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米2月雇用統計・NFPは食品サービスが支え堅調も、失業率は解雇者増で上昇

by • March 11, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off3037

Jobs Growth Solid, But Unemployment Rate Rises As Companies Reduce Headcounts.

<本稿のサマリー>

米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は市場予想を上回り引き続き堅調なペースだった一方、失業率は1969年5月以来の低水準を記録した前月から上昇しました。労働参加率が62.5%へ上昇したため、失業率を押し上げた格好です。

労働参加率の改善を受け、週当たり労働時間は逆に前月を下回りました。平均時給は、市場予想を下回ったとはいえ前年同月比で再加速。ただし。就業者数が減少した金融や輸送・倉庫の伸びが主導しており、退職金の支払いが押し上げた可能性があります。

一連の結果に加え、銀行持ち株会社シリコンバレー銀行(SVB)ファイナンシャル・グループ傘下のSVB(ベンチャーキャピタルを顧客にテクノロジー関連の融資に特化、暗号資産を扱うシルバーゲート銀行の親会社、シルバーゲート・キャピタルは3月8日に事業閉鎖)が米雇用統計発表当日に経営破綻したため、金融市場は米株安・米債券高・米ドル高を迎えました。ダウは345ドル安と、終値ベースで22年10月以来の安値で引け。米10年債利回りは、一時3.674%と2月10日以来の水準へ低下しました。ドル円は連れて135円割れを迎え、一時134.11円まで下落、3月7日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派寄りな議会証言後につけた137.91円から押し返されました。

日足チャート:ドル円(ローソク足)、米10年債利回り(オレンジ線)とも米2月雇用統計後に下振れ、200日移動平均線(チャート上の赤い線)は鉄壁の抵抗線として機能

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(出所:Tradeview)

FF先物市場では、3月21~22日開催のFOMCでの0.5%利上げ織り込み度が後退し40.2%へ低下、逆に0.25%利上げの確率が59.8%と再び優勢となったターミナル・レート予想は米雇用統計発表直前の5.5~5.75%から、5.25~5.5%へ下方修正されました。さらに9月と12月、それぞれ0.25%ずつの利下げを改めて織り込み始めました。今後、米2月消費者物価指数(CPI)の結果を受けて再び変動する可能性がある一方、SVBの経営破綻を受けて利上げ観測は抑えられそうです。

チャート:3月FOMC利上げ織り込み度、再び0.25%が優勢に

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:ターミナル・レートは5.25~5.5%へ下方修正、9月と12月の利下げも織り込む

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(作成:My Big Apple NY)

米2月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・NFPは好調なペースで増加
・労働参加率は改善
・就業率は2020年2月以来の高水準を維持
・フルタイムの労働者が増加
・長期失業者の割合が低下

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・過去2ヵ月分のNFPが下方修正
・NFPのうち製造業、金融、輸送/倉庫などが減少
・失業率は1969年5月以来の低水準から上昇
・失業者のうち、解雇者数が増加
・平均時給、前年同月比の伸びが加速(インフレ抑制の観点ではネガティブ、購買力の観点でポジティブ)
・週当たり労働時間が短縮
・不完全就業率は2カ月連続で上昇

米2月雇用統計の詳細は、以下の通り。

米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比31.1万人増となり、市場予想の20.5万人増を上回った。前月の50.4万人増(51.7万人増から下方修正)を下回ったとはいえ、26カ月連続で増加するなか堅調な伸びを維持。2022年平均の40.1万人増は下回った。

2022年12月分の2.1万人の下方修正(26.0万人増→23.9万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で3.4万人の下方修正となった。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比26.5人増と市場予想の19.0万人増を上回っ。前月の38.6万人増(44.3万人増から下方修正)を含め、26ヵ月連続で増加した。民間サービス業は24.5人増、前月の33.5万人増(39.7万人増から下方修正)を上回った。

チャート:NFPは6カ月ぶりに50万人乗せ、失業率は3.4%へ低下

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(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で7業種が増加し前月の10業種を下回っ。今回最も雇用が増加した業種は娯楽・宿泊、2位は教育/健康、3位は小売となった。一方で、報と公益は3カ月連続で減少したほか、コロナ禍での景気回復期で雇用を牽引してきた輸送・倉庫は3カ月ぶりに減少し、金融も21年2月以来の減少に転じた

