Beige Book Shows Stronger Concerns Over U.S.-China Trade War.
米連邦準備制度理事会(FRB)が7月17日に公表したベージュブック(5半ばから7月初め)によると、米経済の拡大ペースは、前回に続き「緩慢(modest)」だった。見通しは「ポジティブ」だったものの、通商政策から派生する悪影響への懸念は広範囲に及んだ。米中首脳会談で約3,000億ドル相当への中国製品に対する追加関税措置は見送られたが、先行き不透明感は変わらず。対中追加関税と中国に絡んだ設備投資減速や採用抑制など悪材料が確認され、「関税(tariff)」や「不確実性(uncertainty)」、「中国」などの登場回数は、2018年3月にトランプ政権が対中追加関税の発動に言及して以来、最多となった。全般的に、パウエルFRB議長や6月FOMC議事要旨の文言に沿い、7月30~31日開催FOMCでの利下げを保証する内容となっている。サンフランシスコ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。各地区連銀の名称で表記している。
<経済全般、見通しのセクション>
経済活動は、5月半ばから7月初めにかけ「緩慢なペース(at a modest pace)」で拡大し、前回とほぼ変わらなかった。数ヵ月先の見通しは概して「ポジティブ」で、通商関連をめぐる不確実性がネガティブな影響を与える懸念が広がりつつも、緩慢な成長を見込む。
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前回:経済活動は、4月初めから5月半ばにかけ「緩慢なペース(at a modest pace)」で拡大し、「前回よりわずかながら改善した(a slight improvement over the previous period)」。数ヵ月先の見通しは全般的に「ポジティブ」で、地区連銀の間であまり変わらなかった。
<個人消費>
小売売上高は全般的に「わずかに(slightly)」拡大したが、自動車販売は「横ばい(flat)」だった。観光は広範囲にわたって「堅調(solid)」で、アトランタとリッチモンドでは記録的な成長を遂げた。
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前回:個人消費は「概してポジティブ(generally positive)」だったが、「和らいだ(tempered)」。観光活動は特に南東部で力強さを増したが、自動車販売は「減速(lower)」した。
<製造業、非製造業の活動>
非金融部門の企業は「一段と拡大した(rose further)」。引き続き、複数の地区連銀で輸送部門における健全な拡大を報告したが、その他は「ゆるやかに低下した(moderate decline)」。製造業活動は「概して横ばい(generally flat)」だったが、「数(a few)」地区連銀で前回から「回復(pickup)」がみられた。
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前回:製造業活動は「概してポジティブ(generally positive)」だったが、「数(a few)」地区連銀で「鈍化の兆し(signs of slowing)」がみられ、こうした地区連銀の多くの回答者が見通しに「不確実性(uncerntainty)」を挙げていた。
<不動産市場>
住宅販売は概して「ある程度回復した(picked up somewhat)」。しかし住宅建設は「横ばい(flat)」だった。非住宅建設は「拡大した、あるいは力強さを維持し(increased or remained strong)」、商業用施設の家賃は上昇した。
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前回:住宅建設と住宅不動産は全体的に成長を示したものの、センチメントは地区連銀によって「多様(wide variation)」だった。
<貸出需要>
借入需要は広範囲にわたって「強まり(increased)」、2地区連銀では資金調達の動きが拡大したとの報告があがった。
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前回:借入需要は「まちまち(mixed)」だったが、成長を示した。
<農業、エネルギー>
農業の生産活動は、複数の地域での異常な降雨量により「緩慢ながら減少(declined modestly)した。原油とガスの生産量は「幾分減少した(fell somewhat )」。
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前回:農業活動は全体的に「弱いまま(remained weak)」だったが、数地区連銀は幾分の改善を報告した。
