Beige Book Notes Continued Labor Market Tightness But Optimism Has Cooled.
米連邦準備制度理事会(FRB)が1日に公表したベージュブック(2017年1月初めから2017年2月半ばでカバー)によると、米経済は引き続き拡大(continued to expand)し、拡大ペースは「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」と前回の「緩慢(modest)」から上方修正された。
(経済全般のセクション)
・ニューヨーク地区連銀がまとめた今回のベージュブックでは、経済活動が「緩慢からゆるやか(from modest to moderate)」に拡大し続けた。
・個人消費は前回のベージュブックから「控え目に増加した(expanded modestly)」。小売売上高は全ての地区連銀で「抑制されたペース(subdued pace)」にとどまり、消費者が店舗からオンラインへの移行する過程で圧迫された。
・自動車売上高は広く「様々(varied)」だったが、全般的には上向いた。
・観光活動は「まちまち(mixed)」で「概して前回より力強さをみせた(mostly stronger)」。
・製造業は「幾分加速し(accelerated somewhat)、ほとんどの地区連銀はゆるやかな伸びを報告した。
・エネルギー関連は「控え目な成長(modest growth)」を示し、輸送関連は全米で「安定的で幾分強まった(steady to somewhat higher)」。
・住宅建設活動と販売は概して「緩慢に拡大し続けた(continued to expand modestly)」一方、賃貸住宅市場は「まちまち(mixed)」だった。
・商業不動産建設は「控え目に伸び(grew modestly)」、売上とリースは「緩やかに拡大した(grew moderately)」
・企業活動は短期的見通しに対し「全般的に楽観的(generally optimistic)」だったが、「前回より幾分楽観度は後退(somewhat lesser degree than)」した。
(地区連銀別、経済活動の形容詞)
・「緩慢」と表現した地区連銀はNY、フィラデルフィア、アトランタ、セントルイス、ミネアポリス、カンザスシティ、ダラスの6行。
・「ゆるやか」と表現した地区連銀はリッチモンド、シカゴ、ダラス、サンフランシスコの4行。リッチモンドとダラスはエネルギー関連の生産地が比較的多く集まる。
・「緩慢+ゆるやか」はボストン、「安定的」はクリーブランドの2行。
地区連銀別、経済活動の形容詞動向
(雇用と賃金、訳)
・労働市場は「逼迫したまま(remained tight)」で、数地区連銀からは「人材不足の幅が広がった(widening labor shortage)」と報告した。
・雇用の伸びは全米にわたって「ゆるやか(moderately)」だったが、3地区連銀のうち2地区連銀は「控え目(modest)」、1地区連銀は「ほとんど変わらなかった(little changed)」と表現した。
・多くの地区連銀は、この時期にしては人材派遣会社で「活発(brisk)」な動向がみられたと指摘、1地区連銀からは派遣社員から正社員への切り替えを確認した。
・全般的に、賃金は「控え目あるいはゆるやかに(modest or moderately)」上昇した。
・多くの地区連銀は特殊技能職、特にエンジニアやIT関連の人手不足から賃上げが発生し、娯楽/宿泊、建設、製造業でも賃上げが報告された。
経済活動に対する形容詞の登場回数、1月と3月の比較。
(物価のセクション、訳)
・価格圧力は前回のレポートから「ほとんど変わらず(little changed)。
・ほとんどの地区連銀は販売価格が「控え目からゆるやか(modest to moderate)」ペースで上昇したが、4地区連銀は「横ばい(level off)」を報告した。
・仕入れ価格は全般的に「ゆるやかに(moderately)」上昇し、エネルギー価格と農業製品価格は「まちまちだったが概して安定的(mixed but modestly steady)」 だった。
・全体的に、企業活動は仕入れ並びに販売価格が数ヵ月先に「緩やかに上昇する(modestly increase)」と予想した。
(全体のキーワード評価)
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不透明性」との文言は前回に続き登場したものの1月の7回から減少、2016年10月の水準を回復した。「不透明性」要因には地区連銀のサマリー部分でボストン連銀とダラス連銀がトランプ政権の経済政策に対し指摘し、フィラデルフィア連銀が不透明性のなかでも慎重寄りの楽観が残ると報告している。「増加した(increase)」→15回<前回は22回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4 回<前回は6回
「緩やか(moderate)」→13回>前回は9回
「緩慢、控え目など(modest)」→24回>前回は17回
「弱い(weak)」→2回<前回は4回
「底堅い(solid)」→1回=前回は0回
「安定的(stable)」→0回<前回は4回
「不透明性(uncertain)」→3回<前回は7回
一方で「不透明性」をめぐる個別の地区連銀の詳細報告での登場回数は7回で、以下の通り。
・ボストン連銀 3回→新政権の政策について2回、医療保険制度改革に対し1回
・クリーブランド連銀 2回
→規制改革について1回、米大統領選後の動向で1回
・ダラス連銀 1回
→サービス関連業で新政権の政策について1回
・サンフランシスコ連銀 1回
→財政政策と医療保険制度改革の行方について1回
(ドル高をめぐる表記)
ドル高をめぐるネガティブな表記は、総括はなしで地区連銀2行が1回ずつ指摘し2回登場した。引き続きダラス連銀がドル高に批判的だったほか、1月のセントルイス連銀に代わりサンフランシスコ連銀が名乗りを上げている。
・ダラス連銀、1回→「輸出はドル高とメキシコ経済の鈍さが売上の打撃となった」
・サンフランシスコ連銀、1回→「製鋼所の稼働率は過去平均を下回り、ドル高と弱い海外経済需要が背景」にある。
(中国)
中国というキーフレーズが登場した回数は5回連続でゼロとなった。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時の11回から徐々に減少し、1年経過した2016年9月分で漸くゼロへ戻した格好だ。
――今回のベージュブックでは労働市場の逼迫が引き続き確認できたものの、1)個人消費の加速は見られず、2)商業不動産、住宅建設の拡大もゆるやか、3)不透明性が残存――といった状況で、早急な利上げが求められるような環境ではないことを示しています。3月利上げを行うのであれば、米1月個人消費支出(PCE)デフレーターや米1月消費者物価指数(CPI)の上振れ、また新政権の財政出動を先取りした保険措置という位置づけになるのでしょう。インフレ動向が要因であれば、直近でこそ聞かれていないとはいえ、Fed高官はかねてから「単月の経済指標で判断しない」との発言に反します。1月FOMC声明文で利上げの地均しを十分行わず、3月利上げを決定すればFed批判が再燃しないとも限りません。
なお2015年12月の利上げ開始前の同年10月ベージュブックでは経済活動の総括では、「経済活動は穏やかに拡大し続けている(continued modest expansion in economic activity)」と表記していました。2016年12月の追加利上げ直前の同年10月ベージュブックでは経済活動の総括は「緩慢(modest)あるいはゆるやか(moderate)」で、商業不動産動向に対する「不透明性」も指摘。過去の例を振り返るなら、今回分の内容でも3月利上げは可能と言えます。
(カバー写真:Miguel Vicente Martínez Juan/Flickr)
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