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米10月雇用統計・NFPは減速、失業率は上昇、解雇者数は増加

by • November 3, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off3696

October Jobs Report Shows Signs Of Labor Markeet Slowdown.

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を下回り、4カ月ぶりの低い伸びでした。労働参加率が低下したにもかかわらず、失業率は2022年1月以来の水準へ上昇平均時給は前月比と前年比でそろって9月を下回り、賃上げ圧力の後退を確認した格好です。一連の結果を受け、FF先物市場では利下げ転換見通しがFOMC前の2024年7月→同年5月に前倒しされました。

画像;FF先物市場の反応(NY時間12時4分時点)

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(出所;Fedwatch)

米金融市場は米株高・米債高(米金利は低下)・ドル安で反応。ゴルディロックス万歳ムードに包まれました。

日足チャート:ドル円は、米10月雇用統計結果を受けて一時149.19円まで本日安値を更新(NY時間12時4分時点、水色線は米10年債利回り・左軸)

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(出所:TradingView)

米10月雇用統計のポイントは、以下の通り。

(労働市場にポジティブ)

・労働市場の先行指標である派遣は9カ月ぶりに増加
・フルタイムの労働者が4カ月ぶりに増加、パートタイムは4カ月ぶりに減少
・「病気が理由で働けない」人々、2015-19年平均に接近

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・NFPが8カ月ぶりの高い伸び
・過去2カ月分は下方修正
・失業率は前月と変わらず、2022年2月以来の高水準
・労働参加率は8-9月の水準から低下
・就業率は2020年2月以来の高水準だった8―9月から低下
・週当たり労働時間、財とサービスがそろって短縮
・平均時給の伸びは、前年同月比で鈍化継続(インフレ抑制の観点ではポジティブ、購買力の観点でネガティブ)
・複数の職を持つ者は過去最多を更新
・解雇者数が5カ月ぶりの水準へ増加
・不完全雇用率は2022年2月以来の高水準

以下は、米9月雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米10月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比15.0万人増となり、市場予想の18.0万人増を大幅に下回った。前月の29.7万人増(33.6万人増から上方修正)から大幅に鈍化し、4カ月ぶりに低い伸びだった。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比9.9万人増と市場予想の15.8万人増を下回った。前月の264.6万人増(26.3万人増から下方修正)にも届かず、2021年1月以降の増加トレンドで最も小幅な伸びに。全米自動車労働組合(UAW)が9月15日からストライキに入った影響で、自動車・部品が3.3万人減と2021年4月以来で最大の落ち込みをみせ、民間就労者数の伸びを抑えた。民間サービス業は11.0万人増と、前月の21.8万人増(23.4万人増から下方修正)を下回った。

チャート:NFPは減速、失業率は2022年1月以来の水準へ上昇

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(出所:Street Insights)

チャート:自動車・部品の就労者数は減少に転じ、下げ幅は2021年4月以来で最大

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(出所:Street Insights)

8月分の6.7万人の下方修正(22.7万人増→16.5万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で10.1万人もの大幅な下方修正となった。以前から筆者が指摘し7月に入ってウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も記事で取り上げたように、NFPは労働市場を過大評価している可能性が再び意識されそうだ。

チャート:年初来のNFPと、修正幅(グレー枠は年初来での修正幅)

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(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は、11業種中で7業種で増加し、前月の速報値ベースの10業種を下回った。今回最も雇用が増加した業種は前月3位だった教育・健康、次いで前月に続き政府が入った、足元、政府は雇用増加をサポートし続けている。また、前月1位だった娯楽・宿泊は10月に3位だった。一方で4業種は減少。情報は6カ月連続で減少したほか、その他サービス、金融に加え、年末商戦前にUPSが前年通り10万人の臨時採用を発表したものの、輸送・倉庫が再び減少に転じた。

(サービスの主な内訳)

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(出所:Street Insights)

