U.S. Job Cuts Finally Surpass Hires, First Time This Year.
米11月ADP全国雇用者数は前月比12.7万人増と、市場予想の20.0万人増を下回りました。前月の23.9万人増に届かず、2021年1月以降の増加トレンドで最も低い伸びにとどまっています。パウエルFRB議長が11月30日、11月FOMC議事要旨に沿い次回会合での50bpへの利上げ幅を縮小する見通しを表明しましたが、それをサポートする内容と言えるでしょう。
チャート:米11月ADP全国雇用者数、22カ月連続で増加したなかで最も小幅な伸びに
以下、米11月チャレンジャー人員削減予定数と米10月求人件数などをおさらいしていきます。
▽米12月チャレンジャー人員削減予定数は前月比2.3倍増、労働市場の減速を確認
米12月チャレンジャー人員削減予定数は前年同月比で約5.1倍増の7万6,835人だった。6ヵ月連続の増加となる。前月比でも約2.3倍へ急増しただけでなく、3カ月連続で増加。人員削減予定数自体は、2021年1月以来で最多となりU字型を描いた。
チャート:人員削減予定数、11月は2021年1月の数字に逆戻り
チャート:人員削減予定数、2020年以降で3番目の高水準
単月では3カ月連続で増加した結果、年初来では前年同期比5.9%増の32万173人となった。10月までの単月では1993年の統計開始以来で最低を更新していたが、今回の急増で年初来で増加に転じた格好だ。ただし、2021年に続き、1993年にデータ公表を開始して以降、年初来で2番目の低さとなる。
チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社のアンドリュー・チャレンジャー・シニア・バイス・プレジデントは、結果を受け「年初来で、テクノロジー部門での人員削減が最多となった」と指摘。ただし他セクターも徐々にリストラに着手しており、雇用も鈍化しつつある」という。
人員削減が多かったセクターのランキングは、単月で以下の通り。マイクロソフトやHPなどの千人規模のリストラが報じられたように、テクノロジーの人員削減数が顕著だった。
1位 テクノロジー 9,273人
2位 サービス 4,157人
3位 倉庫 2,602人
4位 ヘルスケア 2,196人
5位 建設 2,177人
人員削減が多かったセクターのランキングは、年初来で以下の通り。10月に2位だったテクノロジーが自動車を抜き去り1位に浮上した。足元でメタ・プラットフォームズが1万人単位の人員削減を発表したほか、HPも約6,000人、イーロン・マスク氏が買収完了したツイッターは全従業員の半分にあたる約3,700人、マイクロソフトは1,000人超など相次いで大幅なリストラを表明済みである。そのほかの業種では、サービスが前月の5位から小売に代わって4位に上昇した。
1位 テクノロジー 8万978人、前年同期は1万2,761人
2位 自動車 3万669人、前年同期は1万277人
3位 ヘルスケア 2万9,031人 前年同期は2万7,447人
4位 サービス 2万1,213人 前年同期は2万6,996人
5位 小売 2万564人 前年同期は1万7,553人
州別動向は年初来で以下の通りで1、2、5位は人口別でのトップ5に入る州が並んだ。1位のカリフォルニア州が突出して多いのはIT関連の人員削減が響いたとみられる。前月5位のテキサス州に代わって3位に入ったワシントン州も、テクノロジー関連の人員削減で急速に増加したもようだ。ミシガン州は自動車セクターのリストラ増加が背景とされよう。
1位 カリフォルニア州 10万3,433人 前年同期は4万5,114人
2位 ニューヨーク州 2万9,283人 前年同期は1万4,572人
3位 ミシガン州 1万9,554人 前年同期は4,102人
4位 ワシントン州 1万9,194人 前年同期は4万596人
5位 ペンシルべニア州 1万4,580人 前年同期は9,966人
リストラ実施の理由別ランキングは、前月比で以下の通り。今回はコスト削減が4位から浮上して1位となったほか、市場動向も5位から2位に上昇した。また今回、新たに住宅市場の減速がトップ5に入った。
1位 コスト削減 2万6,977人
2位 市場動向 6,273人
