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9月ベージュブック:設備投資や生産計画に追加関税の影

by • September 14, 2018 • Finance, Latest NewsComments Off2634

Beige Book : Tariffs And Trade Policy Curb Investment.

米連邦準備制度理事会(FRB)が9月12日に公表したベージュブック(7月から8月末までカバー)によると、米経済の拡大ペースは「ゆるやか(moderate)」とし、前回の「緩慢、あるいはゆるやか(modest to moderate)」から上方修正した。引き続き、通商政策をめぐる不確実性を指摘する報告が見受けられ、経済拡大ペースの表現こそ上方修正されたが、楽観的な内容が強まったと言い難い。文言ベースでは「力強い」のほか、「ポジティブ」の文言も減少していた。足元で成長率が4%超えとあって9月25~26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げを決定する公算が大きいものの、2019年内の利上げ打ち止めも視野に入って来る。NY地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。

<経済全般のセクション>

(今回)
経済活動は8月末にかけ「緩やかなペースで拡大した(expanded at a moderate pace)」。ダラスは比較的力強いペースで成長した一方、フィラデルフィア、セントルイス、カンザスの3地区連銀は平均を幾分下回る成にとどまった。・・・企業は全般的に短期的に楽観的な見通しを示したが、ほとんどの地区連銀は通商上の緊張に対し、製造業以外からも懸念と不確実性を指摘した。多くの地区連銀は、こうした懸念により、複数の業種で設備投資の縮小や先送りを余儀なくされたという。

(前回)
経済活動は5月半ばから6月末にかけ「拡大し続け(continued to expanded)」、12地区連銀中で10地区連銀が「緩慢、あるいはゆるやか(modest to moderate)」な成長を報告した。むしろダラスはエネルギー部門に牽引された部分もあり、「力強い拡大(strong growth)」を示す。セントルイスは逆に「わずか(slight)」にとどまった。

<個人消費>

(今回)
個人消費は前回のレポートより「緩慢なペース(at a modest pace)」で拡大し、観光は様々なペースで広がりをみせた。

(前回)
個人消費は多くの地区連銀で「上向き(up)」、特にダラスとリッチモンドで「力強さ(strength)」がみられた。

<製造業、非製造業の活動>

(今回)
製造業はほとんどの地区連銀で「ゆるやかなペース(moderate rate)」で拡大したが、セントルイスは「ほぼ変わらず(little changed)」となり、リッチモンドは活動の「低下(decline)」を報告した。輸送業は拡大し、数地区連銀は「活況(robust)」と報告した。

(前回)
製造業は全ての地区連銀で関税への懸念がみられ、多くの地区連銀は新たな通商政策に伴い価格上昇や供給上での混乱に見舞われた。全ての地区連銀は労働市場が「逼迫(tight)」し、多くの地区連銀が人材不足により「成長が抑制されている(constrained growth)」と報告。企業側は、仕入れ価格の値上がりと利鞘縮小を指摘。6地区連銀は特にトラック運転手不足によるトラック稼働率の問題を挙げた。

<不動産市場>

(今回)
住宅建設は「まちまちだったが、概して緩慢に拡大した(mixed but up modestly)」。しかし、住宅販売は全体的に需要低下のほか、販売用物件の減少を背景に「幾分軟調さを増した(somewhat softer)」。商業建設は「まちまち(mixed)」で、販売と賃貸は「ゆるやかに拡大した(expanded moderately)」。

(前回)
「一部(several)」の地区連銀は、中古住宅販売で「鈍い伸び(slow growth)」を報告したが、金利上昇にさほど懸念は示していない。商業不動産は、概して変わらなかった。

