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1月ベージュブック:一部で物価上昇ペースや物流のボトルネックが小幅緩和

by • January 19, 2022 • Finance, Latest NewsComments Off2385

Beige Book : The Pace Of  Price Increases Had Slowed, Transportation Bottlenecks Slightly Eased.

米連邦準備制度理事会(FRB)が1月12日に公表したベージュブック(21年11月後半から昨年末まで)によると、米経済活動をめぐる表現は、「緩慢なペースで拡大した」」とされ、21年11月分、同年9月分の「経済活動は、大半の地区で緩慢からゆるやかなペースで拡大した」から下方修正された。今回、全体での見通しは「向こう数カ月の成長見通しは過去数週間と比較して弱まった」と明記され、前回の「短期的な見通しは大半で引き続きポジティブだったが、複数(some)の地区では供給制約と人手不足への困難がいつ緩和するのかについて不確実性を指摘した」から、こちらも楽観度が後退した。

キーワード別動向をみると、オミクロン株の感染拡大が急速に広がるなか「新型コロナウイルス(デルタ株とオミクロン株を含め)」の文言の登場回数は前回の2倍以上に急増した。その一方で「不確実性」、「不足」などの文言は前回と概ね変わらなかった

引き続き、供給制約や人手不足などが成長阻害要因と指摘された半面、オミクロン株の感染拡大に見舞われながら、①一部で物価上昇ペースの鈍化、②物流部門のボトルネックの緩和――といったように、前回に続き供給制約に関わる問題の改善が報告された。Fedはインフレ高進を受け早ければ3月15~16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で2018年12月以来、約4年ぶりとなる利上げに踏み切る見通しだが、今冬で物価がピークアウトするか注目される。

人手不足が深刻な問題と位置付けられるなか、1月4日にバイデン政権のワクチン接種義務化の期限を迎えた。今回のベージュブックの該当期間は期限前のところ「ワクチン接種義務化」の文言の登場回数は4回と、前回の15回から大幅に減少した。なお、ワクチン接種義務化をめぐっては、米最高裁判所が①執行停止(6対3、共和党大統領指名の6名)、②公的医療保険の支払いを受ける医療機関の従事者には義務化(5対4、リベラル派3人にロバーツ長官、カバノー判事が加わる)--の判断を下した。

カンザスシティ地区連銀がまとめた今回の詳細は、以下の通り。

<総括:経済全般、見通しのセクション>

経済活動は、2021年末にかけ緩慢なペースで拡大した。多くの地区連銀の回答者は、足元の供給制約や人手不足により、成長が引き続き抑制されていると報告した。米経済の拡大ペースは緩慢だったものの、素材や原材料への需要、労働者への需要は幅広い業種で高止まりしたままだ。概して楽観度は引き続き高止まりしているが、一部(several)の地区の企業からは、向こう数カ月の成長見通しは過去数週間と比較して弱まったと指摘した。

前回:経済活動は、大半の地区連銀で10月から11月前半にかけ緩慢からゆるやかなペースで拡大した。しかし、一部(several)の地区は力強い需要にも関わらず、供給網の制約や人手不足によって成長ペースは抑制されたと報告した。短期的な見通しは大半で引き続きポジティブだったが、複数(some)の地区では供給制約と人手不足への困難がいつ緩和するのかについて不確実性を指摘した。

<個人消費、製造業活動、建設活動、融資、農業、エネルギー>

・個人消費は、オミクロン株が大流行する前に堅調なペースで拡大し続けた。ただし大半の地区は、新規感染者の増加に合わせ、直近の週にかけ娯楽や旅行、レストラン、ホテル利用が突如落ち込んだと指摘した。
・製造業の活動は全体的に拡大し続けたが、複数(some)の地区では拡大ペースに違いがみられた。
・輸送部門は緩やかなペースで拡大した。
・融資は21年末にかけわずかに回復、商業不動産がけん引した。

前回:
個人消費は緩慢に拡大し、在庫薄により自動車を始め複数の商品での販売動向を抑えた。デルタ株感染者数が減少したため、娯楽と宿泊の活動は大半の地区で回復した。
・建設活動は概して拡大したが、資材や労働者の不足を受けて抑えられた。
・飛空宅建設活動は広範にわたって拡大した一方で、住宅不動産は複数の地区で拡大も、他では縮小した。
・製造業の活動は全体的に堅調だったが、資材や労働者の不足が拡大を限定的とした。
・貨物量の増加により、物流システムが抑制された。
・エネルギー活動は概して強まり、専門サービスは幅広く異なり、教育と健康の需要は概して変わらなかった。
・融資の需要はほぼ全ての地区で拡大したが、複数の地区では住宅ローンで縮小を報告した。
・農業は全体的に財務面で改善し、土地も値上がりした。

