The Black Unemployment Rate Fell To A Record Low While Labor Force Participation Rate Rose.
米3月雇用統計・NFPは、こちらで紹介しましたように概ね市場予想通り堅調な結果となりました。引き続き、NFPの増加を牽引したのは娯楽・宿泊で約3割と、高いシェアを有しています。娯楽・宿泊なかでも食品サービスが寄与し、NFPに占める割合は21.3%で、2022年1月~23年1月の平均で7.7%を上回る水準を維持しました。
チャート:NFPの増加幅に占める食品サービスの割合
娯楽・宿泊はこちらで確認できるように新型コロナウイルス感染拡大直前である2020年2月比で2.2%減と、まだ回復途上にあります。食品サービスも0.6%減であり、経済正常化が進むだけでなく消費者の情がモノからサービスへシフトするなか、伸びしろがあると言えそうです。
では、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。
〇業種別の平均時給
平均時給は前月比0.3%上昇の33.18ド ル(約4,380円)と、市場予想と一致した。前月の0.2%は上回り、26カ月連続で上昇している。前年同月比は4.2%上昇、市場予想の4.3%並びに前月の4.6%を下回り2021年7月以来の低い伸びだった。なお、生産労働者・非管理部門の平均時給は前月比0.3%上昇し、2021年1月からの上昇トレンドで最も小幅な伸びに並んだ。前年同月比は4.2%と前月の4.6%を下回り、2021年6月以来の5%割れに接近した。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸び0.3%以上だったのは13業種中で6業種だった。今回の1位は公益(2.4%上昇)、2位は娯楽・宿泊(0.8%上昇)、3位は製造業と専門サービス(0.5%上昇)、5位は建設(0.4%上昇)、6位は鉱業・伐採(0.3%上昇)だった。そのうち建設、製造業は就業者が減少しており、退職金などが押し上げた可能性を示唆する。一方で、金融(0.1%下落)、情報(0.1%下落)、小売(0.3%下落)、卸売(0.4%下落)、その他サービス(0.9%減)の5業種がマイナスとなり、前月の2業種を上回った。このうち情報は前月に大幅上昇した反動が下落の一因と考えられる。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
チャート:平均時給は、労働参加率の改善に合わせて伸びが鈍化
〇労働参加率
労働参加率は62.6%と、2020年3月の水準に並んだ。全米の働き盛りの男性(25~54歳)をみると、過去2カ月間の改善を25~34歳が主導した半面、今回は25~54歳での上昇が目立った。一方で、25~34歳は全米で横ばい、白人のみでは低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 89.1%と20年3月の水準に並ぶ、前月は88.9%、20年2月は89.2%
・25~54歳(白人) 89.7%、前月は89.4%、22年3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 89.4%と前月に続き22年4月以来の高水準、なお22年4月は89.5%と19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 90.1%、前月は90.2%と4カ月ぶりの水準を回復(なお、22年10月は90.4%と22年3月の90.5%に次ぐ高水準)、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、25~54歳が上昇をけん引
働き盛りの女性(25~54歳)は、25~54歳と25~34歳そろって上昇した。
・25~54歳 77.1%、前月は77.2%と2000年4月以来の高水準
・25~34歳 77.7%、前月は78.0%と4カ月ぶりの78%乗せ、22年8月は78.6%と20年1月に並び過去最高
65歳以上の高齢者の労働参加率、男性は低下したが女性は上昇した。
・男性 23.1%と21年7月以来の低水準、前月は23.2%、22年10月は24.3%と2月と並び20年2月(25.2%)以来の水準を回復
・女性 16.0%と5カ月ぶりの水準を回復、前月は15.7%、なお22年10月は16.1%と2020年3月と同水準
〇縁辺労働者
縁辺労働者(ここでは直近4週間にわたり職探しをしていないが、職を求める非労働力人口)で「今すぐ仕事が欲しい」と回答した人々の数は、労働参加率の上昇に合わせ前月比3.5%減の492.5万人と、過去6カ月間で5回目の減少となった結果、2020年1月以来の500万人割れを迎えコロナ前の水準を回復した。男性が前月比8.0%減の231.4万人と全米と同じく過去6カ月間で5回目の減少となった半面、女性は同0.8%増の261.1万人と6カ月ぶりに増加した。
チャート:職を望む非労働力人口、20年1月以来の500万人割れとコロナ前の水準を回復
〇病気が理由で働けなかった人々
