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ハンガーゲーム、バトルロワイヤルや蠅の王のオマージュではありません

by • October 18, 2012 • Gossip, Latest NewsComments (0)6877

The Hunger Games Is Like A Piece Of Bread Without Butter.

映画「ハンガーゲーム」を、自宅でまったりカウチで観賞。今作品、公開初週の週末で1億5254万ドル(120億6066万円)と大ヒットを記録し、北米興行収入ランキングでは堂々4位に輝きました。私の周辺でも、当時は話題になったものです。本屋大手バーンズ・アンド・ノーブルでも、支払いカウンターやら入口付近にどーんと積まれていたのを今でも覚えていますよ。

少年少女が熱狂したミリオンセラー作品。手を伸ばした大人も少なくありません。

舞台は、文明崩壊後に建国された元北米のどこかにある独裁国家Panem。Panemは富裕層が住むキャピトルが支配し、国内の他13地域を占領していた。しかしあるとき、13地域でキャピタルへの大反乱が発生。キャピトルは制圧に成功した一方、二度と謀反を企てないよう、他12地区から少年少女を抽選で1人ずつ駆り出し、最後の1人になるまで戦わせるという「ハンガー・ゲーム」を始めた。公開生放送されるゲームは12地域にとって見せしめの意味をもつだけでなく、キャピトル住民にとっての見世物へ変化していく・・。

と聞いて思い出すのは、まず「グラディエイター」でしょう。競技場で人間が猛獣と死闘を演じるという、まさに究極のサバイバル・ゲームですものね。実際、Panemとはラテン語でいう「panem et circenses」=パンとサーカスのうちのパンなんです。ローマ帝国下、食料配給と娯楽の提供でローマ市民を堕落させた政策から採用したというわけ。原作者スザンヌ・コリンズがグラディエイターを意識していたのが、一目瞭然です。しかもPanem=パンは、12地区の代表となった主人公の少女キャトニスと少年ピーターの関係の象徴でもあります。貧困の余り飢餓に瀕したキャトニスに、ピーターはパンで恩を与えたんです。

主演のジェニファー・ローレンス、今作品の成功でディオールの「ミス・ディオール」バッグのキャラクターを射止めました。

個人的には、レニー・クラヴィッツが出演していたので観てしまった感がありありですが・・正直ガッカリでした。レニーの出演時間が短いからではありません。まず、ストーリーの展開が遅い!!2時間半近くあるうちのせめて30分は削ってよかったと思います。ゲーム開始後に、主人公のキャトニスがひたすら木の上で眠り続けるってのはないなー。いじめっ子風の金髪男子を中心にチームを形成し、キャトニスが休む木の下で焚き火して皆でおねんねも、ありえない。黒人の女の子ルーがキャトニスを助け続ける意味も分からない!キャトニスとピーター以外は全くキャラクター設定されておらず、謎が多かったです・・。しかも謎が発生してもゲームの進行上どしどし命を失っていくので、解明されることはありません。

アメリカ人は熱狂したでしょうけど、日本人あれば間違いなく映画「バトルロワイヤル」のパクリと判断され評価は低いのかな、と。エンディングも近いですしね。スザンヌは、知らぬ存ぜぬを貫いていますが・・。

10代の若者の生き残りを賭けた闘いといえば、ウィリアム・ゴールディング著の「蠅の王」が思い出されます。時代背景が、未来の世界大戦中、というのもちょっと被りますし。ただ「蠅の王」は、疎開する少年を乗せた飛行機が無人島に墜落し、極限状態を強制されたなかで人間性を失うというストーリーで、大枠は異なりますけどね。

リチャード・バックマン、もといスティーブン・キングの「死のロングウォーク」も、時代設定が近未来で、独裁国家というのも同じですから「ハンガーゲーム」に影響を色濃く与えたんでしょう。その名の通り、14-16歳の少年を100人集め、ひたすら4マイル(1.6km)/時間で歩き続けさせるという単調な競技ながら、最後の一人になるまで続けられるという苛酷極まりないレース。4マイル以下になれば警備する軍人に容赦なく銃殺されるにも関わらず、優勝すれば国家が何でも望みを叶えてくれるというので志願者でレースが成立するんです。キングの恐ろしい洞察力を感じさせますね。だって14-16歳といえば肝試しで幽霊屋敷や墓地に潜入するという行為に現れているように、怖いもの知らずで自分の可能性を妄信している年頃ですもの。

ちなみに、Panemの独裁者を演じたドナルド・サザーランドの見方は違いました。脚本を読んで自ら立候補したドナルドの見立ては、「Paths of Glory(邦題:突撃)」だったそうです。第1次世界大戦中、難攻不落のドイツ軍の布陣を特攻隊形式で切り込む作戦を実行しなかったフランス軍のダックス大佐を主人公とした作品は、スタンリー・キューブリック監督。軍部の命令を無視した罪で部隊の誰かを見せしめとして銃殺刑に処されるストーリーに、「ハンガー・ゲーム」に横たわる服従と犠牲の符号をみたのでしょうか。

故カーク・ダグラスがダックス大佐を演じた秀作です。

 

一連の作品とは裏腹に、「ハンガーゲーム」は粗くて浅い。映画公開後、キャトニスを助けるルーの役柄を黒人の少女の女優に割り当てたことに対し、抗議が殺到したことも残念でした。ルーの容貌には「dark brown skin(深い褐色の肌)」という表現があったんですけど、「日に焼けた」程度で白人と認識した読者が多数を占めていたんですって。こんな問題で論争が巻き起こるなんて、今いつの時代かとウンザリしますね。小説と合わせて3部作にする予定なんで現在パート2が撮影中なんですけど、話の展開が読めてしまう粗野な仕立てという事情もあって、私はきっと観ないでしょう。

ルーを演じたアマンドラ・スターンバーグは、「映画に参加できて光栄」とコメントし抗議に対し大人な対応。

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