<貸出需要>

(今回)
貸出は全米で「拡大した(expanded)」。

(前回)
総括で表記なし。

<農業、エネルギー>

(今回)
複数の地区連銀は、農業での「弱まり(weakness)」を指摘した。

(前回)
総括で表記なし。

<雇用と賃金>

(今回)
労働市場は、全米で「逼迫(tight)」し続け、ほとんどの地区連銀は広範囲にわたる人材不足を報告した。業種では建設のほか、トラック運転手、エンジニア、その他の高い技術をもつ労働者で人手不足を確認レストランや小売など、その他の低賃金職でも、多くの地区連銀が人材不足を指摘した。雇用は「緩慢あるいはゆるやかに(modest or moderately)」に増加したが、ダラスでの雇用は「力強く(robust)」増加し、その他3つの地区連銀では人手不足により「販売が抑制されるか、プロジェクトの先送り(constraining sales or delaying projects)」を余儀なくされたという。賃金の伸びは概して「緩慢あるいはゆるやか(modest or moderate)だった半面、多くの地区連銀は建設労働者の賃金において「大幅な上昇(steep wage hikes)」を報告した。複数の地区連銀によれば、企業は従業員の確保を狙い、職業訓練に一段と注力するほか、休暇や柔軟な労働時間の導入などにいそしんだという。

建設労働者の賃金は、米8月雇用統計でも平均を上回る上昇に。
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(作成:My Big Apple NY)

(前回)
雇用は、ほとんどの地区連銀で「緩慢からゆるやかに(modest to moderate)」拡大し続けた。労働市場は「逼迫している(tight)」と表現され、大半の地区連銀で条件に見合った人材を見つけることが困難と報告した。人材不足は大部分の職種で指摘され、高い技術をもつエンジニア、特殊建設業、製造業、IT専門家、トラック運転手で確認、「複数の(some)」の地区連銀は、成長押し下げ要因に人材不足を挙げた。地区連銀は、企業が労働時間を引き延ばし、同時に従業員確保の努力を強化するほか、地元の学校との提携、派遣社員から正社員への移行を進め、同時に従業員維持のため賃金を引き上げている。総じて、賃金は「緩慢からゆるやかに(modest to moderate)」伸び、2つの地区連銀で賃金の伸びの回復を言及するなど地域によって違いがみられた。

<物価>

(今回)
最終品とサービスの物価は、「緩慢からゆるやかな(modest to moderate)」ペースで上昇し続けたが、「いくつか減速の兆候がみられた(some signs of deceleration)」。全ての地区連銀は仕入れ価格の上昇圧力の広がりを指摘し、特に建設資材、航空輸送で目立つ。多くの製造業を中心に、仕入れ価格の上昇要因として「関税(tariffs)」を指摘。企業の仕入れ価格は全般的に上昇中で、販売価格より速いペースとなっており、企業は一段と最終品への価格上乗せを行うようになった。数地区連銀は、インフレ見通しが「幾分強まった(some increase)」と報告した。

(前回)

物価は、全ての地区連銀で概して「緩慢からゆるやかな(modest to moderate)」ペースで上昇、報告からは一部の地区連銀から「上向き(upticks)」が確認された。仕入れ価格は「一段と上昇(rose further)」し、燃料をはじめ建設資材、空輸コスト、金属が挙げられ、数地区連銀(a few Districts)」は仕入れ価格の伸びが「高まりをみせている、あるいは力強い(elevated or strong)」と報告した。関税は金属と木材の価格を上昇させた。しかし、仕入れ価格から消費価格への波及効果は「わずかから緩慢(slight to modest)」にとどまった。農業商品価格は、商品と地区連銀によって「まちまち(mixed)」だった。価格圧力は、将来的に複数の地区連銀で「一段と高まる(intensify further)」見通しだが、その他の見通しは「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」と見込む。

それぞれの地区連銀が経済活動全般を表現するために使った形容詞、比較チャート。

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(作成:My Big Apple NY)

<地区連銀別、経済活動の形容詞>

●「緩慢」と表現した地区連銀、3行=前回は3行
フィラデルフィア(前回は“緩慢”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回据え置き)
カンザスシティ(前回は“ゆるやか”→今回は“緩慢”へ下方修正)

●「ゆるやか」と表現した地区連銀、7行=前回7行
ボストン(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
NY(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
クリーブランド(前回”ゆるやか“→今回据え置き)
リッチモンド(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
アトランタ(前回は“緩慢”→今回は上方修正)
シカゴ(前回は“緩慢”→今回は“ゆるやか”へ上方修正)
ミネアポリス(前回は“ゆるやか”→今回据え置き)
サンフランシスコ(前回は”ゆるやか“→今回据え置き)

●それ以外、2地区連銀=前回も2行
セントルイス(前回は“わずかに改善”→今回据え置き)
ダラス(前回は“堅調なペース”→今回据え置き)

