Beige Book:Less Federal Reserve Banks Reported “Uncertainty” Than Last Report.
米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年11月27日に公表したベージュブック(10月から11月半ば)によると、米経済の拡大ペースは、前回10月の「わずかから緩慢(a light to modest)」から「緩慢」と小幅ながら上方修正され、同年7月と9月の表現に戻った。対中追加関税第4弾が一部発動したものの、10月11日に米中閣僚貿易協議の予定が立ち、第1段階の合意を迎えたことから、見通しも前回の「多くの回答者が6~12ヵ月先の見通しを引き下げた」から、今回はこれまでの表現である「ポジティブ」へ切り替わった。一方で、物価が上昇すると見込む企業の声が紹介され、インフレ期待に反する報告が上がった格好だ。米中貿易協議など不確実性をめぐるキーワードでは「不確実性(uncertainty)」と「中国」が減少、「関税(tariff)」が増えた。ただ「関税」の文言が増えた背景は、米中貿易協議の進展もあり、必ずしも悪材料ではなさそうだ。ダラス地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般、見通しのセクション>
経済活動は前回と同様に、10月から11月半ばにかけ「緩慢に(modestly)」拡大した。見通しは概して「ポジティブ」で、複数(some)の回答者は現状の成長ペースが来年も続くと見込んだ。
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前回:経済活動は、企業活動の拡大ペースは全米で「様々(varied)」だったなかで、(8月後半から10月前半にかけ)「わずかから緩慢なペース(at a slight to modest pace)」で拡大した。地区連銀のうち、南部や西部の状況が全般的に中西部や太平原諸州(カンザス、コロラド、ニューメキシコ、テキサスなど米国中央部)より「活況(upbeat)」だった。企業の回答者は概して経済拡大し続けると予想するものの、多くが6~12ヵ月先の成長見通しを引き下げた。
<個人消費>
ほとんどの地区連銀では、個人消費が「安定的からゆるやかなペース(stable to moderately)」で伸び、一部(several)の地区連銀で自動車販売と観光が拡大した。
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前回:家計支出は概して「堅調(solid)」で、自動車以外の小売売上高は「緩慢に増加した(increased modestly)」が、自動車販売は概して「活発(robust)」だった。観光・旅行への支出は「緩慢ながら(modestly)」伸びた。
<製造業、非製造業の活動>
製造業活動は、大半が横ばいを指摘したとはいえ、拡大を報告する地区連銀が前回より増えた。非製造業企業は「非常に明るく(quite positive)」、大半の地区連銀が「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」な成長を報告した。輸送業の活動は、地区連銀全体を通じ「まちまち(mixed)」だった。
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前回:製造業活動は「じわじわと低下し続けた(continued to edge lower)」。「複数(some)」の地区連銀の回答者は、いつまでも続く貿易における緊張と世界経済の減速が企業活動を押し下げたと示唆した。自動車メーカーのストライキの初期反応は、「限定的(limited)」だった。貨物輸送は、前回は低下したが今回は「安定した(stabilized)」。非金融サービス部門の活動は、「堅調(solid)」だった。
<不動産市場>
住宅販売は概して「横ばいから上向き(flat to up)」で、住宅建設は前回より広範囲で成長がみられた。非住宅部門の建設活動と賃貸動向は、引き続き「緩慢」なペースで拡大した。
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前回:住宅市場は、「ほぼ変わらなかった(changed little)」。非住宅建設は前回から「わずかに鈍化しながら、それでも緩慢なペース(at a slightly slower yet still modest pace)」で拡大し、リース部門は「鈍いながら安定的なペース(a slow but steady rate)」で伸びた。
<貸出需要>
