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米10月PCE価格指数は2021年以来の低い伸び、賃金の伸びも鈍化

by • December 3, 2023 • Finance, Latest NewsComments Off3101

Core PCE Inflation Slows As Wage Growth Slips To Lowest In This Year.

米10月個人消費支出は前月比0.2%増と、市場予想と一致した。前月の0.7%増に届かなかったものの、7カ月連続でプラスとなった。

〇個人消費支出

個人消費の結果は以下の通り。名目ベースとインフレを除く実質ベースそろって増加した。

・前月比0.2%増と7カ月連続で増加、市場予想と一致、前月は0.7%増
・前年比では5.3%増と2020年12月以降の増加トレンドを維持、前月は5.7%増
・実質ベース前月比0.2%増と2カ月連続で増加、前月は0.3%増
・前年比では2.3%増と21年2月以降の増加トレンドを維持、前月は2.7%増

耐久財は自動車・部品が前月比0.5%減と全米自動車組合(UAW)のストライキの影響もあって落ち込んだほか、家具も1.0%減と弱かった。非耐久財は服飾・靴類が0.4%減と4カ月ぶりに減少したほか、ガソリンも1.8%減と2カ月連続で減少。サービスは住宅が0.5%増と引き続き押し上げた。

個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 0.2%減と7カ月ぶりにマイナス、前月は0.7%増
・耐久財 0.5%減と減少に反転、前月は1.1%増
・非耐久財 横ばい、前月は0.5%増と4カ月連続でプラス
・サービス 0.4%増と2022年2月以降の増加トレンドを維持、前月は0.7%増

チャート:個人消費、前月比の項目別内訳

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(作成:Street Insights)

チャート:個人消費は前月比ベースで実質は0.2%増と名目と変わらず、財を中心にディスインフレ傾向か

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(作成:Street Insights)

〇個人所得

米10月個人所得は前月比0.2%増と、市場予想と一致した。前月の0.4%増を下回ったものの、2022年1月以降の増加トレンドを維持した。

個人所得の結果は以下の通り。

・前月比0.2%増と2022年1月以降の増加トレンドを維持、市場予想と一致、前月は0.4%増
・前年比では4.5%増と2022年4月以降の増加トレンドを維持、前月は4.8%増
・実質ベースは前月比0.2%増、前月は横ばい
・前年比では1.4%増と2022年12月以降の増加トレンドを維持、前月は1.3%増

個人所得のうち、名目ベースで賃金・給与は年初来続く増加トレンドを維持したものの、伸びは最小だった。一方で、家賃収入が引き続き全体を支えたほか、株高と金利上昇を受け資産所得が強い伸びを果たした。なお、米疾病対策センター(CDC)は21年8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに21年10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が21年8月26日に無効の判断を下したため、販売用物件の減少も重なって家賃の上昇が進行した。足元、新規契約分の家賃は前月比で下落が指摘されているが、家賃は基本1~2年契約のため、下落が反映されるまでラグを伴う傾向がある。

所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。

・賃金/所得 0.1%増と2023年1月以降の増加トレンドを維持(民間は0.1%増、政府部門は0.7%増)、前月は0.5%増
・経営者収入 0.4%増と5カ月連続で増加(農業は2.8%減、非農業は0.5%増)、前月は1.1%増
・家賃収入 0.5%増と5ヵ月連続で増加、前月は0.7%増
・資産収入 0.8%増と4カ月連続で増加(金利収入が0.7%増、配当が0.8%増)、前月は0.5%増
・社会補助 0.1%減と5カ月連続で減少、前月は0.3%減
・社会福祉 0.1%減と5カ月連続で減少、前月は0.4%減(メディケア=高所得者向け医療保険は0.2%増、メディケイド=低所得者層向け医療保険は1.1%減、失業保険は5.8%増、退役軍人向けは0.2%増、その他は2.5%減)

チャート:個人所得、前月比の項目別内訳、賃金のシェアが縮小

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(作成:Street Insights)

〇可処分所得
・前月比0.3%増と2022年2月以降の増加トレンドを維持、前月は0.3%増
・前年比は7.0%増と2022年5月以降の増加トレンドを維持、前月は7.4%増
・実質ベースの可処分所得は0.3%増、前月まで2カ月連続で横ばい
・前年比は3.9%増と年初来の増加トレンドを維持、前月は3.8%増

