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米11月雇用統計・NFPは力強い伸びも、約4割は食品サービス

by • December 3, 2022 • Finance, Latest NewsComments Off1887

Jobs Growth Remains Strong, Pushed By Food Service Industry.

<本稿のサマリー>

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は予想以上に力強い伸びだったものの、2021年1月からの増加トレンドで最も小幅なペースでした。一方で、家計調査の就業者数は2カ月連続で減少、米11月チャレンジャー人員削減予定数が前月比と前年同月比で大幅増加した動きと整合的です。また、家計調査での雇用形態別ではフルタイムが小幅増加したものの複数の職を持つ者が増加を主導していました。逆に、年末商戦の臨時雇用が伸び悩むなか、パートタイムは前月に反し減少しています。

失業率は前月と同じく、3.7%。失業者の小幅減より、労働力人口の減少幅が大きく横ばいとなりました。景気減速に合わせ、労働市場が売り手市場から徐々に買い手市場へシフトするなか、自発的な離職者数は2カ月連続で減少。平均時給の上昇ペースは、労働参加率が低下するなか加速しました。

堅調なNFPの増加ペースに反応し、米10年債利回りは一時3.6%を超えて急伸し、ドル円も一時133円台から136円に迫る急騰をみせました。米株相場もダウも一時150ドルを超えて下落したものの、結局はいってこいの展開に。労働参加率が低下しながら失業率が横ばいとなったほか、週当たり労働時間の短縮などが見直されたためです。また、NFPの業種別をみると、これまで雇用を牽引してきた輸送/倉庫のほか、小売、卸売など消費関連で減少がみられたほか、IT関連業務を含む専門サービスも伸びが著しく鈍化し、米経済と雇用の鈍化の兆候を確認したと言えます。何より、今回のNFP増加幅の約4割は娯楽/宿泊のうちレストランなどでの職を示す食品サービスが占めます。

チャート:ドル円(ローソク足)、米10年債利回り(グレー線、右軸)ともにいってこいの展開

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(出所:Tradeview)

FF先物市場によれば、12月13~14日開催のFOMCの50bp利上げの確率は78.2%と、前日と変わらず2023年末までのFF金利見通しは、ターミナル・レートにつき5.0%を維持しました。ただし、利上げのタイミングはこれまでの23年2月の50bp利上げ見通しから、23年2月と同年3月に25bpずつの利上げに修正されています。利下げのタイミングは同年11月の50bpが優勢となりましたが、同年12月は25bpの引き上げに転じており、来年後半の見通しは見方が分かれていることを指しています。

チャート:FF先物市場では、引き続きターミナル・レート見通しは5%。

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(作成:My Big Apple NY)

米11月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPは堅調なペースで増加
・平均時給、前年同月比の伸びが加速(購買力の観点でポジティブも、インフレ抑制の観点ではネガティブ)
・不完全就業率は過去最低に戻す
・フルタイムの労働者が小幅ながら増加(ただし、複数の職を持つ者の増加幅が大きい)

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・過去2ヵ月分のNFPが上方修正
・失業率は横ばい
・労働参加率は低下
・就業率は60%割れ、9カ月ぶりの低水準
・週当たり労働時間が短縮
・長期失業者の割合は上昇

米11月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米11月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比26.3万人増となり、市場予想の20.0万人増を上回った。前月の28.4万人増(26.1万人増から上方修正)に届かず、2021年1月以降で同年3月に続き最も小幅な伸びに。とはいえ、2019年平均の16.4万人増を超え堅調なペースを維持した。

9月分の4.6万人の下方修正(31.5万人増→26.9万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で2.3万人の下方修正となった。8~10月の3ヵ月平均は27.2万人増となった。経済正常化に合わせ雇用の伸びが落ち着き、2021年平均の56.2万人増を7ヵ月連続で下回った。

非農業部門就労者数(NFP)は20年3~4月に2,199万人減少したが、22年7月にこれを打ち消した。20年5月以降、今回で2,304万人の雇用を取り戻した結果、NFPは1億5,355万人と20年2月を104万人上回った。