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・娯楽/宿泊 10.5万人増と26ヵ月連続で増加、前月は11.4万人増、6ヵ月平均は10.0万人増(そのうち食品サービスは7.0万人増、前月は8.9万人増、6ヵ月平均は6.6万人増)
・教育/健康 7.4万人増と13ヵ月連続で増加、前月は10.7万人増、6ヵ月平均は8.5万人増(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は6.3万人増と13カ月連続で増加、前月は7.6万人増、6ヵ月平均は7.3万人増)
・小売 5.0万人増と3カ月連続で増加、前月は3.4万人増、6ヵ月平均は0.8万人増

・政府 4.6万人増と8カ月連続で増加、前月は11.8万人増、6ヵ月平均は4.4万人増
・専門サービス 4.5万人増と10カ月連続で増加、前月は5.3万人増、6ヵ月平均は3.4万人増(そのうち派遣は0.7万人増と2カ月連続で増加、前月は1.5万人増、6ヵ月平均は1.0万人減)
・卸売 1.1万人増と3カ月連続で増加、前月は0.9万人減、6ヵ月平均は0.9万人増
・その他サービス 0.9万人増と13ヵ月連続で増加、前月は1.9万人増、6ヵ月平均は1.7万人増

―横ばいの業種

なし

―減少した業種

・金融 0.1万人減と24カ月ぶりに減少、前月は0.5万人増、6ヵ月平均は0.7万人増
・公益 0.1万人減と3カ月連続で減少、前月は0.2万人減、6ヵ月平均は微減
・輸送/倉庫 2.2万人減と3カ月ぶりに減少、前月は1.6万人増、6ヵ月平均は0.2万人減
・情報 2.5万人減と3カ月連続で減少、前月は2.0万人減、6ヵ月平均は0.6万人増

財生産業は前月比2.0万人増と前月の5.1万人増(修正値)を下回り22ヵ月連続で増加しつつ、21年3月以来の低水準だった。業種別をみると、建設は13ヵ月連続で増加したが、油価が米国の需要減退を嫌気し80ドル前後で推移しつつ鉱業・伐採は横ばいにとどまった。何より、製造業は22ヵ月ぶりに減少に転じた。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 2.0万人増と13ヵ月連続で増加、前月は3.5万人増、6ヵ月平均は2.3万人増
・鉱業/伐採 横ばい(石油・ガス採掘は100人減)、前月は0.3万人増と5カ月連続で増加、6ヵ月平均は0.3万人増
・製造業 0.4万人減と22ヵ月ぶりに減少、前月は1.3万人増、6ヵ月平均は1.5万人増

チャート:セクター別、就労者の増減

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門はベンチマーク改定を受け前月の2.5%増→2.7%増と11ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種はこれまでの7業種から8業種へ増えた。今回、小売が11カ月ぶりにプラス(0.3%増)に反転した。その他、輸送・倉庫(15.8%増、28ヵ月連続)、専門サービス(6.9%増、18ヵ月連続)、情報(5.7%増、18ヵ月連続)、金融(2.7%増、17ヵ月連続)、公益(0.8%増、15ヵ月連続)、卸売(2.6%増、12カ月連続)、教育・健康(1.6%増、5カ月連続)となる。ただし、8業種のうち輸送・倉庫、情報、公益の3業種は前月から伸びを狭めた。一方で、娯楽・宿泊を始めその他サービス、政府はマイナスをたどった。

財部門は1月と変わらず2.1%増、10ヵ月連続でプラスを守った。建設(4.1%増)が13ヵ月連続でプラスとなっただけでなく、製造業(1.5%増)も9ヵ月連続で増加。建設がプラス圏を回復してから最も力強い伸びとなった半面、製造業は前月から伸びを狭めた。鉱業・伐採は2カ月連続で8.0減、20年2月以降で最も小幅な下げを保った。

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(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.2%上昇の33.09ド ル(約4,520円)と、市場予想の0.3%を下回った。前月の0.3%にも届かなかった一方で、25ヵ月連続で上昇している。前年同月比は4.6%上昇し、市場予想の4.7%を下回った。とはいえ、2021年8月以来の低水準に並んだ前月の4.4%から再加速した。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.3%上昇、前月の5.2%(5.1%から上方修正)を超え、2021年6月以来の5%割れに至らなかった

チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う

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(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.5時間と、コロナ禍で経済活動が停止した2020年4月以来の低水準から急回復した前月の34.6時間(34.6時間から下方修正を下回った。複数の職を持つ者とフルタイムの雇用が増加したことが一因とみられる(後述)。ただし、2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた格好だ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は40.0時間と、2021年3月以来の高水準だった前月の40.2時間を下回った。引き続き、コロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.4時間と、6カ月ぶりの水準を回復した前月の33.6時間から短縮した。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、短縮傾向が続く

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(作成:My Big Apple NY)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数の伸びが前月比で増加したモノの前月以下となり、労働時間も短縮したため、前月比0.1%減と過去4カ月間で3回目のマイナスとなった。平均時給の伸びが鈍化したが、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.2%増と増加トレンドを維持した。

失業率は3.6%と、市場予想及び1969年5月以来の低水準を記録した前月の3.4%を上回った。失業者が前月比24.2万人増加したことが響いた。また、自発的離職者数は0.8%増と小幅ながら2カ月連続増加しつつ、解雇者が増加したため自発的離職者数に占める失業者の割合は14.8%と前月の15.3%を下回った

チャート:自発的離職者数は2カ月連続で増加

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(作成:My Big Apple NY)

解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比14万人増(7.8%増)の193.5万人となった。2022年3月以来の200万人乗せが視野に入った。解雇者数の割合としては、労働市場への再参入者の割合を再び上回り32.2%となった。

チャート:解雇者数、再び失業者の理由で1位に浮上

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(作成:My Big Apple NY)

労働参加率は62.5%、前月の62.4%を上回り2020年3月以来の高水準だった。なお、コロナ感染拡大直前の20年2月は63.4%である

就業率は60.2%と前月と変わらず、2020年2月(61.1%)以来の高水準を維持した。ただし、コロナ感染拡大直前にあたる20年2月の61.2%に距離を残す。

引き続き、労働参加率の改善をを支えたのは「病気が理由で働けない」とする人々が減少したことが一因と考えられよう。2月は前月比10.7万人減(3カ月連続で減少)の117万人で、過去3カ月間の労働参加率の改善と整合的だ。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下に

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(作成:My Big Apple NY)

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就労者数の乖離が続くが、今回はNFPが31.1万人増に対し、家計調査の就労者数は17.7万人増と3カ月ぶりにNFPを下回った

チャート:家計調査の就労者数はNFPを大幅に上回る

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(作成:My Big Apple NY)

家計調査の就労者数を雇用形態別でみると、複数の職を持つ者が増加しただけでなく、フルタイムが60.7万人増と2カ月連続で力強い伸びを遂げ、22年3月以来の高い伸びを遂げた。景気減速懸念から、労働者がフルタイムを希望している、あるいはパートタイムからフルタイムにシフトした可能性を示唆する。一方で、パートタイムは3カ月ぶりに減少した。

チャート:パートタイムと複数の職を持つ者が増加、肝心のフルタイムは減少傾向続く

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:フルタイムの雇用増、2月は22年3月以来の高い伸び

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:複数の職を持つ者、前月から増加に反転

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(作成:My Big Apple NY)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全就業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全就業率は6.8%と前月の6.6%を上回った。22年12月は、1994年の統計開始以来で最低を更新し6.5%だった。

2)労働参加率 採点-〇
労働参加率は62.5%と、前月の62.4%から上昇し20年3月以来の高水準だった。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

チャート:不完全就業率は過去最低水準から上昇、労働参加率と就業率は改善

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(作成:My Big Apple NY)

3)長期失業者 採点-×
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は8.3週と前月の9.1週から短縮した。27週以上にわたる失業者の割合は17.6%と、2020年8月以来の低水準だった

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、2020年8月以来の低水準

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(作成:My Big Apple NY)

4)賃金 採点-△(インフレ抑制の観点でも△)
今回は前月比0.2%上昇し、前月の0.3%を下回った。前年比は4.6%と2021年8月以来の低い伸びだった前月の4.4%から再加速した。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.5%前年比は5.3%上昇し、前月の5.2%を超え21年6月以来の5%割れが遠のいた。

(カバー写真:Don LaVange/Flickr)

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