<雇用と賃金>
雇用は概して「緩慢に拡大し(grew at modest pace)」つつ、前回から鈍化した。労働市場は引き続き「ひっ迫(tight)」しており、求人を埋めることが困難だった。引き続き、幅広い業種で人手不足に直面し、特に建設、IT、ヘルスケアで顕著となっている。しかし、北東部のいくつかの製造業やITの企業は、「雇用を減少させた(reduced their number of workers)」。数地区連銀は、就労ビザの取得や延長への懸念を強めたと報告し、雇用増加の継続に不確実性をもたらす原因とされた。賃金は前回と同じく、「緩慢からゆるやか(modest to moderate)」なペースで拡大したが、複数の企業は新人の賃金上昇が顕著だったと指摘した。労働市場のひっ迫を受け、ほとんどの地区連銀は労働者の福利厚生を充実させた。
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前回:雇用は全米で「拡大し続け(continued to increase)」、ほとんどの地区連銀が「緩慢、あるいはゆるやか(modest or moderate)」な伸びを報告した。人材派遣会社によれば、小売、をはじめビジネスサービス、専門技術、製造業、建設などで「堅調(solid)」な採用意欲を確認。しかし、労働市場の逼迫により力強い雇用の伸びは抑えられ、地区連銀はスキルの高低問わず人材不足を指摘した。「一部の(several)」地区連銀によれば、人材確保に向けた競争が広範囲にわたる職種での幾分の賃金上昇につながったほか、現状の人員維持を狙った福利厚生の改善をもたらしたという。しかしながら、全体の賃金上昇圧力は低い失業率を踏まえれば「比較的抑制的(relatively subdued)」で、「大半(majority)」の地区連銀の賃金上昇ペースは「緩慢かゆるやか(modest or moderate)」にとどまった。
米6月雇用統計の平均時給(生産労働者・非管理職)、11ヵ月連続で3%乗せ。
<物価>
物価は、前回と比べ「安定的からわずかに低下した(stable to down slightly)」との報告が上がった。地区連銀は、追加関税措置や労働コストの上昇を受け、仕入れ価格が「幾分上昇した(some increase)」と報告。しかし、最終価格へ転嫁する動きは、熾烈な企業間の競争により抑制された。農業品の一部は、供給ひっ迫を受けて値上がりした。輸送コストは「まちまち(mixed)」で、複数の地区連銀は価格上昇圧力を報告したが、その他は船舶輸送の需要鈍化を受けて下落した。専門サービス部門の価格は「わずかに下落し(fell slightly)」、鉄鋼と木材の価格は需要鈍化を受けて「軟化した(softened)」。
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前回:雇用は全米で「拡大し続け(continued to increase)」、ほとんどの地区連銀が「緩慢、あるいはゆるやか(modest or moderate)」な伸びを報告した。人材派遣会社によれば、小売、をはじめビジネスサービス、専門技術、製造業、建設などで「堅調(solid)」な採用意欲を確認。しかし、労働市場の逼迫により力強い雇用の伸びは抑えられ、地区連銀はスキルの高低問わず人材不足を指摘した。「一部の(several)」地区連銀によれば、人材確保に向けた競争が広範囲にわたる職種での幾分の賃金上昇につながったほか、現状の人員維持を狙った福利厚生の改善をもたらしたという。しかしながら、全体の賃金上昇圧力は低い失業率を踏まえれば「比較的抑制的(relatively subdued)」で、「大半(majority)」の地区連銀の賃金上昇ペースは「緩慢かゆるやか(modest or moderate)」にとどまった。
<地区連銀別、経済活動の形容詞>
●「緩慢からゆるやか」と表現した地区連銀 1行=前回は1行
ミネアポリス:前回“わずかに”→今回“緩慢からゆるやか”へ上方修正
●「緩慢」と表現した地区連銀、4行=前回は4行
ボストン:前回”緩慢からゆるやか“→今回”緩慢”へ下方修正
NY:前回” ゆるやか“→今回”緩慢“へ下方修正
フィラデルフィア:前回は“緩慢”→今回据え置き
リッチモンド:前回“緩慢”→今回据え置き
●「ゆるやか」と表現した地区連銀、2行<前回3行
ダラス:前回“ゆるやか”→今回据え置き
サンフランシスコ:前回”ゆるやか“→今回据え置き
●そのほか 6行>前回は4行
クリーブランド:前回”緩慢“→今回”横ばい”へ下方修正
アトランタ:前回“緩慢”→今回“緩慢に改善”へ上方修正
シカゴ:前回“わずかに拡大”→今回”ほとんど変わらず”へ下方修正