労働参加率の改善した一方で「病気が理由で働けない」とする人々は今回、前月比3.4万人増(4カ月ぶりに増加)の121万人だった。ただし、コロナ後の平均値を下回ったままだ。
チャート:「病気が理由で働けない」とする人々、コロナ禍後の平均以下が続く
〇男女別の労働参加率と失業率
男女別の労働参加率は、まちまち。男性は68.4%と前月の68.0%から大幅上昇し20年3月(68.5%)以来の高水準だった。逆に女性は57.1%と前月の50.2%を下回り、20年3月の水準(57.1%)に戻した。
チャート:男女別、労働参加率、3月は男性が改善を主導
男女の失業率は、まちまち。労働参加率が上昇した男性は3カ月連続で3.6%だった。一方で、女性は労働参加率の低下につれ3.4%と前月の3.5%を下回り、再び1952年9月以来の低水準を記録した1月の3.3%を視野に入れた。
〇人種・男女別の就業者、20年2月比
人種・男女別の就業者数を20年2月比でみると、引き続き黒人男性を始めヒスパニック系男性、ヒスパニック系女性がプラスだったほか、黒人女性が3カ月連続でプラス圏を保った。黒人男性が前月の9.8%増→13.2%増となったほか、黒人女性(前月の0.8%→2.9%増)とヒスパニック系女性(前月の3.3%増→4.1%増)も、それぞれ伸びを回復期で最大の伸びに。ヒスパニック系男性(前月の5.5%増→5.5%増)のみ、前月比で変わらなかった。
一方で、マイナス圏をたどる白人男性と女性はまちまち。白人男性は前月の0.6%減→0.5%減と下げ幅を縮小したが、白人女性は前月の2.5%減→2.8%減とマイナス幅を広げた。
チャート:男女・人種別の就業者数、20年2月との比較
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の動向を紐解く前に、人種別の大卒以上の割合を確認する。2010年と2016年の比較では、こちらの通りアジア系が突出するほか、白人が全米を上回る一方で、黒人とヒスパニック系は全米を大きく下回っていた。
人種別の労働参加率は、まちまち。特に黒人が2008年8月以来の高水準だったほか、白人も上昇。一方でヒスパニック系は横ばいだったほか、アジア系は低下した。
・白人 62.2%、前月まで3カ月連続で62.1%、なお22年3月は62.3%と2020年3月(62.6%)以来の水準を回復、20年2月は63.2%
・黒人 64.1%と2008年8月以来の高水準、前月は63.4%
・ヒスパニック系 66.8%と前月と変わらず20年3月以来(66.9%)の高水準、20年2月は68.0%
・アジア系 64.9%、前月は65.1%と22年8月(65.3%)以来の高水準で20年2月の64.5%超え
・全米 62.6%と2020年3月の水準に並ぶ、前月は62.5%、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、黒人が改善を主導
人種・男性別ではそろって上昇。黒人のみ新型コロナウイルス感染拡大直前の水準を超え、2009年1月以来の高水準をつけた。白人とヒスパニック系も上昇したが、引き続き2020年3月の水準以下にとどまった。
・白人 70.2%と4カ月ぶりの水準を回復、前月は69.9%、20年3月は71.0%
・黒人 70.5%と2009年1月以来の高水準、前月は69.3%、20年2月は58.2%
・ヒスパニック系 79.4%と7カ月ぶりの水準を回復、前月は79.2%、20年3月は79.9%
チャート:人種・男性別ではそろって改善
人種・女性別では黒人のみ上昇し2020年2月以来の高水準だったが、白人とヒスパニック系は低下した。
・白人 57.3%、前月は57.4%と20年3月以来(57.6%)の高水準、20年2月は58.2%
・黒人 63.6%と20年2月(63.9%)以来の高水準、前月は63.0%
・ヒスパニック系 61.1%、前月は61.5%と20年2月以来(62.2%)の高水準
チャート:人種・女性別は黒人の改善が著しかったものの、白人ヒスパニック系は低下
人種別の失業率は、白人を除き低下した。特に労働参加率が改善した黒人が過去最低を更新したほか、労働参加率が横ばいだったヒスパニック系の失業率の低下が著しい。アジア系は労働参加率に合わせ低下。白人は労働参加率の上昇を一因に横ばいだった。
・白人 3.2%で前月と変わらず、22年12月は3.0%と20年2月(3.0%)に並ぶ
・黒人 5.0%と2019年8月の5.3%を下回り過去最低を更新、前月は5.7%
・ヒスパニック系 4.6%、前月は5.3%と21年10月以来の高水準、なお22年9月は3.9%とデータが公表された1973年以来の低水準
・アジア系 2.8%、前月は3.4%、22年12月は2.4%と19年6月以来の低水準に並ぶ
・全米 3.5%、前月は3.5%、1月は3.4%と1969年5月以来の低水準
チャート:人種別の失業率は白人を除き全て低下、特に黒人は過去最低を更新
人種・男女別では以下の通りで、黒人女性とヒスパニック系男女が低下した。特に黒人女性が前月比1.2%ポイントも急低下し4.1%と1972年のデータ公表以来で最低を更新した。その他、ヒスパニック系の男性が前月比1.5%ポイント、同女性も0.4ポイント改善。白人男性は横ばい、白人女性と黒人男性は0.1%ポイント上昇した。