チャート:20年2月の水準を回復するまで、2年と5ヵ月を要した格好。

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(作成:My Big Apple NY)

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比22.1万人増と市場予想の19.0万人増を上回った。前月の24.8万人増(23.3万人増から下方修正)を含め、23ヵ月連続で増加した。民間サービス業は18.4万人増、前月の20.1万人増(20.0万人増から下方修正)を下回った。

チャート:NFPは堅調なペース維持も2021年以降で最も低い伸びに並び、失業率は3.7%で変わらず

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で7業種が増加し、前月の全業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は前月3位だった娯楽/宿泊で、2位は前月トップだった教育/健康、3位は政府だった。なお、これまでトップ3の常連だった専門サービスの雇用の伸びが著しく鈍化していた。一方で、年末商戦前の臨時雇用が振るわず小売、輸送・倉庫は修正を経て前月に続き減少。卸売や公益も弱かった。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・娯楽/宿泊 8.8万人増、22ヵ月連続で増加>前月は6.0万人増、6ヵ月平均は6.7万人増(そのうち食品サービスは10.3万人増>前月は9.5万人増、6ヵ月平均は8.5万人増)
・教育/健康 8.2万人増、31ヵ月連続で増加>前月は8.0万人増、6ヵ月平均は9.0万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は6.8万人増、17ヵ月連続で増加<前月は7.4万人増、6ヵ月平均は7.8万人増)
・政府 4.2万人増>前月は3.6万人増と5ヵ月連続で増加、6ヵ月平均は3.1万人増

・その他サービス 2.4万人増、5ヵ月連続で増加>前月は1.2万人増、6ヵ月平均は1.3万人増
・情報 1.9万人増、9ヵ月連続で増加>前月は0.6万人増、6ヵ月平均は1.4万人増
・金融 1.4万人増、17ヵ月連続で増加>前月は1.3万人増、6ヵ月平均は0.9万人増
・専門サービス 0.6万人増、19ヵ月連続で増加<前月は2.6万人増、6ヵ月平均は4.3万人増(そのうち派遣は1.7万人減、4カ月連続で減少<前月は0.6万人減、6ヵ月平均は0.4万人減)

―横ばいの業種

なし

―減少した業種

・公益 0.1万人減<前月は0.1万人増、6ヵ月平均は0.1万人増
・卸売 0.3万人減、28ヵ月ぶりに減少<前月は0.9万人増、6ヵ月平均は0.9万人増
・輸送/倉庫 1.5万人減、4カ月連続で減少<前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.1万人増
・小売 3.0万人減、3カ月連続で減少<前月は0.3万人減、6ヵ月平均は0.1万人減

財生産業は前月比3.7万人増と前月の4.7万人増(修正値)を下回りつつ、19ヵ月連続で増加した。業種別をみると、製造業が19ヵ月連続で増加したほか、建設は7ヵ月連続で増加。油価が景気後退懸念で80ドル割れを迎えつつ、鉱業・伐採は3カ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 2.0万人増、7ヵ月連続で増加>前月は0.9万人増、6ヵ月平均は1.5万人増
・製造業 1.4万人増、19ヵ月連続で増加<前月は3.6万人増、6ヵ月平均は2.8万人増
・鉱業/伐採 0.3万人増(石油・ガス採掘は100人増)>前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.3万人増

チャート:セクター別、就労者の増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の1.0%増→1.2%増と6ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。11業種中、7業種が当時の水準を超えた。今回、前月初めて増加に転じた教育・健康が0.7%増と前月の0.4%増を上回った。そのほか、8月にプラスに転じた卸売(0.3%増、4カ月連続)、輸送・倉庫(12.0%増、26ヵ月連続)、専門サービス(5.0%増、14ヵ月連続)、情報(5.6%増、12ヵ月連続)、小売(1.1%増、11ヵ月連続)、金融(1.4%増、10ヵ月連続)となる。ただし、7業種中では輸送・倉庫と小売が前月以下の伸びとなり、専門サービスと卸売は前月と変わらずだった。

