India Bans Wheat Exports Over Food Security Risk, But How Much Wheat Does India Export?
インド政府が14日、小麦輸出の一時停止を決定して話題になりました。
奇しくも、13~14日に開催されたG7農相会合の声明では、ロシアによるウクライナ侵攻によって「世界の食糧安全保障と栄養に深刻な影響が及ぶと予想されることに、大きな懸念を抱く」と明記。インド政府も、こうした事態を想定した上での決断でしょう。
G7農相会合以外にも、5月24日に東京で日米豪印から成るQUADの首脳会合を予定します。しかもバイデン大統領は、訪日時に対中包囲網であるインド太平洋経済の枠組み(IPEF)の発足させる方針です。
IPEFと言えば、①公平で強靭性のある貿易、②強靭なサプライチェーン、③インフラ・脱炭素化・クリーンエネルギー、④税・反腐敗――の4つの柱で構成されます。4月11日に行われた米印2プラス2では、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた食料価格高騰への対応や、軍事交流の拡大などを協議したと報道されていました。それなのに、なぜインドは小麦輸出の一時停止に踏み切ったのか。
インドが自国ファーストに傾いた理由は、ズバリ深刻な熱波です。農作物の生育に打撃を与え、生産量が落ち込むこと必至で、しかも供給制約で価格が高騰、インド3月消費者物価指数は前年同月比6.95%上昇し17ヵ月ぶりの加速をみせるなか、北インドの主食である小麦の輸出などできる状況ではなかった。しかも、未だパンデミックの爪痕が深く残り約14億の人口を抱えるインドは、食料確保を優先せざるを得なかったというわけです。
ここで、小麦の国別生産量ランキング2020年版をみてみましょう。インドはご覧の通り、中国に次いで世界2位、14.1%のシェアを誇ります。
チャート:2020年版、小麦の国別生産量ランキング
しかし、国別の小麦輸出量ランキング(2020年版)でみると、インドは世界19位(シェア2.9%)にまで下がります。もともと、輸出する余裕は限られていたんですよね。ただし、ウクライナ情勢で穀物庫のロシアとウクライナの輸出が制裁措置も重なって急減する状況で、インドの輸出一時停止が世界に大打撃を与えることは間違いありません。
チャート:2020年版、小麦の国別輸出量ランキング
では、生産国1位の中国に至っては輸出量はというと・・・わずか33トンで世界81位。中国は生産量世界1位でも、国内消費で手一杯で、とても輸出で助け舟を出してくれそうにありません。
ところで、ガスプロムの5月1日付のリリースによれば、1~4月の天然ガスの輸出量(旧ソ連諸国向けを除く)は、前年同期比約27%減の501億立方メートルでした。しかし、中国への天然ガスの輸出量は約6割増加していたといいます。中国と同じく、対ロ制裁に参加せず国連のロシア非難決議でも棄権を決め込むインドはどうなのでしょうか?
ロイターによれば、ウクライナ侵攻後の2月24日以降の2ヵ月間で、インドはロシア産原油を通常の2倍以上購入したといいます。また、インドの石油精製所もロシアと6ヵ月間の輸入契約を結ぶべく交渉中と伝えていました。何より、S&Pグローバルの試算によれば、4月のインド原油輸入量は過去最高を記録し、なかでも海上輸送での原油輸入量は1日当たり480万バレル、そのうち5%がロシア産と、2021年及び2022年Q1の1%以下から5倍に膨らんだというではありませんか。
既に2021年時点から、ロシア産のエネルギー輸入額は2019年比62.5%増と突出して伸びていたものです。
チャート:インド、対ロシアの2021年輸入額は2019年比39.7%増だったところ、エネルギー関連は同62.5%増。
とはいえ、国別のエネルギー輸入額ランキングでみると、2021年はロシアは10位。QUADを担う米国(4位)とオーストラリア(5位)の後塵を拝していました。こうしてみると、エネルギー輸入国であるインドにとって米豪がいかに重要な貿易相手国か分かります。
チャート:インド、2020年版の国別エネルギー輸入額
その半面、インフレに喘ぐ状況では安価なロシア産原油の魅力的なのでしょう。インドにしてみれば背には腹は代えられず、外交上の綱渡りが続きます。
(カバー写真:IFPRI South Asia/Flickr)
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