チャート:黒人女性のほか、ヒスパニック系の男女の失業率が低下
白人と黒人の失業率格差は大幅縮小。黒人の失業率が大幅低下した一方でを白人が横ばいだったため、失業率格差は1.8%ポイントとトランプ前政権で記録した19年8月の1.9ポイントを下回り過去最低を更新した。
チャート:白人と黒人の失業率格差、過去最低を更新
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は中卒以外で上昇した。
・中卒以下 46.6%、前月は48.3%と2008年3月(48.2%)を超え過去最高を更新
・高卒 56.1%、前月は56.0%と3カ月ぶりの水準へ低下、22年1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 73.1%、前月は72.3%と21年12月以来の低水準、22年5月は73.3%と20年1月以来の高水準
・全米 62.6%と2020年3月の水準に並ぶ、前月は62.5%と20年3月(62.7%)以来の高水準、20年2月は63.3%
学歴別の失業率はまちまちで、労働参加率に合わせ中卒以下が大幅に低下したほか、労働参加率が改善した大学院卒で低下した。一方で、高卒は労働参加率につれ上昇、大卒は前月と変わらずだった。
・中卒以下 4.8%、前月は5.8%と5カ月ぶりの高水準、22年10月は4.4%と1992年のデータ公表開始以来で最低
・高卒 3.6%、19年9月の低水準に並ぶ
・大卒 2.0%と3カ月連続で横ばい、22年9月は1.8%と2007年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 1.7%、前月は1.8%と6カ月ぶりの高水準、21年12月は1.3%と2000年4月以来の低水準
・全米 3.5%、前月は3.5%、1月は3.4%と1969年5月以来で最低<前月は3.5%
チャート:失業率は中卒と大学院卒で低下、高卒は上昇、大卒は前月と変わらず
--今回の雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①生産労働者・非管理部門の平均時給の上昇ペースは再び鈍化、一方で公益、建設、製造業が前月比で加速したが、就業者が減少した業種は退職金上乗せが押し上げた可能性あり。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は過去2カ月の流れに反し、25~54歳を中心に改善。男女別でみると労働参加率は今回は男性が上昇をけん引。
③人種別では、黒人が労働参加率が改善しながらも失業率が過去最低を更新。その他、ヒスパニック系は労働参加率が横ばいでも失業率が低下するなど、非白人系で失業率が著しく改善した。
④学歴別では、まちまち。中卒以下の失業率低下は労働参加率が押し下げたとみられる。その他、大卒の失業率は横ばいにとどまり、大学院卒は小幅改善にとどまった。
このなかで、特に黒人の失業率が過去最低を更新した結果について、ワシントン・ポスト紙を始めブルームバーグなど大手メディアがヘッドラインに掲げていました。黒人の失業率が大きく低下し、且つヒスパニック系の失業率も前月比0.7%ポイントと大幅に低下した一因としては、賃金の低さが影響した可能性があります。
チャート:人種別の実質の週当たり賃金・中央値、四半期ベースでみるとヒスパニック系が最も低く、次いで黒人に
また、今回の失業率の改善を手放しで喜べない事実が2つ潜みます。1つは、過去の景気後退時の黒人とヒスパニック系の失業率の変化が挙げられます。景気後退入りした月を終点とした3カ月平均と景気後退が終了した月を始点とした3カ月平均を比較すると、過去のリセッション期は以下の通り黒人とヒスパニック系の失業率の上昇が顕著で、過去4回の景気後退の平均は白人が4.1%ポイントに対し、黒人は5.0%ポイント、ヒスパニック系は5.7%ポイントでした。
チャート:過去のリセッション、人種別の失業率の変化
もう一つは、黒人の労働参加率の上昇が挙げられます。ITバブル崩壊時や金融危機、コロナ禍の前の2019年にFedが予防的利下げを行っていた当時、黒人の労働参加率は改善し、さらに2019年当時と直近では白人の労働参加率を上回っていました。黒人の労働参加率が景気後退前あるいは景気後退期に上昇する理由としては、景気悪化前の先制措置と言えるでしょう。以上を踏まえると、今回の黒人における労働参加率の上昇は、景気が急減速する前の”炭鉱のカナリア”である可能性を残します。なお、白人の労働参加率の低下はベビーブーマー世代の引退が挙げられます。
チャート:黒人と白人の労働参加率
加えて、今回の平均時給は前月比0.3%の上昇でしたが、公益が同2.4%、さらに娯楽・宿泊が0.8%の押し上げが寄与していました。さらに、2020年2月比でプラスを確保する卸売が下落に転じたほか、景気敏感な小売やその他サービス、金融が下落。労働市場のひっ迫は徐々にゆるみつつあり、米3月雇用統計は数字が示すほど堅調と言えそうもありません。
(カバー写真:U.S. Department of Agriculture/Flickr)
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