財部門は前月の1.1%増と、前月の0.9%増を超え5ヵ月連続でプラス圏を守った。建設(1.7%増)が7ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業(1.2%増)も6ヵ月連続で増加した。建設と製造業そろってプラス圏を回復して最も力強い伸びとなった。鉱業・伐採は6.9%減、20年2月以降で最も小幅な下げだった。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.6%上昇の32.82 ル(約4,430円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.5%(0.4%から上方修正)を超え、22ヵ月連続で上昇している。前年同月比は5.1%上昇し、市場予想の4.6%を上回った。さらに、2021年12月以来の低い伸びだった前月の4.9%(4.7%から上方修正)を超え5%台に戻した。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.8%上昇、21年8月以来の低い伸びだった前月の5.6%を超え、労働参加率の低下と合わせ人手不足による賃金上昇を再確認した。

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.4 時間、前月まで5カ月連続で34.5時間から短縮した。コロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の低水準となったが、複数の職を持つ者が増加したことが一因とみられる。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.7時間と、コロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続いただけでなく、前月の40時間を下回り、2020年7月以来の低水準。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは2カ月連続で33.4時間と、20年4月の低水準に並んだ。雇用主が従業員の確保を狙い、就業時間の柔軟性を与えていることが一因と考えられよう。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向

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(作成:My Big Apple NY)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数の伸びが前月以下だった上、週当たり労働時間が小幅ながら短縮したため、前月比0.1%減だった。一方で、平均時給の伸びが加速した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.4%増と増加トレンドを維持した。

失業率は3.7%と、市場予想と前月と一致した。失業者が4.8万人減と小幅に減少したが、労働人口の減少が18.6万人減とこれを上回り、失業率は横ばいにとどまった。自発的離職者数は2カ月連続で減少した。

チャート:自発的離職者数は前月比3.7%減の83.0万人と、2カ月連続で減少した。つれて失業者に占める自発的離職者数の割合は13.9%と、前月に続き1990年4月以来の水準へ上昇した前月の15.9%から低下した。求人件数の減少を含む米10月雇用動態調査の結果と整合的である。

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.1%、前月の62.2%を下回り4カ月ぶりの水準に低下した。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である。労働力人口は前月比35.3万人減と、前月の増加を打ち消した。

就業率は59.9%と前月の60.0%を下回り、9カ月ぶりの低水準。コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%に距離を残す。

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離が続くが、今回はNFPが26.3万人増に対し、家計調査の就労者数は13.8万人減だった。NFPに反し2カ月連続で減少し、相反する結果となったのは年初来で4回目となる。

チャート:NFPに反し家計調査の就労者数は前月比で2カ月連続で減少、パートタイムの減少が響いた格好

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(作成:My Big Apple NY)

家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、複数の職を持つ者が牽引したほか、フルタイムも小幅ながら増加した。複数の職を持つ者は過去6カ月間で4回目の増加、フルタイムは過去6カ月間で2回目の増加となった。パートタイムは過去6カ月間で3回目の減少となり、年末商戦を迎えつつ臨時雇用が伸び悩んだ米11月チャレンジャー人員削減予定数と整合的だった。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイムは減少傾向続く

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:複数の職を持つ労働者、コロナ以前の20年2月以来の高水準

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(作成:My Big Apple NY)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-〇
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は、6.7%。1994年の統計開始以来で最低を更新した6~7、9月に並んだ。前月は6.8%。

2)労働参加率 採点-×
労働参加率は62.1%と、前月の62.2%から低下し、20年3月以来の高水準だった8月の62.4%を下回った。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善

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(作成:My Big Apple NY)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.4週と前月の8.1週から延びた。一方で、27週以上にわたる失業者の割合は20.6%と、前月の19.5%を上回り5カ月ぶりの水準へ上昇した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-〇(インフレ加速の観点では×)
今回は前月比0.6%上昇し、前月の0.5%を上回った。前年比は5.1%と2021年12月以来の低い伸びだった前月の4.9%(4.7%から上方修正)も超えた。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.7%と11カ月ぶりの高い伸びに。前年比は5.8%上昇し、21年8月以来の低い伸びだった前月の5.6%を上回った。

(カバー写真:Don LaVange/Flickr)

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