<雇用、賃金>

足元の週で雇用は緩慢な伸びにとどまった、大半の地区で強い採用意欲を確認した。求人数は増加したが、全体的な雇用の伸びは人手不足により抑制された。労働市場のひっ迫により、賃金は全国的に力強く伸び、複数の地区では労働賃金以外の福利厚生の関連コストの一段の増大が指摘された。多くの企業は、特に低スキル職の労働者の間で過去の水準を大きく超える賃上げペースを確認し、あらゆる産業、地域、人種、年齢、教育水準へ広がったと報告した。賃上げに加え、多くの企業は募集者を集めるべく、パートタイムやスキルなどの採用条件を調整した。

前回:雇用の伸びは、緩慢から力強い範囲で拡大した。企業は活発に採用活動を行うものの、採用や雇用確保が引き続き困難となった。娯楽・宿泊と製造業では雇用の増加がみられたが、多くは人手不足により操業時間を抑えざるを得ないと報告した。その他一部の企業は、労働者不足により需要に応じられない状況を指摘した。人手不足の背景として、託児所不足や引退者の増加、コロナ関連への懸念が幅広く指摘された。ほぼすべての地区で力強い賃金の上昇を報告。採用が困難で転職率が高止まりするなか、企業は賃上げや賞与、柔軟な労働時間の提供などといったインセンティブを提供した。

<物価>

大半の地区で企業は最終価格の伸びが堅調だったと報告したが、複数の地区では物価上昇が足元の力強さからやや鈍化したと指摘した。サービス部門から財部門を問わず、広範囲にわたる業種で卸売と素材の値上げ圧力を確認した。多くの企業は、仕入れ価格の値上がりが供給制約によるものと指摘した。複数の地区では、輸送部門のボトルネックが足元で安定しあると報告、ただし調達コストは引き続き高止まりした。人手不足と賃金上昇は、企業のコスト負担増につながった。

前回:物価はゆるやかから力強いペースで上昇し、広範囲にわたるセクターで幅広く値上がりした。原材料への力強い需要や物流上の問題、人手不足を反映し、仕入れコストの上昇を確認した。半導体や一部の鉄鋼製品など仕入れが容易になった製品では、一部で価格上昇圧力が緩和した。力強い需要が追い風となり企業の値上げには反発が少ない状況だが、契約上の義務により複数の企業は値上げを実行できなかった。

<経済活動に関するキーワード評価>

経済活動の表現に関するキーワードの登場回数は、経済活動の表現が下方修正された結果に合わせ、「拡大(increased)」や「ポジティブ」など、全体的に明るい内容の文言が減少した。また「減少(decrease)」の言葉が前回を下回った。ただ、オミクロン株の新規感染者が急増する割りに、前回からそれほど大きく悪化を示さず。「不確実性(uncertain)」は今回16回と、前回の15回をやや上回った程度だった。詳細は、以下の通り。

「拡大(increase)」→189回<前回は204回
「強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→100回>前回は96回
「ポジティブ(positive)」→7回<19回
「ゆるやか(moderate)」→59回<前回は74回
「緩慢、控え目など(modest)」→52回<前回は65回
「安定的(stable)」→13回>前回は11回
「弱い(weak)」→10回<前回は13回
「低下(decline)」→10回<前回は22回
「減退(decrease)」→15回>前回は8回
「不確実性(uncertain)」→16回>前回は15回

<関税、中国、不確実性、新型コロナなどのキーワード評価>

米中で第1段階の通商合意が成立したほか、バイデン政権が始動しつつ、今回「関税」は前回に続き1回登場し、フィラデルフィア地区連銀が「建築業者がカナダ木材の高関税への影響」が指摘された。前回は、バイデン政権と欧州連合(EU)が21年10月末に合意した鉄鋼・アルミ追加関税措置緩和が影響し、鉄鋼アルミ製品に一定数量まで追加関税を課さないとする関税割当(TRQ)につき「22年早々に導入されれば、更なる物流の混乱や不確実性につながる」と明記されていた。