銀行セクターは、融資動向につき引き続き拡大を指摘しつつ「わずかに鈍化した(slightly slowed)」と報告した。
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前回:多くの地区連銀で、銀行部門は「ゆるやかな(moderate)」融資の拡大を報告した。
<農業、エネルギー>
農業状況は全体的に「ほぼ変わらず(little changed)」、天候と農産品価格によって抑制された。エネルギー部門は前回より「小幅ながら悪化(modestly deteriorated)」した。
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前回:農業の状況は悪天候を始め軟調な商品市況、通商上の混乱などの影響を受け「一段と悪化し(deteriorated further)」。
<雇用と賃金>
雇用は米国の労働市場がひっ迫しながらも、全体的に「わずかに拡大し続けた(continued to rise slightly)」。一部の地区連銀は、専門職や技術サービス、ヘルスケアなどで「比較的力強い(relatively strong)」雇用増を確認した。製造業の雇用をめぐる報告は「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀は従業員の増加を指摘しつつ、その他は安定的な従業員数を伝え、1地区連銀はレイオフ実施の報告を上げた。小売と卸売は、散発的ながら雇用減を報告。地区連銀の大半は、労働市場が非常にひっ迫するなかで、引き続き特殊技能職の雇用が困難と指摘した。人手不足はほとんどの産業、いずれの技術レベルでも報告され、複数の回答者は空席により事業拡大が阻害されていると伝えた。引き続き、賃金の伸びは「ゆるやか(moderate)」だった。賃上げ圧力は、低技能職で「増大した(intensified)」。
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前回:概して、雇用は人手不足が引き続き報告されるなかで「わずかに拡大した(rose slightly)」。技能や職種にわたって労働市場がひっ迫しており、それが幅広く採用を抑制する要因に挙げられた。地区連銀は度々、専門サービスやテクノロジーの分野で比較的力強い労働需要があったと報告した。一方で、貨物輸送や製造業では「弱かった(weak)」。いくつか(a number of)の地区連銀は、軟調な受注動向を受け「雇用を削減した(reduced their headcounts)」と報告した。しかし、複数の企業は長期的な人材確保を懸念し、結果的に従業員数の減少より労働時間の短縮を選択した。賃金はほとんどの地区連銀で「ゆるやかに(moderately)」伸び、小売や宿泊などの低技能職から高技能を持つ技術的労働者まで幅広く賃上げ圧力を確認した。いくつかの中小企業は、大手企業とマッチした賃金を提示することで困難に直面したという。全般的に雇用主は、従業員確保のため賞与や福利厚生など賃金以外の手段を講じた。
米12月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)、17ヵ月連続で3%台を維持。
<物価>
物価上昇は、今回「緩慢(modest)」だった。製造業部門での仕入れ価格と販売価格をめぐる報告は「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀は価格の下振れを、その他は値上がりを指摘、少数からはほとんど変わらずから横ばいとの声が聞かれた。小売業者は価格上昇に言及、複数の地区連銀の回答者は関税を理由に挙げた。企業は、仕入れ価格を補填するために値上げを実施するほどの価格決定力に乏しいものの、少数の地区連銀は関税の影響を受けた企業が消費者負担を求め値上げに傾いていると報告した。サービス部門の価格は全体的に「横ばいから上向き(flat to up)」だった。エネルギーと鉄鋼の価格は「横ばいあるいは下落(flat to decline)」し、建設資材と農業価格はまちまちだった。全体的に、企業は概して今後価格が上昇すると見込んだ(firms generally expected higher prices going forward)。
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前回:ほとんどの地区連銀で、物価上昇は「緩慢(modest)」と評価された。小売と製造業はともに仕入れかかっくの上昇を指摘し、しばしば「関税(tariffs)」が理由に挙がったが、小売は比較的、最終価格に上乗せすることに成功した。足元の燃料価格の上昇にも関わらず、複数の報告からは年初から「輸送料が低水準のまま(remained lower)」で、過剰な設備能力が理由に挙げられた。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
