Has The Hawk Awaken In The Fed?
3月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文では、世界経済や金融市場の動向に配慮するスタンスを明確化し経済・金利見通しでは年内利上げ示唆を4回から2回へ変更しました。議事録では4月利上げの可能性を後退させた半面、タカ派勢力の存在感が以前より増したようにすら映る。3月30日に米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が講演で「慎重に(cautiously)」に施策を進めると発言し自らの見解こそFOMCを代表するとの姿勢を打ち出しましたが、その理由が垣間見れます。
▽利上げをめぐる協議
・多くの参加者は、2015年12月時点よりゆるやかな利上げの道筋が二大目標の達成に適切と判断。
・2人の参加者は、利上げを主張。
・多くの参加者は、成長への逆風要因が均衡実質金利の上昇ペースを鈍らせると予想。
・複数の参加者は利上げに慎重なアプローチを採用すべきと主張し、4月利上げに踏み切った場合は切迫感を与えかねず適切ではないと説明。
・経済指標が予想通りゆるやかな成長を示すほか、力強い雇用やインフレ目標値2%に沿う内容であれば、4月利上げは適切との意見も。
・複数の参加者は、世界経済の動向が米経済に与える下方リスク、長期インフレ見通しが下振れする懸念を受けて慎重に金融政策を舵取りすべきと主張。
▽経済動向
・多くの参加者は、世界経済と金融市場の動向が米国の経済活動にリスクをもたらすと認識。
・好調な雇用が労働市場の鈍化懸念を払拭も、多くの参加者は家計支出の力強さを外需低迷、ドル高による輸出の減退で打ち消すリスクを予想。
・数人の参加者は労働市場が予想以上に強い可能性に言及、低水準にある生産性を受けて一段と雇用が増加し労働市場の逼迫を引き起こす可能性を意識。
・輸出は成長の下押し要因であり続けると見込み、2人の参加者は先進国と中国の経済成長の減速によりエマージング国の経済を鈍化させていると言及。
・数地区連銀は製造業の底打ちを報告、もっとも多くの参加者はドル高や外需の弱さで製造業活動が抑制されていると指摘。
・数人の参加者は、現在の労働市場が「最大限の雇用」という目標に並ぶ、あるいは接近していると認識した一方で、別の数人は反対し労働資源の活用不足を挙げ不完全失業率が依然として高水準にあり就労率も低いと主張。賃金も、労働市場のたるみを現すと指摘。
・数人の参加者はインフレの落ち着きに言及するも、別の数人は持続的ではないと判断。
・複数の参加者は、世界の根強いディスインフレ圧力が米国のインフレ見通しに下方リスクをもたらしかねないと指摘。
・少数ながら、生産性が低い現状で労働市場の逼迫が進めばインフレが加速すると懸念。
▽海外動向、金融市場
・今回の議事録で中国の言及は3回のみ、前回の6回から減少。
・各国の中銀による緩和政策が市場の安定化を促したと認識。
・米経済が世界経済や金融市場の動向に耐性があると認識、年初の資産価格の急落はある程度巻き戻されたが、将来の金利予想は低い水準を維持。
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、Fed番であるジョン・ヒルゼンラス記者による「Fed、4月利上げ見送りを示唆(Fed Sends Signal That April Rate Hike Is Unlikely)」と題した記事を配信。4月利上げに踏み切れば、市場に不必要な切迫感を与えかねないため、Fedは4月利上げを見送る公算が大きいと報じた。
バークレイズのマイケル・ゲイピン米主席エコノミストは、議事録は「ハト派寄りへシフトした理由が明確になった」と説明する。もっとも、声明文では経済見通しを概して変更しなかった一方、世界経済と金融市場の動向は下方リスクへ傾いたとの認識を示した。このリスク評価は「FF金利の長期見通しの下方修正と合わせ、慎重な政策スタンスを求める」という。しかし、イエレンFRB議長は記者会見でこの論理展開を用いず「『世界経済見通しの悪化』を金利見通しの下方修正が相殺したと言及した」。声明文、イエレン議長の見解、そして議事録にある不協和音は「タカ派勢力の影響力が増してきた可能性」を示唆し、「少なくともコミュニケーション手段に反映された」と考えられるという。ただこの影響がどのような波及効果をもたらすかは「不透明」と結んだ。
――FOMC議事録では2人の参加者が4月利上げを表明するほか、インフレ上昇局面の可能性を挙げる参加者を確認するなど、タカ派勢力の存在を確認できます。3月FOMCで利上げ票を投じたカンザスシティ連銀のジョージ総裁が、まさにその1人でしょう。タカ派勢力が台頭してきた可能性は議事録の文言にも現れており、今回「不透明性(uncertainty)」という言葉は1回のみで、前回の19回から大幅に減少。「下方向(downside)」も前回の8回から7回へ減っています。FF金利ドットチャートで年内利上げ示唆を4回から2回へ減らすほど、見通しへの下振れ懸念は現れていませんでした。
逆説的に言えばリスク評価の文言は、世界経済と金融市場の動向に対しFedがいかに「慎重(cautious)」かが透けて見えます。こうした姿勢は、6月23日に予定する英国の国民投票や米大統領選挙など市場が混乱に陥った場合、Fedは対応するというファイティング・ポーズのように映ってなりません。ハト派のシカゴ連銀のエバンス総裁も、上記のようなリスクに注意深くあるべきと発言していましたよね。
(カバー写真:donielle/Flickr)
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