Hispanic and Black Men Account For Much Of The Improvement In Labor Market Indicators.
米2月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、こちらで紹介した通り好調そのものでした。NFPは予想外の力強い伸びで、失業率も低下し、労働参加率は改善。さらに、賃上げ圧力も徐々に後退しつつあるように見えます。労働市場には一点の曇りもないようにみえますが、ここでは業種別の平均時給を始め人種や学歴別など詳細を拾っていきます。
〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給
生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.3%上昇の26.94ドル、前年比は6.7%の上昇と、20年5月以来の高い伸びを維持。一方で、前月分は6.9%から下方修正されていた。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸びが0.3%以上だったのは13業種中で6業種と、前月の速報値ベースの4業種を上回った。今回の1位は速報値ベースでマイナスだった輸送・倉庫(0.9%上昇)、2位はこちらも1月の速報値ベースでマイナスだった娯楽・宿泊と卸売(0.6%)で、4位は建設(0.5%)、5位は小売(0.5%)、6位はその他サービス(0.4%)だった。一方で、今回、前月比で下落した業種は公益(0.9%の下落)1業種のみで、前月の速報値ベースの4業種から減少した。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
〇労働参加率
労働参加率が62.3%と2020年3月以来の水準を回復したように、働き盛りの男性(25~54歳)もそろって上昇しそれぞれ少なくとも20年3月以来の水準を回復した。以下、季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 88.8%、20年3月以来の高水準>前月は88.2%、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.7%、20年3月(90.3%)以来の高水準>前月は89.1%、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.9%、20年2月以来の高水準>前月は88.2%、20年2月は89.0%
・25~34歳(白人) 89.6%、20年3月(90.4%)以来の高水準>前月は89.0%、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、白人男性で低下
働き盛りの女性の労働参加率は、男性と逆にそれぞれ低下した。
・25~54歳 75.8%<前月は76.0%と20年3月(76.2%)以来の高水準、20年2月は76.8%
・25~34歳 76.8%<前月は77.1%、21年12月は77.2%と20年2月(78.2%)以来の高水準
65歳以上の高齢者の労働参加率も、男女別で明暗が分かれた。男性は24.3%と20年2月以来の水準を回復した半面、女性は15.3%と2ヵ月連続で低下し、2020年3月(16.1%)以来の水準を回復し21年12月の15.9%が遠ざかった。
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は前月比で6.1%減の535.6万人(男性は249.3万人、女性は268.2万人)、4ヵ月連続の減少となる。男性が前月比16.1%減と減少をけん引した半面、女性は4.7%増と増加に転じた。結果、再び女性が男性を逆転した。
チャート:職を望む非労働力人口、男性が増加し女性が減少
〇男女別の労働参加率
男女の失業率は、そろって20年2月以来の低水準に。男性は前月の4.1%→3.8%へ低下しつつ、女性は前月に続き3.9%を保った。
男女別の労働参加率も、まちまち。男性が前月の67.9%→68.3%と20年3月以来の水準を回復したが、女性は前月の56.8%→56.6%と低下した。
チャート:男女別、労働参加率、直近は女性が上向き
〇男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、黒人とヒスパニック系の男性はそれぞれ2月に5.3%増(2ヵ月連続)、4.3%増(8ヵ月連続)とプラスとなった。ヒスパニック系女性は、20年2月比ほぼ横ばいにまで回復した。白人男性と女性もそれぞれ下げ幅を縮小(男性:前月の2.1%減→1.4%減、女性:前月の3.1%減→2.5%減)した。白人の間で就業者数の回復が鈍い理由は①娯楽・宿泊などコロナ禍で回復が進む業種の従事者が比較的少ない、②引退が多い――などが考えられる。一方で、黒人女性(1月:2.4%減→2月:2.4%減)は変わらなかった。
チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。
人種別の労働参加率は、オミクロン株の感染拡大を受けながらアジア系以外全て上昇した。黒人は引き続き20年2月以来の水準へ改善し、白人とヒスパニック系は、20年3月以来の水準を回復した。アジア系は逆に3ヵ月連続で低下した結果、10ヵ月ぶりの水準に低下した。なおアジア系は、21年10~11月に65.3%と2012年12月以来の高水準を記録していた。