〇貯蓄率
3.8%と、年初来で最低だった前月の3.9%から小幅上昇。ただし、2019年平均の7.4%以下が続いた。なお、過去最低は2005年7月の1.4%。

チャート:個人消費の伸びが加速し、貯蓄率は低下

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(作成:Street Insights)

個人消費支出などのデータ改定を受け、貯蓄額(可処分所得マイナス個人消費支出)は7,686億ドルと、2019年平均の1.2兆ドルを下回った。過剰貯蓄の取り崩しを確認した。

チャート:貯蓄額は2019年平均以下

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(作成:Street Insights)

〇個人消費支出(PCE)価格指数

Fedの積極的な利上げを受け、PCEの前年同月比は2021年3月以来の3%割れが迫り、PCEコアは2021年4月以来の低い伸びだった。

・PCE価格指数は前月比0%、市場予想の0.1%以下、前月は0.4%
・前年比は3.0%上昇、市場予想と一致し2021年3月以来の3%割れ接近、前月は3.4%
・コアPCEデフレーターは前月比0.2%上昇、市場予想と一致、前月は0.3%
・コアPCEの前年比は3.5%上昇、市場予想と一致し2021年4月以来の低い伸び、前月は3.7%

チャート:10月はPCEもコアPCEもそろって2021年以来の低い伸び

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(作成:Street Insights)

――10月はPCEとコアPCEそろってインフレ減速を確認しました。タカ派寄りのウォラーFRB理事が11月28日、先行して「景気回復などとは無関係に、インフレ率が低下したという理由のみで政策金利を引き下げ始めることができる」、インフレが一貫して低下するなら、金利の「非常に高い」水準への据え置きを主張する「理由はない」と発言、利下げ示唆と解釈される発言を行ったのも、納得です。加えて、パウエルFRB議長は12月1日に「金融緩和の時期について臆測するのは時期尚早だ」「追加の金融引き締めが適切になる場合は、そうする用意がある」と述べた一方で、利上げ過不足リスクは「均衡」と発言。Fedが「慎重なタカ派」から「中立」寄りへ軸足をシフトしてきたことは明らかです。

何より、個人消費の原動力である個人所得のうち、賃金・所得が前月比0.1%増と年初来でい最小の伸びでした。ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)が数カ月以内のデフレ入り、デビッド・レイニー最高財務責任者(CFO)が消費の急減速に言及していましたが、整合的です。こうしたトレンドが続くようであれば、Fedは「Higher For Longer(より高く、より長く)」のうちHigherだけでなくLongerの看板も取り下げる必要がありそうです。

さらに、米景気に不穏な影が差しています。

米11月ISM製造業景気指数は46.7と、市場予想の47.6を下回りました。前月と変わらずで、13カ月連続で景気判断の分岐点である50を割り込んでいます。雇用が45.8と2020年7月以来の水準に落ち込んだほか、仕入れ価格も49.9と前月を上回ったものの50割れを維持。また、米11月S&Pグローバル製造業PMI確報値も49.4と50割れに戻しました。

チャート:ISM製造業景況指数、13カ月連続で分岐点割れ

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(作成:Street Insights)

個人消費を占う上で注目の米11月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は61.3と年初来で最低、期待指数も56.8と2022年11月以来の低水準でした。現況指数のみ上向いたものの、期待指数の落ち込みをみる限り、消費が好転する兆しはみられません。

米11月PCEとコアPCEがなど物価上昇ペースが鈍化しているにもかかわらず、1年先インフレ期待が4.5%、5-10年先のインフレ期待も3.2%と高止まりしている点も気掛かりです。

チャート:米ミシガン大消費者信頼感は現況指数以外が下向き、インフレ期待の上昇が重石に

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(作成:Street Insights)

ミシガン大学の消費者調査担当ディレクターのジョアン・シュー氏は結果を受け「金融関連のセンチメントは好転したが、長期見通しが下向くなどまちまちだった」と説明。特に長期見通しは前月比15%低下し、2022年7月以来の水準に落ち込んだといいます。年齢では若年層や中年層で低下した半面、55歳以上は改善したとのコメントを寄せたが、これは55歳以降で金融資産の恩恵が働きやすいためでしょう。

米消費者はインフレが減速しつつも物価高止まりを予想するだけに財布の紐を緩めるとは想定しづらく、米経済の約7割を占める個人消費は冬を迎えそうです。

(カバー写真:andy lapham/Flickr)

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