ある週末の昼下がり。うだるような熱波が地表を覆っていたので、Brighton Beachで日焼けしようと思った私のココロは簡単にくじけ、ブルックリンの友人宅でまったりすることに決定です。幸いエンジニアの友人は映画を大量にダウンロードしておりましたので、あれこれタイトルをチェックします。
She’s out of my league やらHot tub timemachine など、およそ日本では公開されないであろう友人好みのおバカ・コメディが乱立するなかで、ふと気になるタイトルを発見。Unthinkable 。聞いたことないです。友人もまだ鑑賞していないというので、私たちストーリー・ラインやキャストを含めなーんにも予備知識がないのに、のほほんとPlayボタンを押したんですよね。これが運のツキ。
↓ポスターを見ていれば想像はついたのですが。私たちにはUnpredictableでした。
するといきなり。
巻き毛の男性のアップが現れ、「My name is Youssef Mohammad, my former name is Steven Arthur Younger, and I have planted three nuclear bombs across the country. They will detonate unless my demands are met」と切迫した面持ちで自己紹介を始めます。
アメリカ人でありながら、モスリムに改宗しYoussefとイスラム名に改名したことを明らかにした上で、原子爆弾をアメリカの3つの都市のどこかに設置した、と告げたのです。そしてイスラム教国からの全面的な撤退などという要求を呑まなければ、3都市の原子爆弾によって1000万人以上を死に追いやることになる、とほのめかしたのでした・・・。
↓イスラム教徒に改宗したアメリカ人を演じたマイケル。彼自身はイギリス出身。
アメリカ人のイスラム教徒とはいえ、モスリムによるテロリスト事件を扱った映画か、と思ったのは序盤だけ。ストーリー展開がスローで最初こそ退屈しましたが、取り調べ官Hを演じるサミュエル・L・ジャクソンと爆弾を設置したアメリカ人もモスリムを演じるマイケル・シーンの鬼気迫る演技が光ります。
映画の主なシーンは、軍隊の施設で囚われたアメリカ人・モスリム教徒と、彼に拷問を加える影の仕置き人である取調官とのやりとりに割かれます。これが痛々しい・・。2人の間に関わるFBI調査官のキャリー=アン・モス(マトリックスのトリニティーで有名な女優さんです)が魅せる頭脳明晰な調査官の、大義に砕かれていく良心を映し出す演技が、また秀逸でした。
↓キャリー=アン。氷のような瞳と身体から醸し出す神経質さが売りです。
台詞も、目の前の正義と目に見えない正義の狭間で動く人々の心理に、揺さぶりをかけます。
特に特取調官Hの言葉は、陳腐な道徳にまるで唾を吐きかけるかのようです。
Hの拷問に、違法だと反対を唱え続けるキャリー=アンに対し、彼は「We have debt、he has belief」と語ります。一見形勢が不利にみえるアメリカ人イスラム教徒が、いかに優勢にあるかを指摘するのです。
拷問を続ける取調官のこの言葉が、全てを表していますよ。
「There is no H. and Younger… there’s only victory and defeat. The winner gets to take the moral high-ground, because they get to write the history books. The loser… just loses. The only miscalculation in your plan… was me.」
「Hもヤンガーもない。あるのは勝利と敗北だけ。勝者は歴史を書き記すことができるだけに、道徳という高地に立つ。敗者は・・・ただ負けるのみ。おまえ(アメリカ人イスラム教徒の爆破犯)の誤算は、オレだ」
残忍な拷問の一線を越えたシーンでは、一部始終を見ていたCIA・軍の高官が野獣のような目で見つめHを非難します。ここでのH、政府の記録に存在しない自分に「Dirty job」をさせるのに、と逆に周囲に批判の矛先を向けるのですよ。既存の価値観に挑戦するような言葉に、見ているだけなのに心臓がドキドキしてしまいます。
ご紹介したいシーンや台詞が詰め込まれたこの映画。2004年に公開されアカデミー賞を獲得したCrash のごとく、観る者に訴えかけるメッセージに溢れていますよ。UnthinkableはCrashと異なり群像劇ではありませんが、現代にはびこる矛盾に鋭くメスを差し込んだ作品に仕上がっています。ラストのどんでん返しも、強烈でCrash以上でした。
↓Crash。サンドラ・ブロックやドン・チードルなどの豪華キャストで、話題を呼びました。
現代にはびこる人種問題に焦点を当てたCrashはカナダ人が、テロ問題を通じアメリカ人の道徳観念に一石を投じたUnthinkableはオーストラリア人が監督を務めております。逆にアメリカ人監督ではないほうが、よりアメリカがもつ矛盾に視点が定まるのかもしれない、と印象を受けた次第でした。
Comments
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昨年Unthinkableのことを知り、海外の知人からDVDを送ってもらい、英語字幕を表示させてなんとか見た映画です。その際、こちらの記事も参考にさせていただきました。
今日、ある予告編を見てると、あの3つの爆弾を仕掛けたというビデオのシーンが・・・・。なんと「4デイズ」という邦題で4月に公開されるようです。
で、少し調べると、エンディングはあの衝撃的のほうを流すとか。一度見てしまってるので、衝撃度は下がってしまうかもしれませんが、公開が楽しみです。
通りすがりですみません。
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>通りすがりのものですさん
まあ、参考にしていただいたのですか、ありがとうございます!日本でも公開されるのですね~。衝撃的な方をチョイスするところが、イスラム教徒との軋轢から逃れている日本らしいです。日本だと、そんなに神経過敏にならずにすむような・・。また日本での評判、教えていただくと嬉しいです。コメント、どうもありがとうございました☆