●「緩慢」と表現した地区連銀、5行>前回は4行
フィラデルフィア:前回は“緩慢”→今回据え置き
クリーブランド:前回”緩慢 “→今回” 横ばい”へ上方修正
アトランタ:前回“緩慢”→今回据え置き
ミネアポリス:前回“わずかに拡大”→今回“緩慢”へ上方修正
サンフランシスコ:前回”緩慢“→今回据え置き
●「ゆるやか」と表現した地区連銀、2行>前回1行
リッチモンド:前回“緩慢”→今回“ゆるやか”へ上方修正
ダラス:前回“ゆるやか”→今回据え置き
●緩慢+ゆるやかと表現した地区連銀、1行>前回ゼロ
ボストン:前回” 企業活動に鈍化の兆し“→今回”緩慢からゆるやか“へ上方修正
●そのほか 4行<前回は7行
NY:前回” 抑制したペースに鈍化“→今回”ほぼ変わらずからゼロ成長“へ下方修正
シカゴ:前回“わずかに拡大”→今回据え置き
セントルイス:前回は“わずかに改善”→今回“まちまち、比較的横ばい”へ修正
カンザスシティ:前回は“わずかに拡大”→今回“横ばい”へ下方修正
経済活動拡大ペースの表現は、そのほか枠が減少し「緩慢」が増加。
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「増加した」が減少したとはいえ、「力強い」や「ポジティブ」が増え「弱い」が減少するなど、前回より小幅ながら明るい表現が増えた。一方で、「不確実性」の文言は10月分と同じく4回となった。詳細は、以下の通り。
「増加した(increase)」→13回<前回は17回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→2回>前回は1回
「ポジティブ(positive)」→5回>1回
「ゆるやか(moderate)」→10回>前回は7回
「緩慢、控え目など(modest)」→17回>前回は16回
「弱い(weak)」→2回<前回は5回
「底堅い(solid)」→2回<前回は6回
「安定的(stable)」→4回>前回は3回
「不確実性(uncertain)」→4回=前回は4回
総括で「不確実性」をめぐる文言は4回で変わらなかったが、地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は前回の28回から22回へ減少した。前回はボストン(4回)、NY(1回)、フィラデルフィア(2回)、クリーブランド(3回)、リッチモンド(4回)、アトランタ(2回)、シカゴ(2回)、セントルイス(4回)、ダラス(5回)、サンフランシスコ(1回)だった。
・ボストン 2回<前回は4 回
→(製造業)2019年の前半は一部、減税の効果を受け力強かったが、関税と全般的な貿易への不確実性が2019年後半の弱さにつながった。
→(商業不動産)1人の回答者は、高まる政治的な不確実性に懸念を表明した。
・NY 1回=前回は1回
→(製造業・物流)製造業・物流全般の回答者は、関税や通商上の緊張、関連する不確実性のほか、最低賃金引き上げをめぐり、引き続き懸念を寄せた。
・フィラデルフィア 1回<前回は2回
→(金融サービス)回答者は、引き続き融資の支払い延滞をめぐり大きな問題を報告しなかったが、足元の不確実性を受けた企業における決定の遅れや投資への意欲減退を報告した。
・クリーブランド 1回<前回は3回
→(運輸)別の回答者は経済の不確実性を指摘、企業が投資や購入をめぐる決定を遅らせ、出荷量の減少につながっていると報告した。
・リッチモンド 4回=前回は4回
→(総括)大半の製造業者は、出荷と新規受注の伸びを報告したが、関税と貿易の不確実性が多くの製造業者にとって懸念材料との見方を示した。
→(製造業)貿易に関する不確実性は引き続き非常に大きい。
→(製造業)複数の製造業者、バージニア州の紡績業者などは需要で困難に直面し、同業者などは経済不確実性により、在庫水準を引き下げる顧客を通じ打撃を受けた。
→(非金融サービス)一部の企業は特殊技能職の採用をめぐり困難を強いられ、経済不確実性から成長が抑えられるなか、2020年にかけ成長鈍化につながると予想した。
・アトランタ 1回<前回は2回
→(個人消費、観光)観光と宿泊の業者は、前年から不確実性が高まったと指摘したが、全般的に企業のセンチメントは引き続き年間を通じ今年から2020年にかけポジティブだった。
・セントルイス 3回<前回は4回
→(総括)回答者は産業をまたぎ、経済不確実性を指摘した。
→(非金融サービス)しかしながら、3分の1近い回答者は、Q4の売上が現時点で予想以下にとどまったと指摘、経済不確実性の高まりを背景に挙げた。