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(作成:My Big Apple NY)

<全体のキーワード評価>

総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は今回1 回のみ登場し、5月と7月の3回から減少。内容も前回通りで通商上の緊張における「不確実性」が指摘された。

「増加した(increase)」→12回<前回は15回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→4 回<前回は9回
「ポジティブ(positive)」→1回<14回
「ゆるやか(moderate)」→20回<前回は22回
「緩慢、控え目など(modest)」→16回>前回は15回
「弱い(weak)」→3回>前回は0回
「底堅い(solid)」→2回<前回は3回
「安定的(stable)」→1回=前回は1回
「不確実性(uncertain)」→1回<前回は1回

総括でこそ「不確実性」をめぐる文言は減少したものの、地区連銀の詳細報告では「不確実性」の登場回数が前回の9回から11回へ増えた。前回はNY(1回)、アトランタ(1回)、シカゴ(1回)、カンザスシティ(2回)、ダラス(4回)となる。

・ボストン 1回>前回はゼロ
→小売業は、中国からの輸入する綿、電化製品、家具などの関税をめぐる不確実性に懸念を表明。

・アトランタ 3回>前回は1回
→通商政策の不確実性が浮上するにも関わらず、概して経済見通しは前向き
→建設業者の多くが、資材価格の上昇に懸念を表明
→関税と通商政策の不確実性が製造業にセンチメントを押し下げ続け、将来の生産見通しに影響を与え、生産見通しは前回から低下

・シカゴ 2回>前回も1回
→企業は、国際間の通商交渉の行方の不確実性を受け、2019年の設備投資計画の決定を先送り
→収穫量の増加見通しと通商政策における不確実性により、コーンや大豆の価格が下落

・カンザスシティ 1回=前回は1回
→農業にとって通商政策をめぐる不確実性が最大の懸念材料で、農家の借入拡大につながっている

・ダラス 4回=前回は4回
→見通しは極めて楽観的だが、関税と通商をめぐる懸念が不確実性を高めた
→製造業の間で、見通しは引き続き楽観的ながら、将来への不確実性に対する懸念が高まる
→非金融企業も見通しは楽観的だが、燃料価格をはじめ人手不足、通商政策に対する不確実性が主な懸念材料
→建設・不動産業者は、金利上昇、通商政策と移民政策の影響を受けた将来の販売動向見通しに懸念を寄せ、短期的に着工件数が減少すると見込む

<ドル高をめぐる表記>
IMFが7月に公表した世界経済見通しでドル高に言及したものの、ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11分、2018年1月分に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、前回に続きゼロとなる。2017年9月、10月、11月、2018年3月、5月に続きゼロだった。なお2017年5月分(クリーブランド)、7月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。

<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年10月、11月、2018年1月、3月、4月、5月、7月に続きゼロだった。地区連銀別では4回登場し、前回の2回から増加。前回はクリーブランドとセントルイスとなる。なお2017年10月と11月はゼロで、中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、2017年4月分まで6回連続でゼロとなった後、同年5月分で2回登場(ボストンとミネアポリスがそれぞれ1回ずつ指摘)していた。2015年9月に初めて中国が盛り込まれた当時は11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。

・ボストン 1回<前回はゼロ
→小売業は、中国からの輸入する綿、電化製品、家具などの関税をめぐる不確実性に懸念を表明。

・フィラデルフィア 1回<前回はゼロ
→一人のアナリストは、中国からの観光客が減少したと指摘

・セントルイス 1回=前回は1回
→米中の通商対立により農業作物の価格が下落するなか、農業にとって懸念材料に

・サンフランシスコ 1回<前回はゼロ
→太平洋北西部は、米国が対中追加関税を発動した結果、中国からの木材需要が低下したと指摘

――今回のベージュブックで「関税(tariff)」の登場回数は42回(7月分は31回、5月分は22回、4月分は36回)と、追加関税発動後で最多となりました。「懸念(concern, worry)」は30(7月分は32回、5月分は27回、4月分は22回)も、高止まり中。設備見通しの先送りや生産減少を見込む声も聞かれ、現在は絶好調な米経済が減速する兆しをみせています。

(カバー写真:Ken Lund/Flickr)

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