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米5月個人消費は物価高を受け鈍化、貯蓄率は低水準―物価は高止まり

by • June 30, 2022 • Finance, Latest NewsComments Off2585

Personal Spending Slows, Inflation Elevated, Saving Rate Remains Low.

米5月個人消費支出は前月比0.2%増と、市場予想の0.5%増を下回った。前月の0.6%増(0.9%増から下方修正)にも届かず、5ヵ月連続で増加したなかで最も小幅な伸びにとどまった。

個人所得は前月比0.5%増と市場予想並びに前月(0.4%増から上方修正)と一致した。4ヵ月連続で増加した。

個人所得の伸びが消費支出を上回ったため、貯蓄率は5.4%と2009年10月以来の低水準だった前月の5.2%から小幅に改善した。詳細は以下の通り。

〇個人消費支出

個人消費の結果は以下の通り。名目ベースとインフレを除く実質ベースともに増加した。

・前月比0.2%増、市場予想の0.5%増を下回り4ヵ月連続で増加、前月は0.6%増(0.9%増から下方修正)
・前年比8.5%増と15ヵ月連続で増加したなかで2番目に低い伸び、前月は8.4%増
・実質ベース前月比0.4%減と3ヵ月ぶりに減少、前月は0.3%増
・前年比では2.1%増と15ヵ月連続で増加、前月は1.9%増と過去14ヵ月間で最も小幅な伸び

米5月新車販売台数が前月比で減少し年率で1,300万台を割り込んだように、耐久財が過去4ヵ月間で3回目のマイナスとなった。一方で、非耐久財はガソリン価格が過去最高値を更新する過程で増加。サービスも光熱費の増加や外食の値上げなどを受け15ヵ月連続で増加した。

個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 0.7%減と4ヵ月ぶりに減少、前月は0.2%増
・耐久財 3.2%減、過去4ヵ月間で3回目の減少、前月は1.6%増
・非耐久財 0.7%増と前月の0.6%減から増加に反転、
・サービス 0.7%増と15ヵ月連続で増加、前月は0.7%増

チャート:個人消費、前月比の項目別内訳

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(作成;My Big Apple NY)

〇個人所得

個人所得の結果は以下の通り。実質ベースの前年比は21年3月に成立した追加経済対策の現金給付の反動もあって減少した。

・前月比0.5%増、市場予想並びに前月(0.4%増から上方修正)と一致、4ヵ月連続で増加
・前年比では2.6%増、前月は11.4%減
・実質ベース前月比0.1%減、年初来で3回目の減少、前月は0.3%増
・前年比では1.0%減と過去5ヵ月間で4回目の減少、前月は3.4%減

個人所得のうち、名目ベースで賃金・給与は15ヵ月連続で増加し、家賃収入も引き続き力強い伸びとなった。なお、米疾病対策センター(CDC)は21年8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに21年10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が21年8月26日に無効の判断を下したため、販売用物件の減少も重なって家賃の上昇が進行中だ。

所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。

・賃金/所得 0.5%増と15ヵ月連続で増加(民間は0.6%増、政府部門は0.5%増)、前月は0.6%増
・経営者収入 1.5%増と4ヵ月ぶりに減少(農業は3.7%増、非農業は1.3%増)、前月は0.3%増
・家賃収入 1.9%増と11ヵ月連続で増加、前月の1.9%増と合わせ2011年2月以来の高い伸び
・資産収入 0.5%増と4ヵ月連続で増加(金利収入が0.4%増、配当が0.7%増)、前月は0.4%増
・社会補助 0.2%減と3ヵ月ぶりに減少、前月は0.3%増
・社会福祉 0.2%減と3ヵ月ぶりに減少、前月は0.3%増(メディケア=高所得者向け医療保険は0.5%増、メディケイド=低所得者層向け医療保険は1.2%増と5ヵ月連続で増加、失業保険は7.3%減と14ヵ月連続で減少、退役軍人向けは1.7%増と増加基調を維持、その他は2.9%減)

チャート:個人所得、前月比の項目別内訳

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(作成:My Big Apple NY)

〇可処分所得
・前月比0.5%増、4ヵ月連続で増加、前月は0.5%増
・前年比は2.8%増、3ヵ月ぶりに増加、前月は0.2%減
・実質ベースの可処分所得は0.1%減と年初来で3回目の減少、前月は0.2%増
・前年比は3.3%減、5ヵ月連続で減少、前月は6.1%減

〇貯蓄率
・5.4%、2009年10月以来の低水準だった前月の5.2%から小幅改善

チャート:実質の個人消費は、貯蓄を取り崩しながら拡大した様子を示す

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(作成:My Big Apple NY)

〇個人消費支出(PCE)デフレーター
→油価の高止まりやサプライチェーン途絶による影響を受けながら、インフレは前月比と前年比そろって市場予想通り鈍化した。

・PCEデフレーターは前月比0.6%上昇、前月は0.2%の上昇
・前年比は6.3%上昇、前月と変わらず、3月は6.6%と1982年月1月以来の高い伸び
・コアPCEデフレーターは前月比0.3%上昇と前月と一致、市場予想の0.4%以下に
・コアPCEの前年比は4.7%上昇、市場予想の4.8%並びに前月の4.9%以下

チャート:物価上昇ペースは鈍化も、引き続き実質賃金に下方圧力

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(作成:My Big Apple NY)

――貯蓄率が2009年の水準まで低下し、ガソリンや食料、家賃が家計を圧迫するなか、個人消費は鈍化しつつあります。年初来5ヵ月連続で増加してきましたが、5月は2ヵ月連続で前月以下の伸びにとどまり、伸びとしても最少でした。

チャート:個人消費、貯蓄を取り崩して拡大してきたが・・

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(作成:My Big Apple NY)

GDPの約7割を占める個人消費が鈍化すれば、景気減速必至。それでも、パウエルFRB議長は利上げの手綱をゆるめる気配はありません。欧州中央銀行(ECB)主催のフォーラムに出席した29日には、物価が想定通り鈍化しないことが、過度な経済減速よりリスクが大きいと発言。加えて、利上げが行き過ぎる可能性にも、言及していました。強いインフレ抑制の意思をここでも強調し、7月23~24日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での、75bp利上げの余地を残します。

しかし、興味深いことに6月30日NY時間午後12時頃のFF先物市場では引き続き23年5月や6月FOMCでの利下げ観測が優勢となり(筆者中:5月の利下げ織り込み度は、据え置きに比べ0.1%ptリードしたのみ)、23年1月時点の3.5~3.75%から3.25~3.5%への引き下げを32.2%と最も織り込む状況です。金融政策や物価をめぐり、パウエルFRB議長の発言が風見鶏のごとくクルクル変わるため、市場は経済指標をより信じているようにみえます

チャート:パウエルFRB議長の発言一覧

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:FF先物市場、23年1月FOMCまでの利上げを予想も同年6月の利下げを意識(下記、最も織り込み度が高かったFF金利水準を抽出)

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(作成:My Big Apple NY)

今回、PCE価格指数がコアと合わせピークアウトの兆しをみせ、経済指標も米5月小売売上高など景気減速のサインを点灯するなか、FF先物市場で低下しつつある75bp利上げ観測を引き上げる狙いがあったのでしょう。Fedとしては、積極的な利上げ観測が後退すれば長期インフレ期待を高止まりさせかねず、回避したかったとみられます。やはり、ドル円に絡めてこちらで指摘しましたように、今後の利上げ姿勢の節目は、ジャクソンホール会合を挟む9月前後となりそうです。

(カバー写真:Susan Sermoneta/Flickr)

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