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ECB、国債買い入れの決断は年明けに持ち越し

by • December 4, 2014 • Finance, Latest NewsComments Off2632

ECB’s Broad-based QE Package : Are We There Yet?

欧州中央銀行(ECB)定例理事会では、政策金利を0.05%で据え置いた。上限金利の限界貸出金利も0.30%、下限金利の中銀預金金利もマイナス0.2%で維持。そろって市場予想通りの結果となった。

ドラギ総裁は記者会見で、期待された国債あるいは社債を含めた量的緩和(QE)開始の見送りを発表。ドラギ総裁は前回11月、追加措置に踏み切る条件として 1)的を絞った長期流動性供給(TLRTO)、カバードボンドや資産担保証券(ABS)の買入など既存の枠組みを不十分と判断した場合、2)インフレ見通しが悪化した場合——の2つを挙げていた。少なくともユーロ圏11月消費者物価指数は前年同月比0.3%の上昇と5年ぶり低水準だった9月に並び、ユーロ圏経済見通し・改訂版で成長、インフレとも大幅に下方修正され2016年のインフレ予想ですら参照値「2%以下で、その近辺」を大幅に下回る水準にも関わらず、決断を「年明け」へ持ち越したかたちだ。

▽ECBスタッフ経済見通し改訂版は、以下の通り。

2014年見通し(12月時点)
GDP 0.8%
HICP 0.5%
2014年見通し(9月時点)
GDP 0.9%
HICP 0.6%

2015年見通し(12月時点)
GDP 1.0%
HICP 0.7%
2015年見通し(9月時点)
GDP 1.6%
HICP 1.1%

2016年見通し(12月時点)
GDP 1.5%
HICP 1.3%
2016年見通し(9月時点)
GDP 1.9%
HICP 1.4%

 ドラギ総裁は、追加措置を先送りした理由を質疑応答で2つ挙げている。

・原油安が与える経済的なインパクトの精査
・追加措置(資産担保証券やカバードボンドの買い入れ、TLTROの効果)の見極め

行間を読み解く前に、記者会見の導入部分に当たる声明文に視点を移すと理事会メンバーの間でQEへ向け意見を収束できなかった実体が浮かび上がってくる。今回の声明文では「2012年初めの規模へ拡大が意図されているバランスシートに、追加措置は多大な影響を及ぼすだろう(our measures will have a sizable impact on our balance sheet, which is intended to move towards the dimensions it had at the beginning of 2012」だった。前回は、下線部が「予想された(is expected to)」とあった。

ドラギ総裁は、質疑応答で両者の表現が「異なる」と回答。また「単なる予想ではなく意図であり、まだ目標ではなく中間にあたる」と述べた上、「大多数の理事会メンバーの見解であるものの、全会一致ではない」と断っていた。ドイツ出身のラウテンシュレーガー専務理事が11月29日に「現状で追加措置へのハードルは高い」、「広範な国債買い入れ 措置の費用帯効果、機会、リスクを踏まえると、現時点では好ましい結果を得られないだろう」と発言したことを思い出す。ドラギ総裁が次の政策決定に対し「来年早々は次回会合を意味しない」と注意を促したのも、理事会内での擦り合わせを念頭に入れた保険だったと言えよう。

ECB版、鉄の女として貫禄漂うラウテンシュレーガー理事。
sabine
(出所:Reuters)

理事会メンバーの間で未だ広範なQEへの承認を得られていないものの、ドラギ総裁は追加措置実施の可能性をあらためて点灯させている。原油安をめぐり、ドラギ総裁はECBが中期的なインフレ動向への影響を「特に警戒していく(particularly vigilant)」と発言していた。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバ—と異なり、成長への恩恵ではなくインフレ低下へのリスク要因として重点を置いていることが分かる。何より「vigilant」のキーワードは、トリシェ前総裁時代、政策変更のサインだった。

インフレをめぐっては、サービス・セクターの下方圧力についても言及していた。原油価格をはじめとした商品相場の下落が製造業セクターの垣根を越えて波及し、経済全般に行き渡る懸念を示すものだ。

BNPパリバのユーロ圏担当チーフエコノミスト、ケン・ワトレット氏は、国債を含めたQEの実施に向け 1)インフレ、2)12月11日実施予定のTLTRO、3)ECBスタッフのQE選択肢をめぐる分析——がカギを握ると予想。インフレが12月にマイナスに転じ、2回目のTLTROで効果を確認し、ECBスタッフの分析が他理事会メンバーの支持を得られる内容であれば、「1月22日開催の定例理事会で国債買入を決断することもありうる」と見込む。

——以上、ドラギ総裁の記者会見は11月にあれだけ風呂敷を広げたにも関わらず肩すかしでした。国債を含むQE実施へ門戸を開いたとはいえ、年明け早々に実施するかも不透明。やはり、ドイツを始めとした他理事会メンバーの反対勢力も根強いのでしょう。ECB定例理事会後、NY時間の昼過ぎに関係者の話として「ECBは来月に広範囲にわたるQE包括案を検討する」との報道が出回りましたが、検討なら本日もされたと思うんですけどね。おかげ様でユーロドルは買い戻しに転じつつ、欧州株は軒並み下落。独DAXは1.2%安、仏CACは1.6%安と大幅安で引け。英FTSEもとばっちりを受け、0.6%安で取引を終えていました。

(カバー写真 : AP)

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