・白人 62.2%、2020年3月(62.6%)以来の水準を回復>前月は62.0%、20年2月は63.2%
・黒人 62.2%、20年2月(63.2%)以来の高水準>前月は62.0%
・ヒスパニック系 66.6%、20年3月(67%)以来の高水準>前月は66.4%、20年2月は68.0%
・アジア系 62.9%、10ヵ月ぶりの低水準<前月は64.4%と4ヵ月ぶりの低水準ながら20年2月の水準(64.2%)超えを維持
・全米 62.3%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復=前月は62.2%、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、白人と黒人は低下
人種別の失業率は、全て前月比で改善。労働参加率が低下したアジア系を含め、白人を除き20年2月以来の低水準だった。白人は12月2月に3.2%と20年2月以来の水準まで改善したが、1~2月は同水準を上回った。
・白人 3.3%<前月は3.4%、20年2月は3.0%
・黒人 6.6%、20年2月(6.0%)以来の低水準<前月は6.9%
・ヒスパニック系 4.4%、20年2月以来の水準に並ぶ=前月は4.4%
・アジア系 3.1%、20年2月(2.5%)以来の低水準<前月は3.8%
・全米 3.8%、20年2月(3.5%)以来胃の低水準<前月は4.0%
白人と黒人の失業率格差は白人より黒人の低下が著しかったため、前月の3.5ポイントから3.3ポイントへ縮小した。ただし、21年11月につけた20年4月以来の低水準となる2.8ポイントを上回り続けた。引き続き、トランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイント超えの水準を保つ。
チャート:黒人と白人の失業率格差、トランプ前政権期と比較して上昇続く
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、高卒と大卒は低下したが中卒が著しく改善し20年2月以来の水準を回復した。
・中卒以下 46.8%、20年2月(47.8%)以来の高水準>前月は44.5%
・高卒 56.2%<前月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 72.4%<前月は72.6%と20年8月以来の水準を回復、20年2月は73.2%
・全米 62.3%、20年3月以来の高水準>前月は62.2%、20年2月は63.3%
学歴別の失業率は、全て低下した。特に大学院卒は01年2月以来の水準へ急低下し、前月に続き労働参加率の上昇と合わせ正常化しつつある。一方で、中卒も19年9月以来の水準へ改善したが、これは労働参加率が大幅に低下したことが大きく健全な低下と言い難い。
・中卒以下 4.3%、1992年1月の統計開始以来で最低<前月は6.3%、20年2月は5.7%
・高卒 4.5%、20年3月(4.3%)以来の低水準<前月は4.6%、20年2月は3.7%
・大卒 2.2%<前月は2.3%、20年2月は1.9%
・大学院卒以上 1.9%、5ヵ月ぶりの高水準>前月は1.3%、20年2月は1.7%
・全米 3.8%、20年2月(3.5%)以来の低水準<前月は4.0%%
--米2月雇用統計の詳細を見ると、①平均時給の伸び鈍化、②労働参加率は改善傾向が鮮明に、③労働参加率の牽引役は男性から女性にシフト、④人種別の労働参加率はアジア系以外、特に黒人がけん引、⑤人種別の失業率は黒人やヒスパニック系など非白人が主導、⑤学歴では低学歴と高学歴で失業率で明暗分かれ低学歴の低下が顕著――などの実態が浮かび上がりました。
足元の労働市場の改善は、低賃金職且つ低スキルが牽引していると考えられます。実際、こちらでご紹介したように、20年2月比で雇用の回復が著しいのは輸送・倉庫や情報、小売、専門サービスのところ、特に輸送・倉庫は20年11月以降、16ヵ月連続でプラスとなっています。なお、人種別では黒人とヒスパニック系の男性の就業者数が20年2月比でプラスとなり、改善が目立ちます。業種別でみると、黒人の場合、最も比率の高い業種はバスなど輸送機関のサービスで32.6%、郵便サービスで29.3%と突出して高い状況、ヒスパニック系も倉庫が36%ですから、黒人とヒスパニック系男性の就業はの改善は、輸送・倉庫と密接につながっていることが分かります。
1月同様、足元の労働参加率の改善は、貯蓄率の低下と整合的です。貯蓄の減少を受け、労働市場にカムバックしてきた人々が増加した可能性を示唆します。また、以下のチャートにあるように、直近の労働参加率の改善を受け全体の平均時給の伸びが鈍化しつつあり、賃上げ圧力は徐々に低減されつつあります。
チャート:労働参加率が上昇すれば、平均時給(管理職を含めた全体)の伸びは鈍化へ?
問題は、平均時給の伸び鈍化傾向が続くのか否か。同時に、賃上げ圧力の後退は実質賃金の低下を招くだけに、裁量消費の打撃となること必至。米連邦公開市場委員会(FOMC)は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて資源高・食料品の高騰に直面していますが、インフレ高進だけでなく、こうした影響を精査する必要に迫られます。
(カバー写真:(vincent desjardins)/Flickr)
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