3位 理由不明 4,864人
4位 M&A 4,584人
5位 住宅市場の減速 2,684人
リストラ実施の理由別ランキングは、年初来で以下の通り。前月は1位が閉鎖、2位が理由不明、3位がコスト削減、4位が市場動向、5位が需要低下だった。
1位 コスト削減 7万7,134人
2位 理由不明 5万9,343人
3位 閉鎖 5万5,055人
4位 市場動向 5万1,419人
5位 需要低下 1万5,814人
採用予定数は11月に前年同月比4.6倍増の3万203人となり、2カ月連続でプラスだった。ただし、前月比では逆に87.3%減と、年初来で7回目の減少となった。
チャート:11月の採用予定者数、年末商戦の臨時雇用が支え増加も2020年、2019年比では弱い
セクター別では、単月で以下の通り。年末商戦を受け小売が牽引した。前月は1位が小売、2位が政府、3位がテクノロジー、4位がサービス、5位が製薬だった。
1位 小売 9,000人
2位 サービス 3,213人
3位 テクノロジー 2,275人
4位 食品 1,519人
5位 化学 1,450人
年末商戦の臨時雇用は11月時点で59万7,600人だった。2021年の96万6,300万人(改定値)から38.1%減少、2020年の84万9,350人以下にとどまり、年末商戦の見通しがそれほど明るくない様子を映し出した。
以上の結果を踏まえ、人員削減予定数は採用予定数を今年初めて上回った。ヒストリカルでは、2021年11月以降で初となる。
チャート:人員削減予定数が採用予定数を上回るのは、21年11月以降で初めて
▽米11月求人数は減少、失業者比で1.7倍に低下
米11月雇用動態調査(JOLTS)によると、求人数は1,033万人と前月の1,069万人(修正値)を3.3%下回った。過去7ヵ月間で5回目の減少。求人数は18ヵ月連続で失業者数を上回ったが、徐々に乖離は小さくなりつつある。
チャート:求人数と失業者数の推移
求人数が減少し失業者が増加した結果、求人数は失業者の1.7倍と前月の2倍から低下した。
チャート:9月FOMCでパウエルFRB議長が「労働市場を見る上で良い手段」と発言した求人数は失業者数の1.7倍に低下
採用数は前月比1.4%減の601万人で、過去8カ月間で7回目の減少となる。水準としては2020年12月以来の600万人割れが迫った。
離職者数は568万人と、前月の567万人(修正値)を0.3%上回り小幅ながら増加に転じた。過去5カ月間で2回目の増加となる。離職者数を押し上げたのは解雇者数で前月比4.4%増の139万人だった。一方で、定年や自己都合による自発的離職者は同0.8%減の403万人と、2021年5月以来の低水準だった。
▽米新規失業保険申請件数、2019年平均の水準近くを維持
11月26日週までの米新規失業保険申請件数は22.5万件と、市場予想の23.5万件をわずかに下回った。前週の24.1万件(24.0.万件から上方修正)を下回ったが、2019年平均の21.8万件を上回る水準を保つ。
10月22日週までの継続受給者数は160.8万人と、前週の155.1万人(修正値)を上回った。約7カ月ぶりの水準へ増加した。
失業者に占める被保険者の割合は1.1%と、過去最低に並んだ前週の0.9%から一歩と遠ざかった。
チャート:米新規失業保険申請件数は2019年平均超えを維持、継続受給者数は約7カ月ぶりの160万人乗せ
――米11月チャレンジャー人員削減予定数を始め、米10月ADP全国雇用者数や米9月求人数、米新規失業保険申請件数と合わせ、労働市場の減速を確認しました。Fedの利上げ幅縮小の方向性をサポートする内容と言えるでしょう。問題は、人員削減がテクノロジー分野やFTX破綻で揺れるフィンテック業界から、どこまで波及するかです。足元では、テクノロジー企業などからの広告収入の落ち込みを一因にケーブルTV局CNNなどにも及び、住宅市場の冷え込みを受け不動産セクターでもリストが増加中。高給取りの従業員を含めテクノロジー企業に支えられたサービス産業が打撃を受けるなか、その他産業にドミノ効果が及んでもおかしくありません。
(カバー写真:Rob Milsom/Flickr)
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