財生産業は前月比1.1万人減と、7カ月ぶりに減少した。業種別をみると、建設が7カ月連続で増加したほか、鉱業・伐採が2カ月連続で増加。ただし、製造業は前述したようにUAWのストライキを受け、過去4カ月間で3回目の減少となった。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

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(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

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(出所:Street Insights)

チャート:20年2月との比較、民間サービス部門は前月の3.6%増→3.7%増と19ヵ月連続でプラス圏をたどると共に上げ幅を広げた。政府を含めたサービス部門の11業種中、当時の水準を超えた業種は、今回初めて政府がプラスに転じたため9月の8業種→9業種に増加。政府のほか輸送・倉庫、専門サービス、情報、金融、公益、卸売、教育・健康、小売となる。一方で、娯楽・宿泊、その他サービスは引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

財部門は2.7%増と前月の2.6%増を上回り、18ヵ月連続でプラス圏を守った。建設と製造業はプラスだったが、製造業は伸びを縮小。鉱業・伐採は引き続きマイナスをたどった。

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(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.2%上昇の34.0ド ル(約5,070円)と、市場予想の0.3%を下回った。前月の0.3%(0.2%から上方修正))にも届かず。20カ月連続で上昇しつつ。2022年3月以降で最も低い伸びだった。前年同月比は4.1%と、市場予想の4.0%を超えたが前月の4.2%を下回り、2021年6月以来の低い伸びとなった。生産労働者・非管理職の前年同月比は4.4%と、同じく2021年6月以来の低い伸びだった。

チャート:平均時給は前年比で2021年6月以来の低い伸び

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(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月の34.4時間を下回った。コロナ禍で経済活動が停止していた2020年4月以来の水準に再び落ち込んだ。2006年以来の最長を記録した2021年1月の35時間を下回り続けた。財部門(製造業、鉱業、建設)39.8時間と3カ月ぶりに低下した。引き続きコロナ禍で最長となった2月の40.4時間以下が続く。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは7ヵ月連続で33.2時間と、経済活動が停止した2020年3月(32.9時間)以来の低い水準に並んだ。2006年以降で最長を記録した21年5月の33.9時間以下が続く。

チャート:週当たり平均労働時間は、低迷継続

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(出所:Street Insights)

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は労働時間が前月から短縮したほか、就労者数の伸びが前月を下回ったため、前月比で0.2%減と3カ月ぶりにマイナスに転じた。平均時給の伸びが鈍化した結果、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比横ばいと増加トレンドにブレーキを掛けた。

〇失業率、労働参加率、就業率

失業率は3.9%と市場予想と前月の3.8%を上回り、2022年1月以来の高水準だった。労働参加率が前月から低下したにもかかわらず、失業者が前月比14.6万人増となったため、失業率を押し上げた。

米景気減速が指摘されるなか、自発的離職者数は80.0万人と前月の79.7万人からわずかに増加。ただ、自発的離職者数に占める失業者の割合は12.6%と、5カ月ぶりの低水準だった。

チャート:自発的離職者数は3カ月ぶりにわずかに増加した程度で、シェアは5カ月ぶりの低水準

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(出所:Street Insights)

自発的離職者数が小幅増加した半面、解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比10.9万人増の218.6万人と5カ月ぶりの水準へ増加した。解雇者数の割合は前月の33.2%→34.4%と5カ月ぶりの水準へ上昇し、失業者のシェアで1位を維持した。その他、再参入者は前月の32.9%→29.6%と低下。UAWのストライキを受け一時解雇者は前月の12.5%→13.7%へ上昇、新規参入者は前月の9.1%→9.6%へそれぞれ上昇した

チャート:失業者に占める解雇者と一時解雇者は増加し、シェアも上昇

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(出所:Street Insights)

チャート:解雇者数は5カ月ぶりの水準へ増加

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(出所:Street Insights)

解雇者数の増加などが失業者数を押し上げるなか、サーム・ルール(失業率の直近3ヵ月移動平均と過去1年間での最低水準の差が0.5pt以上なら、1年以内に景気後退入りするとの説)を確認すると、10月は0.33ptへ上昇し、景気後退入りのサインとなる0.5%に接近した。