→(商業不動産、建設活動)しかしながら、複数の企業は経済不確実性を理由に将来の計画を保留としていた。
・ダラス 8回>前回は5回
→(総括)不確実性は概して、通商上の緊張や政治的動向、世界経済の減速を受けて高まった。
→(製造業)一部の回答者は、エネルギー部門の弱さや不確実性の高まりを受けた顧客の動向を受け、需要が鈍化したと報告した。
→(製造業)精製所と化学関連は世界的な需要軟化や関税、継続する通商政策の不確実性を受け、利益率が低下したと報告した。
→(製造業)通商上の緊張が引き続き懸念であり、複数の回答者は不確実性が計画立案の障害となっていると指摘した。→(非金融サービス)サービス部門の見通しは、過去6週間で改善したが、不確実性はたかまった。
→(非金融サービス)世界的な経済不確実性と通商上の緊張は、引き続き見通し計画を立案する上で阻害要因となった。
→(非金融サービス)2020年の選挙にかけた、国内の政治不確実性も一部の懸念材料とされた。
→(金融サービス)銀行は、企業動向の不確実性と金利低下が業務の柔軟性を抑制していると懸念を寄せた。
・サンフランシスコ 1回=前回は1回
→(金融機関)信用の質は全般的に力強くかったが、少数の銀行では、将来の経済不確実性に直面するなか新規の融資基準につき厳格化を行なったと報告した。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4、6月、7月、9月、10月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別では、9月こそサンフランシスコが指摘したものの、5月、6月、7月の過去3回と同じくゼロへ戻した。なお、過去2年間でドル高を挙げた地区連銀はゼロだったが、2017年5月分(クリーブランド)、7月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月、7月、9月、10月に続きゼロだった。地区連銀別では2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月、7月、9月、10 月に続き言及されたが、登場回数は前回の7回から5回へ減少した。前回10月分はボストン(1回)、クリーブランド(1回)、シカゴ(1回)、セントルイス(1回)、ダラス(1回)、サンフランシスコ(2回)だった。
・クリーブランド 1回=前回は1回
→(製造業)しかしながら、一部の回答者は海外動向の弱さが依然として需要の重しになっていると指摘、特に西中欧の軟化のほか、継続する中国との通商上の緊張が挙げられた。
・リッチモンド 1回>前回はゼロ
→(港湾・輸送)企業は引き続き中国との貿易に懸念を表明したが、一部の取引は東南アジア諸国への転換(divert)に成功した。
・シカゴ 2回>前回は1回
→(農業)回答者は、米国が対中追加関税を課すなかでも、豚コレラが中国の豚に著しい打撃を与えたため、中国からの豚肉需要が拡大したと報告した、
・ダラス 1回=前回は1回
→(農業)回答者は、中国との貿易問題を理由に農業品に懸念を表明し続けたが、貿易協議と追加関税撤廃の可能性に対する楽観が高まった。
――今回、ベージュブックの総括部分と地区連銀を合わせたキーワードの数はご覧の通り。米中貿易協議の進展を受け、一時より落ち着きつつある様子が伺えます。
さらに見通しは「ポジティブ」がカムバック。また「複数(some)の回答者は現状の成長ペースが来年も続く」との予想も聞かれ、徐々に楽観的な見方が広がりつつあるようです。製造業の拡大を方向する回答者が増え、非製造業は引き続き堅調。米中貿易協議が落ち着けば、保留となっていた設備投資計画などが動き出し、企業支出が改善する期待を募らせます。
余談ながら、ミネアポリス地区連銀からこんな報告が。「レストランとその他ケータリング業は、人手不足に受け稼働時間の短縮を報告した(Restaurants and other businesses catering to consumers reported having to shorten hours of operation due to lack of staffing)」。トランプ政権は移民政策を強化しましたが、今回のベージュブック総括、雇用・賃金の段落にある「賃上げ圧力は、低技能職で増大した」と共に、不法移民の減少に伴い低賃金職の労働者が不足している実態が浮かび上がりました。米12月雇用統計では、小売や娯楽・宿泊など比較的、不法移民のシェアが高い産業で雇用増加が目立ちましたが、これは同セクターが好調であるためとは言い切れなさそうです。
(カバー写真:bk1bennett/Flickr)
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