一方で、引き続き「中国」はゼロとなった。前述した通り、「不確実性」との文言はオミクロン株の感染拡大を受けながら16回と前回の15回から概ね変わらず、過去1年間で最多となった21年10月分の26回を大きく下回ったままだ。ただし「新型コロナウイルス(デルタ株、オミクロン含む)」の言葉自体は82回と、前回の29回から急増した。

チャート:デルタ株感染拡大が落ち着き、一部の製品の供給制約も緩和され「不確実性」の登場回数は前回から大幅減

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(作成:My Big Apple NY)

<その他のキーワード評価>

オミクロン株の感染拡大が供給網を一段と製薬する懸念が高まるなか、「不足」との言葉は今回55回と、前回の57回と概ね変わらず、21年月9分の77回で一旦ピークアウトした感がある。

チャート:「不足」の登場回数は、今回55回

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(作成:My Big Apple NY)

――今回のベージュブックでは、経済活動や見通しが下方修正されながら、「不足」や「不確実性」などの文言の登場回数が前回とほぼ変わらず。逆に「新型コロナ(デルタ株とオミクロン株含む)」が増えた結果を鑑みると、感染拡大による景況感の悪化と読み取れます。

ワクチンをめぐり、「義務化(mandate)」の文言は今回4回のみと、前回の15回から減少。引き続き採用難、賃金の上昇の要因として挙げられつつ、ボストン地区連銀はそうした要因ではないと見解が1社から聞かれました。なおボストン地区連銀は、大学を数多く抱え製薬・バイオ製薬などマサチューセッツ州に多い事情を反映しているのか、ワクチン義務化の文言が21年9月分のベージュブックに登場してから、4回連続で挙がる唯一の地区連銀となります。

・ボストン地区連銀 1回<前回は5回
→離職率の高止まりは一部の企業にとって引き続き問題だが、1社はワクチン義務化が離職をもたらしていないと指摘した。

・アトランタ地区連銀 1回>前回はゼロ
→多くの企業は従業員の確保を目指す最終的な目的として引き続きワクチン接種を推奨したが、従業員確保という目的のため義務化しなかった。

・ミネアポリス地区連銀 1回=前回は1回
→サウスダコタ州の1社は、エネルギー部門の従業員がワクチン義務化に懸念を表明したと報告した。

・ダラス地区連銀 1回=前回は1回
→ワクチン義務化をめぐり、特に油田関連業者から労働問題を一段と悪化しかねないとの言及があった。

その他、ボトルネックや物価上昇圧力を受け企業は引き続き困難を強いられる半面、一部でこうした問題において小幅ながらの緩和がみられ、3地区連銀が報告していました。

ボストン地区連銀
→小売業者は、配送コストが非常に高い水準で安定した。

クリーブランド地区連銀
→コスト上昇圧力は引き続き輸送部門で一段と強まったが、製造業や建設では幾分の緩和が見られた。
→輸送と製造業は、鉄鋼やアルミ、レジンの価格が安定し一部では値下がりしたと報告した。

シカゴ地区連銀
→仕入れコストのうち、特にエネルギーや特定の鉄鋼製品の価格が年初の大幅上昇から安定したと報告した。

実際、米12月消費者物価指数は前年比で約39年ぶりの高い伸びだったとはいえ、米12月生産者物価指数や同輸入物価指数では前年比の右肩上がりトレンドが一服。今回のベージュブックで指摘されたように、製造業の仕入れ価格指数も12月は前月比14.2ポイント低下し、20年11月以来の水準へ切り返しました。

チャート:PPIなど物価、前年比の推移

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(作成:My Big Apple NY)

チャート:ISM製造業景況指数、仕入れ価格指数は急低下

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(作成:My Big Apple NY)

足元で米国での大雪予報による暖房需要の高まりから天然ガスが約3ヵ月ぶり、WTI原油に至っては約2年ぶりの高値をつけており、エネルギー価格は数ヵ月間高どまりすること必至です。ただ、銅先物や鉄鉱石先物、熱延鋼板などはエネルギーほど上昇していません。オミクロン株の感染拡大を受け他の商品先物が再び値上がりするリスクは無視できないものの、わずかながら高騰し続けた物価に明るい兆しが見えてきました。ウォラーFRB理事は1月13日、年末までに「物価が2.5%付近へ鈍化すれば急速な利上げは不要」と発言し、併せてインフレが同水準までインフレが鈍化すると予想したのも、物価の落ち着きを見据えた先手だったり?

(カバー写真:Tama66/Pixabay)

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