドとして現われるのか、果たしてどうなるのでしょうか?いずれにしても、米1月雇用統計の結果は、米国がコロナ禍で異常事態から正常化しつつある可能性を浮かび上がらせたことは間違いないでしょう。

(カバー写真:Elvert Barnes/Flickr)

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