セントルイス:前回は“変わらず”→今回”わずかに改善”へ上方修正
カンザスシティ:前回は“わずかに拡大”→今回据え置き
経済活動拡大ペースの表現は、「ゆるやか」がまた減少。
<全体のキーワード評価>
総括並びに地区連銀のサマリーでみたキーワードの登場回数は、以下の通り。「不確実性」の文言は今回5回と前回の4回を上回り、2018年10月の2回、同年5月と同年7月の3回も超えた。その他、「力強い」や「ポジティブ」が減少し、「増加した」うや「緩慢」が前回を上回った。
「増加した(increase)」→19回>前回は17回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→2回<前回は4回
「ポジティブ(positive)」→2回<6回
「ゆるやか(moderate)」→10回<前回は14回
「緩慢、控え目など(modest)」→23回>前回は21回
「弱い(weak)」→0回<前回は2回
「底堅い(solid)」→1回<前回は2回
「安定的(stable)」→2回>前回は1回
「不確実性(uncertain)」→5回>前回は4回
総括で「不確実性」をめぐる文言は前回から増加したと同時に、地区連銀ごとの詳細報告では「不確実性」の登場回数は前回の17回から27回へ増えた。前回はボストン(2回)、NY(1回)、フィラデルフィア(2回)、クリーブランド(2回)、リッチモンド(1回)、フィラデルフィア(4回)、クリーブランド(1回)、リッチモンド(2回)、アトランタ(2回)、ダラス(5回)だった。
・ボストン 3回>前回は2回
→(総括)加えて、通商政策の不確実性が設備投資を減少させた。
→(製造業)企業は、価格の上昇のほか、需要鈍化、通商政策の不確実性が今回の大きな議題内容となった
→(製造業)1社からは、メキシコ製品に対する5%の追加関税発動が脅威であり、
・NY 2回>前回は1回
→(雇用と賃金)複数の企業は、特殊技能職向けのH1Bビザ更新が困難と報告し、不確実性であり問題と指摘した。
→(製造業)企業は、追加関税措置をはじめ通商上の不確実性、NY州の最低賃金引き上げに引き続き懸念を表明した。
・フィラデルフィア 5回>前回は4回
→(総括)企業は、引き続き通商上の不確実性が設備投資を抑制していると報告し、メキシコ輸入品に対する追加関税発動が見送られて安堵した。
→(製造業)ほとんどの企業は引き続き、追加関税措置が価格上昇のほか、利益率の低下、不確実性の拡大、稼働力拡大に向けた設備投資の鈍化などネガティブな効果をもたらしたと報告した。
→(非金融サービス)企業は追加関税、人手不足、連邦政策の不確実性、経済の鈍化などといった不確実性の高まりを指摘した。
→(金融)銀行は不確実性の高まりを報告したが、経済拡大には楽観的だった。
・クリーブランド 2回>前回は1回
→(専門サービス)複数の企業は、政治的な不確実性のほか通商政策、業況悪化への不確実性が専門サービス部門でのリスクと指摘した。
・アトランタ 6回>前回は2回
→(総括)企業は通商政策の不確実性に対する懸念を共有したが、全体的な見通しはポジティブで、下半期は緩慢ながら成長拡大を続けると予想した。
→(個人消費、観光)小売部門と自動車部門の企業は、追加関税措置とその影響が価格や需要に変化をもたらしたとの懸念を示した。
→(個人消費、観光)事前予約は健全なペースだが、地政学的な不確実性が潜在的影響に懸念が寄せられた。
→(製造業)複数の企業は、追加関税措置が不確実性を高めたと報告した。
→(輸送)空輸部門は、貿易摩擦を受け世界の貿易拡大ペースが減速したと指摘、BREXITに対する不確実性のほか、欧州と太平洋地域での経済減速が背景に挙げられた。
→(エネルギー)中国による米国産LNGへの報復関税措置により、新たな精製工場の建設や米国での拡大に向けた動きに不確実性を与えた。
・シカゴ 1回>前回は1回
→(設備投資)経済見通しと国際的な通商政策に対して不確実性が高まり、設備投資を抑制させた。
・カンザスシティ 1回>前回ゼロ
→(農業)米国での収穫量減少が予想されるなか、今度どれだけ収穫できるか不確実で、穀物関連の価格が跳ね上がった。
・ダラス 6回>前回は5回
→(総括)見通しはサービス部門で改善したが、製造業では悪化し追加関税や貿易摩擦への不確実性の高まりが背景として挙げられた。
→(製造業)製造業の見通しは「悪化(deteriorated)」し、通商協議や追加関税への不確実性がエネルギー市場でのセンチメントの重石となった。
→(小売売上高)見通しは後退し、一部は追加関税や貿易摩擦に置ける不確実性の高まりが挙げられた。
→(非金融サービス)サービス部門の見通しは楽観的だったが、通商政策の不確実性が将来に向けた事業推進にあたって重石となった。