チャート:直近3カ月の移動平均と過去1年間の最低水準の差は0.33ptと、景気後退のサイン0.5%に接近

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(出所:Street Insights)

労働参加率は62.7%と、過去2カ月間の62.8%を下回り、20年2月(63.4%)の水準回復から一歩遠ざかった

就業率は60.2%と、2020年2月(61.1%)以来の高水準に並んだ8-9月の60.4%から低下。就業者数が前月比34.8万人減と5カ月ぶりに減少したことが響いた。

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比14.6万人減(年初来で5回目の減少)の103.3万人だった。コロナ後の平均値を引き続き下回っただけでなく2015‐19年の平均値に接近したものの、労働参加率は前月から低下していた。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値に接近も、労働参加率の改善につながらず

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(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

足元、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、今回はNFPが15万人増に対し、家計調査の就労者数は34.8万人減と5カ月ぶりに減少しただけでなく、2020年4月以来の落ち込みを迎え、大きく乖離した。

チャート:NFPと家計調査の就業者数の結果、家計調査の就業者数は減少に反転

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(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが32.6万人増と4カ月ぶりに増加した。また、複数の職を持つ者も39.6万人増と過去5カ月間で4回目の増加となった結果、1994年のデータ公表以来で最多を記録。一方で、パートタイムが前月比67.2.万人増と4カ月ぶりに減少した。

チャート:フルタイムは4カ月ぶりに増加、パートタイムは4カ月ぶりに減少した裏で、複数の職を持つ者が大幅増

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(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は、1994年のデータ公表以来で最多

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(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下をたどる。直近のデータをみると前月から更新されておらず、CESは6月に41.6%雇用動態調査(JOLTS、求人件数などを含む)は31.9%と、それぞれ低水準を保った。失業率や労働参加率などを管轄するCPSは対面と電話での聞き取り調査となるため、回答率は足元で低下したとはいえ7月に70.2%と、他と比較して高い。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは6万世帯に過ぎない。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

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(出所:Street Insights)

〇起業・閉鎖モデル

以前からお伝えしたように、これまで筆者は、複数の職を持つ者がNFPを押し上げた可能性を指摘していた。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるためです(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。最近では、NFPを算出する上での起業・廃業モデルにも注目。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙も、7月に同様の記事を配信し、起業・廃業モデルなどを理由に「NFPは労働市場を過大評価している可能性」を取り上げ、筆者以外に疑問視する声の存在を感じさせていた。

今回を振り返ると、起業の増加推計がNFPの雇用増を支えたようだ。起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると前月比41.2万人増と、5カ月ぶりのマイナスとなった前月から増加に転じた

チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増(季調前)は、2桁増に戻す

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(出所:Street Insights)

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全就業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全雇用率 採点-×
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は前月の7.0%→7.2%と2022年2月以来の高水準。家計調査でパートタイムが減少したにもかかわらず、縁辺労働者が増加したためか、上昇に転じた。

チャート:不完全雇用率、2022年2月以来の高水準

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(出所:Street Insights)

2)労働参加率 採点-×
労働参加率は62.7%、8-9月は62.8%と2020年2月以来の水準を維持したが、上昇に転じた。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。就業率も前月と変わらず60.4%だった

チャート:労働参加率と就業率、前月から低下

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(出所:Street Insights)

3)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は9.2週から8.9週へ短縮した。ただし、27週以上にわたる失業者の割合は19.8%と前月の19.1%を上回った。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は、再び上昇

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(出所:Street Insights)

4)賃金 採点-×(インフレ抑制の観点では〇)
今回は前月比0.2%上昇し、2022年3月以降で最も低い伸びだった。前年比は4.1%と、2021年6月以来の低い伸びを保った。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.3%と前月と変わらず。前年比は4.4%と、2021年6月以来の低い伸びだった。

(カバー写真:World Relief Spokane/Flickr)

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