Besides New Travel Ban, You Should Watch Out This New Order.
かねてから報じられていた通り、トランプ米大統領は1月27日に署名した入国禁止に関する大統領令の修正版に発令しました。トランプ大統領は記者会見に姿を見せず、代わりにティラーソン国務長官、セッションズ司法長官、ケリー国土安全保障長官が説明責任を果たしています。質疑応答は受け付けませんでした。
注目点は5つ。
1.イラクを入国禁止対象から除外し、イスラム圏6ヵ国(イラン、リビア、シリア、イエメン、スーダン、ソマリア)の6ヵ国に対し90日間にわたり入国禁止(難民は120日間)
→イラクはイスラム国(IS)との戦いに従事するだけでなく、ビザ審査の強化や情報共有で米国政府に協力的だったため対象外に。
2.シリア難民の無期限入国禁止を90日に変更
→他国より厳しい措置を緩和。
3.対象国の宗教少数派の受け入れ優先規定を排除
→イスラム圏国家でのキリスト教徒を優先する宗教上の差別的措置を撤廃。
4.ビザ取得者、有効な米国永住権(グリーンカード)保有者は除外
→1月27日に署名した入国禁止は、6万件に及ぶビザが一時的に無効とされる事態に。
5.3月16日から発効
→即時発効での混乱を回避。
1月27日以降、入国禁止令をめぐりワシントンD.C.をはじめ西や東でデモが頻発したものです。
(出所:Ted Eytan/Flickr)
日本でも大いにメディアで取り上げられたこの米大統領令、確かに目を引きます。しかし、日本人にはもっと深刻な事態が発生していたのです。
2月28日の議会演説でトランプ米大統領は移民政策について多くを語らず、就労ビザへの言及はゼロでした。演説では語られた言葉より口にしなかったトピックにこそ意味があると言われますが、まさにその通りです。
何かと申しますと、特別技能者向け就労ビザH1Bです。今年は移民局が4月3日から応募を開始し、一般枠で6万5,000人、修士号枠で2万人、合計で8万5,000人のみに支給される狭き門。さらに自由貿易協定(FTA)の条件を受けてシンガポール人とチリ人向けに6,800件が割り当てられるため、正確には7万8,200人のみパスできるビザですね。2017年度(2016年4月に応募受付、同年10月に勤務スタート、*米国での会計年度開始は10月なので2017年度)は23万6,000件もの申請が寄せられたといいますから、約3割しか米国での就労を認められませんでした。
しかも設定枠いっぱいまで申請者を受け入れるとも限らず、倍率がさらに上がってしまうことも。運命を決めるのは神の手・・ならぬコンピューターで、4〜5月に無作為の抽選方式で行われ、審査を経て当選すれば移民局から書類が届き、落選すれば書類と申請費用が返ってきます。気になる費用は企業の規模ごとに変わり、ざっと1,600ドル〜7,400ドル。これに弁護士費用のほか、審査期間を通常の2ヵ月から15日以内に短縮するプレミアム・オプションを希望する申請者は特急審査費用1,225ドルを別途支払う仕組みとなっています。ちなみに申請基本料は、従来の325ドルから460ドルへ引き上げられました。
今回、このH1Bビザをめぐりトランプ政権下で移民局が発表した変更はといいますと・・。
特急審査費用の廃止です。
1,225ドル支払えば15日以内に審査結果が把握できたところ、一時停止に追い込みました。2016年時点で特急審査費用を支払った申請者でも結果は約1ヵ月半後の5月16日までお預けになっていたので、特に問題なしという解説もあります。
しかしながら、審査に6ヵ月近くかかる場合もあり申請者やスポンサー企業にとっては時間が浪費されかねません。企業にとっては必要な人材獲得の障害に、個人にとっては就職先の確保が困難となり互いにアンハッピーな変更なんですね。
トランプ政権は特急審査費用の廃止だけでなく、その他の変更も検討中とも報じられています。1)抽選方式の撤廃(博士号取得者など高学歴を優先)、2)H1Bビザ取得後の最低年収を6万ドルから13万ドルに引き上げ、3)ビザ発給の20%を中小企業、ベンチャー企業に割り当て、4)職業訓練後に祖国へ帰すアウトソーシング企業の取り締まりを強化、5)H1Bビザ取得者、あるいはL1ビザ取得者が50人以上の従業員を有する企業に対し追加でH1Bビザ取得者を雇用することを禁止、6)米国人を雇用する努力をした証拠提出——などが盛り込まれる見通し。最後のL1ビザは駐在員ビザなので、日本企業に該当するというわけです。
ビザ発給の厳格化はまだ草案段階とはいえ、いつ署名されてもおかしくありません。H1Bビザ取得の約7割はインド人でIT企業の問題と認識されてきましたが、米国勤務を希望する日本人や駐在員を置く日本企業にとっても無視できない問題へ変化しつつあります。
(カバー写真:John Sonderman/Flickr)
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