→(エネルギー)見通しは悲観的で、原油価格の下落に加え、増資・社債発行が困難となりうる環境などが不確実性要因として並んだ。
→(農業)多くの農業従事者は、追加関税と将来の通商政策に対する不確実性を懸念材料と指摘した。
・サンフランシスコ 1回>前回ゼロ
→(農業)カリフォルニア中央部では国内での安定的な穀物需要を確認したが、世界的な需要をめぐる不確実性がじわりと高まった。
<ドル高をめぐる表記>
ドル高をめぐるネガティブな表記は2017年5月分、7月、9月、10月、11月分、2018年全体、2019年の1月、3月、4、6月に続き総括ではゼロだった。地区連銀別でも、3回連続でゼロとなった。なお、過去2年間でドル高を挙げた地区連銀はゼロだったが、2017年5月分(クリーブランド)、7月分(クリーブランド)、2018年1月分(サンフランシスコ)はそれぞれ1行が報告していた。
<中国>
中国というキーワードが登場した回数は、総括部分で2017年に続き2018年全て、2019年1月、3月、4月、6月に続きゼロだった。地区連銀別では2017年5月、9月、2018年1月、4月、7月、9月、10月、12月、2019年3月、4月、6月に続き言及され、登場回数は13回と前回の8回を上回り、少なくとも2015年以降で最高を記録した。前回6月分はボストン(1回)、クリーブランド(1回)、リッチモンド(1回)、シカゴ(3回)、セントルイス(2回)が報告していた。中国の言葉が登場した回数につき過去を振り返ると、チャイナ・ショック直後の2015年9月分のべージュブックは11回で、その後は徐々に減少。1年経過した2016年9月分でゼロへ戻し、2017年4月までその流れを続けていた。
・ボストン 3回=前回は3回→(製造業)企業は、基本的に中国以外の供給源にシフトすることが困難あるいは不可能と報告した。
→(製造業)回答者7人のうち5人は雇用を横ばいあるいは減少させたと報告した・・電子部品製造業の1人の回答者は、追加関税措置の影響でレイオフに踏み切り、従業員を10%削減させたという。例えば、ある企業は部品を中国から輸入しているため、組み立て工場を米国からドイツへ移転させた。
→(製造業)3人の回答者は、設備投資計画の下方修正を報告した・・1人の回答者は、中国での生産分を米国が請け負うべく、設備投資を拡大させたことを明かした。
・リッチモンド 4回>前回はゼロ
→(総括)製造業は出荷、新規受注でわずかな増加を報告したが、足元の通商環境から派生する問題に直面し続けた。輸入量は力強く、1港では国・地域ごとの構成が中国からその他アジア諸国へシフトさせた。
→(製造業)ノースカロライナ州の家具メーカーは最終価格へ追加関税措置に伴う価格上昇を上乗せできず、ウエスト・バージニアのゴム製造企業も貿易戦争により中国の顧客を失ったと報告した。
→(港湾・輸送)別の港湾関係者の1人は、(追加関税対象である)家具輸入につき中国からその他南アジア諸国へシフトさせたと報告した。1人の港湾企業幹部は輸出が回復したと指摘したが、複数の港湾関係者によれば中国向け木材輸出は減少したという。
・アトランタ 1回>前回はゼロ
→(エネルギー)地区連銀内の石油関連企業は、力強い需要に支えられ高水準の生産動向を維持した・・・しかし、複数の回答者は、LNGに対する中国の報復関税措置がLNG加工向けの工場、及び米国内での事業拡大に不確実性を与えていると報告した。
・セントルイス 1回<前回は2回
→(物価)小売業者と製造業メーカーは、中国やEUを対象とする追加関税措置が引き続き仕入れ価格を押し上げていると報告した。
・サンフランシスコ 4回>前回はゼロ
→(物価)中国の輸入に依存する数社は、追加関税措置による仕入れ価格上昇を報告した。
→(農業、その他)主要な貿易相手国、特に追加関税措置を受け中国からの木材需要は軟化し続け、国内の需要も米国内の建設活動の鈍化により弱かった。
→(農業、その他)国内の畜産業者は、中国での豚コレラ流行を受け、中国国内での供給不足による恩恵を受け続けた。
――今回、米中首脳会談後に通商協議の継続を始め、第4弾の追加関税措置の発動見送り、中国通信大手ファーウェイの禁輸緩和などで大筋包囲したものの、中国や通商政策をめぐる不確実性を指摘する声が高まりました。前回のボストンのように、ファーウェイへの直接的な言及はなかったものの、「関税(tariff)」の登場回数は49回と前回の37回を超え、文句なしで米中貿易摩擦開始以降、最多となっています。ダラス地区連銀からは見通しにつき、製造業で「悪化」、エネルギーで「悲観」、小売も「後退」などの表現が飛び出しました。全体的に、FOMCに利下げを保証する内容だったと言えるでしょう。
(カバー写真:Paul Hudson/Flickr)
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